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レコードチャイナ 配信日時:2015年12月31日(木) 11時0分
http://www.recordchina.co.jp/a125419.html
<東アジア新時代(1)>
日本、「積極的経済外交」展開へ絶好のチャンス
―日中韓FTAとTPPを繋ぎ「アジアの世紀」実現を
世界の成長センター、東アジアを中心に地政学的な地殻変動が起きている。
激動する国際・経済情勢を読み解いた上で、この地域が志向すべき道を探る。
日本は日米同盟の強化や多くの国との「価値観外交」を展開しているが、近隣の中国と韓国とは微妙な関係が続く。
一方で米国と中国は事実上「対立を対話で解決する関係」を維持・強化しようとしている。
国内総生産(GDP)を指標とする国力は、日本が兄貴分で中国や韓国を支援する時代は終わり、今や中国が日本の2倍以上の大国に発展、韓国も日本を追い上げる構図となった。
日中韓3カ国の力関係が変貌した結果、各国のナショナリズムが歴史認識や領土が絡む問題の解決を困難にしている。
大規模な地殻変動の根幹となるのは「経済」である。
韓国の対中接近も最大の貿易相手国である中国についた方が得とのリアリズムが背景。
米国だけでなくドイツ、フランス、英国、東南アジア諸国なども世界最大の消費大国・中国のパワーを無視できない。
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)も12月末に57カ国が署名して正式に発足。
南シナ海での領有権を巡り中国と係争中のフィリピンやベトナムも調印した。
中国は世界最大の消費市場を“売物”に産業協力や輸入拡大をアピール、積極的な首脳外交を展開している。
「中国の海洋進出を念頭に防衛力を強化する」
というフレーズが日本政府高官やメディアで多用される。
日本の防衛費も安倍政権下で増加し、28年度予算案では5兆円を突破した。
日中両国が軍事的に張り合うだけでは東アジアの緊迫化は高まる一方となる。
世界の成長センターである東アジアで経済の相互依存を深めることこそが軍事衝突を防ぐ最大の抑止力になる。
2度の世界大戦の教訓から生まれた共通経済市場であるEU(欧州連合)諸国の間では、「戦争が起きると考えている国民はいない」(仏外交筋)という。
米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両国間に経済相互依存が存在するためである。
日本と中国との間にも国交正常化以来の緊密な相互経済関係がある。
浙江省や上海市など経済発展が目覚ましい地方政府のトップを経験し、日本企業関係者との親交が深い習主席の本音は日本との共存共栄に持ち込むこと。
「対日関係は改善すべきだ。日中の経済交流と民間交流を強化せよ」と発言している。
◆TPPとRCEPを繋ぐ絶好のポジション生かせ
アジア太平洋の経済相互依存で、日本は絶好のポジションに位置する。
大筋合意した米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)と中国、韓国、東南アジアが加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をともに推進し結合させればこの地域の繁栄と安全に繋げられる。
日本が経済の相互依存よりも単純な軍事的安保優先に傾斜すれば、世界の成長センター、アジア太平洋の繁栄を損ない、アベノミクスの足を引っ張ることにもなる。
日本の経済界は日中韓FTA(自由貿易協定)交渉の進展を待望しているが、中韓は両国FTAを抜け駆け的に発足させてしまった。
日本の経済界は「中国市場を韓国に席巻されてしまう」と焦っている。
中韓との関係改善を最優先にするべきであろう。
カート・トン米首席国務次官補代理(経済担当)は
「中国はTPP(環太平洋連携協定)への加入を前向きに検討しており、我々も意を強くしている」
と指摘、中国のTPP加盟を歓迎する方針を示した。
その上で、中国とは2国間投資協定交渉を進めており、締結されれば、「米中経済関係は透明性や予見可能性などが向上しさらに発展する」と強調している。
中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)構想を、巧妙な形で打ち出してきた。
経済大国として資金を出す一方で、第三世界のリーダーとして、既存の国際秩序の変更を迫るという、2つの矛盾したものを解決する手段が内包されている。
◆アジアのベストシナリオは?
北朝鮮による核・弾道ミサイル開発や、中国の海洋(東シナ海・南シナ海など)での行動に対しては、
「日米同盟」、
「中国との互恵関係の重視」、
「アジア諸国との連携」
の3本柱を中心にバランスよく展開していくことが現実的であろう。
日本は政治と軍事では米国と連携し、経済では中国と戦略的な互恵関係を深めるという複数の軸足をもつことを確認する必要がある。
アジアの将来シナリオとしては、ベストな「アジアの世紀」、ワーストな「アジアの破局」というシナリオが考えられる。
日本・中国・韓国は、最悪の「アジアの破局」のシナリオを避け、「アジアの世紀」を実現させることがすべての関係諸国にとって最大の利益をもたらすという確固たる認識を持つべきだ。
日本・中国・韓国は朝鮮半島の安定化をめざして、平和裏に経済成長・発展を図る必要がある。
安倍首相と中国の李克強首相、韓国の朴槿恵大統領が15年11月に3年半ぶりの日中韓首脳会談をソウルで開催。
16年の日中韓首脳会談を日本で開き、再び定例化することで合意した。
ようやく関係打開に向けた首脳レベルの具体的協議がスタートする。
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月1日(金) 9時0分
http://www.recordchina.co.jp/a126096.html
<東アジア新時代(2)>
アメリカを追い抜く日は来るか?
―「中国の夢」実現へ、経済・軍事力を不気味に拡大
中国は複雑怪奇な国である。
OECD(国際協力開発基金)、IMF(国際通貨基金)など各種国際機関の中期予測によると、世界全体のGDP(国内総生産)に占める中国の割合は2014年の13%から24年には20%に拡大、「米国を抜き世界一の経済大国になる」という。
中国は「中国の夢」の復活をスローガンに、経済・軍事力を不気味に拡大している。
15年7月に世界銀行が発表した統計によると、物価の格差を調整した購買力平価ベースGDPで、2014年に中国が米国を初めて上回った。
中国は同年に前年比8.9%増の18兆ドルと、同3.6%増の17.4兆ドルだった米国を抜きトップに躍り出たという。
購買力平価ベースGDPは経済の実力を測る指標として最も有用とされる。
言論NPO(工藤泰志代表)などが、15年夏に日米中韓4カ国で実施した世論調査によると、今後10年間にアジアにおける中国の影響力が増大するとの回答は、中国、韓国で8割以上、日本、米国でも過半数に達した。
これに対し、10年後の米国の影響力は「現状維持」と予想する回答が各国で多数を占めた。
米国の影響力がアジアで増大するとの回答は日中韓で3割以下、米国でも31%にとどまった。
一方で中国では「負の遺産」が噴出、乗り越えるべき高い壁が立ちはだかっている。
微小粒子状物質「PM2.5」に象徴される環境悪化、天津港大爆発、深セン市工業団地での大規模土砂崩れ、深刻な経済格差と腐敗汚職など多くの「歪」が噴出。
2ケタ成長だった経済も減速傾向が続き、成長率目標を「6%台半ば」の安定成長への軟着陸を探る。
こうした中、中国経済がやがて行き詰り崩壊するのではないかとの見方が飛び交っているが、丹羽宇一郎日中友好協会会長(前駐中国大使・伊藤忠商事前会長)は、以下のように分析する。
「中国経済は崩壊はしない。
GDP成長率は内陸部の重慶が11%に達しているのに対し、遼寧省は2.6%と地域によって差がある。
長江デルタ地帯、重慶、武漢など主要16都市だけで中国のGDP全体の50%以上を占め、平均成長率は8.5%にもなる。
低成長地域は開発の余地が大きい。
中国では過大な需給ギャップの縮小が急務だ。
中国は世界で初めての巨大な資本主義社会であり、(他の国とは)ケタが違う。
全体のパイが拡大しているので、GDP伸び率が減速しても『伸びしろ』は従来より大きい」。
さらに、15年8月の上海株式急落についても、
「売買の大半は個人投資家によるもので、生活を賭けている人は少ないので、株下落が経済の足を引っ張ることにはならない。
給与水準は毎年上昇しているが、労働生産性も急速に高まっているため、国際競争力が下がって輸出が困難になるというのは間違いだ」
と指摘した。
上海総合指数は、15年1年を通して10.46%も上昇、日経平均株価の9.07%上昇、NYダウの0.79%下落などを圧倒した。
◆内陸部の都市化が成長を下支え
樋口清之キャノングローバル戦略研究所研究主幹は、中国経済について、
「サービス産業化と都市化が進展し、景気は底堅い動きを示す」
と分析している。
中国政府は「不健全な経済構造の筋肉質化」を目指し安定成長への転換を図っている。
「速すぎた成長速度の適正化」
「不健全な経済構造の筋肉質化」
を目指し安定成長への転換を図る「新常態(ニューノーマル)」方針を掲げ、金融自由化や構造改革を推進。対外政策面で、新シルクロード構想『一帯一路』、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、シルクロード基金、BRICS銀行などに力を入れ、貿易・投資先の確保を狙っている。
GDPのうち消費の占める割合が50%弱に急拡大、重厚長大型工業からサービス産業へのシフトが進行、内陸部を中心とした都市化の進展も、成長を下支えしている。
こうした中、中国政府が進めているのが金融自由化。
既に預金・貸出金利の自由化はほぼ実現、目下、為替の自由化に取り組んでおり、遅くとも2020年までには達成する。
15年8月11日に、毎朝為替市場の取引開始時に発表される人民元レートの基準値の算定方式の変更を発表した。
中国経済の減速と関連させ「輸出拡大を狙った」との報道があったが、IMF(国際通貨基金)から求められていた自由化の一環。IMFのSDR(特別引き出し権)通貨として認められ、人民元は国際通貨として認められた格好だ。
◆ドルを脅かす対抗馬になる?
国際金融情勢に詳しい行天豊雄・国際通貨研究所理事長(元大蔵省財務官)は
「戦後、世界経済は米国の経済・軍事力を背景にドル本位制が続いてきたが、その地位を脅かす対抗馬として初めて中国が躍り出た。
中国は自信をつけており、(米国のパワーがダウンし)熟柿が落ちるのをじっと待とうということだろう。
10年後になるか20年後になるかわからないが」
と語っている。
その上で、AIIBについて
「これまで台頭する中国が責任のある当事者になれ、と先進国が要求してきたことへの回答と言える。
国際的な指導者のひとりであることを証明するために打ち出し、多くの国が受け入れようということになった」
と指摘。
参加を見送っている米国が入れば、
「米国が持つ断トツのリーダーシップの一部を中国に譲ることを意味する」
との見方を示した。
紆余曲折はあっても、中国の存在感は一層高まることになろうが、乗り越えなければならないハードルは多い。
特に習近平国家主席が重視しているのが共産党独裁体制の正当性の確保。
中国共産党幹部の腐敗が、救いようがないほど蔓延しており、このままでは中国が滅びてしまうとの危機感を抱いている。
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月2日(土) 8時10分
http://www.recordchina.co.jp/a124363.html
<東アジア新時代(3)>
習近平の“虎退治”、
江沢民派や人民解放軍に向かう
―「歴代王朝は腐敗で亡びた!?」
中国の大がかりな汚職・腐敗撲滅運動は2015年も衰えなかった。
習近平氏が2012年11月に中国共産党の総書記に就任して以来、「虎もハエも叩く」の掛け声のもと、これまでに10万人以上の党員が処分された。
この運動は、党幹部の綱紀粛正、格差拡大の温床になっている国有企業改革、政敵打倒による権力基盤強化の「一石三鳥」を狙ったものだ。
胡錦濤政権時代に最高指導部の党政治局常務委員を務めた周永康氏が「重大な規律違反」容疑で起訴され、15年6月に無期懲役判決が出た。
周氏は公安・司法分野の責任者を務めたほか、有力国有企業の中国石油天然気集団(CNPC)のトップの経歴もあり、長らく石油産業の中心人物でもあった。
従来、党政治局常任委員経験者は逮捕されないとの不文律を破ってまでも断行された背景には、中国国内の格差拡大と腐敗のまん延を放置できなくなったことがある。
共産党統治の正統性が問われていることに危機感を抱き、司法が及ばないとみられた周氏のような大物をサプライズ的に失脚させることで、汚職一掃に真剣に取り組んでいるという強いメッセージを国民に送ることができると考えたようだ。
中国国内のインターネット空間には、習国家主席による汚職追放キャンペーンを肯定するメッセージが溢れている。
かつての薄煕来(元重慶市総書記)裁判のように、収賄、横領、権力乱用の訴求に対し、反論の機会を与えながら、腐敗撲滅に賭ける強い決意をアピールしている。
公判報道は国民大衆への格好の教宣材料となるのだ。
◆権力基盤強化など「一石三鳥」狙う
習近平政権の反汚職運動で、多くの被疑者が厳しい取り調べを受けている。
拷問などの横行から2012年から15年前半までに少なくとも50人以上が「異常な死」を遂げている。
8月には中央紀律委員会の巡視取り調べを受けた第一重型機械株式公司の呉生富・董事長がオフィスで自殺した。
国外逃亡した汚職官僚もターゲットになっている。
14年から始まった「天網運動」では国外逃亡者を連れ戻すべく、自首勧告や逃亡先の政府との交渉を進められている。
中国国家預防腐敗局の劉建超・副局長は15年12月の記者会見で、天網行動開始以来800人以上もの汚職官僚、汚職企業幹部の連れ戻しに成功したことを明らかにした。
半数弱は他国との交渉成功による引き渡しで、残りは自首によるものだという。
習近平の汚職腐敗撲滅運動は、派閥に関係なく展開されている。
胡錦濤前国家主席を輩出した共産主義青年団(共青団)出身の令計画・党統一戦線部長が15年7月に収賄容疑で逮捕された。
事情通によると、江沢民元国家主席ら保守長老を牽制し権力基盤を強化することも狙っている。
江、胡両氏は党の中核だった元幹部や有力者の家族に対する摘発を抑制すべきだと進言したものの習氏はこれを一蹴した。
国家主席や政治局常務委員経験者であっても摘発の例外としないことを示すことによって、政務や人事への介入を慎むよう警告する意味合いもあろう。
◆習主席、人民解放軍を掌握―江沢民派も牽制
習氏は江沢民氏の牙城の上海に、腐敗を取り締まる党中央規律検査委員会の中央巡察隊を100人規模で送り込み、党・政府・軍機関はもちろん、江沢民の息がかかっている国有企業などを徹底的に調べ上げ大量の重要文書を押収。
その調査結果から、「一部の幹部の配偶者や子女らが経済・商業活動に携わり、不正な収入を得ている」として、市トップの韓正・党委書記に幹部のファミリービジネスを止めさせるよう指示した。
これより先14年4月には、江沢民氏に近い華潤グループ(電力会社)の宋林・董事長が巨額の汚職の疑いで捕まったが、宋林氏は、電力界の大物、李小鵬氏と緊密な間柄。
父親の李鵬・元首相や妹の李小琳とともに、中国の電力界をリードしている。
また同年9月には袁純清・山西省党書記が解任されている。
ともに共青団の有力メンバーである。
電力閥は、江沢民派でも共青団も差別なしに、「虎退治」のターゲットになっているのだ。
中国共産党幹部の腐敗が救いようがないほど蔓延し、習氏は、このままでは中国が滅びてしまうとの危機感を抱いている。
石油閥の後は電力閥が次の退治のターゲットになっているのは、ともに巨大な独占的利益集団である国有企業だからだ。
国有企業を抜本的に改革しなければ、中国の経済発展が行き詰まると考えているという。
人民解放軍も腐敗撲滅運動の例外ではない。
制服組元トップの徐才厚・前中央軍事委員会副主席は2014年10月に起訴され、収賄や職権乱用の容疑がかけられていたが、15年3月、裁判が始まる前に病死した。
15年2月から人民解放軍の財務問題調査がスタート。
すでに続々と問題が発覚している。
経費の流用、予算案を超えた支出、規則違反の銀行口座開設、基準以上の福利厚生支給、規定以上の豪華接待、ニセ領収書を使った経費搾取、隠し口座などが見つかっている。
習近平国家主席への圧倒的な権力集中を背景に、規制緩和、権限委譲、国有企業改革、経済改革、司法改革、戸籍改革、地方財政改革を断行する構え。
習主席は「2020年までに改革達成」へ背水の陣を敷いており、これらの大胆な改革が実現するかが中国の命運を握る。
習近平政権の特徴として、
(1):権力の集中と党内派閥(太子党、共産主義青年団)の解消
(2):空前絶後の腐敗撲滅運動
(3):大胆な改革
(4):厳しい言論統制
(5):改革派だけでなく保守派とも協調
―などが挙げられる。
広範な階層から支持されており、
「皇帝が進める市場化改革」
と言えるが、民主化や言論の自由なしに進展するかどうか。
改革が進展しなければ、急速にレームダック化する可能性もある。
◆毛沢東、トウ小平以来の「後継指名」果たせるか
習氏は
「党内では絶対に仲間を呼び寄せて徒党を組むような『封建時代の結託』を再現してはならない。
全てが平等に取り扱われ、平等に権利を持たなければならない」
と警告している。
既得権益者=独占国有企業グループの腐敗にメスを入れなければ、これまでの歴代王朝時代と同じように、中国共産党「王朝」が崩壊する崖っぷちに追い込まれていることを自覚しているのだろう。
習氏が見据えるのは、党最高指導部の政治局常務委員7人のうち、党規約の年齢制限で習氏と李氏以外の5人が入れ替わる17年党大会だ。
22年から始まる「ポスト習」時代の最高指導部の陣容もこのとき見えてくる。
江沢民、胡錦濤両氏は次期党総書記を選べなかった。
習氏が自ら指名できれば、毛沢東、トウ小平両氏以来となる。
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月3日(日) 8時0分
http://www.recordchina.co.jp/a126273.html
<東アジア新時代(4)>
大気汚染、天津大爆発、ガンの村、格差拡大
…中国の「負の遺産」噴出―怒る民衆、
政府も危機感!
驚異的な経済成長を遂げた中国だが、「負の遺産」も膨大だ。
日本が40年近くかけて達成した高度経済成長を、
中国はわずか二十数年で実現。
さらに成長し続け、しかも人口、国土も日本の10倍、26倍。
多くの「歪」が噴出している。
1].中国は工業生産の急拡大につれて「世界最大の公害発生国」
となっており、地球生態系に及ぼす影響は甚大だ。
有害化学物質による水質汚染や大気汚染など環境関連事件が多発、深刻な健康被害が続出している。
15年12月、北京市、天津市、河北省とその周辺で大気汚染が深刻化、
北京市ではPM2.5の濃度が基準値の数十倍に達し、当局は最高レベルの「赤色警報」に引き上げられた。
北京市当局は、自動車のナンバーによる交通規制を行い、市内の小中学校に休校にするよう呼びかけた。
また、北京市内の2100社の企業に対し、生産停止や減産措置が行われた。
ガンの発症率が多い、いわゆる「ガンの村」の存在を、中国政府は公式に初めて認めた。
外国調査機関によると、その数は少なくとも「400カ所」を超えるという。
中国でのガンによる死亡者数の統計を見ると、70年代には年間平均で70万人にとどまっていたものが、90年代に年間117万人に急増。
2012年には270万人とさらに増え、20年には400万人を超えると予想されている。
15年8月、天津市浜海新区天津港の瑞海国際物流有限公司の危険物倉庫で大規模な爆発が4回起きた。
当局の発表で死者は173人、負傷者は798人に上った。
事故現場の倉庫には劇薬のシアン化ナトリウムなど3000トンに及ぶ危険物が保管されており、これが消火の際の水と化学反応を起こしたとみられている。
この事故で、瑞海国際物流の会長ら10人が危険物取扱認可をめぐり政治家や警察幹部との癒着があったとして拘束された。
また、天津市当局の交通運輸委など幹部11人も職権乱用などの疑いで拘束された。
◆深センの土砂崩れも人災
12月には広東省深セン市の工業団地で大規模な土砂崩れが発生。
死者・行方不明者は90人以上。
崩れた土砂は積み上げられていたなど。
この場所は元採石場で、最近2年ほどの間に、周辺の工事現場や地下鉄掘削の残土が運び込まれていた。
1日に数百台のトラックが往来し、高さは100メートルほどにもなっていたという。
安全管理が不十分だったことによる人災との見方が強まっている。
中国政府によると、全国で15年上半期に起きた大きな産業事故は498件で、死者は2136人。
下半期も11月に50件発生し、217人が死亡・行方不明となるなど増大している。
コストがかかる安全対策は後回しにされ、業者と結託し監督を怠る当局者も多い。
2].急成長のもう一つの「負の遺産」は、格差が驚くべきスピードで拡大したことだ。
所得格差を表すジニ係数は、中国政府発表で「0.474」。
★.「0.4を越える」と、所得格差から不満が高まり、社会騒乱が多発する警戒ラインとされ、
★.「0.6を越える」と、社会不安につながる危険ライン
とされている。
★.中国の大学の独自調査では「0.61」に達しているという。
公式発表の数字でも、既に社会騒乱多発の警戒ラインを越えている。
都市部では若者が運転するBMWやポルシェなど高級輸入車がわがもの顔で疾走し、自転車やリヤカーが粉塵(ふんじん)を浴びるアンバランスな光景が日常的にみられる。
貧困層は4億人ともいわれ、フラストレーションを爆発させる一歩手前ともいわれる。
中国指導部は、農村から都市への人口流入を促すことで内需を掘り起し、投資主導型経済から消費主導型経済への転換を図ろうとしている。
しかし、現在の土地・戸籍制度の下では、農村から都市への出稼ぎ労働者(農民工)は都市戸籍を持たないために出稼ぎ先で必要な社会保障を受けられない。
一方で、農地も自由に売買することができず、安心して都市で働き、消費を増やすことができないのが実情だ。
中国全体で農民工は約2億人に上るといわれる。
農地に対する農民の明確な権利が保障されていないため、地方政府が農地を収用し、開発業者に転売することで歳入を確保している。
農地を収用された農民の中には、補償が公正ではないなどとして不満も根強い。
急速な都市化により、6400万世帯が土地の収用、もしくは家屋移転を余儀なくされたとされる。
◆「格差是正は待ったなしの最優先課題」
「明」と「暗」がこれほど際立った国は世界に見当たらず、
習近平政府も「格差是正は待ったなしの最優先課題」と危機感を隠さない。
戸籍制度、土地改革、一部セクターの民間・外資への開放など具体的な改革方針が打ち出され、実行されつつある。
土地などこれまで「集団所有」が原則とされてきた農村の資産を、農民に株式の形で分け与えることを可能にした。
株の譲渡や相続を認めることで、個人の財産に近い権利として使える道を開いた。
都市開発に伴う土地の値上がり益を、農民に公平に分け与えることも打ち出した。
これにより都市開発の際には地方政府が強制的に収用した上で、転売益を独占する行為の抑止を狙った。
一方で、農民が圧迫される原因となっていた地方政府の財政難を解消するため、地方の財源として不動産税や消費税の導入・拡大を盛り込んだ。
社会保障や大規模プロジェクトなどの費用も中央が一部負担することで、地方の財政難を解決する方針だ。
「都市化」は経済改革の目玉であり、15年12月、政府は2000万人の違法な移住労働者に対して、現在雇用されている場所での居住許可を与えると、発表。
同月の「中央経済工作会議」で確認された。
これらの労働者に対して、教育、医療、などの社会サービスを供与するという。
環境改善と格差の解消は緊急課題。習近平政権はこれまでにない危機感を抱いており、汚職・腐敗撲滅と同様、最優先課題として取り組む構え。まさに正念場と言える。
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月4日(月) 8時0分
http://www.recordchina.co.jp/a126320.html
<東アジア新時代(5)>
IT分野で高まる中国企業の存在感、
韓国・台湾勢とマーケット争奪戦
―日本企業、「爆投資」に圧倒される?
米フォーチュン誌恒例の「グローバル500企業」(売上高ランキング)。2015年版では日本以外のアジア企業が136社を占めた。
中国企業は3位の中国石油化工集団をはじめトップ10に3社がランクイン。
98社と全体の5分の1を占めたほか、韓国、台湾企業も13位のサムスン電子をはじめ多くが500社に入った。
インドのアルセロール・ミタルは鉄鋼の世界首位に。
台湾の鴻海精密工業は電子機器受託生産の世界最大手に躍り出た。
一方、日本企業は54社にとどまり、トップ10入りは9位のトヨタ自動車だけ。
1995年の「グローバル500企業」には日本企業が148社も入っており、日本以外のアジア企業はわずか14社にすぎなかったから、この20年間の日本企業の凋落ぶりが目立つ。
◆目立つ台湾、中国、韓国、香港メーカー
15年10月に、幕張メッセ(千葉市)で開催されたアジア最大級の家電・IT(情報技術)見本市「CEATEC(シーテック)JAPAN2015」。
出展各社はスマートフォン、高品質液晶から液体水素自動車、ロボットまで最先端技術を競っていた。
20の国と地域の531社・団体が先端技術や新製品を披露した。
小型無人機「ドローン」で世界最大シェアを占める中国メーカーDJIは最新鋭機を出展していた。
中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は、最新スマートフォン端末の新機種などを派手にアピール。
シーテックには4回目の出展だが、パナソニック、富士通、シャープ、NECなど日本の有力企業が隣接する中心エリアに、これら有力各社と同等のスペースを使用して技術力をアピールしていた。
中国に本拠地を持つ液晶ディスプレーメーカーのBOEジャパンは8K4Kでは世界最大級となる110インチディスプレイなどを出展していた。
外国勢(約150社)の大半はアジアの国と地域。特に台湾、中国、韓国、香港など東アジアの企業が目立った。
毎年取材しているが、東アジアのメーカーの存在感は高まるばかりだ。
華為技術の発表によると、15年12月28日に全世界での出荷台数が同年に1億台を超えた。
年間出荷台数を億の大台に乗せたのはサムスン、アップルに次いで史上3社目という。
最大のスマートフォン市場である中国では創業5年目の小米技研、老舗レノボらと激しくトップの座を争っている。
今から5年半前の2010年6月1日、中国アリババ集団のネット通販同国最大手、淘宝網(タオバオ)と日本ポータルサイト最大手のヤフージャパンは、両社のサイトを接続して日中間で商品を相互に購入できるインターネット通販サイトを創設。
アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長とヤフーの孫正義会長が東京都内のホテルで共同記者会見した。
孫会長は
「日本と中国の経済規模は2020年には米国やEU(欧州連合)を抜いて世界一の規模となる。
一つの経済圏として協力すれば発展する」
と強調。
マー会長も
「タオバオとヤフーが組めば両社が利益を享受できる。
中日両国の中小企業に進出の機会を提供したい」
と語っていた。
筆者はこの会見を取材したが、マー会長はもの静かな印象で、その時はアリババが短期間に急成長して過去最大のIPO(株式公開)を演じることになるとは思いもよらなかったが、 14年9月、アリババ集団が米ニューヨーク証券取引所に上場。
新規株式公開で調達した資金はざっと250億ドル(約3兆円)に達し、アリババ株の32%を保有するソフトバンクも追い風を受け、孫正義社長の総資産は166億ドル(約2兆円)となり、日本一の富豪に躍り出た。
◆有機EL投資など先端分野でもキャッチアップへ
中国では2000年代前半から長らく、富豪ランキングトップ10には不動産業界の大物たちが顔を並べてきた。
しかし、保有資産1000億円以上の富豪ランキングにIT業界の実業家たちが続々登場し、最近その半数に達した。
アリババ集団、検索エンジン大手のバイドゥ、メッセージアプリのテンセントがインターネット御三家といわれ、この3社の時価総額は50兆円以上に達する。
優秀な人材が付加価値の高いビジネス展開が可能なIT業界へ、旧来の産業から大きくシフト。
中国内のベンチャー企業は2万社以上に達し、これらを支える投資機関は約1000社に上るが、さらに拡大する一方というから驚く。
IT業界筋によると、大画面テレビを含めた大型液晶の領域では、中国は技術的にも日本、韓国、台湾と同等の力を付けてきた。
まだ遅れている中小型ディスプレーの領域でも肉薄しつつあり有機EL投資など先端分野でも、キャッチアップは時間の問題とみられる。
中国では、液晶パネルでは今後3年間で7カ所もの最新鋭工場が稼働する。
半導体でも巨大メモリー工場の建設計画が浮上。
「爆投資」によって世界のデジタル産業をのみ込もうとしている。
激しい競争は、価格下落とサービス向上につながるため、消費者の立場としては歓迎すべきことだ。
しかし、シャープや東芝の“苦境”に象徴されるように、かつてこの分野で独壇場だった日本メーカーが、大量生産・安値競争の中で、精彩を欠いているのも事実である。
』
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月5日(火) 6時20分
http://www.recordchina.co.jp/a126209.html
<東アジア新時代(6)>
「慰安婦問題」合意後も、燻る日韓関係
=高まる韓国の対中依存
―安部政権の価値観外交通用せず
岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相が従軍慰安婦問題をめぐり2015年12月28日に、ソウル市内で会談。
共同記者会見で「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、問題の妥結を表明した。
「日本国の首相として、改めて心からおわびと反省の気持ちを表明する」とする安倍首相の見解や、元従軍慰安婦を支援する10億円程度の新基金設立、慰安婦を象徴する少女像の撤去問題などについても合意した。ところが、
この合意から1週間以上経過したが、日本、韓国双方で異論も出て、なお燻(くすぶ)った状態が続いている。
日韓両国の慰安婦問題解決に向けた合意は
(1):安倍氏が首相として謝罪と反省を表明する、
(2):元慰安婦支援のため、韓国政府が設立する財団に日本政府が10億円の資金を拠出する、
(3):両国は国連を含む国際社会で互いへの批判、非難を控える、
(4):韓国は民間組織が在ソウル日本大使館前に設置した慰安婦問題を象徴する少女像を撤去する
―の4点。
(1):は、安倍首相は朴大統領との電話会談で、慰安婦問題について「心からのおわびと反省」を表明。既に実現している。
(2):も、日本側に実質的な困難はないと思われる。問題は
(3)(4):であり、日本の今後の慰安婦問題をめぐる発言が韓国国民の怒りを引き起こさないかどうかにかかっている。
特に韓国国内では、交渉結果について世論の反発が高まっているため、要注意だ。
◆世界は『米中2大国』時代になる!?
東アジア情勢に詳しい木村幹神戸大学大学院教授は日韓関係、中韓関係について、
「中国経済の拡大に伴い、韓国の中国依存度が高まっている。
安倍政権の価値観外交は行き詰まっており、韓国が日本より中国との関係を重視するという構造的な問題は変えられない」
と主張している。
同教授によると、韓国の朴槿恵政権は米中両国との連携を軸とした国際関係を構想している。
この結果、日韓関係の重要性が低下しており、韓国は軍事的にも経済的にも日本より中国に接近している。
日本側の歴史認識問題をめぐる不必要な発言が韓国政府・国民の強い反発を招き、「中国と連携して日本に圧力をかける」状況が続いている。
韓国と中国は朴大統領と習近平国家主席の新体制が同じ時期に発足、多様な戦略対話チャネルが深化・拡充。
朝鮮半島問題など政治・安保分野における協力関係が拡大している。
日韓両国民の連帯と信頼を増進するため、人文紐帯の強化、文化交流、地域レベル交流、両国間貿易の年間3000億ドル目標の早期達成などを通じた戦略的な協力パートナー関係を推進している。
韓国経済における中国との結びつきが一段と強まっている。
韓国貿易に占める国別シェアは中国が日本、米国を12年ほど前に追い抜き、今では3倍近い規模に拡大、なお増え続けている。
中国の台頭など構造的な問題はもはや変えられない。
同じ自由主義陣営の国を重視するという安倍政権「価値観外交」も通用しない。
このままではかつてのような日韓関係は戻ってこない。
◆日本に併合された明治期以後は「非正常」
また、韓国出身で東アジアの国際関係に詳しい朴正鎮・津田塾大学准教授は、
「世界は『米中2大国』時代になるというのが韓国の共通認識であり、
米中とバランスをとる『連米・連中』が基本戦略である」
と指摘。
その上で、
「韓国は、日韓両国が東アジア共同体や東アジア地域構想など多国間協力の枠組みを共に共有することが理想的と見ており、中国をけん制するために、力で囲い込むという発想は皆無」
との認識を示している。
同教授によると、中国がグローバリゼーションの恩恵を享受、かつてのような大国に復帰し、この地域が「元に戻った正常なアジア」となった、というのが、韓国国民の基本認識。
日本に併合された明治期以後のアジアは「非正常」であったと見ている。
韓国国民の多くが、中国は軍事力を通じて自らの理念を拡張することはないと認識し、
「中国に対する脅威論」は少ない。
中国の台頭を歓迎し、関与していく方針は、基本的に米国とも一致していると見ている。
韓国の戦略は、米韓同盟を基軸にしながら、最大の貿易投資相手国である中国との関係をさらに強化すること。
多国間安全保障レジームの構築と東アジア地域構想の中に中国を関与させることが重要と考え、日韓両国が東アジア共同体や東アジア地域構想など多国間協力の枠組みを共有することが理想と見ているという。
韓国人の多くは、日本が中国を包囲する「平和と繁栄の孤」戦略を公にして中国を刺激してはならないと考えている。
また対北朝鮮政策における、「関与」と「宥和」「民族共助」と「朝鮮半島の核」を巡る日韓間の認識ギャップは大きい。
また日韓間の歴史問題には、将来日本が東アジア地域でどのような役割を果たすか、全体像が見えないことからくる不信感も背景にある。
木村、朴両教授の論考に共通するのは、
中国経済の拡大に伴い、韓国の中国依存度が急速に高まり、
韓国が日本より中国との関係を重視する傾向が一段と強まっている
ことだ。
日本側の歴史認識問題をめぐる姿勢が韓国政府・国民の強い反発を招いていることも背景にある
日本には、かつての先進国と途上国の間柄だった日韓関係の古い固定観念から脱却できずに「韓国にとって日本は重要なはずだ」との誤った思い込みがなお根強い。
日本が上で韓国を下に見る「垂直的な時代」につくられた「日韓秩序」に対する反発も韓国内にはくすぶっている。
韓国の対中接近の背景には、
最大の貿易相手国かつ世界一の消費市場である中国についた方が得とのリアリズムがある。
』
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月6日(水) 10時50分
http://www.recordchina.co.jp/a126356.html
<東アジア新時代(7)>
中国の南沙諸島埋め立て問題、
米中とも本気で争わず
―「経済」「環境」最優先の“あ・うん”
2016年1月2日、中国が南シナ海・南沙諸島の人工島に建設した飛行場で試験飛行を行った。
領有権を争うベトナムが真っ先に抗議、続いて米国務省が「地域の緊張を高める行為だ」とし、領有権を主張する国に対し、さらなる埋め立てや飛行場建設、軍事化をやめるよう求めた。
中国外交部の華春瑩報道官は、南沙諸島の永暑礁に完成した飛行場で試験飛行を行ったことを認めた上で、「活動は完全に中国の主権の範囲内の事情だ」と主張。
「道理のない非難は受け入れない」と応じた。
日本の岸田外相や中谷防衛相も批判に加わったが、米国世論は冷めており、決め手に欠くのが現状だ。
習近平政権は南シナ海の岩礁の埋め立てを推進、滑走路を建設、軍事施設を設置している。
周辺国や米国などからの抗議をもろともせず、これらの活動を停止していない。
従来中国は南シナ海の島々が中国領であると主張しており、中国が強国になった現在、実力行使できるようになったという論理が中国国内ではまかり通っている。
もちろん国際社会では到底容認できない独断的な考え方だが、埋め立て強行に対抗するパワーは周辺国になく、米国も実力行使阻止へ強引な政策はとらないと高をくくっているようだ。
米国は世界の成長センター、東アジアを重視するリバランス政策に転じ、中国重視の政策をとってきた。
米国がようやく重い腰をあげ、イージス駆逐艦を南シナ海に派遣、「航行の自由」作戦を展開した。
しかし米国は尖閣諸島の帰属と同様、領土紛争には介入せず、国連海洋法条約上の航行の自由原則の確認を行っているにすぎない。
◆米国、中東・IS対策を重視
日本では「南シナ海問題で米国は激怒した」といった報道が目立ったが、実態は異なるようだ。
オバマ政権は、3カ月に2回以上のペースで南のシナ海・南沙諸島に米艦を送り込むとしながらも、10月に「ラッセン」を送ったまま動きはなく、IS(イスラム国)対策に専念するために年内の派遣を見送った。
ISとの戦いに加えて、米国と対立するロシアが軍事的な活動を加速していることも、オバマ政権の判断に影響しているもようだ。
米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が、2015年12月に1500人の成人の米国人を対象とする「脅威認識」についての調査を行ったところ、
米国にとっての主要な脅威として挙げられたのは、
★.IS(83%)、
★.イランの核開発問題(62%)、
★.北朝鮮の核開発問題(59%)
の順。
第4位に地球温暖化と並んで、ようやく中国の台頭が入った(49%)。
米世論は冷めており、
「中国問題」は大統領候補の討論会でも大きな争点になっていない。
12月の地球温暖化対策に関する「パリ協定」では、米中が協力し、参加各国をリードしたことが合意につながった。
パリ協定は、1997年の京都議定書以来18年ぶりの世界的な温暖化対策の枠組みで、米中の連携が世界全体を動かした初の成果と言える。
毎年米中交互に開かれる米中戦略・経済対話は、米中両国の主要閣僚や政府・経済界が経済や安全保障分野の懸案、国際的な課題について意見交換する大規模会議で、毎年米中交互に開催されている。
昨年7月に米国で開催された対話では、閣僚や政府関係者、経済界のトップクラス1000人近くが出席。
中国側は400人以上の代表団を送り込んだ。
この米中戦略対話では、温室ガス削減問題、米中投資協定、人民元の国際化など約200項目で合意したほか、6つの大掛かりなプロジェクトを立ち上げ、民間部門が技術協力を推進することで一致した。
米国との間には、日本にはこのような定期的な戦略的大規模対話はない。
オバマ大統領と習近平主席の会談は年に数回、長時間開催されており、米中は互いの立場を暗黙裡に理解し合う「阿吽(あ・うん)」の関係にあるとの見方も多い。
筆者は昨年も、中国を取材旅行したが各地で米国企業が立地し、米ブランドのビルが林立、アメリカ人であふれていた。
米国にとって最大の課題は巨額の米政府債務と経常赤字の縮減であり、破綻を避けるためには、軍事費の削減と、世界最大の中国消費市場の取り込みが不可欠。
中国は米国の最大の輸出相手国である。
これに加えて、中国は米国債を1兆3200億ドル(約160兆円)も保有、外貨準備も3兆8000億ドル(約460兆円)と世界最大である。
オバマ大統領は「米中協力はアジア重視戦略の核心だ」と明言している。
一方、中国も経済発展の途上にあり、大掛かりな軍事紛争になれば、世界制覇の可能性が吹き飛ぶことから、米国と本気でコトを構える気はない。
◆米中は安全保障でも連携
安全保障面でも米軍と人民解放軍の協力関係にある。
昨秋も上海近海において米中合同軍事演習を行い、米ハワイ諸島沖で来年行われる米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に中国海軍が昨年に引き続き参加する予定だ。
陸軍同士も非常時支援訓練などで米中が協力、空軍同士の交流もスタートしている。
中国も、米国と厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「対立的共存」方針のもと、米中が互いに干渉せずに利益を追求する世界を志向している。
国内向けには対立姿勢を見せつつ、米国と経済相互発展と武力不使用を改めて確認し合っているのが実情だ。
米国と同様、日本にとっても中国は最大の貿易相手国。
2万2000社が進出し、日本人21万人が中国に滞在している。
日米中が力を合わせて世界の成長センター、東アジアのさらなる繁栄に向け努力することが肝要だ。
軍事に頼らない平和的な手段で他国の尊敬を得た方が、外交も経済もスムーズに機能する、結果として国家の安全保障を高めることになることをひたすら辛抱強く訴えるべきであろう。
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月7日(木) 9時50分
http://www.recordchina.co.jp/a126553.html
<東アジア新時代(8)>
北朝鮮が「水爆実験」、
正恩氏のトラウマ「核を持たないとフセインの最期のようになる」が背景か
―中国のメンツ丸潰れ
東アジアの「ならず者国家」として非難されることの多い北朝鮮が1月6日、「水素爆弾の試験」と称して核実験を強行した。
各国の対朝経済制裁の強化は必至で、経済へのダメージは大きい。
何故このタイミングで強硬策に踏み切ったのか。
日米韓をはじめ国際社会は強く非難、朝鮮半島の非核化方針に沿って北朝鮮を説得してきた中国もメンツを潰された格好だ。
北朝鮮は「特別重大報道」を発表、
「われわれの知恵、われわれの技術、われわれの力に100%依拠した」
もので、
「試験用水爆の技術的諸元が正確であることを完全に立証し、小型化された水爆の威力を科学的に解明した」
と誇示した。
核兵器の小型化が実現すれば、北朝鮮は核ミサイルを手にしたことになる。
北朝鮮は2012年に金正恩第1書記政権スタートして以来以来、緩やかな経済成長軌道をたどってきたが、新たな経済制裁が科せられればこの軌道が危うくなる。
さらに孤立化する。
経済活動の後退には不満が高まる可能性がある。
北朝鮮は社会主義経済を堅持しながらも、工場など経済活動の現場に権限を与え、一定の範囲で自由な経済活動を許してきた。
また貿易全体の9割を中国が占めるなど、中国一辺倒の状態が長く続いてきた。
◆オバマ大統領任期中は「対米交渉は困難」と判断?
金正恩氏が切望してきたのは、米国との直接交渉である。
自らの権力基盤を固めるために米国からの武力行使を受けないという「体制の保証」が欠かせないためだ。
同じ独裁者だったイラク・フセイン大統領が米国の攻撃を受け、あえない最期を遂げたのは、「核兵器」を保持していたかったからだと、同氏は思い込む「核トラウマ」にとりつかれている、との指摘する専門家も多い。
米朝両国は1994年10月にジュネーブで「北朝鮮が核爆弾の原料となるプルトニウムの抽出が容易な黒鉛減速炉の建設・運転を凍結する代わりに、米国が軽水炉(LWR)建設を支援し、完成まで代替エネルギーとして年間50万トンの重油を供給する」との合意文書に調印した。
しかし2012年4月に北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射を強行し、この米朝合意は破棄された。
その後、米国は一貫して「核放棄に向けた具体的な行動」を要求し、北朝鮮側の対話要求を拒否。米国との交渉は、金正恩体制がスタートした12年初めから4年もの間、途絶えている。
オバマ政権が一貫して北朝鮮との直接交渉を拒んでいるのが要因だ。
非核化を目指す6カ国協議(日米中露韓と北朝鮮が参加)も7年以上開かれていない。
北朝鮮は核実験後の声明でも「核放棄は絶対あり得ない」と断言した。
17年1月までのオバマ大統領の任期中は「対米交渉は困難」とと見て、「核保有」アピールの道を選択した可能性が高い。
国内向けには、「水爆成功」を誇示し対米対決を強く打ち出せば、住民にさらなる耐乏を求めやすくなる。
今年5月に36年ぶり開催される朝鮮労働党大会に向け、国威発揚のため国際的孤立を逆手にとる作戦だろう。
この結果、拉致問題をはじめとする日朝協議、南北間協議がストップするのは確実。
安倍晋三首相は、14年5月に一部緩和した制裁を再び強化せざるを得なくなろう。
南北関係の改善を進めていた韓国の朴槿恵大統領も、対話中断を余儀なくされるとみられる。
今後の北朝鮮情勢の焦点は、中国の習近平国家主席がどう対応するかである。
中国政府は昨年10月、創建70年式典に劉雲山・政治局常務委員を平壌に派遣、核実験をしないよう正恩氏にクギを刺し、冷え込んだ中朝関係の改善を探り始めた矢先だった。
今回の核実験の事前通告もなく、中国のメンツは潰された。
金正恩体制の不安定化は避けたいところだが、中国が安保理決議や経済制裁などで具体的な行動を取るかが注目される。
日米韓3カ国をはじめとする国際社会は、中国が北朝鮮へ経済制裁で足並みをそろえるよう働きかけることになろう。
◆「拉致問題」解決は遠のくばかり
米国と中国にとって共通の最優先課題は朝鮮半島の非核化。
外交関係筋によると、米国は2013年末、
「核開発を放棄して生き残るか、核開発を続けて崩壊の道を歩むのか」
との選択を北朝鮮に迫るべきだと中国に要請、原油の供給をストップするよう求めた。
核開発継続や北朝鮮の親中派改革開放論者・張成沢氏の粛正などを問題視した習主席がこれに呼応。
石油の供給を14年に入って極端に絞ったことが中国の貿易統計で明らかになった。
ほぼ同時期にトップの座に就いた習近平主席と朴槿恵大統領と蜜月関係にあり、慣行を覆し韓国を北朝鮮より先に訪問した。
米中は「韓国による朝鮮半島統一」の方向に舵を切ったとの見方さえ出ている。
これに対し、北朝鮮・金正恩政権は、頼みの中国に袖にされたために、「拉致問題の解決」を呼び水に日本に接近した。
経済支援が目的で、日本には拉致問題打開につなげようとの狙いがあった。
その際、米国、韓国はもちろん中国までもが、日本の突出した経済制裁緩和への動きを強く懸念したが、それも制裁再強化により元の状況に戻ることになる。
安倍首相の悲願である拉致問題の解決は遠のくばかりだ。
』
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月8日(金) 8時30分
http://www.recordchina.co.jp/a126627.html
<東アジア新時代(9)>
中華圏で戦後初の女性指導者誕生へ
=大陸とも現実的対応か
―台湾総統選、政権交代確実
4年に一度行われる台湾の総統選挙が1月16日に行われる。
各種世論調査によると、民進党主席の蔡英文氏の勝利が確実。
同日に行われる立法院選挙でも、民進党は史上初の単独過半数を制する勢いという。
「歴史的会談」と話題になった昨年11月の馬英九総統と習近平国家主席の中台トップ会談も、民進党有利、国民党劣勢の選挙情勢には、ほとんど影響を与えておらず、民進党の勝ちっぷりに関心が集まっている。
各種世論調査で、蔡英文氏の支持率は終始40%以上を維持し、20%ほどで頭打ちする国民党の朱立倫主席を大きく引き離している。
第3の候補で政見が国民党に近い親民党の党首・宋楚瑜氏の支持率が伸びており、国民党が分裂して民進党の陳水扁氏に敗北した2000年の総統選挙と同様の図式になっている。
蔡英文氏の得票率は、史上最高得票率だった、08年の馬英九氏の58%を超えるとの予想もある。
元来民進党の総統選における支持率は、40〜45%程度。
国民党の固い地盤を突き崩すには、現職かつ再選を目指していた陳水扁総統が2004年3月、遊説中に銃撃された事件のような「フォローの風」が必要だったが、今回はその必要はなさそうだ。
◆中国への過度の依存に警戒?
現政権に致命的な落ち度があったわけではなく、地味なキャラクターの蔡英文氏は、2008年当時の馬英九氏のようなカリスマ性があるわけでもない。
にもかかわらず民進党がここまで有利に戦いを進めているのはいかなる理由なのか。
まず馬英九政権が
☆.経済政策で「成長率6%以上、失業率3%以下」などの公約が達成されず、一般市民の生活を向上させることができなかったこと
が挙げられる。
☆.自分たちを「台湾人」と考える人々の台湾アイデンティティーや中国への過度の依存を恐れる心理、
☆.14年のヒマワリ運動による政治意識の変化
などが影響しているとの見る向きが多い。
さらに、国民党が総統候補者選びで党内の分裂をさらけ出したことだ。
国民党はすったもんだの末、女性の洪秀柱・立法院副院長をいったん候補としたが、同氏が中国問題などで従来の国民党の路線を逸脱する「中国寄り」と受け取られる発言を連発すると、国民党主席の朱立倫氏は「洪おろし」を仕掛けて自らが候補に取って代わった。
しかし、そのタイミングが選挙戦の最終盤の10月に入っていたほか、朱氏が選んだ副総統候補のスキャンダルが問題視されたこともあって、劣勢の挽回には程遠い状況だ。
民進党が政権を奪取した場合、中台の交流はやや停滞する可能性があるものの、台湾海峡が緊張した2000〜08年の陳水扁・民進党政権の時代に逆戻りすることはないとみられる。
米国が「台湾独立」をけん制していることもあって、
「民進党が勝っても、独立に向かうことはない。
むしろ大陸に接近していく可能性も考えられる」
との声も多い。
実際、蔡氏も「現状維持」を掲げ、馬政権の対中融和路線を引き継いで現実的な対応をしていく考えを示している。
経済的に大陸に大きく依存している点も重要な要素となる。
15年1〜9月の台湾と中国(香港・マカオ含まず)の貿易総額は866億ドルで台湾の貿易総額の「22%」を占め、
台湾にとって中国は最大の貿易相手だ。
米フォーブス誌によると、輸出に占める対中依存度が高い国・地域は、
オーストラリア(34%)、
台湾(26%)、
韓国(25%)、
チリ(23%)、
日本(19%)
の順。
同時期に、中国から台湾を訪問した観光客は311万人で、外国人旅行者の41%を占めている。
蔡氏はかつて民進党政権を率いた陳氏に比べ理性的と見られている。
新年早々テレビ討論会に出席した蔡氏は最大の争点である中台関係について、「リスク管理の思考を持ちつつ、両岸(中台)の経済貿易の交流を続けたい」と語っていた。
◆陳水扁・民進党政権時と異なる?
蔡氏は15年6月、米戦略国際問題研究所(CCIS)の講演で
「多くのアジアの国々がいまだ独裁主義に苦しむなか、
台湾にいる私たちは民主主義を大変誇りに思うと同時に、
これまで勝ち取ってきた社会的・政治的な権利と個人の自由を大事に持ち続けるつもりだ」
と強調した。
その上で、
「中国と建設的な対話を推進する一方、そのプロセスは民主的で透明なものであると確約する。
経済的恩恵は公平に共有される」
と指摘した。
メルケル独首相と比較されることもある蔡氏は、同首相について
「その強さは多数の中で際立つカリスマ性ではない。
彼女の思考や決意が、政治を行う者の資質として我々に必要である」
と語っている。
総統選は台湾住民が1990年代以降の民主化で勝ち取った権利である。
中華圏で戦後初の女性指導者が誕生することになろうが、台湾総統選結果は東アジア情勢や中国の対外政策に影響するだけに、大いに注目すべきだろう。
』
【激甚化する時代の風貌】
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