2016年1月25日月曜日

中国のアフリカ支援(1):新植民地主義を狙っているのか?

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東洋経済オンライン 2016年01月25日 中村 繁夫 :アドバンストマテリアルジャパン代表取締役社長
http://toyokeizai.net/articles/-/101564

中国のアフリカ経済支援は「壮大な実験」だ
労働者をどんどん送り込み、半端ない存在感

 2015年末に日本アフリカ友好議員連盟「三原朝彦ミッション」の一員として東アフリカを訪問し、エチオピア、ジブチ、ルワンダ、ケニアを回った。
 今回の訪問国は例外なく中国からの投資が活発で、景気は好調を持続していた。
 昔はアフリカに行くと「コンニチワ」と声をかけられたが、今は行く先々で「ニーハオ」と声をかけられることが多い。
 中国の富裕層は日本に爆買いツアーに来るが、貧しい労働者たちは仕事を求めてアフリカに行く。
 今や、アフリカでの中国の存在感はものすごいものがある。
 アフリカでなぜ中国がここまで台頭したのか。
 中国人動向を軸に、アフリカ最新事情を報告しよう。

◆アフリカはレアメタルの宝庫

 アフリカは、レアメタルの宝庫である。
 世界のレアメタルの埋蔵量でプラチナは90%、マンガンは77%、コバルトは60%、クロムは35%、と圧倒的な資源量を誇っている。
 私はこれまでに中国やロシアのレアメタルの開発輸入をしてきたが、日本のハイテク産業に必要なレアメタル市況は最終的にはアフリカの資源動向で決定されると言っても過言ではない。

 アフリカの面積は3000万平方キロで世界シェアは22.2%。
 人口は約10億人で世界シェア14%。
 ちなみに増加率は最大である。
 56カ国から成り、国家数からみれば28.5%のシェアになる。
 平均寿命は51歳、5歳未満の子供の死亡率は1000人中146人。
 道路の舗装率は11.9%で1人当たりのGDPは745ドル(2005年)だ。
 GDP成長率は2000年代平均で5.2%。
 全人口の41.1%は1日1ドル未満で生活している貧困地域である。
 そんなアフリカに、今や100万人以上の中国人が住み始めている。

 アフリカは欧米の多国籍企業による影響力の強い地域であったが、中国が本格的に進出し始めた21世紀に入ってから雰囲気が変わってきたように感じる。
 中国進出が活発になってから、アフリカのどこに行っても(中国に支援してもらっているのに)中国人が嫌いだと言うアフリカ人に多く会う。
 欧米に利用されてきた歴史があるだけに、アフリカの為政者にしてみると、宗主国よりもマシだとは思っているフシもあるのだが。
 中国は賄賂の使い方がうまいという面もあるだろう。
 しかし、一般住民にとってみると、中国人労働者が増えたために、自分たちの仕事が増えないと感じているようだ。

 また、中国製品は安いけれど粗悪品が多く、すぐに壊れるとこちらの評判も悪い。
 中国による輸送インフラの援助プログラムは、最初はいいのだが計画どおりに進まず、途中でストップしたりすることも多いようだ。
 あるアフリカの友人によると、初めの計画では安い予算を提示するが、見積額を変更したり見返り条件を出してくるので、結局は高くつくという。

◆アフリカ資源に目をつけたのは鄧小平か?

 アフリカが中国を嫌う理由は、「資源を狙っている」のが露骨だからだろう。
 まずは、中国がなぜアフリカの資源を狙っているのかを説明しよう。

 中国がアフリカ重視に舵を切ったのは、長期的な視点に立ち、国家戦略の中で資源問題に取り組み始めてからだ。
 中国における最大のエネルギー需要家は、製鉄分野とレアメタルを含む非鉄金属分野だ。
 これらは中国産業界の利益柱でもあるし、めざましい発展を遂げてきた。
 鉱工業産業は中国経済をリードし、増大する都市人口を支え、その産業基盤となる建築と産業インフラを支えている。
 ゆえに、これらの産業で使う原材料である各種資源の確保が、中国にとって死活問題である。
 これは私の勝手な想像だが、中国がアフリカに目をつけたのは、鄧小平がフランスに亡命しているときからではないだろうか。
 フランス滞在中には、アフリカ情報も多く入手できただろう。

◆ジブチの軍事施設で感じたキナ臭さ

 私は軍事の専門家ではないが、今回のジブチ共和国訪問時に、中国がジブチに巨大軍事基地を建設し始めていると聞いて驚いた。
 三原ミッションと自衛隊基地を訪れた時の情報ではこうだ。
 日本の海上自衛隊が水上部隊を含めて570名を駐屯させているのは、ソマリア海賊から日本の商船を守るのが主目的である。
 日本の自動車専用の船舶だけでもソマリア沖アデン湾を年間1700隻が通る。
 ジブチには同様に米国の海兵隊が4500名いる。ほかにもフランス、独、スペイン、イタリアがジブチ国際空港を囲むように軍事基地を有している。

 各国の協力もあり、海上自衛隊が駐屯を決めた
 2009年に218件、2010年に219件、2011年に237件あった海賊被害は、
 2012年75件、2013年15件、2014年11件と減少して、
 2015年にはとうとう0件になった。
 これで一段落したと思っていたら12月、中国の軍事施設が建設されることになったという。
 場所は米国基地の隣で、こちらもソマリア海賊対策が軍事基地設置の理由になっているようだ。

 私の感覚だが、何かキナ臭い空気がジブチに漂っていた。
 米中の軍拡合戦が始まろうとしている気配がしていたからだ。
 海賊被害がなくなってきたのに、日本を含む各国がどうして軍事施設の強化に走るのかがわからない。
 経済支援での程よい競争はおおいに結構だが、軍事基地を巡る衝突は米中対立の火種になりかねない。
 ジブチ情勢を注視したい。

◆新植民地主義を狙っている中国

 ところで、読者の皆さんは、中国がぶち上げた海と陸の新シルクロード「一帯一路」構想をご存じだろうか。
 中国から欧州に至る2つのルートからなるもので、地域経済や文化交流を促進する狙いがある。
 この海のルートに、アフリカも入っている。
 そのことを中国はアフリカ連合(AU)との覚書で表明した。

 現在、アフリカ全土の中国人駐在員の数は100万人との報告がある。
 ちなみに、エチオピアの人口は9000万人(アジスアベバ350万人)で中国人は9万人(日本人は200人だ)。
 ジブチの中国人は現在1万人で、10万人規模になるのは時間の問題だと言っている人もいた。

 エチオピアは植民地になったことのない唯一のアフリカの誇り高き王国である。
 20年ほど前までは、日本はエチオピアから感謝された歴史を持つが、いまや中国の経済援助や投融資の規模が桁違いであるために、すっかりかすんでしまった。
 その一例が、中国がプレゼントした20階建て100メートルの高層ビルで、2012年に完成したアフリカ連合(AU)の新本部ビルである。

◆中国人とアフリカ人に共通するところ

 アフリカ人と付き合っていると、イヤな思いをすることも多い。
 われわれ日本人にとって最もイヤな部分は、ルールを無視する傾向があることだ。
 ある意味では、中国とよく似ている。
 たとえば、アフリカでは列に並ばない人や、子供じみた人を見かけることが多い。
 飛行機の座席が指定されているにもかかわらず、それを守らないといった具合だ。
 ルールを守らないからますます混乱するのに、「ほかの人もルールを守らないから自分も守らない」となる。
 都合が悪いとすぐウソをつき、ウソがばれるとウソの上塗りをするような人も見かける。

 アフリカ人は中国人が嫌いだが、実は中国人もアフリカ人を好きなわけではないようだ。
 中国人労働者がアフリカに多く来るのは、中国プロジェクトでアフリカ人の労働者がなかなか働いてくれないからという面もある。
 初めはやる気がないように見えるのだ。
 ただし、タンザニアの鉄道プロジェクトの現場では、いまや中国人労働者は少なく、タンザニア人の労働者が圧倒的に多くなった。
 アフリカ人の技術力が向上すると、アフリカ人に仕事を任せている実例はいくらでもあることを指摘しておく。

 似ているところはまだある。
 住環境をきれいに維持することができないのもそうだ。
 大声でがなり立てる人が多く、自己中心的で人の迷惑を省みない人も目に付く。
 もしかしたら、似た者同士で「近親憎悪」のような感情があるのかもしれない。

◆鄧小平「先富論」の実現か、新興国クラブか

 経済発展を遂げた中国が、アフリカを巻き込んで新しい国際的仕組みを作ることは、鄧小平が中国で実行した経済改革を、世界的規模で実行しようとしていると見ることが出来る。
 改革・開放政策の基本原則を示した「先富論」は鄧小平理論とも言われるが、これは、「先に豊かになれる者から豊かになれ、そして落伍したものを助けよ」という考え方である。
 中国は最貧国のアフリカ諸国を助けることで世界貢献をしつつあるというのだろうが、私に言わせると、中国とアフリカが「新興国クラブ」を作ろうとしているように見えてならない。

 その前に、鄧小平の「先富論」が中国で本当に成功したのかといえば、そうは都合よくいってはいない。
 確かに中国の沿岸地域の経済発展は目覚ましい。
 しかし、内陸部の貧しさは何も変わっていないばかりか、貧富の差による嫉妬や妬みが社会問題になっている。
 「落伍した者」を助けよといっても13億人の9割以上が貧困なのだから、助けるにも限界がある。農民籍の貧困層が北京や上海に雪崩れ込んでくることは、混乱を招くばかりか「不平や不満」が共産党批判につながりかねない。
 デモや騒乱事件は年間には20万件も起こっているとの情報もある。

 中国人の爆買いツアーが盛況の一方で、貧困層のサバイバルゲームもある。
 国による壮大な実験と挑戦は、いったいどうなっていくのだろうか。

◆矛盾に満ちたアフリカ支援の行く先

 さて、最後に中国がアフリカにまで政治・経済的な触手を拡大している理由をまとめよう。

 資源の確保とともに、中国の「安物製品」を販売する市場の開発をするという側面、そして労働力を送り込むことで貧困層の食い扶持を減らし、影響力(もしくは支配力)を強めるといった狙いが挙げられる。
 実は、これらのことは、ウイグルやチベットに漢民族を送り込むのと同じ発想である。
 アフリカに中国人労働者を送り込んでいるスピードは信じられないほどだ。
 中国が投資した路面電車の運転手も、建築現場の労働者も中国人ばかりである。
 農村戸籍の労働者(大半は農民)にとって、アフリカで国営企業関連の仕事につくのは、千載一遇のチャンスなのである。

 現時点では中国とアフリカの関係は持ちつ持たれつで利害が一致するからいいのだが、いずれ中国が成熟社会になったとき(もしくは共産党政権に変化がある時)にはどうなるか。
 あるいは、アフリカの一部の国が成熟社会になったときにはどうなのか。
 多くの問題点をはらみながらも、中国は矛盾に満ちたアフリカ支援を止めようとはしないだろう。

次回は、日本がアフリカとどのように付き合っていけばいいのかを考察したい。





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