2016年1月8日金曜日

中国大気汚染(1):誰も環境保護には取り組もうとしない?、不況下で隆盛を極める「空気特需」

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 中国を初めてスモッグが襲ったのは2012年の暮れ。
 この年、中国は反日デモが荒れ狂った。
 それからすでに3年が過ぎている。
 相変わらずの反日だが、実際は訪日中国人の数はウナギ上りで、『爆買い』の言葉が定着するほど。
 そして、相変わらずのスモッグだが赤色警報が出るほどに究極化し、そして誰もこれを阻止しようとは考えていない。
 高速鉄道は赤字路線を量産し続け、今年も14兆円を超える財政がつぎ込まれるが、汚染対策には名目上の項目が載せられるだけ。
 誰もこの対策をしようとは本気で思っていない。


サーチナニュース 2016-01-08 14:13
http://news.searchina.net/id/1599243?page=1

強制設置の汚染観測装置を中国企業「止める・はずす・破壊する」 
環境保護、システム整えても機能不全

 中国メディアの第一財経日報は6日、中国政府は環境保護のため各地の工場などに観測機器を設置して汚染物質の排出を監視できるシステムを構築しているが、企業側による装置を「止める・はずす・破壊する」などの行為が続発していると報じた。

 中国政府・環境保護部汚染源監控中心(汚染源監視抑制センター)の職員によると、同センターには自動観測装置からデータが毎日391万件、送られてくる。
 2013年からの総計は36億件以上になったという。
 センター内なるモニターを見る限り、各地の汚染物質観測データが状況に応じて、緑・黄・赤などのランプで表示され、
 行政が状況をリアルタイムで把握しているように思える

 しかし、第一財経日報は
 「データにどれだけ真実味があるか。疑問符をつけねばならない」
と指摘。
 環境保護部が公開した資料によると、2014年8月から10月にかけて、全国の重点監視企業1万809社に対して観測機器の状況調査を実施したところ、1割近い1044社が装置を撤去したり、電源を切ったり、データを偽造する措置を取っていたりしたという。

 2015年の調査では、2658社が同様にデータ送信を不正常な状態にしていた。

 記事は不正の例として、排出される煙に含まれる二酸化硫黄(亜硫酸ガス)をごまかしていた企業を紹介した。
 設置した装置によりセンターが把握したデータでは排気1リットル当たり23.24ミリグラムだが、実際に測定したところ、210ミリリットルだった。
 基準では200ミリグラム以下と定められており、
 「環境保護に積極的に取り組んでいた」はずの企業が、実際には「汚染物質垂れ流し企業」だった。

 同企業では観測装置に細工を施し、中央に送信される観測結果を
 「職員がダイヤルを回す」ことで、任意に設定できるようにしていた。

 環保部環境監察局の鄒首民局長は
 「各地で観測データを偽装する現象は全く珍しくない。
 企業のデータを偽装する手段は百花繚乱だ」
と述べた。

 記事は、
 「データの偽装をするのが中小企業に限られると思っているなら、それは違う」
と説明。
 「どんな企業でも、偽装に手を染める」
と指摘した。

 企業は、環境保護部門のスタッフが「偽装した決定的な証拠」を握らない限り、不正を「死んでも認めない」
ことが一般的だ。。
 環境保護部門に警察ほどの捜査力や権限がないのも問題で、大都会から離れた工場などではさらに、偽装を発見しにくい状態という。



JB Press 2016.1.18(月) 森 清勇
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45772

中国がひた隠しにするPM2.5による死者の数
台湾の事例から推算されたその数は年間100万人

 地球温暖化は日本では連日の猛暑日や暖冬、世界各地では熱波の襲来、そして海面の上昇などで身近に感得され、喫緊の課題となってきた。
 世界の英知を結集して対処しなければ多くの国が消滅するなど、未曾有の大災難がやってこよう。
 その主たる要因とみられているCO2(二酸化炭素)の削減問題では、従来先進国に課してきた義務を、パリで開催された国連気候変動枠組み条約・第21回締約国会議(COP21)で途上国も分担することになった。
 埋没の危機に直面する44の島嶼国グループの訴えが大きかったとも言われる。

 その会議のさなか、世界一のCO2排出量の中国では、高濃度のスモッグが首都北京を覆い、PM2.5(微小粒子状物質)による「危険」レベルの汚染が4日連続する赤色警報が出る異常な光景をさらし続けた。
PM2.5は粒子の大きさが2.5ミクロン(髪の毛の太さの約30分の1)と小さいので、
 肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系疾患への影響のほか、肺がんのリスク上昇や循環器系への影響も懸念されると言われてきたが、死亡についてはほとんど聞かれなかった。

◆台湾におけるPM2.5による疾患

 しかし、「産経新聞」(平成27年12月26日付)は、台湾ではPM2.5による大気汚染が原因で、2014年の1年間に6281人が死亡したというデータを台湾大公共衛生学院がまとめたと中国時報が伝えたことを報道している。
 細部を見ると、慢性疾患による死者3万3774人のうち、PM2.5によるものが全体の約19%を占めるという。
 内訳は虚血性心疾患2244人、脳卒中2140人、肺がん1252人、慢性閉塞性肺疾患645人である。
 汚染原因は、北部は交通に起因するものが多く、中南部は工場や火力発電であるという。
 しかし、秋冬の季節風で中国大陸から汚染物質が運ばれてくるとの報道が多いともいう。

 報道では、台湾の2014年のPM2.5の年間平均濃度は1立方メートル当たり25マイクログラム(25μg/m3)であったという。
 ちなみに日本の平均は15~20μg/m3(2001~2012年)となっており、台湾よりやや低い濃度である。
 ただ、近年は中国の大気汚染が頻繁なため、偏西風で日本に運ばれてくる危険性も増大する。
 熊本育ちの筆者はかつてしばしば黄砂に見舞われたが、今日言うところのPM2.5の自覚はなかった。
 環境省のQ&Aによると、黄砂の主体は4ミクロンくらいであるが、2.5ミクロン以下の微小な粒子も含まれるため、PM2.5濃度を上昇させることもあるとしており、黄砂だからと見過ごせなくなっている。

 環境汚染除去が進んでいない中国からは、黄砂とともに殺人兵器ともなるPM2.5が九州や沖縄に飛来していることが最近の人工衛星画像の解析からも確認されている(「産経新聞」27.12.9)。
 特に冬季は地面が冷やされ、汚染物質が上空にたまりやすいとされ、多くの汚染物質が日本に到達する恐れがあると指摘している。
 また、中国が1980年代に行った大気圏核実験で生じた半減期2万年のプルトニウムが東日本大震災で発生した福島原発事故時の放射能汚染調査で判明している。

 中国では今後、多くの原発建設が予定されていることもあって、中国における環境問題は日本人の健康に大いに関係してくることになり、関心を持たずにはおれない。
 その中国では北京オリンピックの頃も大気汚染が騒がれていたが、死者の報道は寡聞にして知らない。
 台湾の状況を知ったからには、中国における死者などを推算して、今後の議論の参考に付すことが必要ではないだろうか。

◆信頼できない中国の公表数値

 問題は中国の発表する数値は政治的に歪められていることである。
 経済成長率7.0%についても疑問を投げる発言は多い。
 どのように歪められているか、いくつかの断面からみてみよう。

 ジニ係数は社会における所得配分の不平等さや富の偏在性などを測る指標とされ、社会の安定度でもある。
 0から1の間の数字で示され、0に近いほど平等で、1に近いほど不平等や所得格差が顕著であることを示している。
 0.4が社会騒乱多発の警戒ライン、0.5以上では社会が不安定化すると言われる。
2010年前後のジニ係数はドイツが0.295、日本が0.329、米国が0.378などなっている。

 他方、中国のジニ係数は西南財経大学(四川省)の調査では2010年が0.61で、各地で暴動が頻発している状況を裏づけた格好である。
 ところが、中国の国家統計局は2002年まで発表していたジニ係数を2003年以降公表しなくなり、2013年に2003年以降の数値を突然公表した。
 それによると、2003年0.479、2008年0.491、2013年0.473などとなっており、0.473から0.491の間に納まり、0.61などとんでもないと言わんばかりである。

 毛沢東の大躍進(1958~62年)では3600万人が餓死し、自分の子供を含む「人肉食は特別なことではなかった」(楊継縄著『毛沢東 大躍進秘録』)という。
 また、
 「各級の幹部は餓死者が出たことについて固く口を閉ざし、
 餓死者の人数統計についてごまかしを行い、死者数を小さくした。
 (中略)当局は、各省から来た人口数千万人減少の資料を破棄する命令まで下した」
ともいう。

 香港に逃げた難民や国内の親族から餓死情報などが海外華僑に伝わり、西側メディアが
 「中国大陸で飢饉が発生している」
と報道すると、中国政府は、「悪辣な攻撃」「デマによる中傷」などと反発し、外国から招待した“友好人士”を「衣食が足りている偽りの状況がわざわざ用意された場所」に連れて行き、「世界の世論を変えるようにしていた」のである。

 中国の2014年度の公表国防予算は8082億元(1元=16円として、約12兆9300億円)であった。
 平成27年版『防衛白書』は、公表国防費は中央財政支出におけるもので、「中国が実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないとみられている」と注記する。
 実際、外国からの兵器調達費や研究開発費などを含めると2倍ないし3倍になるとする資料も多い。

 一事が万事、このような状況である。
 中国政府が公表する各種数値は粉飾されていると、間違いなく言えるであろう。

◆PM2.5による中国人死亡推算

 大気汚染の大国である中国からPM2.5による死者が聞かれないので、台湾の事例を参考に算出してみる。
 もっとも、中国発表のPM2.5の年間平均濃度などが見当たらないので、状況証拠から仮定するよりほかにない。
 最も単純な死者推定の最小値(A)は、台湾と条件が同じとみて人口比からの割り出しである。
 2015年8月現在の台湾の人口は2344万人、中国は13億6782万人である。

A:6281=136782:2344 から、A=6281x136782/2344=366522

 となる。
 すなわち、中国では毎年最小限37万人弱がPM2.5によって死亡していると推算される。

 しかし、現実には中国のPM2.5の濃度は、台湾の年間平均濃度25μg/m3(参考:日本15μg/m3)よりはるかに高い。
 インターネットではリアルタイムで「大気質指数」が開示されており、時々刻々の状況を見ることができる。
 大気質指数(汚染指数とも呼称)は大気の汚染状況を示すもので、主としてPM2.5の大気中濃度で算出される。
米国の基準では大気質指数
☆.0~50(良好:PM2.5含有量0~15.4μg/m3)、
☆.51~100(穏やか:同15.5~40.4μg/m3)、
☆.101~150(敏感な人にとって有害:同40.5~65.4μg/m3)、
☆.151~200(有害:同65.5~150.4μg/m3)、
☆.201~300(とても有害:同150.5~250.4μg/m3)、
☆.301~(危険:同250.5μg/m3~)
となっている。

 大気質指数100が基準とされているが、国により違いがある。
 中国もほぼ同様の大気質指数のようである。
 COP21が開かれていた2015年12月8日午後1時の北京の汚染指数は、
 米大使館のウェブサイトでは367
 北京市環境保護監測センターのデータでは314
であった。

 北京では11月末から12月初旬にかけて深刻な大気汚染が続き、12月1日には一部地域で汚染指数が、世界保健機関(WHO)の安全基準の40倍となる1000に到達した(「産経新聞」27.12.9)ともある。
2016年1月11日10時の状況は、
 台湾の72~137(参考:日本53~122)に対し、
中国では
 北京周辺 415、
 北東部 220、
 南部 152、
 西部 325
などである。
 数日前某時刻の日本や台湾はさほど変わらない数値であったが、
 中国では999などの高い数値も散見された。

 中国は北京や上海などの市域ばかりでなく西部や北東部も含め全土的に台湾に比べて指数は高い。
 しかも、指数域150以下のPM2.5の包含量に比して、151より上の指数域のPM2.5 包含量は3倍も4倍も多い。
 こうしたことを考慮した場合、
 中国は台湾に比して少なく見積もっても3倍以上の大気汚染に晒されている
とみてもいいのではなかろうか。

◆異常な耐性の中国人

 ただ、中国人の名誉のために言及すると、今から130年ばかり前の奉天(いまの瀋陽)にスコットランド(英国)からデュガルド・クリスティーという25歳の伝道医師が赴任してきた。
 医師は日清戦争、義和団事件、日露戦争の荒波を潜り抜けて1922年まで約40年間にわたり奉天で勤務し、中国人を観察し続けた。英国の女性旅行家イサベラ・バードも奉天の医師を訪ねて意見交換し、奉仕活動を手伝ったりしている。
 医師は中国人の環境や病気などに対する強さに感心し、
 「我々が住民の生活状態を調査して先ず驚くことは、
 彼らの身体の発育がその生活状態に比して意外に良く、強健であることである」(『奉天30年』)
と記している。
 スコットランド人であればとても耐え得ないような状況に対して、中国人は平然としているというのである。

 歴史を紐解くと、中国ほど旱魃・大洪水、蝗害・飢饉、黄砂、ペストや各種疾病などの天災、そして内乱などによる人災に翻弄された国はないとも言われる。
 そうした諸々が、中国人の耐性を大きくしたのであろう。
 今日問題になっているPM2.5に対しても、他の国民、ここでは比較対象にしている台湾の人々より耐性があるとみるならば、指数の比率やPM2.5の含有量に比例して疾病や死亡が高くなるとも一概には言えないかもしれない。
 そこで、耐性が死亡率を低減するプラス要因になると有利に仮定し、相殺できる率を一つの目安として1割に仮置きする。

 すなわち、台湾の3倍のPM2.5の汚染に晒されるが、中国人の優れた耐性でPM2.5による死亡率を1割低減させるとすると、PM2.5による死者Bは、

B=366522x3x(1‐0.1)=1099566x0.9=989609

 となる。989600人、すなわち約100万人の死亡である。
 一応の目安にはなるであろう。

◆おわりに

 李克強が首相に就任するより10年も前に、中国の経済指標で信頼できるのは電力消費量、鉄道貨物輸送量、中長期の銀行貸し出しの3つであると述べたことがある。
 裏を返せば、国家の指導的立場にある人物が、政府公表の多くの数値は信用できないと公言したようなものであった。

 新常態(ニューノーマル)を打ち出した習近平政権では製造業からサービス産業へウエ―トが移行しているため、鉄道貨物輸送量など従来の3指標はもはや正確でないとされる。
 中国では一人っ子政策時に生まれた2人目以降の1300万人に戸籍がなく、人口統計に算入されていなかったという。
 また、ジプシー的生活で統計に上がらない人たちもかなり存在すると仄聞したこともある。

 日本軍は国民党軍を相手に南京攻略戦を行い数万の戦死者を出した。
 当時の南京には20万人しか住んでいなかったが、現在の中国政府は南京戦で日本軍が南京在住の民間人30万人(時には40万ともいう)を虐殺する南京大虐殺を行ったとして、ユネスコの遺産にさえ登録した。

 こうした国で、PM2.5による死者が何万人だろうと、敢えて公表するに値しないことかもしれない。
 しかし、PM2.5が日本に与える影響を考えるならば、推算する価値があるのではなかろうか。



現代ビジネス  2016年01月18日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47413

中国経済の”不都合な真実”
「今年、北京発の金融危機が世界を襲う」
ある金融機関幹部が語った

◆不況下で隆盛を極める「空気特需」

 今週は、2016年の中国経済の展望について、年末年始に北京で見聞したことをもとに述べたい。
 日本と中国、ともに大発会となった1月4日朝、私は北京西城区にある金融街のちょうどヘソの部分に位置するウエスティンホテルで、金融街に勤める旧知の中国人と、朝食を共にしていた。

 金融街は、「北京のウォールストリート」で、中国人民銀行(中央銀行)の本店をはじめ、大手国有銀行、保険、証券などの本店、金融監督機関などが犇めいている。
 彼はある中国の金融機関の幹部で、中国経済の予測に対する感度は抜群だ。
 彼とこの場所で会うのは約半年ぶりだったが、互いに夏とは違う「ガスマスク・ファッション」(PM2.5防止のため体中を覆う)で身を固めていた。
 というわけで、まずは握手する前にマスクを外し、続いて私は、最近、北京人の間でエチケット(習慣)になっている挨拶言葉を口にした。

 「この冬、空気清浄機は何を使っていますか?」
すると彼は、私が想像していた通りの答えを返してきた。
 「先日ついに、スイス製に買い替えたよ」
 私は年末年始に北京へ行ってきたが、北京っ子の誰と会食しても、最初の15分くらいは、空気清浄機の話題である。
 消費がすっかり低迷している中国にあって、空気清浄機市場は例外的に盛隆を極めている。
 まさに「空気特需」だ。

 そこで分かってきたのは、中国人は生活水準によって、自宅に取り付ける空気清浄機が、おおよそ3段階に分かれるということだった。

1].まず庶民は、安い中国製を買う。
 1台1500元から3000元くらいだ。
 そんな中で、携帯電話中国最大手の「小米」が出した「699元空気清浄機」(1元=約18円)が、ネット通販で、この冬の最大のヒット商品になっている。
 もはや品切れで、1ヵ月から数ヵ月待ちである。

2].次に中間層は、圧倒的に日本製を買う人が多い。
 こちらはだいたい5000元から8000元くらいだ。
 パナソニック、シャープ、ダイキンが3大メーカーで、日本では倒産寸前のシャープも、中国では空気清浄機を「爆売り」しているのだ。
 この「空気特需」には他の電器メーカーも続々、参入してきている。
 ある知人の北京人は、
 「実は富士通の空気清浄機が、どこよりも音が立たない優れモノで、6300元出してわざわざ上海から取り寄せた」
と自慢げに語っていた。
 当初、日本製は、評判が悪かった。
 それは性能が悪いからではなくて、逆に良すぎたためだ。
 ご丁寧にも「警報機能」(PM2.5が一定量を超えるとアラームが鳴って知らせてくれる)が付いていて、警報機能が24時間ピーピー鳴って、夜も眠れないのである。
 いまは中国用に、警報機能をアラーム式からカラー式(発光する色で警報する)に切り替えて、好評を博している。

3].残る富裕層は、スイス製の空気清浄機を購入していて、こちらは1万元から1万3000元くらいだ。
 このクラスになると、家庭用ではなく工場用である。
 そんな重厚長大な工場用の空気清浄機を、スイスからわざわざ自宅に取り寄せているのが、いまの中国人富裕層なのだ。

 やはり今回会った上海人の知人も購入していて、
 「どんなに高かろうが、子供の命には代えられないよ」
としみじみ語っていた。

◆中国当局のおそろしい「愚民政策」

 思えばいまや北京は、デパートの1階が、化粧品売り場よりも空気清浄機売り場の方がスペースが広い世界唯一の首都だろう。
 猛威を振るうPM2.5は、12月25日に海淀区の西直門で、ついに2000(マイクログラム/立方メートル)を突破した! 
 サンタさんも真っ黒である。

 ちなみに日本の環境省は、「PM2.5が35を超えると健康被害を及ぼす」と規定している。
 それが2000にもなると、視界は10mくらいになり、そもそも通常の社会生活が送れなくなる。
 そして「肺がん予備軍」が続出することになるが、当然、中国経済に与える悪影響も計り知れない。

 ある北京っ子は、訳アリ顔でこう言った。
 「北京市環境保護局は、2200万市民の動揺を抑えるため、
 実際の観測値の2.25分の1に抑えて発表している」
 確かに、私が今回何度か両替をした中国銀行の支店では、入口に独自の「PM2.5測定器」を設置し、それで集客効果を上げていた。
 ところがそこで電光表示している数値は、常に当局の発表の2倍程度だったのだ。
 はじめは中国銀行の測定器が安物でおかしいのかと思っていたが、その北京っ子の言によれば、「おかしい」のは中国当局の方だったのだ。
 いわゆる「愚民政策」というものだ。
 ちなみに正月が明けると、中国銀行の測定器は、電源が切られてしまった。
 当局からの「行政指導」があったのかもしれない。
 もしも本当に、2.25倍が正確な数値であるなら、2000×2.25=4500!!! もはや人間の棲息する場所ではない。

 別の北京の知識人は、「中国人=上海ガニ説」を展開した。
 「14億の中国人は、どんなに汚染された湖でも生きていける上海ガニのようなものだ。
 環境が悪い時は、岩の間にへばりついて、ジッと耐え忍んでいる。
 だがその間も、両眼だけは常にせわしなく動かし、機を窺っている。
 そして風向きがよくなったと感じたら、サッと動き出す」

 ちなみに、この「中国人=上海ガニ説」は、「PM2.5と中国人の関係」について説いたものではなく、「習近平政権と中国人の関係」について説いたものだった。

◆中国の旅行業界は完全に「輸出」頼み

 このPM2.5の2000という数値がどれほどのものか、この冬、北京を旅していない人には、想像もつかないだろう。
 といっても、「北京まで旅行に来ました」という日本人とは、とんと巡り合わなかったが。
 だが中国の旅行業界は、この「空気特需」に、ちゃっかりとあやかっている。
 昨年の中国人の海外旅行者数は、延べ1億3500万人を突破した模様だが(日本の人口より多い!)、中国の旅行業界は
 海外旅行を意味する「洗肺遊」(シーフェイヨウ=肺を洗う旅)という新語
を造り、これを流行語にしたのだ。

 ちなみに、昨年1年間で日本を訪れた中国人観光客は、ついに500万人を突破した模様だが、
 日本の青い空のことは、羨望と嫉妬を込めて、
 「鬼子藍」(グイズラン=日本の鬼っ子の青)
と呼ぶ。
 つまり、中国の旅行業界は、「輸出」は大変好景気だが、「輸入」は深刻な不況に喘いでいるのである。

 昨年末に降り立った北京首都国際空港は、過去25年で100回以上通った私ですら、これまで経験したことがないくらい閑散としていた。
 2014年には、年間利用者が米アトランタ空港に次ぐ8600万人を突破したと官製メディアが喧伝していたというのに(成田空港の利用者約3500万人の2倍以上)、いまや見る影もない。
 北京空港名物だった、降り立った客同士のカート争奪戦も、タクシー待ちの長蛇の列も消えた。
 その代わり、ヒマを持て余している税関職員たちによる荷物検査が、より厳格になった。

 私も今回、
 「違法な書物を持ち込んでいないか?」
と聞かれた。
 昨年11月1日から刑法が9項目改正されて、
 「テロを煽るような書物を保持していたら3年以下の徒刑と罰金刑に科す」(第120条第6項)
となったのだ。
 今回の刑法改正は、主にウイグル独立勢力をはじめとするイスラム過激派組織への対応が目的とされた。
 だが、そこは厳しい習近平政権なので、「テロを煽るような書物」=「党や政府の方針と異なる内容の書物」と拡大解釈されていくことは自明の理だ。

 ようやく16路線体制が整った市内の地下鉄に乗るにも、いちいち荷物検査とボディチェックを受けるので、こちらも経済停滞の一因となっている。

◆「今年は、世界全体が不況に見舞われた2008年の再来になる」

 さて、北京金融街のウエスティンホテルの朝6時から営業しているカフェレストラン「味餐庁」もまた、閑散としていた。
 そこは「中国バブル」の象徴のようなホテルで、北京に暮らしていた2009年から2012年にかけて、私は何度かこのカフェレストランで、中国人やアラブ人らが、多額の現金を手渡したり、テーブルに積んだりするのを目撃したものだ。
 だが本当に多額の受け渡しをするなら、上階のスイートルームを予約して行うだろうから、それらはほんの氷山の一角だったのだ。
 もしくは部屋が満室だったのかもしれない。
 それが今回は、シーンと静まり返っていた。
 もはやギラギラした風体で金の指輪を光らせる「煤王」(石炭会社社長)も、腹の突き出た白装束のアラブ人の姿もない。
 レストランには、見た目にも「不景気感」が漂っていた。

 私が今回、金融街に勤める知人と会ったのは、
 「金融街から見た2016年の中国の景気判断」
を聞くためだった。
 彼は、まずは自分の家庭のことから切り出した。
 「息子がまもなく、高校を卒業するんだ。
 成績は大変優秀なんだが、アメリカの大学に行かせることにした。
 アメリカがダメならカナダでもいいと思っている。
 私の周囲を見渡しても、多くの親がそうしている。
 いまの中国は、あらゆる環境から見て、教育にはふさわしくないからね」

 私が「あらゆる環境」とはどういうことかと畳みかけると、彼はこう説明した。
 「今年は、世界全体が不況に見舞われた2008年の再来になると私は見ている。
 とりわけ深刻なのが中国だ。
 2008年のリーマンショックの時は、アメリカ発の世界同時不況で、それを中国政府が4兆元出して救った。
 ところが2016年の金融危機は、もしかしたら中国発となるかもしれないのだ。
 そして、もはやアメリカもEUも、もちろん日本も、救世主にはなれないだろう。
 習近平政権は、不況が深刻化すれば、いまよりももっと締め付けを強化するに違いない。
 党や政府の幹部には出国制限があるが、私は国家公務員でもないので、まずは息子を海外に送り、いよいよこの国に見切りをつけたら、妻と移住しようかと考えている。
 この金融街の住人は、多かれ少なかれ、誰もが同じような考えを持っているよ」

 彼は次に、過去5年の中国経済を回顧した。
 「習近平主席が昨年末、自画自賛したように、2011年~2015年の第12次5ヵ年計画は、なかなかの成績で終えることができた。
 24の具体的目標はほぼ達成できたし、5年間の平均GDPは、10.8%と二桁成長だ。
 昨年のGDPは68兆元となり、アメリカドルに換算すると10兆ドルを突破した模様だ。
 2010年に日本を追い抜いて世界第2位となったと思いきや、5年でアメリカの3分の2の規模まで来たのだ。
 国民一人当たりのGDPは8700ドルまで来た。

 2015年の食料生産量は6000億kgを超え、12年連続の増加だ。
 農地の灌漑面積は5割を超えた。
 工業は220種以上の工業製品の産出量が世界一で、製造業の規模は世界の3割以上に達する。
 昨年12月には、中国-ラオス鉄道、中国-ベトナム鉄道、シンガポール-タイ鉄道の工事をそれぞれ始めた。
 インドネシアの高速鉄道も受注した。

 携帯電話の保有台数は12億個を突破し、インターネット使用者は7億人。
 ネット通販が隆盛で、GDPに占める消費の割合は6割に達する。
 第三次産業の割合も5割を超えた。

 都市化率は56%になり、
 都市部と農村部の収入格差は5年前の3.5対1から3対1以下に縮小。
 一人当たりのGDPも、最高地区と最低地区の差が、5年前の7対1から4対1(天津市対甘粛省)となった。
 都市部の過去4年の収入の平均増加率は7.9%で、都市部は10.1%。
 いずれもGDP成長率7.8%よりも高い。

 2015年の教育予算は、2009年の約2倍にあたる3兆2800億元で、高等教育への入学率は37.5%まで来た。
 都市部での過去5年間の新規就業者数は5500万人に上り、これは5ヵ年計画の4500万人を大きく上回っている。

 単位GDPあたりのエネルギー消費量は、2011年から14年までで13.4%下降した。
 2015年はおそらく5.9%になる。
 非化石燃料のエネルギー率は、2015年はおそらく12%に達したはずだ。

 貿易に目を向けると、この5年間で、中国は世界最大の貿易大国となった。
 輸出も世界一だし、世界の全貨物貿易の13%位を占める。
 2014年には1200億ドル以上の外資が中国に投資し、これも世界一だ。
 逆に中国から境外への投資も、1200億ドル近くに達した。
 この2年間で新たに、1万社以上が創業している・・・」

 彼は一気呵成に話すと、一息ついた。

◆2016年の5大任務は「三去一降一補」

 ウエスティンホテルの朝食バイキングは、千客万来だった2012年頃と較べると、肉類など若干メニューが減った印象を受ける。
 だが、味を落としていないところは、5つ星ホテルの矜持だろう。

 彼は、続けて近未来の話に入った。
 「現在、われわれ金融街の住人が、最も話を聞きたい人物が二人いる。
 李克強首相は、そこには入らない。
 まったく精彩を欠いていて、習近平主席のように『体を張って頑張る』という気概が見えない。
 本来は、経済分野は李克強首相の役回りのはずなのに、何をやりたいのかが、まったく見えてこない。
 習近平主席に遠慮しているのかもしれないが、あれでは来年秋の共産党大会で、再任はおぼつかないだろう。

 われわれが話を聞きたい二人とは、いまや
 中国の経済政策の司令塔とも言うべき
 中央財経指導小グループ弁公室の劉鶴主任と楊偉民副主任のコンビだ。
 劉鶴主任は習近平主席の『101中学』の同級生で、楊副主任はその一の部下だ。
 どんな経済政策も、習近平主席は劉主任と楊副主任に相談してから決定すると囁かれるほど影響力を持っている。

 昨年末に開かれた中央経済工作会議(2016年の経済方針策定会議)も、今年3月に全国人民代表大会で議決される『第13次5ヵ年計画』も、骨格と方向性を定めたのはこの二人だと言われている。
 劉主任は昨年11月、『中国のノーベル経済学賞』(2年に一度)と言われる孫冶方経済科学賞を受賞したが、『29人の選考委員たちも劉主任の威力に平伏した』と噂されたものだ。
 そのためこの二人は、公の場にはほとんど顔を見せなくなった。
 ところが楊偉民副主任が、暮れの12月26日に北京飯店で開かれた中国経済年会に顔を出し、短いスピーチをした。
 そこで、2016年の中国経済の大方針を述べたのだ」

 彼は、「これは公の場で話したものだから」と言って、A4用紙4枚にギッシリ書かれたスピーチの起こしを私にくれた。
 その要旨は、次のようなものだった。

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〈 先日終わった中央経済工作会議は、歴史的な会議となった。
 今回が例年と異なったのは、習近平総書記がシステム立てて述べた「供給側改革」の思想を主題としたものだったことだ。
 供給側の構造改革は、習近平同志を総書記とする党中央の重大な戦略の決定であり、新常態にある経済の必然的な要求だ。

 2014年来、習近平総書記は
 「経済の新常態を認識し、新常態に適応し、新常態を導いていくのだ」
と述べてきた。これこそが、今後の一定期間におけるわが国の発展の大きなロジックなのだ。
 周知のように現在、経済成長の下降圧力は強まり、投資の成長速度も下降し、工業製品の価格は下落し、企業収入は悪化し、不動産は高止まりし、大量の在庫を抱えている。
 このような中国経済が罹っている病の根源は何か?

 先の経済工作会議の最終的な診断は、供給側に構造上の体制上の矛盾があるというものだ。
 中国経済の下降は、周期的なものではなく、また需要側の問題でもない。
 病の根源は、供給側にあるのだ。

 そこで2016年は、「5大任務」を実行していく。
 いわば「三去一降一補」だ。

1].第一の「去」(除去)は、生産過剰の解決だ。
 鉄鋼業や石炭業などは、生産過剰に陥っている。
 そのため、政府は投資を拡大せず後押しし、企業が主体となって、市場が導く形で、法に則って、多くの企業合併を行い、なるべく倒産件数を減らし、失業者の再就職先を考えながら進める。これが方針である原則だ。

2].第二の「去」は、企業の生産コストを抑えることだ。
 これは先の「5中全会」(第18期中国共産党中央委員会第5回全体会議)で確定した50項目の新措置の一つだ。
 わが国は平均年収が8000ドル強だというのに、多くの地域は「未富先高」(富む前に物価高)となっている。
 わが国の製品は不断の進歩を遂げているのに、コストが高くなりすぎたがゆえに、競争力を失っているのだ。
 だから企業コストを抑えていかねばならない。
 それには、減税も含まれるあらゆる政策を急ぎ取っていく。

3].第三の「去」は、不動産の在庫問題だ。
 都市部の不動産が、在庫を抱えて四苦八苦しているが、それは2億5000万人の都市戸籍を持たない人々を勘定に入れていないからだ。
 そのため、急ぎ戸籍制度改革を進めていく。
 農民工(都市部への出稼ぎ農民)でもローンを組んで不動産を買えたり、賃貸で借りられるようにすればよいのだ。前
 の時代に行われた不動産購入制限も解いていく。

4].「一降」とは、金融リスクを防止するということだ。
 すでにその一端が出始めているが、金融分野への管理監督を強化し、各種融資の規制を変えるなどして、全力で金融リスクの防止に努めていく。

5].「一補」とは、効果的な供給を拡大し、「弱点の部分」を補っていくことだ。
 収入面から見れば、農村の貧困人口であり、産業で言えば農業であり、製品で言えば生態や環境に優しい製品である。
 こうしたものの技術を高め、効率を高めていく。

 ともあれ、国有企業、財政税制、金融の三大分野の構造改革を進めていく。
 そして中国の特色ある社会主義を堅持しながら、各方面で積極的に刷新していく 〉
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◆今年の中国株は上がる要素が見当たらない

 この文書にザッと目を通した私は、
 「とてもいいことが書いてありますけど、問題は実行できるかどうかですね」
と、思わず漏らした。すると彼はこう言った。
 「その通り。
 早く実行に移していかないと、中国経済は取り返しのつかないことになるだろう。

 幸い習近平政権は、先代の胡錦濤政権に較べて何かと厳しい政権だが、実行力は前政権よりも抜群にある。
 特に国際社会からも『現代のアパルトヘイト政策』と揶揄されている戸籍制度(都市戸籍と農村戸籍の二重制度)の改革は、鄧小平、江沢民、胡錦濤と、過去の指導者たちが手を付けようとしてできなかった問題だ。
 聞こえてくるところでは、習近平政権は人口500万人以下の都市の戸籍を、農村戸籍の人々にも開放することを検討しているようだ。
 これが実現するだけで、習近平政権一期目の最大の成果となるだろう」

 私は、
 「戸籍制度改革は、果たして中国経済復活の処方箋になるのでしょうか?」
と、やや懐疑的な口調で聞いてみた。
 戸籍制度改革は、一種の抗がん剤治療のようなものだ。
 それでがんが根治できるかと言えば、そのような保証はないし、逆に都市部か混乱するという副作用も出てくる。
 それでも地方経済を救うためには、やらないよりややった方がいいに決まっている」

 私は、話題を変えた。
 「もうあと1時間ほどで、今年の上海・深圳証券市場が開きますが、今年の中国株はどうなるでしょう?」
 「う~ん、正直言って、上がる要素が見当たらない・・・。
 普通は春節前になると上がるものだが、今年の場合はね・・。
 上海総合指数が1ヵ月間、3000ポイントを下回ると、中小の銀行に破綻リスクが出てくる」

 彼はすっかり弱気になってしまった。
 元旦の地元紙『新京報』は、2015年夏の大暴落など忘れたかのように、「2015年の上海総合指数は、年始の3258ポイントから年末の3539ポイントへと、9.4%も上昇した」と喧伝していた。
 「個人株主一人あたり平均2万元の儲けを出し、利益率は12.41%に上った。
 62%の個人株主が儲かり、38%が損失を出したが、損した株主の半数は損失額が投資額の2割以内で、その後儲けに転じた株主も多かった」
と解説していた。
 私の周囲の中国人たちの大半が「涙の2015年」だったことを思えば、まさに
 ジョージ・オーウェルの小説『1984』を思わせる「虚飾の報道」だ。

◆上海総合指数は2週間で18%の大幅下落

 ところで彼の「株価が下がるのでは」という心配は、早くもその日のうちに現実となった。
 上海証券取引所は、「2016年の暴落」をある程度、見越していたと見えて、この日から「熔断」(サーキットブレーカー)という制度を始めていた。
 これは元旦になって突然、発表された制度で、上海総合指数が前日比で5%上下したら、市場を15分間ストップさせる。
 そして取引再開後、7%まで上下したらその日の全取引をストップさせるというものだ。
 それが大発会の朝から、株価は暴落を続け、午後1時12分に、早くも5%を割ってイエローカードが出た。
 1時27分に取引が再開されたが、わずか6分後の1時33分にレッドカードが出て、市場が閉鎖されてしまったのだ。
 上海証券取引所が出した「2016年01号公告」がイエローカードの通知で、「2016年02号公告」がレッドカードの通知だった。

 年初から何ともバツの悪いことになってしまったのだ。
 騰訊(テンセント)ネットニュースは速報で、
 「初日の株価は6.85%の下落で3296ポイントとなり、わずか1日で4兆元近くが消失した」
と報じた。
 ところが、悲劇はこれに終わらなかった。
 1月7日木曜日、今度は午前9時半に上海市場が開くや、12分後の9時42分にイエローカードが発令された。
 そして9時57分に再開されるや、1分も経たないうちに下落幅が7.21%に達し、レッドカードとなったのである。
 この日、私の北京の別の知人は、車で出勤中、長安街の大渋滞に巻き込まれた。
 その間、車中でラジオを聞いていて「激変」を知ったが、ようやく会社に着いてパソコンを開けたら、すでに市場は閉鎖されていたという。
 「20分朝寝坊して車一台分損した」
と、怒り心頭だった。

 そもそも「熔断」の制度は、中国市場と合わないのだ。
 なぜならいったん株価が落ち始めると、1億8000万人の「股民」(個人株主)が一斉に売りに走るからだ。
 そのためこんな制度があれば、さらに売りは加速するに決まっている。
 というわけで、1月7日の晩に、証券監督管理委員会と上海証券取引所は、「熔断を明日から採用しない」と緊急通知を行ったのだった。
 この時ばかりは、日ごろお上に遠慮がちな中国メディアも、「研究10年、実行4日」などと皮肉ったのだった。
 結局、新年の2週間で上海総合指数は、3539ポイントから2900ポイント(15日終値)へと、639ポイントも下がった。
 率にして18%もの下落だ。
 金融街の人物が心配していた3000ポイントのラインも、1月12日に2978ポイントまで下げ、あっさりと割ってしまった。

◆中国経済はAIIBに期待せざるを得ない

 ウエスティンホテルを出た私は、マスクをつけ直して、北へ向かって歩き出した。
 5分ほど行くと、金融街のビル群の中に、18階建ての新築ビルが見えた。
 AIIB(アジアインフラ投資銀行)の本部ビルである。

 1月16日午前、習近平主席や57ヵ国代表が出席して、AIIBの開業式が、華々しく行われた。
 続いて午後には、李克強首相が出席して、AIIBの理事会成立大会が行われた。
 周知のように、日本とアメリカは参加していない。

 何度も繰り返すが、中国経済は頗る悪い。
 だから中国企業は海外へ出て稼ぐしかない。
 その後押しの役割を期待しているのが、AIIBなのだ。
 習近平主席の言を借りれば、
 「AIIBが一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)と一体化し、
 アジア諸国とダブルウインの関係を築くこと」
である。

 帰りがけに、「北京の母」と私が勝手に呼んでいる百発百中の旧知の女性占い師のところに顔を出した。
 今年の中国経済について彼女に占ってもらったところ、次のようなご宣託を得た。
 「指導部の判断ミスなどで、悲観的なムードがしばらくは続くわね。
 指導部は、自分たちの発言に、より注意しないといけない。
 中国経済は、一層の自由化と規制緩和が求められていることを、指導部は知るべきよ」

 何だか半分は、彼女の個人的意見のようだった。
 ちなみに、日本経済についても聞くと、
 「明るさを取り戻して伸びていく年になるわ」
と、とたんに顔を綻ばせたのだった。


<付記>
中国経済の「いま」を取材した最新の拙著です。本文で述べた株価暴落、AIIB設立の意図と背景などについても詳述しています。どうぞご高覧ください。

『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』
著者: 近藤大介
(講談社+α新書、税込み821円)
株価暴落560兆円。地方負債480兆円。銀行不良債権36兆円。強引な共産党政治やトップたちの権力闘争と絡め、中国経済が抱える闇とその行く末に迫る!




【激甚化する時代の風貌】



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