2016年1月16日土曜日

「一帯一路」という夢構想(2):習近平のサウジアラビア・イラン訪問、得意のバラマキ外交でポインを稼ぐ

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サーチナニュース 2016-01-13 09:13
http://news.searchina.net/id/1599523?page=1

中国が副外相をイラン、サウジなどに派遣 
資源確保と立場の維持できるか、
中国外交の正念場

 中国政府は張明副外相を4日から10日にかけて、エジプト、サウジアラビア、イランに派遣して各国首脳とサウジアラビアとイランの対立問題について意見交換をした。
 これまで長い時間をかけて中東諸国との関係を構築してきた中国にとって、関係諸国の信頼を維持し、石油資源と立場の維持ができるかどうか、外交の正念場ということになる。

 中国は冷戦期において米国との対抗上、米国と密接な関係にあるイスラエルを批判/非難し、アラブ諸国との関係を構築した。
 宗教を否定する社会主義的政策の“全盛期”にも、国内のイスラム教徒にも一定の理解を示した。
 例えば食料配給において、イスラム系民族には豚肉は割り当てず、羊肉や牛肉を優先したなどだ。

 政策上「宗教的理由」とは説明できないので、「民族の習慣を尊重」を理由とした。
 国内におけるイスラム教信者に不満を出させないだけでなく、国際的にも「イスラム教に敵対」との批判が出るのを避けたと考えてよい。

 1990年代から経済の高度成長が始まると、サウジアラビアを初めとする中東産油国とは、石油資源の供給源としてなおさら親密な関係構築が必要になった。

 中国は、イラン革命後のイランとも密接な関係を構築した。
 人権問題や核開発が問題になっても、中国は常に外交の原則としている「平和五原則」に含まれる「内政への不干渉」を理由に、イランと密接な関係を続けた。
 もちろん原油の確保が最大の目的だ。

 イランの核開発問題で2015年に、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国とイランの間で最終合意が成立し、制裁解除の道筋が決まったことには、イランに対する中国の説得が奏功したとされる。
 つまり、イランは中国を、それまでのつながりがあり「信頼するに足りる国」と見なしていたことになる。

 さらに中国は、制裁解除後のイランに戦闘機を含む武器売却を期待しているという。
 軍需産業にとっては新兵器開発の資金源が増えたことになり、高度な兵器が開発できれば米国や日本に対する発言力も増す。
 つまり、中国の世界戦略にとっても極めて有効だ。

 サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国とイランの対立は、中国の中東外交にとって大きな「つまずき」になる。
 イランに武器を売却すれば、アラブ諸国の反発を避けられない。
 売却せねば、イランの猛反発を招きかねない。

 張副外相はエジプトではシュクリ外相らと、サウジアラビアとはムハンマド皇太子らと、イランではザリーフ外相らと会談した。
 外交部によると、張副外相はサウジアラビアとイランでの会談時に両国の対立問題について「深い意見交換」を行うと同時に、双方が冷静さを保つように求めた。

 アラブ世界の重要国であるエジプトでも、同問題についての意見交換をしたことは間違いない。
 ちなみに張副外相のエジプト滞在は4-5日、サウジアラビアは6-8日、イランは8-10日だ。滞在期間からして、各国で複数回にわたり協議を続けたと考えるのが自然だ。

 サウジアラビアとイランの対立激化は中国にとってまさに「見たくない光景」だ。
 緊張緩和に影響力を行使できるかどうか、中国外交にとっての「正念場」とも言える。



レコードチャイナ 配信日時:2016年1月16日(土) 10時10分
http://www.recordchina.co.jp/a127144.html

中国・習主席、中東3カ国を訪問へ
=米国ネット「中東問題のリーダーシップは米国から中国に交代するだろう」

  2016年1月15日、AFP通信によると、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が19日からサウジアラビア、エジプト、イランを訪問することが分かった。
 この報道に、米国のネットユーザーがコメントを寄せている。

 中国外交部の陸慷(ルー・カン)報道官は15日、習国家主席が19〜23日にサウジアラビア、エジプト、イランを訪問すると発表した。
 習氏が国家主席に就任してから中東を訪問するのは初めて。
 中国は原油の多くを中東からの輸入に依存しているが、これまで中東の外交問題には積極的に関与してこなかった。
 最近ではシリア問題で役割を拡大していることから、中東への経済関係強化により中東での影響力を高める狙いがある。



サーチナニュース 2016-01-18 18:19
http://news.searchina.net/id/1600057?page=1

中国がイランで高速鉄道建設、
習近平主席が1月22日からの訪問で署名=中国メディア

 中国の習近平主席は19日から23日まで、サウジアラビア、エジプト、イランを公式訪問する。
  中国メディアの21世紀経済報道によると、イランのアリ・アスカル・ハジ駐中国大使は、習主席のイラン滞在時に、金融、高速鉄道、自由貿易区、エネルギーの4分野などで中国とイランが合意文章にサインすると述べた。

 中国は、人権問題などで国際的に強く非難されている国とも親密な関係を継続することがある。
 資源などさまざまな国益を優先させ、“理論的”には「内政不干渉」とする。
 イランとも緊密な関係を続け、原油を大量に買い続けた。
 孤立するイランにとって、中国はかけがえのない「親友」だった。

 イランが2015年になり、核開発の事実上の放棄を受けいれたのも、中国の説得に応じた面が強いという。

 習主席のイラン訪問は22日から23日で、
 習政権が重要国策とする「一路一帯」に関連する覚書に双方がサインする。
 ハジ大使によると、双方は「相当な件数」の合意書を取り交わす。
 金融、高速鉄道、自由貿易区、エネルギーの4分野についての合意書も含まれるという。

 イランは制裁を受けていた2015年に、貿易決済で米ドルの使用を停止し、人民元、露ルーブル、韓国ウォンを用いるようになった。
 特に人民元は重視しており、国際通貨基金(IMF)が同年12月に人民元のSDR入りを決めたことも、イランにとっては「喜ぶべき事態」(ハジ大使)だったという。

 イランは今後、在来線と高速路線の双方の鉄道建設に力を入れる考えで、
 まずは首都のテヘランから宗教上の聖地とされるゴムまでの路線を建設する方針で、その後はさらに南部のイスハファンまで延長して全長400キロメートル程度にする構想という。

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◆解説◆
 習近平主席の中東3カ国訪問は、イランとサウジアラビアが対立をエスカレートさせないよう、説得する意味合いもあると考えるのが自然だ。

 中国は米国への対抗上、アラブとイスラエルの対立ではアラブ側を応援する立場を取った。
 中国がパレスチナ国を国家承認して外交関係を樹立したのは、1988年11月で、1992年1月にイスラエルと外交関係を結ぶよりも、4年近く早かった。
 ちなみに日本はパレスチナ国を承認しておらず、政府組織を「パレスチナ自治政府」などと呼んでいる。

 1990年代からは、中国の「親アラブ政策」で石油資源の確保という意味合いが強くなった。
 イランとサウジアラビアの対立が激化すると、中国としては対中東外交が極めて難しくなる。
 イランからもアラブ諸国からも信頼を失う結果にもなりかねない。
 そのため、習主席も訪問時に、緊張緩和のためできるかぎりの説得をすると考えられる。


毎日新聞 1月24日(日)21時6分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160124-00000066-mai-int

<中国主席歴訪>経済協力…
中東には対欧米チャイナカードに

 中国の習近平国家主席は24日、サウジアラビアとエジプト、イランの3カ国歴訪を終えて帰国した。
 中国は、「一帯一路」構想の戦略的要衝である地域の3大国との経済関係強化を通じて中東での存在感向上を狙う。中東側も経済重視は変わらないが、それだけではない。
 欧米と一線を画す中国との関係強化で外交の多角化を図ろうという思惑もあるようだ。

 習主席が訪問した3カ国は、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバー。
 習主席は3カ国との2国間関係をすべて「全面的戦略パートナーシップ」に引き上げ、「一帯一路」での協力をうたう共同声明などを発表した。

 中国メディアは
 「中東は東(中国)を向き、中国は一帯一路で西を向く」
と報じている。
 中東における米国の影響力低下と原油安を背景に、中国と中東の利益が合致する環境が生まれたのだという。

 国営新華社通信は、習主席がカイロのアラブ連盟本部での演説で「(中東での)勢力範囲を広げない」と表明したことや、一帯一路構想での協力強化を呼びかけたことが現地で評価されたと報じた。

 中東で政治的影響力を持つ欧米やロシアを意識して「内政不干渉」を前面に出すものだ。

 習主席はさらに、
 中東の産業振興などへの350億ドル(約4兆2000億円)の融資など、
 総額550億ドル(約6兆6000億円)の投融資を表明した。

 習主席は、イランのロウハニ大統領との会談でも米国などを念頭に「(中国は中東で)戦争をしたことがない」と指摘した。
 イランとサウジの関係悪化に端を発したイスラム教の宗派対立激化とは距離をおきつつ、経済関係の強化で中東での存在感を強めようという戦略だ。

 中東側も、最大の期待は経済にある。

 「100億ドルツアーの開始」
 「150億ドル規模の支援に期待」。
 習主席の来訪を伝えるエジプト紙には、巨額の経済協力を強調する見出しが躍った。

 習主席は21日のシシ大統領との会談で、新首都建設やスエズ運河周辺の再開発、電力・鉄道網の整備などに中国が投資することで合意。
 エジプト側は投資総額が150億ドル(約1兆8000億円)規模に上ると見積もる。

 習主席は、サウジのサルマン国王との会談でも石油資源や再生可能エネルギーの開発、衛星分野の技術協力などで合意している。

 イランでも、「今後10年間で中国との貿易額は6000億ドル(約72兆円)に達する」(ロウハニ大統領)と期待されている。

 一方で中東の3カ国には、外交や経済の多角化を図るという側面もある。

 20世紀後半に親米アラブの代表格だったエジプトとサウジは、オバマ政権下で中東への関与を薄める米国への不信感を強めている。
 両国は近年、フランスやロシアと軍事面を含めて接近しており、さらに中国との関係強化も図ろうとしている。

 中国は、エジプトやサウジの強権政治を問題にしないという面でも付き合いやすい相手だ。
 仏露のような中東との歴史的関係を持っていないため、政治的野心も比較的小さいと見られている。

 エジプト・ザガジグ大のファタヒ・アフィフィ教授(国際関係論)は
 「米国一辺倒を改めようとするエジプトやサウジにとって、中国は絶好の連携相手だ。
 今後も、経済面を中心に中国の存在感は高まっていく」
と分析している。

 核兵器開発疑惑を巡って欧米から経済制裁を加えられてきたイランでは、中国の持つ政治的意味合いはさらに大きくなる。

 イランの最高指導者ハメネイ師は23日の習主席との会談で、「(制裁強化に反対してきた)中国の協力を決して忘れない」と述べ、中国を「独立した国」とたたえた。
 習主席は「今後も独立自主の外交政策を取っていく」と応じた。

 イラン・イマムホセイン大のゴルナバリ・マフブビ教授(国際政治)は
 「イランは、欧米と一線を画す中国との強固な関係を国外に示すことで、逆に欧米の関心を引きつけることができると考えている」
と話している。



ダイヤモンンドオンライン 2016年2月2日 加藤嘉一 
http://diamond.jp/articles/-/85539

習近平のサウジ・エジプト・イラン
“電撃訪問”が意味するところ

■3ヵ国を公式訪問した習近平が目指す「新たな中国外交」

 サウジとイランの関係が悪化し、米国が難しい舵取りを強いられるなか、
 狙い澄ましたかのように中東国家を電撃訪問した習主席の思惑とは?


 中国はもうすぐ旧正月(春節)を迎える。2016年は2月8日がその日に当たる。
 現在、すでに中国全土は「春運」と呼ばれる、春節期間中の民族大移動タームに突入しており、人々の関心はもっぱらいかにして飛行機や電車の切符を購入し、家族と1年に一度の集いを盛り上げるかにシフトしている。
 それ以外では、心の片隅で、依然不安定感を拭えない上海株式市場における株価動向が気になる程度であろう。

 日本の大晦日に当たる2015年12月31日夜、習近平国家主席(以下敬称略)は新年の挨拶を発表した。
 毎年恒例の政治イベントであり、同主席が自らのオフィスで語りかけることから、その“プライベート”にも注目が集まってきた。
 「頑張れば、必ず報われる」と人民たちに呼びかけた習近平は、挨拶のなかで次のようなセンテンスを口にしている。

  「今年、我が国の指導者は少なくない国際会議に参加し、少なくない外交活動を繰り広げた。
 “一帯一路”建設は実質的な進展を見せ、国際連合における2030年持続可能な発展アジェンダやグローバルな気候変動への対策といった国際業務に関与した。
 世界はこのように大きく、問題はこのように多い。国際社会は中国の声を聞きたがっている。
 中国の方案を見たがっている。
 中国がそこに欠席するわけにはいかない」

  「困難や戦火に見舞われている人々を前にして、我々は同情心、そして何より責任と行動を持たなければならない。
 中国は永遠に世界に対して胸襟を開放し、可能な限り困難に直面している人々に手を差し伸べる覚悟でいる。
 そして、我々の“友達ネットワーク”(筆者注:中国語で“朋友圏”)を大きくしていくのだ」

 そんな覚悟を赤裸々に体現しているように映ったのが、2016年1月19~23日、2016年初頭、旧正月前の最後の大型外遊として、習近平がサウジアラビア、エジプト、イランのアラブ3ヵ国を公式訪問したことである。
 本稿では、昨今における習近平統治下の中国外交を象徴しているかに見える同訪問をレビューしつつ、と同時に、アラブ地域における安定や動向を左右する傾向のある米国のジョン・ケリー国務長官による直近の中国訪問にも裾野を広げてみたい。
 その過程で、本連載の核心的テーマである中国民主化研究へのインプリケーションを模索していくことにする。

 中国政府の発表によれば、2016年は中国がアラブ国家と外交関係をスタートさせてから60周年に当たる。
 1956年、中国はエジプト、シリア、イエメンと国交を結んだのを皮切りに、1990年までに、22ヵ国全てのアラブ国家と国交正常化を果たしている。

 中国の最高指導者として12年ぶりに訪問したエジプトでは、大統領・総理・議長といった要人と会談を行ったほか、同国首都・カイロに本部があるアラブ連盟(League of Arab States)で講演をした。
 ブルーのネクタイで登壇した習近平は、
 アラブ中東地域における問題(パレスチナ・イスラエル問題、シリア、リビア、イラク、イエメンなどにおける武装衝突や政局動乱といった問題など)
を解決するための「中国方案」(チャイナ・プロポーザル)として、「3つの肝心」を提案した。

(1)意見や立場の違いを乗り越えるには、対話を強化することが肝心だ。
(2)難題を解決するためには、発展を加速させることが肝心だ。
(3)進路の選択は、国情に符合していることが肝心だ。

■習近平がエジプトで提案した「3つの肝心」が意図するもの

 また、(1)~(3)に対して、簡単な説明を付け加えている。

 (1):武力は問題解決の手立てにはならない。
 ゼロサム思考は地域に持続可能な安全をもたらしてはくれない。

 (2):中東の混乱の根源は発展にある。
 最終的な活路も発展に依拠するしかない。

 (3):現代化の選択は1つではない。
 歴史的条件の多様性は、各国が進路を選択する上での多様性を決定している。

 ここには、地域的・民族的・安全保障的難題を解決するためには何が必要かという観点も含めて、「中国の特色ある社会主義」政策が如実に体現されている。
 具体的インプリケーションに関しては後述するが、ここでは、
★.中国政府がエジプトの中央銀行、国有の国民銀行にそれぞれ10億米ドル、7億米ドルの借款を、
★.パレスチナに5000万人民元の無償援助を、
★.シリア、レバノン、ヨルダン、リビア、イエメンに総計2.3億人民元の人道主義援助
を提供していることを、書き留めておきたい。

 そして、サウジアラビア&イランである。
 読者諸氏も注視しておられると察するが、新年早々、サウジアラビアがイスラム教シーア派の指導者の死刑を執行したことが引き金となり、イランでサウジアラビア大使館が襲撃される事件が発生した。
 これを受けて、サウジはイランと外交関係を断絶した。

 イランはシーア派の大国であり、サウジはスンニ派の盟主である。
 アラブ大国を代表する2大国の国交断絶に内心最もアップセットしている国家の1つは、疑いなく米国であろう。
 同地域で最も関係が深いサウジと、昨年歴史的な核合意にこぎつけた相手であるイランがこのような対立状態に陥ることは、アラブ地域の安定という米国の国益に背反するだけでなく、オバマ政権がこれまで進めてきた対アラブ政策そのものの正当性が喪失してしまうかもしれないからだ。

■米国の間隙を縫い、狙いすまして中東に降り立った習近平の戦略思考

 そして今回、対米関係で新型大国関係を掲げ、米中が「衝突しない、対抗しない」だけでなく、双方の核心的利益を尊重すべきだと主張する中国の習近平が、“狙いすましたかのように”サウジアラビア、イランそれぞれに降り立ったのである。

 2008年、国家副主席時代にサウジアラビアを訪問した際に《戦略的友好関係》を提唱した習近平は、国家主席として再訪した今回、
 「共に重要な発展途上国である中国とサウジアラビアは両国関係の水準を向上させ、手を携えて挑戦に立ち向かう必要がある」
と主張し、両国関係のレベルを《全面的戦略的パートナーシップ》にまでグレードアップさせ、かつ共同声明を発表した。

 中国の国家主席として14年ぶりの訪問となったイランとの共同声明では、
 「双方は独立・主権・領土保全などそれぞれの核心的利益に関わる重大な問題において相互に断固たる支持を続けていく。
 イランは引き続き“1つの中国政策”を遵守し、中国はイランの発展計画を支持し、イランが地域や国際分野でより大きな役割を担うことを支持する」
と表明した。
 国営新華社通信は、今回の会談によって習近平とイランのロウハーニー大統領が2年間で5回会ったことになること、イラン社会・市民が習近平の訪問を大々的に歓迎していることなどを宣伝していた。

 私は習近平のアラブ3ヵ国訪問を北京で眺めていたが、政策関係者や研究者らは
 「いまアラブ中東は荒れている。
 サウジとイランの関係悪化に米国はアップセットしている。
 今こそ中国はこの両国に積極外交を仕掛け、この地域における力の空白を埋めつつ、影響力と発言権を強化していくべきだ」(中央党校教授)
という見解でほぼ一致していた。

 新華社は「中東の平和には中国の存在と役割が欠かせない」という視点から記事を配信し続けた。
 習近平によるアラブ3ヵ国訪問の直前、1月13日、中国共産党は歴史上初めて《対アラブ国家政策方針文書》(以下《文書》、新華社英語版参照リンク)を発表した。
 私から見て、この事実は、習近平率いる中国共産党指導部が、この地域をかつてないほど戦略的に重視していく姿勢を浮き彫りにしている。
 同文書で私が最も注意を奪われたのが、次のセンテンスである。

 「中国はアラブ国家の人民の選択を尊重し、
 本国の国情に即した発展の進路を模索することを支持すると同時に、
 治国の経験をアラブ国家と分かち合いたい」

 中国はサウジ、エジプト、イランとそれぞれ14、21、17の協定を結んだ。
 そこには、経済貿易、エネルギー、金融、通信、航空、反テロリズム、気候変動といった分野が含まれる。
 また、中国はアラブ中東国家の近代化プロセスを後押しするという立場から、
★.150億米ドルの中東工業化促進借款、
★.100億ドルの商業性借款、
★.100億ドルの優遇性借款、そして
★.アラブ首長国連邦、カタール両国と200億ドルに及ぶ共同基金を設立
した。
 イランの高速鉄道建設への資金面支援にも積極的に乗り出す予定のようである。
 習近平の訪問期間中、中国とアラブ国家のシンクタンク協力を含めた知的交流や「中華文明とイスラム文明の対話」を推し進める旨も謳われた。

 訪問が終了して間もない頃、今回の習近平訪問に党のプロパガンダという立場で関わったスタッフは、
 「今回の訪問にも習近平の米国に対する対抗心が現れている。
 習近平はとにかく米国に対して強い姿勢を見せたがっている。
 習近平には米国の権力・影響力行使が低下している地域・分野に入っていきたがる傾向が強い」
と北京で私に語った。

■アラブ国家を「一帯一路」建設の政治的基礎・外交的通路に

 ここからは、上記のケーススタディを踏まえて、2016年の中国外交にも深く関わるインプリケーションを3つ抽出してみたい。

1つ目に、
 習近平はアラブ中東地域・アラブ国家を「一帯一路」建設を展開する上での政治的基礎・外交的通路にすべく、これから本格的に動いていくであろうという点である。
 習近平は今回赴いた4都市で行った40以上のイベントの場全てで「一帯一路」を提起し、
 「中国とこれら3ヵ国との交流の歴史は2000年以上前のシルクロード時代に及ぶ。
 我々は真の友人であり、良き兄弟である」
と伝統的友好関係を強調した。
 ここにも、習近平の“歴史好き”という一面が現れている。

 また、奇しくも訪問直前の1月16日に北京で設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関して、1月13日に公表された《文書》は、
 「中国政府はアラブ国家がアジアインフラ投資銀行に加入し、積極的な役割を発揮することを歓迎する」
と主張している。
 アラブ国家は、中国の経済外交・金融外交・インフラ外交における主要な目的地の1つになるに違いない。
 今回の訪問はそんな前景の幕開けと言える。

2つ目に、
 アラブ連盟での講演、イランとの共同声明、《文書》にも反映されているように、
 習近平には、中国の発展モデルを国家建設が安定しないアラブ国家と共有したいという政治信条が強いように見受けられるという点である。
 「チャイナモデルの“輸出”とまではいかないが、少なくとも中国の経験を経済政策やインフラ建設といった観点から“共有”していきたいと思っているだろう」(前出の党校教授)。

 そこには、近代化プロセスのモデルは米国主導の自由民主主義や資本主義だけではないという、中国共産党従来の政治意識も色濃く表れている。
 習近平時代になって、この意識は拡張性を増している。
 この現状は、中国共産党が西側的な文脈における民主化を受け入れないばかりか、自らの発展モデルを他国と“共有”することを通じて、民主化という西側モデルに挑戦し、それに取って代わる政治体制・価値観のグローバルレベルにおける構築を目論んでいることすら彷彿させる。

  「双方の核心的利益を支持し合う」という主張にも、中国がアラブ中東地域における政策を通じて米国のグローバルな影響力を牽制したいという、安全保障的な戦略が見え隠れしている。

■2016年の米中関係は中度の緊張感に見舞われる?

3つ目に、
 アラブ中東政策を通じて米国を牽制する動きを露わにした習近平は、大統領選が行われる2016年を通じて、どのように米国との関係をマネージしていくかという点である。
 イランを離れて4日後の1月27日、習近平は北京の人民大会堂で中国を訪問したジョン・ケリー米国務長官と会談した。
 習は「両国は重要な国際問題を妥当的に解決すべきである」と協力を呼びかけ、米中関係が積み上げてきた成果に評価を下した。
 ケリーはイラン問題などにおける中国の役割や米中の協調を前向きに評価した。

 同日、ケリーは中国の王毅外交部長と外相会談および合同記者会見に臨んだ。
 台湾の総統選挙が終了した直後というタイミングもあって、
 王は中国の原則的立場を主張し、
 ケリーも「1つの中国政策を支持し、台湾独立を支持しない」旨を述べた。

 米中の駆け引きや攻防が続く南シナ海問題に関しても、王は終始原則的立場を主張し、歩み寄りは見られなかった。

 国連安保理における制裁動向が注目される北朝鮮の核問題に関して、王は
 「中国は大国であり、一時の状況や喜怒哀楽で政策を変えることはない」
と述べ、「制裁は目的ではない。目的は問題を解決することだ」とも主張した。
 中国政府として、北朝鮮への制裁には慎重になること、制裁という手段は中国にとって有力な選択肢ではないことを暗示していた。
 また、名指しはしなかったが、この問題に関して、「一部の当事国は真っ当な責任を果たすべきだ」とも述べ、暗に米国を牽制した。

 民進党が圧勝した台湾の政治、依然緊張が続く南シナ海、解決に向けての立場やアプローチが異なる北朝鮮の核問題、そしてアラブ中東地域における地政学的な駆け引き――。
 2016年の米中関係は、大局は安定させつつも、これらの問題をめぐる認識や立場の違いが原因で小規模の摩擦が発生し、中度の緊張感に見舞われるのではないかと私は認識している。