2016年1月3日日曜日

今年の主役はアメリカ、それとも中国:「正義ではなく強いヤツがルール」という国際規範の常識

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Forbes JAPAN 1月3日(日)9時30分配信 グレン・S・フクシマ
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160103-00010744-forbes-bus_all

米中関係の未来、そして日本 

  9月に行われた中国の習近平(シーチンピン)国家主席によるアメリカ訪問は、2009年1月のオバマ政権発足以来、米中関係が最も冷え込んでいることを明らかにするものとなった。
 両国関係は依然複雑であり、海外から関係を見ている人にとっては、理解し難いことも多いのではないかと思う。

 その理由は、両国、とりわけアメリカでの中国に対する見解が、じつに多様だからである。

1]. アメリカでの中国に関する見解の一方の極は、
 「中国は、アジアそして最終的には世界における覇権国となり、
 何世紀にもわたる屈辱を克服し、
 世界における正当な地位を再び得ることを望んでいる」
という見方である。
 その一例が、軍事専門家マイケル・ピルズベリー著『China 2049』(邦訳:日経BP社)だ。

2]. かたや、
 「中国と積極的に関わることが、同国をより開放的に、政治・社会をいっそう民主化する」
と考える人たちがいる。
 昨年、エコノミストのフレッド・バーグステンは、『Bridging the Pacifi c(太平洋をつなぐ)』を著し、
 「米中自由貿易協定を結べば、中国の開放を促進できる」
と主張している。
 13年には、投資ファンド運用会社ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマンCEOが、個人資産から1億ドル(約120億円)を寄付し、アメリカの若者の中国留学促進のために、3億ドル超の奨学基金を創設した。
 これは彼が、21世紀はアメリカと中国の「G-2」が圧倒的な影響力を持つと考えているからである。

 近年のアメリカの中国に対する見方は、この両極端の見方の間を揺れ動いている。
 09年のオバマ政権発足時には、08年の金融危機からの回復とイランおよびアフガニスタンでの戦争からの撤退が優先課題であった。
 中国は、地球温暖化など数多くの世界的問題を解決するうえで、アメリカと協力関係を築くことが可能な新興勢力と見られていた。
 しかし、09年12月のコペンハーゲンでのCOP15で、中国がアメリカの期待通りには動かないことが明白になった。

 12年に習国家主席が就任したとき、オバマ政権は、彼が国内的な権力基盤を確立後には、「大国関係」の責任を果たすはずだと一度は考えた。
 だが、13年6月のサニーランズにおけるオバマ大統領と習国家主席の首脳会談は、期待外れに終わった。
 その後の中国による、
国内での政治的反体制派の投獄、
国外でのサイバーセキュリティ問題の継続、
13年11月の東シナ海のADIZ(防空識別圏)の設定、
南シナ海や東シナ海での軍事的勢力の拡大
などにより、中国がアメリカにとって最も重大な軍事的脅威であるとの見方が、ますます強まることになった。

 過去には、このような安全保障上の懸念は、
 「アメリカの経済的利益にとり、中国は死活的に重要である」
と主張するアメリカのビジネス界の人々の存在で、バランスがとれていた。
 ところが近年、こうした主張は弱まりつつある。
 それは、
①:中国経済の大幅な減速による輸出市場としての魅力の減少、
②:中国の労働コスト上昇による、製造拠点としての魅力の減退、
③:恣意的な規制の変更、知的財産権保護、サイバーセキュリティに関する問題の継続がある
からだ。

 ピュー研究所が行った世論調査によれば、09~12年の間は、中国に好意的なアメリカ人がそうでない人を上回っていた。
 しかし13年以降は、好意的でないアメリカ人の方が、好意的な人よりも多い。
★.15年は好意的でない人が54%で、好意的な人々を34%も上回っている。

 対照的に、
★.日本については、好意的な見方が74%、好意的でない人は18%しかいなかった。
 アメリカ人が中国との問題として挙げたのは、
☆.中国によるアメリカ国債の大量保有、
☆.雇用が中国に奪われていること、
☆.中国からのサイバー攻撃、
☆.中国の人権問題、
☆.アメリカの対中貿易赤字、
☆.地球環境に中国の影響、
☆.拡大し続ける軍事力、
☆.中台間への緊張
であった。

 米中間の問題の多さとその深刻さゆえに、当面は緊張関係が続くだろう。
 同時に、中国が平和的で建設的な役割を果たすように促していく必要があることは多くの人が認めている。
 そのような役割を促進するためには、アメリカと日本の協力が不可欠である。

グレン・S・フクシマ
◎米国先端政策研究所(CAP)の上席研究員。米国通商代表部の日本・中国担当代表補代理、エアバス・ジャパンの社長、在日米国商工会議所会頭等を経て現職。米日カウンシルや日米協会の理事を務めるなど、日米関係に精通する。



現代ビジネス 2016年01月03日(日) 真壁 昭夫
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47240

2016年、アメリカ経済が世界を振り回す
~「主役」は中国から米国にバトンタッチ

◆アメリカ経済に振り回される一年に

 2015年は中国経済に振り回された年だった。
 中国経済の減速が鮮明化したことで、原油や鉄鋼石、銅などの資源価格が大きく下落した。
 “資源バブル”が弾けたことが、世界経済の景色を大きく変化させた。

 2016年は米国経済の動向に大きく左右される年になるだろう。

 昨年12月、米国FRBが約9年ぶりに金利引き上げを実施した。
 米国金利引き上げの思惑は新興国からの多額の投資資金流出のきっかけになり、BRICSを中心にした新興国ブームが終焉を迎えつつある。
 2016年の前半はそうした動きを引き継ぐことになるだろう。
 新興国の経済が短期的に盛り上がることは考え難い。
 2016年以降の世界経済を占う上で、最も重要なファクターは米国経済になると見る。

 中国の共産党政権が経済構造の変化を目指す以上、
 もう二ケタ成長に復帰することはないだろう。
 ただ、中国経済は過剰債務や過剰設備など構造的な問題を抱えてはいるものの、今のところ共産党政権のグリップが効いており、短期的にそれらの問題が暴発する可能性は低い。

 米国経済の先行きにも無視できない不透明要因がある。
 一つは、FRBの金利引き上げによって住宅や自動車のローン金利が上昇し、個人消費の足を引っ張る懸念だ。
 今まで堅調に推移してきた住宅や自動車の販売が、金利上昇に耐えられるか気になる。
 足元で、住宅に関する経済指標にややピーク感が出始めており、米国の専門家の中にも懸念を抱き始める見方もある。
 また、ドル高の影響もあり、米国の輸出の動きが鈍くなっていることも懸念材料の一つだ。
 世界的な資源価格の下落に伴い資源やエネルギー関連企業を中心に、米国企業の業績は2015年の年央以降やや陰りが目立ち始めている。
 今後、米国経済に循環的要因から息切れ感が出てくることも考えられる。

◆米国経済、前半は堅調な動きを見せそうだが…

 2016年の前半、米国経済は堅調な個人消費を背景にそれなりにしっかりした足取りで歩むことができるだろう。 
 しかし、米国経済の川上である製造業部門のピークアウト感が続くと、労働市場の回復にも一服感が出るはずだ。
 そうなると、いずれ川下の家計部門にマイナスの影響を与えることになる。
 米国経済は2016年後半以降、徐々に減速傾向が出始める可能性は高い。
 米国経済に減速感が出てくると、世界経済にも黄色信号が灯る。
 わが国をはじめ世界の主要国の景気動向にも下押し圧力がかかる。

 それは、次第に金融市場の参加者にも影響を与え、大手投資家のリスクオフの動きを加速させる可能性がある。
 投資家がリスクオフに動き出すと、米国をはじめとする主要先進国や新興国の株式市場は軒並み不安定な展開になるはずだ。
 株式市場が不安定化すると、負の資産効果や人々の心理状況の悪化を通して実体経済にマイナスの影響が及ぶ。

 米国経済の減速が早い時期に明確になると、米国FRBはとりあえず金利の引き上げを止めて、景気の推移を注視することになるはずだ。
 そのリスクシナリオの可能性が高まると、為替市場でのドルの上昇余地は限られる。
 特に、投資家のリスクオフの動きが早期に顕在化すると、円はむしろドルに対して強含みになる可能性が高まるだろう。



現代ビジネス 2016年01月03日(日) 笠原敏彦
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47197

中国が「アメリカの金融覇権」に本気で挑み始めた! 
世界のルールを決めるのは誰か
人民元のドル追撃体制は整いつつある

◆アメリカの危機感

 国際社会のルールは誰が決めるのか? 
 2016年はこの大テーマの行方を占う上で重要な年になりそうだ。
 その火蓋を切るかのように、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が年末の25日に正式発足した。
 アメリカ支配の象徴である世界銀行・国際通貨基金(IMF)体制、ドル基軸体制への中国の挑戦の第一歩だろう。

 一方のアメリカでは11月に新たな大統領が選出される。
 アメリカはブッシュ、オバマ両政権下で失墜した国際社会での「威信」を取り戻せるのか。
 そして、リベラルな民主主義陣営の指導者として、自己主張を強めるリビジョニスト(現状変革)国家への反転攻勢に打って出る契機となるのか。
 今年はその分岐点となりそうである。

* * *

 誰のルール、行動様式が「世界標準」なのか。
 この問題をめぐる攻防は、アメリカと欧州の相対的な影響力低下と、中国やロシアなどリビジョニスト国家の台頭でますます熱を帯びている。

 その実情は、オバマ米大統領が昨年10月、米日が主導した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)大筋合意を受けて出した次の声明が端的に示している。
 「グローバル経済のルールを中国のような国に作らせるわけにはいかない。
 新しいルールは我々が作るべきだ」

 この発言を聞いたとき、我が耳を疑った。
 大統領が公然とここまで言わなければならないほど、アメリカの危機感は高まっているのかという意味でだ。
 経済ルールをめぐるアメリカからの「宣戦布告」。
 中国側がそう受け止めても仕方ない内容である。
 日本では「中国崩壊論」が脚光を浴びているようだが、ホワイトハウスにそうした情勢認識は全くなく、競争の激化に備えているようである。

 一方、攻める側の中国の路線は明快だ。
 習近平・国家主席は2014年11月、8年ぶり、史上二度目の「中央外事工作会議」での重要談話でこう訴えている。
 「国際システムとグローバルガバナンスの改革を推進し、我が国と幅広い途上国の発言権を高めなければならない」
 習氏の発言はオブラートに包んだ物言いながら、米欧が築き上げてきた国際ルールを中国の国益に沿うように変えていくという宣言であり、その姿勢が先鋭化して現れているのが南シナ海だろう。
 中国はここで国際法を無視し、人口島を造成して独自のルールに基づき「領海」を主張している。
 しかし、この問題は国際ルールをめぐるせめぎあいの点から見た場合、氷山の一角でしかない。
 長期的により重大な意味を持つのは、AIIBの設立により、中国が米国の金融覇権への挑戦を始めたことである。

◆金融覇権というパワー

 AIIBは創設メンバー57ヵ国でスタートした。
 資本金は1000億ドルで、中国はそのうち297億ドルを出資し、議決権の26.06%を握る。
 途上国を中心に増大するインフラ投資需要に応えることが表向きの設立目的だが、アメリカの金融覇権の基盤を崩すという戦略的な狙いが中国にあることは間違いない。
 グローバル化経済の一つの特徴は、国際取引の増大に伴い、国際政治における金融覇権の影響力が飛躍的に増大していることだ。

 アメリカは、基軸通貨ドルを外交・制裁の道具として使うことが可能だ。
 ドルは国際取引の主要な決済通貨であり、大抵の国際取引は米銀を通さざるを得ないからだ。
 言わば、アメリカは国際取引の「関所」であり、その門を閉じる、つまりドル決済システムへのアクセスを禁じることにより、狙いを定めた国家・組織・個人に制裁を課すことができるという他国にはないパワーを持つ。

 最近では、米司法省主導で進む国際サッカー連盟(FIFA)の汚職摘発がよい例だろう。
 この事件では、非米国人のFIFA副会長らが大会放映権をめぐる賄賂受け取りなどで逮捕・起訴されている。
 アメリカが、自国とは直接的な関係が薄いこの事件を国内法で摘発したのは、金銭の受け渡しでアメリカの銀行口座が使われていたからだ。

 また、2005年に発動した北朝鮮への金融制裁はその効果が端的に現れた例である。
 米財務省は、偽ドル札の流通などで北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に加担したとしてマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア(BDA)」と米銀の取引を禁止した。
 このケースでは、アメリカ以外の銀行も、アメリカの規制に触れてドル決済システムへのアクセスを制限されることを恐れてBDAとの取引を自粛。
 口座を凍結され、兵糧攻めにあった北朝鮮は激しく反発し、2006年10月には最初の核実験を実施するに至った。

 当時、筆者はワシントン特派員だったが、ある米政府当局者は「金融制裁はここまで威力があるのか」と驚いていたものだ。
 北朝鮮核問題をめぐる6ヵ国協議の議長国である中国は、この問題の解決に関与した経緯もあり、米国の金融制裁の効力をつぶさに目撃したはずだ。

◆人民元のドル追撃体制は整いつつある

 歴史上、英米以外の国が金融覇権を握ったことはない。
 アメリカは、政治的、経済的な影響力は相対的に低下させているものの、ドル基軸体制の下で金融覇権はがっちりと握っている。
 言わば、アメリカが超大国であり続けるための最後の砦が金融覇権なのである。
 そして、中国が米国と並ぶグローバルパワーとなり、実体を伴う「新たな大国関係」を築くには、金融分野での自陣地拡大が欠かせないのである。
 だから、昨年、人民元の国際化が大きく前進したことの意味は小さくない。

 IMFは11月の理事会で人民元を国際通貨の一種である「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨に加えることを決定。
 五大通貨体制の一角を占めることになり、SDRの構成比率では円を抜いて米ドル、ユーロに次ぐ第3位の通貨に踊り出ることになった。
 また、ロンドンでの人民元建て国債発行、ドイツ・フランクフルトでの元建商品を扱う新市場の開設、中露など新興5ヵ国BRICSによる「新開発銀行」の設立も正式に合意された。
 中国の外貨準備高は3兆5000億ドル前後に及ぶ。
 人民元のドル追撃体制は徐々に整いつつあるようだ。

◆ 国際秩序とは「強国の創造物」

 ここで、少々立ち止まり、「国際秩序」とは何なのかを考えてみたい。

 近年、混迷する世界情勢を背景にこの言葉をよく耳にするようになったが、その定義を説明しろと言われるとそう簡単ではないのではないか。
 そこで、著名なイギリス人国際政治学者、E・H・カー氏の著書「危機の20年」から以下の解釈を引用しておく。
 「『国際秩序』と『国際連帯』はつねに、
 これらを他国に押し付けるほどの強国であるとみずから実感する国々のスローガンになるのである」
 「19世紀を通じてイギリスが政治的優位に立ったのは、世界の金融センターとしてのロンドンの地位と密接に関係している
 …今世紀(20世紀)アメリカが政治大国へと上昇してきたのは、同国がまずはラテンアメリカへの、そして1914年以降はヨーロッパへの大規模な貸与国として市場に登場したことに大きく起因している」
 つまり、
 国際秩序とは強国の創造物
であり、金融覇権をそのベースにしているということである。
 中国の金融分野での動向に特に注目すべきだと考える理由が、ここにある。

◆世界を覆う「ゼロ・サム」ゲームのメンタリティ

 前回の拙稿(12月19日)では、世界が現状の地政学的カオスに至った経緯を紐解いた。
 それでは、そのカオスから新たな秩序の芽は生まれるのか。
 この点を考える際、注目したいキーワードが「pivot(旋回=変わり身)」である。
 この言葉はオバマ政権下でアメリカ外交の基軸が欧州・中東からアジアへ旋回(=pivot to Asia)したことを指すのに使われたが、英誌エコノミストが昨年10月24日号の記事で「We can pivot too」という見出しを掲げていたのが目を引いた。

 キャメロン英政権は昨年、「特別な関係」にあるアメリカの反対を押し切っていち早くAIIBへの参加を表明するなど親中路線へ一気に傾いた。
 エコノミスト誌の見出しは
 「アメリカがアジアに旋回するなら、我々だって旋回してもいいじゃないか」
というニュアンスである。
 キャメロン政権は2010年の発足当初から
 「商業主義外交」を掲げ、外交における経済的利益を優先する姿勢
を貫いている。
 そのイギリスのAIIB参加表明は、中国の人権軽視や地政学的脅威に目をつむるものだが、独仏など他の欧州諸国もイギリスに追随しAIIBに参加した。
 この事態が示しているのは、国際政治における経済の比重が高まる中、リベラルな理想を掲げる欧州諸国ですらその外交姿勢において
 「マネー・ベースド・アプローチ(お金本位主義)」
を強めているということである。

 グローバル経済はかって、世界に「ウィン・ウィン(全員が勝者)」の関係をもたらすと喧伝された。
 しかし、この言葉は最近、とんと聞かれない。
 それは、そうだろう。
 先進各国とも内情を見れば、
 経済の持続的な安定成長など誰も確信できず、
 格差拡大に伴い政治は不安定化する一方だ。
 こうした情勢下で各国を覆っているのが、
 誰かが得をすれば、誰かが損をするという「ゼロ・サム」ゲームのメンタリティである。
 各国とも世界の政治的安定を優先する余裕などなく、一国の経済的繁栄を追い求めているのが実情である。
 国際情勢が流動化する中、外交の基軸を旋回、調整する国は今後一層増えることだろう。
 そして、欧州諸国の親中路線を見れば、経済的繁栄を求める姿勢が政治的不安定をより深刻化させるという逆説的な事態が生じていることに気付くだろう。
 明確なリーダーを失った世界は、袋小路に入り込んでしまったかのようである。

◆アメリカ大統領選が持つ意義

 こうした世界の潮流を見れば、今年11月に行われるアメリカ大統領選の持つ意義の大きさが理解できるのではないだろうか。
 民主、共和両党とも2月1日から始まる中西部アイオワ州党員集会を皮切りに候補者選びが本格化し、7月に候補者を正式に指名する。
 ここでは詳しく触れないが、民主党候補はヒラリー・クリントン元国務長官でほぼ決まりのようだ。
 一方の共和党は、過激発言で物議を醸す不動産王、ドナルド・トランプ氏が世論調査でトップを行き、候補者選びは混迷を深めている。

 国際政治の世界には「棍棒を手に静かに語れ」(第26代米大統領セオドア・ルーズベルト)という言葉がある。
 軍事力を背景にしながらも、それを使うことなく、問題を解決しろ、という意味である。
 現実主義派を代表する立場だろう。
 振り返れば、
 単独行動主義を批判されたブッシュ前大統領は無闇に「棍棒」を振り回し、
 オバマ大統領は「棍棒」を手にしない大統領だ。
 そして、アメリカの威信は失墜し、国際秩序は流動化し、中国はアメリカとの「新たな大国関係」を堂々と主張するようになった。

 アメリカは、リベラルな民主主義や開かれた経済の守護者として自由世界を再び結束させ、中露などのリビジョニスト国家の挑戦を押し戻し、国際社会をより安定させることができるのか。
 今年の大統領選の行方に注目したい。

笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員 (1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイ トハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査 委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。



レコードチャイナ 配信日時:2016年1月5日(火) 6時50分
http://www.recordchina.co.jp/a126281.html

本当の先進国になれるのか?
試練の時を迎えた中国経済―仏メディア

 2016年1月2日、RFI中国語版サイトは記事「2016年も中国経済は低迷」を掲載した。
 成長ペースの減速は中国政府が経済構造転換に取り組んでいるためだ。
 中国は先進国になれるのか、試練の時を迎えている。

 「中所得国のわな」という言葉がある。
 途上国が中所得国まで成長した後、停滞してしまう状況を意味した言葉だ。
 このわなを突破できた国は数少ない。
  そして中国も今、この難関に差し掛かっている。

 中国政府は今、労働者の給与上昇に取り組んでいる。
 理想的には、消費者の購買力が増して内需が拡大し、企業も労働コストの増大に直面する中、生産性の向上を実現し、中所得国のわなを突破できる。
 しかし給与の上昇に生産性の伸びが追いつかなければ、
 競争力を失って経済が停滞する事態に陥る可能性がある。

 パリ第1大学のSandra Poncet教授は「本当の意味で先進国になれるかという試練の時を迎えた」と評している。



サーチナニュース 2016-01-10 09:45
http://news.searchina.net/id/1599310?page=1

中国は国際司法の仲裁受け入れない、
「力あるのみだ」
=中国人教授が堂々の「暴論」

 中国メディア・観察者網はこのほど、中国海洋大学の桑本謙教授の
  「南シナ海の仲裁案、中国はなぜ相手にしないのか?」
と際する文章を掲載した。
 桑教授は同文章で
★.国際法とは力のある国家が築いてきた「強盗の論理」であり、
 こちら側の意見に道理があるのに相手が受け入れない場合には「最終的には力ずく」
と主張した。

 南シナ海に存在する島の領有権について、フィリピンは2013年、国家間の対立を調停する国際司法機関のひとつである常設仲裁裁判所で中国を提訴した。
 中国は猛反発を続け、同裁判所が2014年に中国に抗弁の陳述書を提出するよう命じたが拒否し、同裁判を受け入れないと主張した。

 同裁判所は15年10月、フィリピン側の一部の訴えに関して裁判所に管轄権があると判断し、審理を続行すると発表した。
 中国の主張を受け入れない形で、国際司法機関が同問題に本格的に取り組むことが決まったことになる。

 桑教授は文章中で、国連海洋条約制定に中国は参加していなかったとして、「中国はゲームのルールを作った側ではない」と指摘。
 さらに「国際法」は国内法とは違い、力のある国が覇権を握り、世界の警察の役割を担うだけで、実際には「強盗の法」であり、「げんこつが硬い者の言うことが通る」という点で、本当の「法」とは言えないと主張した。

 さらに、文明社会は国内統治においては「野蛮な復讐」を排除したが、国際関係は現在も「野蛮時代」との見方を示した。

 桑教授は南シナ海の領有権問題について
 「われわれに道理がないというのではない。
 しかし道理を説いても相手は認めない。
 道理が通じないなら、実力に頼るしかない。
 道理が通ったとしても最終的には実力だ。
 領土とはもともと、そのようにして作ってきたものだ。
 話し合いで領土ができるわけではない」
と主張した。

 桑教授は1970年生まれ。山東大学威海分校法学院(法学部)、山東大学法学院の講師、助教授、教授を経て現在は中国海洋大学法政学院の教授だ。
 専門は法理学、法律経済学、刑法。

**********

◆解説◆
 国際法とは「力のある国が自らの都合に合わせて作ってきたもの」との桑教授の認識に間違いない。
 しかし桑教授は国際法、ひいては国際秩序の形成の流れは、完全に無視している。

 まず「国際法」という概念そのものが、強国の恣意的行動に歯止めをかける性格を持つものだ。
 たしかに制定時に「わがまま」が通ったとしても、大部分の国がそれを「ルール」と承認した後は、強国といえども状況が変わった際に、再びその場で自らに都合のよい行動を取ることがしにくくなる。

 また、国際法や国際司法機関、さらに言えば中国が安保理常任理事国を務める国際連合も、国家間の対立や争いを「実力」、つまり「戦争」で解決することをできる限り防止することが目的で設立されたものだ。
 「戦争を避ける」との目的は、現在も達成されたとは言い難いが、少なくとも第一次世界大戦が終わってからの歴史の流れだ。
 桑教授は約100年に及ぶ歴史の流れを無視している。

 さらに言えば、第一次世界大戦後に「戦争防止」の気運が発生した最大の理由は、技術の進歩にともない、大量殺戮が可能な兵器が多く登場したことや、それまでの「軍隊と軍隊が衝突する」戦争が、国家間の総力戦、つまり「国民全員と国民全員の殺し合い」に変貌したことがある。

 もうひとつ指摘しておく。
 例えば、これまで「世界の警察官」などと言われてきた米国が、相当な横暴を繰り返してきたことは事実だ。
 「あまりにも阿漕」としか言いようのない事例も多かった。
 しかし米国では自国政府を批判/非難する自由がある。
 米国はベトナム戦争に敗北した。
 ベトナム側が粘り強く戦ったのは事実だが、米国は国内で高まった反戦世論に負けた側面が大きい。
 中国は、核兵器の保有を「公認」されている国でもある。
 人類の生き残りのために核兵器を廃絶すべきであるのは言うまでもないが、「やむをえず」保有を公認されているということは、力の行使についてそれだけ「慎重さが求められている」ことでもある。
 中国海洋大学の桑本謙教授にとっては、人類が生き残るチャンスの拡大を模索してきた歴史の流れも、自国の立場と責任も関係なく、「ほしい物は力ずくで取る」ことだけが大切らしい。



ロイター  2016年 01月 11日 18:27 JST
http://jp.reuters.com/article/china-yuan-trading-idJPKCN0UP00L20160111?sp=true

焦点:中国製おもちゃ調達もドル建て、人民元取引の実態

[バジルドン(英国) 6日 ロイター] -
 英国ビジネスマンのトニー・ブラウン氏は、中国の工場から可愛らしい玩具や遊園地の景品を仕入れる際、人民元で支払おうとしたが、受け取ってもらえないという。
 ブラウン氏は、毎月数百万ポンドに達する調達の決済に現地通貨を用いれば、アジアの取引相手にアピールできるだろうと考えていた。
 誠意を示すことになり、先方としても多分その方が楽だろう、と。
 ところが、相手が望むのはドルでの支払いなのだ。

 中国の工場や企業と取引するイギリスの中小企業数百社にとって、これはよくある話だ。
 しかし「人民元が主要通貨として台頭し、
 ロンドンが元の国際取引において主要なハブになる」
という昨年喧伝された説とは矛盾する。
 「元建てで払おうとしたが、向こうはその気にならなかった」
と、中国系サプライヤーと密接な取引関係を19年にわたって続けるブラウン氏は言う。

 人民元は、一部の主要銀行や投機的な金融投資家の間では取引量が急増しており、アジアでの貿易通貨としてもますます盛んに使われるようになっている。
 しかし、
 欧米の日常的な経済においては、その存在感はほぼゼロに等しい。
 その理由として、定着した慣行を変える困難さや、
★.中国企業が債務返済や国際的な支払いのためにドルを必要としていること、
★.昨年8月以来2度目の大幅な切り下げに苦しむ人民元の現在価値に対する不信感
といった点を指摘する声が、中国と定期取引を行う英国経営者の一部から聞こえてくる。

 「これまでずっと中国企業はドルを切望しており、それが今でも続いている。
 現地通貨である人民元での支払いについて協議はした。
 しかし彼らが持つ人民元のエクスポージャーは限られており、ドルを選好している」
とブラウン氏は言う。

 ここ数年、英国のイベント会場や遊園地でのアトラクションを楽しんだ経験がある人なら、そこでもらった景品は恐らくブラウン氏の会社、つまりロンドン近郊バジルトンにあるホワイトハウス・レジャーが輸入したものだ。
 過去1年で最も売れたのは、フワフワした「ミニオン」の人形だ。
 子供向け映画「怪盗グルーの月泥棒」で有名になり、テーマパーク「レゴランド」から、英国で開催される小規模な移動型遊園地に至るまで、あらゆる場所で流通していた。
 事業は好調で、ホワイトハウス・レジャーは、為替ブローカーAFEXの主要顧客でもある。
 ロンドンには、銀行がトップ企業に提供する優遇レートやサービスを受けられるほどニーズが大口ではない企業に特化したブローカーが多数あるが、AFEXはそのなかでも最大級だ。
 AFEXの営業担当ディレクターであるジェームス・コリンズ氏によれば、彼が担当している企業顧客150社のうち、人民元建てで本格的な取引を行っている企業は1社もないという。
 中国側の消極姿勢が原因だ。
 「サービスとしては提供しているし、注目してくれる顧客も多いのだが、相手方が応じてくれる例が1つもない」
と同氏は語る。

<利用は急増したが>

 中国は昨年、今後のグローバル経済・金融ヒエラルキーのなかで自国の地位を固めるには人民元の国際通貨化が不可欠の要素になると考え、そのための取り組みを強力に推し進めた。
 国際銀行間通信協会(SWIFT)のデータによれば、人民元は現在、国際決済において5番目に多く用いられている通貨だ。
 銀行間大口取引プラットフォームでの人民元利用が急増したことにより、最も取引量の多いひと握りの通貨の1つとなることが多いという。
 だが、
 この10年間に中国企業が膨大なドルを稼いだことが、
 2008年以来の米国の超低金利とも重なり、
 投資・貿易分野ではこれまで以上にドルが日常的に利用されるようになっている。

 国際通貨基金(IMF)が昨年、ベンチマークとなる通貨バスケットの構成通貨に元を追加することを承認したため、近い将来、元は世界全体の中央銀行準備金のうち10%近くを占めるようになるはずだ。
 だが、この2年間で大幅に増大しているとはいえ、
 国際決済全体のなかでの利用率は、
 ドルが「52%」であるのに対して、元はわずか「2%」だ。
 財・サービスの貿易においては0.5%にも満たない。

 中国企業は依然として
 約1兆ドル相当のドル建て債務を抱えており、
 毎月数十億ドル単位で返済・利払いを行っている。
 その資金の大半はオフショア口座に入り、中国には流入しない。

 AFEXの別の顧客であるボブ・レイサム氏は、中国の工場から強化複合材料と艶出し材を購入し欧米の顧客に販売しており、その代金約10万ドルを毎月支払っている。

 「人民元で支払うと工場側には提案してみた。
 できるだけ彼らが製品を販売しやすいようにしてあげることは、こちらの利益にもなる。
 そうすれば、我々が先方にとっていちばん使いやすい販路になるからだ」
とレイサム氏は言う。
 「ところが、かなりおかしなことになっていたようだ。
 彼らは外国の銀行に口座を持っており、対外輸出はすべてその口座で処理している。
 だから我々が人民元で支払おうとすると、彼らはそれを米ドルに替えてから、その米ドルを送金して、また人民元に替える。
 どんな理屈やメリットがあるのか理解できなかった」
と同氏は語る。

<金利のアヤ>

 こうした状況とは矛盾するが、HSBCやスタンダード・チャータード、シティなどの銀行を中心として、企業は人民元の採用を盛んに宣伝している。
 トレーディング業務や利益が減少しているなかで、銀行各行にとっては、人民元取引は貴重な成長市場なのである。
 SWIFTのデータは、アジアとそれ以外の地域の不均衡を示している。
 例えば、
 グローバル規模での人民元の採用率が2%であるのに対して、日本・中国間の決済では約7%
となっている。
 それでも、人民元取引はドルよりも高い利益をもたらしており、売買レートのスプレッドの大きさによる両替コスト高を相殺している。

 銀行関係者によれば、ロンドンにおける元建て取引はこの6カ月で急増しており、大手の企業顧客は1年以上にわたり元建て決済を行っていたという。
 ロンドンのウェスタンユニオンで大手企業向けにヘッジやオプション商品を販売しているトビアス・デイビス氏は
 「元建ての取引はたくさんやっている」
と話す。
 「特に、フォワードやオプション取引では、直接人民元で決済することのメリットは大きい。
 金利は4%以上だから、ポジションを維持したままで、金利キャリーが得られる。
 ドルに比べて人民元のスプレッドがわずかに大きくても、それで相殺できる」
 だがデイビス氏も、中国の顧客は依然としてドルで受け取ることに執着していることを認めている。
 「昨年来、元はさらに切り下げられるだろうという想定があった。
 だから少なくとも当面、それが続いている間は、中国企業は元を持ちたがらない。
 ドルをもらう方がはるかにありがたいだろう」
と指摘する。

(Patrick Graham記者)
(翻訳:エァクレーレン)






【激甚化する時代の風貌】



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