2016年1月11日月曜日

習近平の鉄槌(2):不満噴出に脅える習政権、言論統制という名の“新常態”、 SFばりの中国超監視社会

_


レコードチャイナ 配信日時:2016年1月10日(日) 21時8分
http://www.recordchina.co.jp/a126737.html

中国アパレル業界の大富豪が「失踪」、
反汚職運動で当局が拘束か―米メディア

 2016年1月9日、米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカ中国語版サイトは記事「中国アパレル業界の大富豪が失踪」を掲載した。

 中国最大のアパレルブランドの一つ、Metersbonwe(美特斯邦威)の周成建(ジョウ・チョンジエン)董事長が行方不明となっている。
 同氏は資産額24億ドル(約2813億円)で、中国の大富豪の一人。
 Metersbonweは7日、周董事長およびその秘書と連絡が取れなくなったとの声明を発表。
 同社株式の取引は停止された。
 
 ここ数カ月、中国では大手企業経営者、幹部が拘束されるケースが相次いでいる。
 失脚にまで至るケースもあれば、数日間の「協力」の後に解放されるケースもあるが、習近平(シー・ジンピン)政権の反汚職運動が新たに企業界をターゲットにするようになったものとみられる。



JB Press 2016年01月18日(Mon)  西本紫乃 (北海道大学公共政策大学院専任講師)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5864

民意と向き合うために中国が進めるSFばりの超監視社会
2016年の中国の展望

◆株式市場の混乱と中国政府の動揺

 2016年の幕開け早々、上海株式市場の株価乱高下を受けて世界中が中国にふりまわされた。
 中国がくしゃみをしたら、世界各国に風邪が蔓延する、まさにそんな様相だ。
 中国の経済動向は、過剰な設備投資とその背後にある不良債権のリスクや、ハイリスク金融商品の乱発と、その管理を難しくしている入り組んだ金融機関の構造が抱える信用リスクなどが指摘されており、
 2016年はそうした危うさを中国政府がきちんとコントロールできるのかという点がポイントだ。

 しかし、株価の急激な変動を防ぐために設けられたサーキット・ブレーカー制度も導入開始後わずか4日で停止することになるなど、年初から当局は市場に振り回されているようだ。
 日本や他の国以上に「お金の問題」は中国では個々人にとって重要な問題で、それだけに株価下落や景気低迷の見通しなどは庶民に与える心理的ダメージも大きい。
 中国では、市井の庶民に至るまで株式や様々な金融商品に投資しているので、株価の下落は国民の政府に対する不満にも直結する。
 そうした中国的事情とそれが政権を揺るがしかねない事態に発展するリスクを中国政府もよくわかっているからこそ、場当たり的な対処になってしまうのだろう。

 株式市場の混乱が象徴するように、2016年は中国政府にとって民意をどう扱うかがより一層重要な課題になってくることは間違いない。
 習近平政権はこれまで3年のあいだ国民のマインドをいかに共産党の政治にひきつけるかということに腐心し、中国政府に批判的な世論が広がりはしないかということに警戒を払ってきた。
 例えば「30年前の状況に後退した」といわれるほど言論統制を強化する一方で、
 積極的に立ち回る外交で「責任ある大国」イメージを強く打ち出すなど、統制と主張の両面から世論の誘導に務めている。

◆中国政府の民意に対する攻めの姿勢

 習近平政権は政権発足当初から、反腐敗運動に力を入れることで悪事を正し、腐敗公務員を一掃する強いリーダーのイメージを強く打ち出してきた。
 反腐敗運動については党内の政治闘争的な色彩も指摘されているが、これまで党幹部たちの近親者への便宜供与、公金横領や賄賂の横行といった腐敗を苦々しい思いで見ていた庶民にとって、公正で強いリーダーとしての習近平のプラスのイメージが浸透しており、中国国内では我々が思う以上に国民の支持を得ており、毛沢東のように習近平を神格化するような雰囲気も生じてきている。 

 北京の街中でも習近平の姿を描いた絵皿をちらほら見かけるようになった。
 これは胡錦濤の時代にはなかったものだ。
 習近平をかつての毛沢東と同じような扱い方をする世間の風潮に、時代錯誤と薄気味悪さを禁じ得ないが、国家主席就任から3年、
 習近平は中国の庶民にとって超越的な権力を持つリーダー
として映っているということなのだろう。

 ただし、国民の支持を得た反腐敗もそろそろ手詰まりだ。
 2013年からおよそ2年間にわたり中国の政治の世界で吹き荒れた反腐敗運動の嵐によって数知れぬ幹部たちが失脚し、自殺にまで追い詰められた者も少なくない。
 2014年7月に周永康を規律違反で立件したことで最大のピークを迎えたが、2015年は中央や地方の行政の幹部だけでなく、国有企業に範囲を広げて各所で摘発が展開された。

 党のクリーンさを保つために党員を啓発し、罰則を明確化して自己規制を促す狙いで、2016年1月1日付で新たに改定された「中国共産党清廉自律基準」、「中国共産党規律処分条例」も施行された。
 制度的には反腐敗はそろそろやり尽くした感があり、国民向けにも既に新鮮味が無くなっていて、むしろ
 公務員の不作為の蔓延、
 各種プロジェクトの停滞、
 人材の枯渇
といったマイナス面が見え始めるようになっている。

 過去の歴史を振り返ると何らかの政治運動を打ち立てて、そこに大衆を巻き込むことで社会をリードするのが共産党の昔から得意とする政治手法だ。
 反腐敗に代わる国民の関心と支持をえられる新しいテーマが必要だ。
 そこで、2016年は次の政治運動として、
 貧困撲滅が新たなスローガンとして掲げられそうだ。

 今年からスタートする第13次5カ年計画の中に「貧困県をなくす」という目標がある。
 中国の「県」は日本の「市」レベルの行政単位にあたるが、中国国内に592ある「貧困県」を2020年までにすべて貧困状態から脱却させようという意欲的な目標だ。
 2015年、アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設や一帯一路構想を中国は声高に宣伝したが、それに対して「他の貧しい国の支援より先に自国の貧しい人たちの支援を」との国民の批判的な見方も強い。
 そうした批判をかわすためにも、
 「貧困県をなくす」ための取り組みが大々的に展開されていく
のではないだろうか。

◆2016年中国の民意のかじ取り

 2015年11月末、北京市一帯の大気汚染が過去最悪レベルのPM2.5の値を記録したが、十分な注意喚起が行われておらず、市民から政府の対応のまずさに対して批判の声があがった。
 その翌週、当局は大気汚染の最高レベルの赤色警報を発表したが、実際には大気汚染のレベルはそれほど悪化したわけではなく、あきらかにその時の当局の発表は過剰反応であった。
 そうした政府の反応の背景には民意に対する警戒心の強さがうかがえる。

 国民から批判されることを怖れる中国政府は、
 言論や市民活動を厳しく制限することで民意の高まりを抑え、
 党と政府にとって好ましい方向に世論を誘導する方針をとっている。
 ただ単に、党と政府に批判的な人を捕まえたり、都合の悪い情報を国民に見せないようにするだけではない。
 民意の動向を把握するために、メディア各社にシンクタンクを設置して優秀な人材を配置し、システム的な情報の収集と分析能力を高めている。
 また、海外の有識者らに高額な原稿料を支払って中国に有利な論評を書かせるといった間接的な世論誘導も展開していが、こうした取り組みも2016年はさらに広がりを見せてくるだろう。

 インターネットに関してはこれまで、
 ネット企業の管理強化、
 ユーザーの実名登録制、
 有力な民間オピニオンリーダーの排除、
 人海戦術による党と政府よりの情報発信
といった対策が取られてきた。
 どちらかというとこれまで部分的な対処が主流だったが、
 2016年以降は包括的でダイナミックな政策が展開されそうだ。

 2015年12月に開催された第2回の世界インターネット大会の開幕式には習近平自らが出席し、開幕の挨拶で中国政府の今後のインターネット政策として
 「インターネット強国」、
 「国家ビックデータ」、
 「インターネット・プラス」
という3つの戦略を提示した。
 とくにこの中の「インターネット・プラス」は昨年3月に李克強首相が初めて提唱したコンセプトで、昨年、徐々に各所で言及されるようになったキーワードだ。 

 習近平政権では党の指導者がコンセプトを打ち出し、政府がそれにあとから肉付けをするという傾向が強い。
 「インターネット・プラス」もそのようなキーワードの一つであるが、
 中国国内の有力なインターネット企業に資本を集中的に投入してネット市場における支配的な地位を占めさせ、
 国民生活のさまざまなサービスをそれら企業のIT技術によって提供して、
 ほぼすべての国民がその中に包括されるようなシステムをつくる
ということのようである。
 そして、
 個人のデータを国家の一元的な管理のもとに置こうという戦略
らしい。
 どうやら
 インターネット・プラス」とは
 ITサービスを総動員した国家的な監視システムを作り上げるという巨大な構想
のようだ。
 私たちが今まで
 SFの中でしか見たことのないような世界を中国政府は作り上げようとしている。
 いわば
 人類史に残るような壮大なチャレンジに中国は着手しようとしている。

◆二極化する民意をどう扱うか

 昨年末、2014年5月に民族の恨みをあおった罪、騒動惹起の罪を問われ600日に及んで身柄を拘束されていた浦志強弁護士の裁判が行われ、執行猶予付の判決が言い渡された。
 中国国内では浦志強弁護士の裁判についてメディア各社には勝手に報じないよう通達が出され、インターネット上の関連の情報もことごとく削除されたが、中国国内の比較的広い範囲の人たちがこの問題に関心を寄せ、判決の行方を注目していた。

 中国政府は昨年来「法に拠って国を治める」をキーワードに、法治の徹底を強化しているが、わずか7件のインターネット上のつぶやき発信をもって、浦志強弁護士を罪に問おうとする当局のやり方について、良識のある中国国民は「法治に矛盾するひどいやり方だ」と批判的にとらえていた。
 今回の判決で執行猶予が付き、浦志強弁護士がすぐに釈放されたのも、こうした民意の関心の高さを当局が測っていたからだといわれている。

 ただ、浦志強弁護士の名前すら知らない中国の国民がいるのもこれまた事実である。
 日本以上に中国の都市部ではスマートフォンが普及し、個々人が好きな時に好きな情報を好きなだけ見ることができる自由度が高まったことで、意識の高い層とそうでない層に中国の民意は二極化が進んでいる。
 有力な民間のオピニオンリーダーを排除するといったメディア統制もこの二極化に拍車をかけた。

 2016年はいよいよAIIB始動したり、秋には国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の通貨バスケットに人民元が採択される見通しだ。
 11月には浙江省杭州でG20サミットも開催される。
 2015年に引き続き、中国の国際社会における存在感はますます大きくなっていくことが予想される。
 国民の愛国心をくすぐる中国の大国ぶりを手離しで歓迎する庶民も少なくないだろうが、足元の自国の経済がぐらつくようなことがあっては、資産を持つ比較的豊かな層の人たちからは「先に国民生活を守れ」との民意の反発も起こり得る。
 習近平を神格化するような後進的な世論と浦志強弁護士の裁判の行方に注目す進歩的な世論、中国政府はそのどちらもうまく誘導するように民意をコントロールしなければならない。

 また今年は台湾、米国で国のリーダーを選ぶ国民の直接選挙が実施されるが、中国でも関心が高いだけに進歩的な世論の側から「なぜ同様のことが中国ではできないのか」というような意見が起こり、それが後進的な世論に拡散して過激化するようなことが起こらないよう、当局は最大の注意を払わなければならない。

 多様化、複雑化する社会を分権化とは逆の方向、すなわちこれまで以上に権力による統制を強めて管理しようとすることで、社会管理の難易度がますます上がっているのだ。

◆日中関係の展望

 習近平政権は大国関係を外交方針の主軸におき、日中関係は米中関係の従属変数としてとらえていた。
 対日方針は歴史認識問題を中心に「怒りの外交」と称される安倍政権に対する敵対心をむき出しにした政治宣伝を行ってきた。

 しかし、政治の世界では2014年11月のAPEC以降、国内の政治宣伝的には2015年9月の大閲兵式以降、日本に対する厳しい姿勢も徐々に緩和してきている。
 2016年は今のところ日中関係はこれまでの雨模様から次第に晴れ間も見え始めるといったところではないだろうか。

 2016年は日中関係についても中国国内の民意の動向は要注目だ。
 昨年は日本で「爆買い」が流行語に選ばれるほど、来日中国人観光客の増加が大きな社会現象になった。
 2014年241万人だった日本を訪れる中国人は、2015年は倍増して500万人を超えた。
 これまで中国政府のプロパガンダによって
 「日本は軍国主義だ」、
 「日本人は冷酷で残虐だ」
という極度に歪められたイメージを持っていた多くの中国人が、
 「日本は清潔で快適だ」、
 「日本人は上品でやさしい」
という真逆のイメージを持つようになっている。
 日本についてのプラスの噂がSNSの口コミで拡散し、すでに庶民のレベルまで
 「日本はいい国だ」
という評判が広まっている。

 来日観光客の増加によって中国ではすでに国内の隅々までに、現実の日本は中国政府が宣伝するような国とは違うという理解が広がっている。
 中国政府にとって日本に対してネガティブな宣伝戦略をとることは却って民意の不信を生じさせることになる。
 中国政府にとって対日外交で歴史カードを使い続けたり、日本の軍事的脅威を事実以上に誇張して伝えることはもはや得策ではない。

 日中関係についても2016年は中国の民意が要注目のファクターになっていくだろう。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2016年01月20日(Wed)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5897

言論統制という名の中国“新常態”
経済減速で不満噴出に脅える習政権

 習政権が、市民活動家のみならず、共産党員や一般メディアに対しても言論統制を強めている背景には、
 経済成長が鈍化する中、
 国民の不満が噴出することへの恐れ
がある、
と12月5-11日号の英エコノミスト誌が報じています。

◆締め付け強化される言論機関

 2015年は、政府の政策を批判したとして複数の省の幹部が、反腐敗委員会によって逮捕された。
 また、10月には、政府の政策に関する党員の「否定的意見」や「無責任な発言」を禁ずる新たな行動規約が承認された。
 こうしたイデオロギー政策によって、毛沢東批判も再びタブーになった。
 ある人気TV解説者は、毛をからかう京劇の言葉を口ずさんだだけで解雇された。
 締め付けはメディアにも及んでいる。
 先月、新疆日報の編集長がクビになったことは、新疆の厳しいテロ取締りに懸念を表明したためだった。

 リベラルで知られるSouthern Weekend、Southern Metropolis、Southern Daily各紙には検閲官が訪れた。
 その後、これら各紙は国慶節の軍事パレードについて提灯記事を掲載した。
 これら新聞への人々の期待や好印象は吹っ飛んでしまった。
 9月には、50の報道機関が「自主規制協定」に署名し、「党と国家の印象を損なうような意見を発表あるいは広める」ことはしないと約束した。
 市民活動家、大学教授、チベット人などへの検閲も、習政権になって強まったと米国のNGOは指摘する。
 この夏には百人以上の弁護士も検挙された。

◆習政権が言論統制へ傾斜する背景とは

 政権発足以来、報道の自由や人権のような「陰険な」西側の考えを否定する一方、憲法の重要性を挙げて、命令・統制とのバランスをとってきた習が、統制へと強く傾斜し始めた背景には以下の事情がある。

 第一に、反腐敗運動が困難な局面にさしかかってきた。
 既に党幹部数千人を捕らえたが、今年は対象を地方幹部や国営企業幹部にも広げており、習は、運動をさらに進める上で党員の意見は制限する必要があると判断したのだろう。

 第二に、政府は、近年活発化するSNSへの統制を強めようとしている。
 マイクロブログを規制する新ガイドラインが作られ、刑法の改正で、ネット上で「噂を広める」ことは犯罪となった。
 何が噂に当たるかの定義はされていない。
 さらに、サイバー安保法が導入されれば、IT企業はネット上の匿名性の制限と、「安全に関わる事件」の報告を義務付けられることになろう。

 第三に、経済が減速する中、党の支配体制が労働争議等の騒乱によって脅かされるかもしれない恐怖がある。
 党は、国民の生活水準の向上を正統性のよりどころとしてきたが、それが鈍ってきた今、人々が党に不満を抱く可能性があり、そうした心配の芽は早い内に摘み取ろうということだ。

 習は経済成長が鈍化した現在の状態を「新常態」と呼んでいるが、言論統制の強化も「新常態」になりつつある、と報じています。

出 典:Economist ‘This article is guilty of spreading panic and disorder’ (December 5-11, 2015)
http://www.economist.com/news/china/21679481-more-general-signs-crackdown-expression-article-guilty-spreading-panic-and

*   *   *

◆対象がすり替わった“反腐敗闘争”

 英エコノミスト誌の解説記事が、習近平政権が「反腐敗闘争」を続け、言論統制を強めているが、これは今や中国政治の「新しい常態」ともいうべき現象を呈していると述べています。

 「虎も蠅もたたく」とのスローガンのもとに始まった「反腐敗闘争」はそろそろ終焉に向かうのか、と想像されていましたが、実体は対象を変えて続いており、その対象が国営企業幹部、地方幹部、ソーシャルメディアなどに広がっていると言います。

 内政面では、胡錦濤時代には、「和諧社会」などというスローガンが見られたように、政敵を言論抑圧で追い詰めることはそれほど多くはありませんでした。
 習近平体制下では、敵を抑圧することが常態
となったようであり、これはエコノミスト誌の指摘する通りです。

 習近平は党内に「小組」などをつくり、そこを通じて権力を固めてきました。
 しかし、他方
 「反腐敗汚職キャンペーン」をつうじて多くの政敵をつくりだした
ことは、今後、
 習指導部に対する根強い不満・反発を生み出す要因
ともなり得ます。

 とくに近年、中国でも広範囲に使用されるようになったソーシャルメディア、ネットなどを規制する新たなガイドラインがつくられ、「噂を広める」ことを規制するようになってきました。
 「噂を広める」とは、一体何を意味するのでしょうか、定義が曖昧なことが一大特徴です。

 これまでのところ、中国共産党一党支配の正統性の最大のよりどころは、経済成長にあった、と見ることができます。
 その点では、最近の経済状況の減速や悪化は、党への不満の浸透、拡大の大きな原因となるものです。
 これを習体制は「新常態」の言葉を使い、言論統制によって乗り切ろうとしていますが、
 下手をすると政権不安定化の悪循環に陥る可能性があります。

 例えば、最近の中国の諸都市における大気汚染の状況一つを取ってみても、これらを適切に処理できない状況が続けば、大きな社会不満鬱積の火種になるでしょう。



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年01月25日(Mon)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5926

ついに民間企業まで…
忍び寄る中国腐敗撲滅運動の影

 12月初めに中国有数のコングロマリット、復星集団の郭広昌会長が数日間失踪、司法当局に尋問されていたと言われていますが、拘束の理由は明らかにされていません。
 エコノミスト誌12月19日号は、こうした事態が習主席の外遊にも同行した著名な実業家に起きたことは、習政権の取り締まりが今や民間企業にも及び始めたことを示すものだ、と報じています。

◆共産党はその気になれば誰でも恣意的に扱える

 12月10日付けの地元新聞によれば、郭氏は上海で飛行機から降りたところを公安に連行された。
 復星は、会長は当局の捜査に協力しただけだと主張したものの、同社の株式取引を一時停止させ、このことが世界中で波紋を呼んだ。
 復星は欧米でいくつもの有名企業や建物に巨額の投資をしているからだ。

 腐敗捜査の対象となったということになれば、復星は壊滅的な打撃を受ける可能性がある。
 同社は、経営体質は健全だが、海外で保険会社、銀行、種々のブランド企業を派手に買収して来ており、11月末にスタンダード&プアーズは同社をリスク企業と格付けしている。

 あるいは郭氏は腐敗役人について証言しただけで、彼自身は潔白なのかもしれない。
 しかし、当局が財界の雄をかくも高圧的に取り扱ったことは、中国の法体制の不備を想起させるだけでなく、党はその気になれば誰でも恣意的に扱えることを示すもので、憂慮される。

 企業人に対してこうした仕打ちが出来るのは、
 中国では毛沢東によって資本主義と法の支配が破壊され、
 ほとんどの民間企業は多くの資産に明確な財産権の裏付けがなく、
 税額も交渉で決められた等、
 法的に曖昧な状況から出発している
からだ、と専門家は指摘する。
 本人は腐敗していなくても、
 当局はいくらでも過去の曖昧さを言い立てて彼を詐欺師に仕立て得る
というのだ。

 そうなった場合、受ける痛手は国営企業よりも民間企業の方が大きい。
 国営企業の「guanxi(関係の網)」はトップが失脚しても続くが、民間企業のguanxiは創業者が逮捕されればそれで終りかもしれない。
 既に今回のことで復星集団が企てていたイスラエルの保険会社や英独の銀行の買収は危うくなっている。

 一方、中国財界の重鎮たちは今や北京に忠誠を示すのに懸命だ。
 習は、世界インターネット会議を主催し、自由な言論を抑圧する中国式「インターネット主権」を促進しようとしている。
 ロシア、パキスタン、カザフスタン等の、ならず者国家の指導者たちと並んで、国内大手のインターネットやテクノロジー企業の創業者たちが同会議への出席を確約した。

 民間部門が圧力を受けていることを最も鮮明に示すのはアリババの馬雲会長だろう。
 これまで政治論争を避けてきた馬だが、11日、香港の英字紙、South China Morning Postの買収を発表した。
 同紙の香港の政治デモについての果敢な報道は、国内でその種の報道を阻んでいる習政権を大いに狼狽させてきた。

 馬は香港の言論の自由を守るだろうか。
 「我々を信頼して欲しい」、と馬は言うが、同紙の買収が確定した11日、アリババは北京政府への支持を表明。
 また、同社の蔡副会長は、西側メディアは中国を共産主義国家という色眼鏡で見るが、ポスト紙は物事をありのままに報道する、と断言した。
 しかし、中国は、事実、共産主義国家であり、今回の件が示すように、このことが物事全ての根幹にある、と報じています。

出典:‘Another turn of the screw’(Economist, December 19 2015-January 1 2016)
http://www.economist.com/news/business/21684147-detention-fosuns-boss-shows-even-chinas-biggest-tycoons-are-no-longer-safe

*   *   *

◆上海株暴落に“黒幕”の存在疑う習政権

 郭氏が取り調べを受けた一件の背景には、二つの要素があると思われます。

 一つは、習主席が進める腐敗撲滅運動の拡大化です。
 腐敗摘発運動は、最初は党内の「大物幹部」の摘発から始まりましたが、体制内の強い抵抗があり、それが下火となると「運動」を続けていくためには権力中枢から離れたところで摘発の範囲を広げる以外になくなりました。
 そのため、最近「金融腐敗」・「文教腐敗」といった言葉が流行ったように、政治以外の分野にまで腐敗摘発の手が及んでいるのでしょう。

 もう一つは、いわゆる「金融腐敗」とも関連がありますが、今年の上海株暴落以来、習主席は誰かが株価を操作して暴落させることによって政権にダメージを与えようとしているのではないかと疑い、その「黒幕」を掘り出すために、特に金融部門への「腐敗摘発」に力を入れてきていますが、郭氏の取り調べはその一環であるとも考えられます。

 しかし、金融部門での腐敗摘発が行き過ぎると、逆に金融市場を不安に陥れ、経済減速に拍車をかけるリスクもありますから、習政権がどこまでやれるかは、かなり疑問です。
 現に、郭氏が拘束されてから間もなく、自由の身となって活動を再開していることも、この辺の事情の反映であると思います。




_