2016年1月30日土曜日

中国GDPは25年ぶり低水準(4):迫り来る「メガトン級の巨大危機」、「二人っ子政策」と「AIIB」で経済復活なるか

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東洋経済オンライン 2016年01月30日 山内 英貴 :GCIアセット・マネジメント代表取締役CEO
http://toyokeizai.net/articles/-/102625

迫り来る「メガトン級の巨大危機」に備えよ
リーマンショックを予見した運用者が語る

2016年の金融市場は波乱の幕開けとなった。
原油価格は1バレル当り30ドル割れまで下落が続き、通貨人民元も急落。中国株式市場は導入したサーキットブレーカー制度により、取引停止が続いた末、制度そのものを停止。
世界の株式市場でもボラティリティが高まっている。
今後、金融市場はどうなるのか。
2006年末にサブプライムローン専業会社が破綻、2007年2月末の上海株ショックの頃から、来たるべき大暴落=リーマンショックを予言していた運用のプロが山内英貴氏である。
山内氏に現状をどう見るか、語ってもらった。

◆リーマンショックは終わっていない

 年明け以降の市場は1997~98年の通貨危機の頃と似ていて、まさにデジャヴという感じだ。
 過去数年間続いていた資本の流れが逆流し、キャピタルフライトの兆候が明らかとなった。
 ある意味で「リーマンショックは終わっていない」といえる。
 米国はグリーンスパン元FRB(連邦準備制度理事会)議長の時代(1987年8月~2006年1月)から、金融は緩和的でマーケットフレンドリーであり、株式相場が下落しそうになると中央銀行が支えるということを続けてきた。

 そのことで膨れあがったバブルは、リーマンショックによりいったん弾けた。
 しかし、中国を中心とする新興国が、先進国のバブルを肩替わりする形で、債務をどんどん積み上げて、世界経済の成長を引っ張った。
 先進国が敗戦処理を行う時間を中国が稼いだわけだ。
 つまり、
 リーマンショックは単に、米国から中国へ、先進国から新興国へバブルを移転しただけ
とみることができる。
 しかし、いよいよそれが限界に来た。

 米国はいつも同じ行動をとる。
 自国経済が調子に乗りすぎてバブルが膨らむと、ほかへ移転させる。
 1985年のプラザ合意がそうで、これをきっかけにドル安円高に反転、日本が世界経済の牽引役に替わった。
 しかし、1990年代に入り日本のバブルも弾けた。
 今回は、中国がバブルの肩替わりのツケを負う形となった

現状はグローバルに見て、もはや牽引役がいないところまできている。
 現象としてはすべての資産価格が高くなっている。
 株価も足元では調整が入って少し売られたが、長期スパンで見れば非常に高い水準である。
 債券もどこでも超低金利で高値。
 原油をはじめとするコモディティ(商品)価格はこの1年で下落してきたが、その前はもの凄く高かったわけで、バリュエーションが高まりすぎた結果、まさに逆回転を始めている。


●画像

 1997年のアジア通貨危機もバブルが弾ける原因はドル高だった。
 ドル高が続くと、資本が米国・ドルに向かい、グローバルにつながっている経済の中の弱いところから綻びが出始める。
 当時は通貨をドルペッグしていたタイから始まったが、今回は原油やドルペッグの人民元から始まっている。
 この年末年始で大幅に下落したものの、これで終わるとは到底思えない。

◆中国はしばらく頑張れる

 ただし、人民元の大暴落や世界中の株価の大暴落がということがすぐに起きるとは思っていない。
 中国は当時の東南アジアに比べたらはるかに余力があり、強烈な規制を行うことも可能なので、しばらく頑張れる。
 クラッシュは誰も喜ばないので、先進国の中央銀行もいろいろな手を打つだろう。
 ただ、調整を経て再び巡航速度に戻り、FRBが利上げを続けて行うといったことが可能になるかといえば、それは無理だと見ている。

 何しろ、債務が積み上がりすぎている。
 日本や欧州では政府債務が膨らんでいる。
 米国は全体として債務は落としてきた。
 これが資産価格にネガティブに働かなかったのは、中国ががんばったおかげ。
 米国内にもシェールガス・オイルの開発企業の発行したハイイールド債など低信用市場のバブルはあるが、局地戦だ。
 巨大なバブルは新興国にある。

 原油価格の1バレル100ドルへの高騰は供給側に原因があるわけではなく、中国の爆買い、需要の高まりによるものだったので、今の原油安は今後の新興国の苦境の予兆といえる。
 先進国の国債が大きく売られるということはなかなか起きにくいので、新興国の中の脆弱な国で問題が深刻化する。

 新興国ではブラジルやロシアのほか、通貨がドルペッグし、原油価格の高騰に政府の財政が依存しているサウジアラビアも厳しい。
 中国は民間のドル建て債務が急激に膨張しているので、人民元切り下げでデフォルトが頻発するという形になる。
 昨年から、中国の不動産会社がドル建ての債券の償還を増やしており、これがキャピタルフライトに見えていることもある。

 ハイイールド債を組みこんだ投資信託などは日本にも多くの投資家が投資している。
 昨年からハイイールド債のデフォルトが出始め、ハイイールド投信の償還停止や解約停止が起き始めて、暴落の予兆が出ている。

 債務が積み上がりすぎているため、中央銀行が緩和をしても効果が薄くなっている。
 先日のECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁による追加緩和をコミットする発言の効果も一日しか持たなかった。
 モルヒネを打ち過ぎて効かなくなっている。
 資産価格の投げ売り状態が出て、債務を軽くしないと解決しない。

 中国政府はやはり勘違いをしている。
 市場も管理できると思っている。
 先進国はいろいろな経験をして結局は、どんなに介入しても市場を管理できないことを理解している。
 中国は、表向きは自由化を標ぼうしているが、政府に都合のよい方向に向かっていれば市場にまかせるが、そうでない方向に向かうと管理しようとする。

 米国から祖国のためにと参加していた優秀なスタッフも、
 この1年ぐらいで民間企業に戻ったりして去っている。
 結局、党中央のエリートや習近平が反対すれば、改革は進まないからだ。
 中国人自身が不安を感じているので、キャピタルフライトも起こる。
 中国国内でお金を稼いでも、家族と資産は外国に置くというお金持ちも多い。

◆中国政府は解決できず、米国は"利下げ"へ

 よく、中国には貯蓄が潤沢にある、外貨準備に余裕があるので、自力で解決できるという見方が語られる。
 しかし、私は懐疑的だ。
 それには、資本規制をガチガチにして資金流出しないように縛ってしまい、ゼロ成長を甘受して、時間をかけて構造調整を行うことになる。
 だが、それをやれば、
 失業が増大し社会不安が高まるので、政治的に保たないと考える。
 共産党の一党独裁体制が維持できなくなる。

 いつも、危機の前には擁護派が出てくる。
 1997年にも、タイの中央銀行が対処できるという主張をしていた人々がいた。
 いわゆる“This time is different” theory (「今回は違う」理論)だ。

 世界が苦しんでいる中で、米国だけが単独で立ち直っていくという姿も描きにくい。
 注目点は、次の利上げがいつか、ということではなく、利下げと見ている。
 昨年12月の利上げは、大間違いであったか、
 うがった見方をすれば、
 FRBが将来の危機に備えてあえて動けるようにのりしろを作っておきたかった
かの、どちらかだと思っている。

 主要国の中央銀行の中で、FRBだけが利上げをする、米国経済だけが順調ですと市場に対して宣言するということ自体が、ドル高と原油安を招き、新興国経済の苦境をさらに増すことになるわけだから、この局面での利上げは矛盾した政策だ。
 道路の右側通行を左側通行に変えるのに、「まずトラックから変えよう」といってるようなものだ。

 結局、中国も米国も苦しくなり、大きな調整を迎えざるを得ない。
 10年に一度のクレジットサイクルが生きている。
 1998年、2008年に続くメガトン級の市場イベントがくる。
 これは人間がやっていることだから仕方がないこと。
 政策担当者の立場では、なんとか対処しなければならないので頭が痛いが、投資家、一市場参加者はそういうこともありうべし、と考えておく必要がある。

◆日本の投資家は当面リスク削減を

 一つ言えるのは、とくに日本の投資家にとって、アベノミクスが始まってからは、誰にとっても儲けやすい相場だったことだ。
 円安で、株高で、債券も売られない。
 分散投資をロングオンリーでやっておけば誰でも儲かった。
 だからこれからは、大変だ。

 以前は為替ヘッジをしていたような市場参加者、輸出企業や機関投資家や個人が、日銀の金融緩和が続くことを前提にして、円高リスクはしばらくないとみて、ヘッジを外していた向きが多い。
 円安と資源価格の低下で日本の交易条件は改善し、貿易収支が劇的によくなっているので、実需の円買いのマグマが溜まっている。
 リスクオフモードで円高が進み、リスク資産が売られて大幅に下がる厳しい状況が出現する可能性が高い。

 危機がいつ来るか、どういう形で来るかは分からない。
 ただ、
 リーマンショックでもサブプライムローンのデフォルトが出始めた2006年末、
 サブプライムファンドの償還停止をBNPパリバが発表したパリバショック(2007年8月)、
 ベア・スターンズの破綻(2008年3月)からリーマンショック(2008年9月)までは、2年ほどかかっている。
 アジア通貨危機の時も、タイが変調を来してから米国のヘッジファンドであるLTCMや日本長期信用銀行の破綻まで、1年半ぐらいかかっている。

 今回は、もっとバブルが大きいことや、中国の体力を考えれば、すぐ危機到来は考えにくいが、逆に言えば、不安を抱えた市場では、ボラティリティ(変動率)の高い、値動きの激しい環境がしばらく続く。
 本当にクライマックスが来るには時間がかかる。
 投資家は雲の上を歩いているような怖さがあるが、テールリスクの発生を前提に、リスクを削減しておくことが必要だ。

 難しいのは、昔は、リスク資産の投げ売りが始まったら、国債が保険になった。
 しかし、日本国債自体は売られないにしても、ほかの資産での損失をカバーできるような上値余地がない。
 これ以上買われたら、マイナス金利に突入していく。昔ながらの分散効果が機能しない。

◆原油安は「原油の時代の終わり」を象徴

 原油安は新興国の苦境の先行指標ともいえるが、もっと広く考えると「原油の時代の終わり」を象徴しているのではないか。
 COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)における「パリ協定」の採択とか、フォルクスワーゲンのディーゼル車の排ガス不正問題なども、そうした流れの中にあるのではないか。’ 
 そう考えると、足元では痛みがあるが、人類と環境にとっては長い目で見るとよいシナリオだ。

 裏庭から油が噴き出しただけで大金持ちとなった中東やロシアのごくごく一部の人々が、投資をしてますます金持ちになり、ロンドンのメイフェアで金ぴかの住宅や車を持つ。
 一方で、中東は人口が増大していて貧しい人々が増えている。
 こうした富の偏在はどこかおかしい。
 持続可能ではない。
 1バレル=30ドルは第2次イラン革命の頃の水準だが、そうした大きな構造転換を考えると、40ドル、60ドルへと戻っていくとは思えない。

 資本主義、市場経済のもとではとりあえず、政策を担う人々は自分の在任期間は大過なく務めたいと考える。
 そうすると、金融政策や財政政策を行って、極論すれば、痛みを避け、いいとこどりなる。
 しかし、クラッシュしないように飛び続ければますます債務が積み上がる。
 債務を積み上げているということは、将来世代に負担を押しつけているということだ。
 債務はどこかで、ある程度まで減らさないと持続不可能だ。

 繰り返される金融市場の危機は
 「本来そこまでエンジョイすべきではなかったのに、将来価値を先食いしてしまったので、痛みも味わってください」
という市場の神様の声だ。

 ところで、話の最後で、日銀の追加緩和の報せが飛び込んできた。
 まずは市場がどの程度反応するのか、とくにその持続力に注目したい。
 次の焦点は米国と日欧・新興国の政策ベクトルの乖離がどちらかに収斂するのか、そうでないのか、という点に移る。
 グローバルにつながった金融資本市場ではマクロ政策の協調なしにどこまでうまくいくのか疑問だ。
 むしろ、ますます、現状は1997年型の様相を帯びてきたと感じている。
 だとすると、ドルにもリスク資産にも、最後の売り場がゆっくりとやってくる。
 当局にとっても、市場参加者にとっても、展望の開けにくい長い戦いになるだろう。

●山内英貴(やまうち ひでき)/1963年生まれ。日本興業銀行でトレーディング・デリバティブ関連業務に従事した後、2000年4月に独立し、ヘッジファンド運用に特化した資産運用会社グローバル・サイバー・インベストメント(現GCIアセット・マネジメント)設立。2007年4月より東京大学経済学部非常勤講師。主な著訳書に『アジア発金融ドミノ』(東洋経済新報社、1999年)、『LTCM伝説』(共訳:東洋経済新報社、2001年)、『オルタナティブ投資入門(第3版)』(東洋経済新報社、2013年)、『エンダウメント投資戦略』(東洋経済新報社、2015年)がある(撮影:梅谷秀司)



新潮社 フォーサイト 1月28日(木)11時35分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160128-00010000-fsight-int

世界の市場を襲った中国発「異常寒波」の正体

 〈2016年を迎えるいま、内外でブラックスワンの不気味な羽ばたきが聞こえる。
 2012年末の政権復帰から丸3年を経過した安倍晋三首相は「桃栗3年」の成果を誇った。
 が、今は申年の世界に待ち受けているリスクにこそ、身構えるときではないのか。〉


 前回はこんな書き出しだった。
 実際のマーケットで今起きているのは、この記述を地で行く天下大乱の光景だ。
 爆弾はまさに中東と中国で炸裂し、全世界へと広がった。
 サウジアラビアによる政治犯の大量処、
 サウジとイランの外交関係断絶、
 水爆と称する北朝鮮の核実験、
 中国株の全面取引停止、
 人民元の下落、
 世界的な株式相場と原油など商品相場の底抜け。

 今さらのようにメディアの喧騒を繰り返すのはやめよう。
 ハッキリ言えるのは、「2016年は参院選の年だから、選挙前までは株価は強いはず」などといった、したり顔の解説がちゃぶ台返しに遭っている事実である。
 経営者への新年株価アンケートをみても、2016年の日経平均株価の安値予想は1万8000円がほとんどで、最も弱気の回答でも1万7000円。

 年初来の株安で株価は1月第3週には1万6000円スレスレまで下落し、安値予想の下限を大きく割り込んだ。
 株式相場が直近の高値から2割以上下落することを「ベア・マーケット(弱気相場)」入りする、と言う。
 昨年12月初めの日経平均は2万円ちょっとを付けていたから、1万6000円を割り込めば、完全な「弱気相場」入りとなる。

■「オイルマネー」の韓国株売り

 同じような株式相場の値動きは、ドイツやフランスなどの欧州諸国でもみられている。
 先進国のなかで、米国株は相対的にはましな方だが、それでも年初来の下げは1割強に達した。
 ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が1月21日の理事会後の記者会見で、3月の追加金融緩和を示唆したのは、景気先行指標である株価が底割れし、実際の景気にも後退シグナルが出るのを恐れたからだろう。
 その心象風景は、黒田東彦日銀総裁にも共通するだろう。

 中国経済の失速懸念が中国株の下げを招き、原油など商品価格の底割れを招いているのは分かる。
 ではなぜ、先進国の株式相場まで道連れにされなければならないのか。
 答は簡単。
 原油安で懐具合が窮屈になった産油国が、保有株式の売却を余儀なくされているのである。
 そのメカニズムは想像に難くないが、東京市場での株式売買の手口が分かるまでには時間がかかる。
 隔靴掻痒の感が拭えないところだが、天網恢恢疎にして漏らさず。
 お隣の韓国で、オイルマネーによる火砕流のような売りが確認された。

 「オイルマネー引き潮……34日連続『セール・コリア』」。
 そう題した韓国紙『中央日報(電子版)』の記事である。
 それによれば、サウジアラビアによる韓国株の売越額は昨年6~12月の合計で4.5兆ウォン(約4380億円)。
 その間の外国人投資家の売越額全体の約30%を占めたという。
 韓国株式市場の時価総額は昨年末時点で5300億ドル強と、日本の3.2兆ドルの約6分の1。
 4300億円強の売り越しでも、相当にこたえているはずだ。
 サウジの売越額は昨年12月だけで7700億ウォン(約760億円)余りにのぼった。
 油の切れ目が縁の切れ目と言える。

■日本株で目立つ「先物売り」

 韓国でオイルマネーの売りが際立った昨年12月以降、日本株についてはどうだったのか。
 財務省統計で、外国人投資家の現物株の売買動向(買越額、▲は売越額)をみると、以下のようになっている。12月の
 第1週=1048億円、
 第2週=▲4901億円、
 第3週=▲2258億円、
 第4週=▲884億円、
 第5週=1357億円、
 1月の
 第1週=▲7464億円、
 第2週=▲3583億円。

 確かに外国人投資家だけでも、1月の最初の2週間で1兆円余りの日本株の売り越しとなっている。
 日本株の場合、こうした現物の売りに加えて、先物、なかでもTOPIX(東証株価指数)先物の売りが目立っている。
 「日本株を保有するオイルマネーが先物の売りに出て、その動きをみてヘッジファンドなどがチョウチン売りに走ったのだろう」。
 ベテランの市場関係者はそう推察する。

 日本株については、アベノミクスが登場した2012年末以来の上昇率が、主要市場のなかでは最も高かった。
 グローバルな運用で損失を被ったファンド勢などが、損失を埋め合わせるために「益出し」の売りに動いた面もあるだろう。
 それにしても、株価の上昇を経済政策の成功の証としてきた現政権にとって、年初からの市場の乱気流は、暖冬のはずなのに猛烈な寒波に襲われた日本列島のようなものだろう。

■「中国は資本流出を規制すべし」

 では、どうやって中国の底割れを止めるのか。
 「私見だが」と断ったうえで、黒田日銀総裁は「中国当局による資本流出規制」に言及した。
 1月23日、スイスで開かれたダボス会議の席上である。
 「よりによって、金融当局者が資本規制を勧めるなんて」と思ったからだろうか。
 日本のメディアの多くは黒田発言の直後、腰の引けた報道に終始した。

 米欧のメディアの反応は全く違った。『
 ロイター』や『ブルームバーグ』など通信社が敏感に反応したばかりでなく、英紙『フィナンシャル・タイムズ』は26日の社説で、「唯一の合理的な選択肢」との評価を下した。
 中国からの資本流出が加速するなか、中国人民銀行による元買い・ドル売りの介入を繰り返しても、埒が明かない。
 資本流出規制という禁じ手も「背に腹は代えられない」と言う。

 確かに、中国株の下落の背景には、資本流出がある。
 人民銀がドル売り介入を続ければ、外貨準備の取り崩しに歯止めがかからない。
 人民銀が外貨準備を保有する中国の場合、
 人民銀の資産である外貨準備の減少は、意図せざる金融の引き締めを招く
 2014年6月末には4兆ドルに迫っていた外貨準備が、2015年12月末には3.3兆ドルまで枯渇したのは、ただごとではない。
 これだけ外貨準備を減らせば、意図せざる金融引き締めを招いてしまう。
 景気悪化局面で金融を緩和しなければならないのに、あべこべの方向ではないか。

■「王様は裸だ」

 問題は中国1国にとどまらない。
 元安の進行に伴って、輸出市場で中国と競合するアジア諸国の通貨にも、下落圧力が加わる。
 大不況下の1930年代の世界を襲ったような、中国発の「通貨切り下げ競争」が再燃しかねないのだ。
 元財務官である黒田氏は、こうしたリスクを踏まえて、中国に資本流出規制を提案したのだ。

 それはアンデルセンの「裸の王様」で、少年が「王様は裸だ」と叫んだようなものである。
 問題なのは、裸の王様が行進を止めるかどうかだ。
 アンデルセンの童話では、少年の「雑音」に惑わされぬように、というお側用人の忠告に従って、王様はますます「威風堂々」と歩き続ける。
 習近平皇帝の中東訪問に際しての言動を見ている限り、事態はアンデルセンの王様の後をなぞりそうだ。

 サウジ、エジプト、イランの3カ国を訪問した習主席。『人民日報』など官製メディアによる「意義づけ」によれば、
 メソポタミア、エジプトという古代文明の発祥地を中華文明の指導者が訪ね、「文明の交歓」をする。
 21世紀のシルクロードの道中に当たる中東に、中国の足跡を刻むというのだ。

 ウィットフォーゲルの言う「オリエンタル・デスポティズム(東洋的専制)」を好むかどうかは、趣味の領域に属するので、文明の交歓の是非を論じることはすまい。

■中国経済の「実像」

 それにしても、原油安で財政と経常収支が「火の車」になっている産油国や、アラブの春以降の経済悪化に直面するエジプトに、気前よく餅を配る。
 そんな習主席の旅姿をみて、「原油安の元凶はどなたなのか」という疑問を抱くのが人情というものだろう。
 中国需要の停滞→原油底割れ→産油国経済の悪化という将棋倒しは、裸の王様に出てくる少年ですら(ならばこそ)、明らかなはずだからだ。
 まさか「原油安を招いた迷惑料」として、餅を配っている訳ではあるまいに。

 日本の「識者」のなかには、
 「中国は奥が深い。経済危機だと言われるが、餅を配る余裕があるじゃないか」
などという向きもある。
 贔屓の引き倒しとはこのことだ。
 母屋が焼けているのに、旅に出てお大尽ぶりを発揮している姿にこそ、市場関係者は身震いしているのだ。
 身震いの根っこにあるのは、米国に次ぐ世界第2の経済大国の中身が信用できない点に尽きる。

 鉄道輸送、発電量、銀行融資ではじいた「
 李克強指数」によれば、足元の中国の経済成長率は2%程度。
 そんな「実像」が指摘されて久しい。
 この李克強指数に対しては、
 「製造業中心の指標だ。実際の中国経済はサービス化が進んでいる」
との反論も出ている。

 中国を足しげく訪れているジャーナリスト近藤大介氏の近著「中国経済『1100兆円破綻』の衝撃」をみると、
 「サービス化」なるものはにわかには信じがたい。
 それでも、2015年10~12月期の中国の実質成長率は、前年同期比6.8%と7%近い。
 そんな気休めを言う向きも少なくないが、問題は同時期の名目成長率がどのくらいだったかだ。
 名目成長率は5.8%と、実質を1%ポイントも下回っているのだ。

■「デフレ」に陥った中国経済

 「名目<実質」となったという現実は、中国経済がデフレ(物価下落)に陥ったことを意味する。
 実質と名目の差額であるGDPデフレーターでみて、1%のデフレになったのである。
 しかも5.8%という名目成長率は、1999年7~9月期以来の低成長である。
 デフレと低成長といえば、バブルが崩壊し金融危機を経験した日本そのものである。
 アジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金(SRF)でお大尽ぶりを発揮するそばから、中国は「新たな日本」への道を踏み出そうとしている。

 その姿が見えるからこそ、株式市場は怯え、中国からの資本流出は加速しているのだ。
 皮肉にも、国際通貨基金(IMF)が人民元のSDR(特別引き出し権)の構成通貨入りを認めた昨年11月末から、この矛盾は深刻になった。
 国際金融の世界では、
(1)為替の固定相場
(2)自由な金融政策
(3)自由な資本移動、
 の3兎を追うことはできない。
 有名な国際金融のトリレンマ(三者択一の窮地)である。

 今の中国は「人民元の国際化」という背伸びをしたばかりに、
 本格的な資本流出規制に踏み切れず、
 元安の加速と金融政策の自由度低下という、
 法外なコストを払わされつつあるのだ。
 山頂から転がる石を山頂に持ち上げる所作を繰り返す、ギリシャ神話のシジフォスのようなものである。
 それを英雄の振る舞いと任ずるのは自由であるが、その結果として自らの滅びが世界を道連れにするとしたら――。
 申年のブラックスワンの羽ばたきに日本と世界が戦慄せざるを得ないのは、このためだ。

ジャーナリスト・青柳尚志
Foresight(フォーサイト)|国際情報サイト
http://www.fsight.jp/



レコードチャイナ 配信日時:2016年1月31日(日) 16時31分
http://www.recordchina.co.jp/a128088.html

「二人っ子政策」と「AIIB」で経済復活なるか
―今年は習近平指導部にとって正念場

 今年は年初から中国経済減速への警戒感から、東京をはじめ、ニューヨーク市場など世界同時株安に見舞われたが、年末年始に北京から一時帰国した駐在員の知人と久しぶりに盃を傾けていたら、彼が
 「日本では、中国の経済は落ち込むばかりと思われているかもしれないけれども、ビジネスチャンスはまだまだ大きいよ」
と笑顔を見せていた。

 意外な言葉に、私は
 「でも、環境汚染で住むのも大変だし、株価も急速に下がっているのでは?」
とつい突っ込みを入れてしまった。
 ところが、彼は
 「中国政府は景気浮揚のために2つの秘策を練っている」
と自信たっぷりだった。
 
1].「秘策その1」は今年から本格導入される「二人っ子政策」だ。
 36年も続いた「一人っ子政策」が廃止され、子供を2人まで生むことができるので、当面はベビー用品の需要が高くなる。
 単純に考えると、その後、年を経るごとに生活用品や教育費など、これまでの2倍の需要を見込むことができる。
 ただ、中国メディアのアンケートでは、大都市圏では教育費などが高く、いまのところ4割以上が「経済的に2人も育てることは無理」と回答しているが、それでも賛成は3割、状況次第が3割で、全体の6割が肯定的に受け止めている。

 「それに、中国政府が政策としてアピールすれば、地方都市では『子供は2人持つもの』との認識も広がってくる。
 大都市部でも子供を2人以上持ちたいという富裕層も多い。
 徐々に子供2人が常識になってくるのではないか」
と彼は楽観的だ。

2].「それでは、秘策の2は?」と問うと、
 「中国は人口が多い。
 13億人もいる。
 そのうち農民工(出稼ぎ労働者)は2億7000人。
 中国政府は農村の都市化を急いでおり、農民工がその住人になれば、余っている住宅もどんどん売れていくというわけだ」
と彼は鼻息が荒い。

 中国には「鬼城」と呼ばれる誰も住んでいないマンションなどの空き家の在庫が10億平方メートル、約1300万世帯分もあるとロイター通信は伝えている。
 これはオーストラリアの全人口を収容できる水準だ。

 中国政府は農村の都市化を進めるために、これらの余剰住宅の値段を下げて、農民工ら低所得者に優先的に販売するとの政策を立案中との情報がある。
 また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設で、海外での出稼ぎ労働も増えることから、農民工の所得アップにもつながるというわけだ。
 彼は 「習近平はこの2つの秘策を単なる初夢には終わらせないと思う」と自信に満ちた笑顔で語っていた。

 さて、彼が言うように、中国経済は2つの秘策で上昇局面に転じるかどうか。
 今年は2017年の党大会の1年前だけに、習近平は人事を含む政治局面を安定化させなければならないが、それには経済が重要なファクターになる。
 このため、今年は習近平指導部にとって正念場となるのは間違いない。
 なんだか、頼りない秘策である、と思われるのだが。



現代ビジネス 2016年02月02日(火) 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47606

中国が出す経済指標はウソ八百
〜習近平の「経済工作会議」議事録を公開する

■GDP成長率を「水増し」

 「2015年のわが国のGDPは、67兆6708億元で、前年比6・9%増だった。
 四半期毎に見れば、第1四半期が前年同期比7・0%増、第2四半期が7・0%増、第3四半期が6・9%増、第4四半期が6・8%増だ。
 世界経済全体が悪化している中で、よくこれだけ経済成長ができたものだと、誇らしく思う」

 1月19日、中国国家統計局の王保安局長が、年に一度の記者発表会でこう述べた時、会見場はシラ~ッとした雰囲気に包まれた。
 すかさず、英字紙『チャイナ・デイリー』の若い記者が、挙手して質問を浴びせた。

 「この一年間というもの、多くのメディアや研究機関が、中国政府が公式発表するGDP成長の数値の真実性について、疑問を投げかけてきた。
 その中には、『中国の本当のGDP成長率は5%以下だ』と暴露するものもあった。
 こうした多くの疑念に対して、国家統計局はどう答えるのか?」

 この思いも寄らぬ「爆弾質問」に、王局長は、やや狼狽した様子を見せながらも、開き直って答えた。
 「私たちも、やれどこかの研究機関だ、研究者だという人々が、中国のGDPについて、あれこれ勝手に論じているのは承知している。
 だが、それらの評論には2通りあるのを知っているか?
 一つは、いま記者が質問したように、国家統計局は、実際のGDP成長の数値を水増しして発表しているというものだ。
 だがもう一つは、国家統計局は、実際のGDP成長よりも控え目な数値を発表しているというものなのだ」
 会場を埋め尽くした数百人の記者たちは、この王局長の発言を聞いて、開いた口が塞がらなかった。

 その日、中国で7億人が使用している「微信」(WeChat)では、次のようなメッセージが広がった。

〈われわれは中国人に生まれて、本当に幸せだ。
 なぜなら今後、中国経済がどんどん悪化していき、財政部や商務部、国家発展改革委員会などが「もうお手上げだ」とサジを投げたとしても、最後には国家統計局がついているのだから〉

 中国は5年毎に、経済の「5ヵ年計画」を策定している。
 習近平主席は昨年末、「第12期5ヵ年計画」('11年~'15年)が、25の主要目標をほぼすべて達成し、大成功のうちに終えたと自画自賛した。
 だが、今年から始まる「第13期5ヵ年計画」については、口数が少ない。
 これから
 5年先の中国経済など、どこまで悪化しているか想像もできない
というのが、正直なところだからだ。
 そのためか、'16年の経済方針を中国のトップが集まって話し合う昨年末の「中央経済工作会議」も、日程さえ発表されないという異常な事態となった。

 在北京ジャーナリストの李大音氏が語る。

 「この会議は習近平主席が招集し、『トップ7』(党中央政治局常務委員)を始め205人の中央委員、7人の中央書記処書記、全人代(国会)常務委員会の幹部、5人の国務委員、最高人民法院(最高裁)院長、最高人民検察院院長、全国政協の幹部、11人の中央軍事委員、31の地方自治体トップら計400人ほどが参加します。

 会場となるのは、北京西郊の人民解放軍総参謀部が経営する要塞のような京西賓館の大会議室です。

 われわれ記者は、このものものしいホテルの近辺に、近寄ることさえできません。
 そこで、京西賓館の最寄り駅である地下鉄9号線の軍事博物館駅西南出口が閉鎖された日を見て、12月18日から21日まで会議が開かれることを突きとめたのです」

■人民銀行総裁も更迭か

 では、この4日間、「要塞ホテル」で一体何が話し合われたのか? 
 李氏が続ける。

 「今回は中国経済の見通しがあまりに悪いため、『中央経済工作会議』の前段階として11月上旬に、国内の主要な経済学者らを一堂に集めて、意見聴取したそうです。

 そうしたら、少なからぬ経済学者が習近平政権に媚びて、いまの悪状況を正当化する理論を授けてくれた。
 それに喜んだ習近平主席は、散髪してサッパリした表情で『中央経済工作会議』に臨み、約400人の幹部を前に、自信ありげに『5つの改革プラン』をブチ上げたのです」

本誌が独自に入手した会議の議事録には、次のように記されている。

「5つの改革プラン」とはすなわち、「3つの除去、1つの降下、1つの補填」だ。

 まず生産過剰と、不動産の空き室、金融リスクの3つを除去していく。
 そして減税などによって企業コストを減らし、
 最先端技術など、いまの中国に足りないところを補っていく〉

 「習近平主席は特に、中国全土に広がりつつある『鬼城』(ゴーストタウン)を解消するため、『中央経済工作会議』の後半の2日間に、『中央都市工作会議』なる会議を開いたのです。
 この会議は1978年に開かれて以来、37年ぶりの開催で、習近平主席は、『'16年に戸籍制度改革を断行する』と宣言したのです」(同・李氏)

 中国の戸籍制度は、国際社会から「現代のアパルトヘイト政策」と非難されている。
 中国人を「都市戸籍」と「農村戸籍」に分け、「農村戸籍」の人々が、北京や上海に出稼ぎに来ても、まるで外国人のような扱いを受ける。
 税金、教育、社会保障、住宅など、あらゆる面で差別されるのだ。
 そして「農村戸籍」の人々が都市で出産しても、子供は「都市戸籍」を取得できない。

 会議の議事録には、次のように記されている。

〈わが国の都市化率(全人口に占める都市部の戸籍人口の割合)は、1978年に18%弱だったのが、'14年には55%弱まで上昇した。
 人口で言えば、1億7000万人から7億5000万人に増加した。

 その間、都市の数は193市から653市に増加した。
 毎年の都市部人口の増加は2100万人に上り、これはヨーロッパの中等国家の人口に匹敵する。

 わが国には、2億7000万人の『農民工』(出稼ぎ農民)がいる。
 今後、彼らに、人口500万人以下の都市の戸籍を与える。
 それによって彼らも、マンションを買ったり借りたりできるようになる。
 そうすれば、都市の空き家問題は解決し、消費も拡大し、経済はV字回復するだろう〉

 前出の李氏が解説する。

 「たしかに、本当に戸籍制度改革が実現すれば、それは習近平政権最大の革命的事業になることは間違いありません。
 ところが『中央都市工作会議』を開いている最中、間の悪いことに、中国最大の『模範都市』であるはずの広東省深圳市で、大規模な土砂崩れ事故が発生してしまったのです」

 100人以上が土砂に埋もれている——緊急ニュースが入ってから、習近平執行部は「中央経済工作会議」や「中央都市工作会議」どころではなくなってしまったという。
 年が明けるや、今度は上海株式市場に火がついた。
 何と1月の2週間で、上海総合指数が、18%も下落してしまったのである。
 「1月12日に、危険ラインと言われる3000ポイントも、あっさり割りました。
 このまま1ヵ月間、3000ポイントを下回れば、中小の銀行の破綻が一気に現実味を帯びてきます」(同・李氏)

 いまや、
 「ミスター人民元」こと周小川・中国人民銀行総裁の更迭説が、北京の金融街でまことしやかに広がっている。
 中国経済、もう待ったなしである。

「週刊現代」2016年2月6日号より



サーチナニュース 2016-02-03 07:33
http://news.searchina.net/id/1601501?page=1

中国で「負のスパイラル」加速の可能性 
「人口減少は政府想定よりずっと早くやってくる」
と人口学者が口々に

 中国政府は現在、中国の人口は2030年に増加から減少に転じるとする見解を示している。
 中国メディアの第1財経は1日、多くの学者が
 「中国の人口はもっと早く減少に転じる」、
 「2023年ごろだろう」
と考えていると指摘する記事を掲載した。

 中国では長らく厳しい産児制限が続いた。
 いわゆる「一人っ子政策」だ。2016年までには、届け出をすれが2人目の子を産めるようになったが、政府の思惑通りには、出生数は増えない見通しという。

 記事は、現状において「3人目の子」として生まれる赤ちゃんが、2015年の場合全出生数の1655万人に対して80万人強で、出生数の5%程度しかいないことに注目。
 夫婦1組について「3人目の赤ちゃん」は規則違反ということになるが、それにしても小さすぎる数字で、中国人全般に「子づくり」に対する意欲が低迷しているのは明らかという。

 中国政府は「2人目の出産の解禁」で、年間の出生数が300万増加すると見込んでいる。
 2050年までに出現する労働人口は3000万人分増加し、人口バランスにおける老齢化も緩和できるとの考えだ。
 そして、中国の人口が減少に転じるのは2030年と見積もっている。

 しかし、人口学者の姚美雄氏が計算したところ、2050年における労働人口の増加は「3000万人には、はるかに届かない」水準にとどまるという。
 また、高齢者が多くなるので死亡も増え、2023年には中国の人口は減少しはじめるという。
 政府の見込みより7年も早いことになる。

 人口学者の黄文政氏は、出生人口のピークは2017年で、年間出生数は1750万人から2000万人と予測する。
 しかし2018年には激減し、2020年までの平均で年間出生数は1650万人から1850万人と、最低ラインの場合現在とほとんど変わらないという。

 同じく人口学者の顧宝昌氏は、政府が「2人目の出産を望む可能性がある」として計算に入れている女性のうち、40歳以上の人が50%以上と指摘。
 「2人目の出産を解禁」しても、政府が期待する効果はでないだろうとの考えを示した。
 顧氏が全国各地で調査したところ、
 「2人目の子を作っても、経済的事情で育てるのが難しい」、
 「2人目を生むと、女性は仕事に影響が出る」、
 「子どもを見てくれる人がいない」
などと言う夫婦が多かったという。

 中国経済の柱はこれまで、外需と投資だった。
 しかし、リーマンショックなどは「外需はあてにならない」教訓を示した。
 投資についても、「リターンを真剣に考えない投資」が多く行われ、深刻な財政難に陥った地方政府も多い。

 中国政府はそのため、内需拡大に力を入れることになった。
 そして内需拡大ための大きな障害のひとつが、社会保障制度が未整備であることとされる。
 老後などに不安を持つ人が出費を避けるからだ。

 少子高齢化が進行してから社会保障制度を整備するのは極めて難しい。
 社会保障制度を確立しないと、経済運営が困難になる。
 経済運営が困難になれば、社会保障制度の整備は困難になる。
 社会保障制度が整備できなければ、内需拡大もや少子高齢化の緩和が難しくなる――。

 中国経済と中国社会の構造問題で、
 「負のスパイラル」が加速する可能性は否定できない。



ロイター  2016年 02月 7日 09:30 JST
http://jp.reuters.com/article/column-china-capital-control-japan-idJPKCN0VE0GB?sp=true

コラム:中国に勧めた資本規制、
日本自身も必要か

[2日 ロイター] -
 「資本規制の導入」という中国へのアドバイスに、結局のところ、日本自身が従うことになるかもしれない。
 現在、中国、日本、その他の国のあいだでは、限られた海外需要をめぐって実質的に通貨切り下げ競争が行われている。
 これは最終的に、資本規制のようなきわめて例外的な措置がふさわしく思えるような異常事態を引き起こす可能性がある。

 1月29日、日本はマイナス金利の導入を発表したが、これは明らかに円の価値を引き下げ、金融資産価格を引き上げることを意図した動きだった。
 日銀はデフレ対策という名目で正当化しているものの、この新たな政策の根底にある原因は、膨大な資本が中国から流出して元相場を引き下げ、日本と、その貿易相手国であるアジア諸国に打撃を及ぼしていることなのだ。

 ダボス会議では黒田日銀総裁が、個人的な見解としたうえで、中国の資本規制について、国内金融政策を緩和的としながら通貨を安定させるうえで適切だと述べるという、きわめて異例の場面が見られた。

 先進諸国の中央銀行業務に携わる日銀総裁が資本規制を呼びかけるというのは、聖職者が教区の信者たちに対して、資金繰りのギャップを埋めるために、もちろん一時的にせよ、悪魔との取引を勧めるようなものである。

 ある経済に出入りする自由な資金フローに対して制限を設ける資本規制について、国際通貨基金などが以前よりも柔軟な姿勢をとっているとはいえ、黒田総裁が資本規制の強化を主張するというのは事態の深刻さを物語っている。
 中国は早いペースで外貨準備を取り崩しつつあるが、元安が続くという状況が、特に日本に大きな打撃を与えつつある。

 日本のマイナス金利への移行によって銀行融資が再び活発になる可能性は低い。
 その代わり、マイナス金利は銀行などに対し、円建て債券を売って海外資産を購入するインセンティブを与えるだろう。
 それによって円相場は押し下げられる。
 現在日銀は、政府が国債を発行する以上のペースで国債の買い入れを続けており、日本にとって事実上、最初の貸し手であると同時に最後の貸し手にもなっている。

 確かにこうした状態を長く続けることは可能だ。
 しかし、マイナス金利が金融システムに生み出す、あるいはさらに悪化させるゆがみによって、最終的に日本は、資本規制が魅力的に見えてくるような状況に置かれる可能性がある。

 ハイ・フリクエンシー・エコノミクスでエコノミストを務めるカール・ワインバーグ氏によれば、金利の低下は、超長期の債務を抱える日本の銀行、保険会社、年金基金にとって大きな問題をもたらすという。
 手持ちの債券が満期を迎えても、債務の返済を可能にするほどの利回りをもたらすような新たな債券で置き換えることが不可能になるからだ。

■<出口なし>

 すると、日本には日銀以外に国債を買ってくれる普通の買い手がほとんどいないことになってしまう。

 ワインバーグ氏は顧客向けのノートで、
 「つまり、日銀は国債の購入を絶対にやめられなくなってしまう。
 政府への資金供給が断たれてしまうからだ。
 量的緩和からの出口戦略として、公共財政を完全に破綻させるようなものしか残らない」
と書いている。

  「このスキームによって、マイナス金利のもとでも資金が日本から流出せず、有効に使われるように仕向ける唯一の方法は、
 政府が資本規制を課して海外への投資を抑制することだ。
 これが次の一手かもしれない」

 もちろん、日本経済が回復して金利が上昇し、最終的に資金が国内に環流して、(国債による)資金調達の必要性を徐々に減じていくような形で投資される、という可能性はある。
 理屈のうえではそのとおりなのだが、これまでのところ、マイナス金利政策の実績は芳しくない。

 人口減少局面にあって、なおかつ移民受け入れに消極的な日本が、成長とインフレを確保するうえで非常に困難な問題に直面していることを考えれば、なおさらである。
 もちろん、近年、成長とインフレの回復に向けた日本の取り組みが挫折した例がいくつも見られる一方で、日本が資本危機に直面する方に賭けた投資家が損失を被った例もたくさんあるのは指摘しておく意味があるだろうが。

 日本が抱える問題のややこしさと難しさに拍車をかけているのが、中国の状況である。

 中国は需要の低下と資本の流出を通じて、デフレを海外に輸出しつつある。
 中国は資本流出を防ぐ措置を追加するかもしれないが、そうすれば国内の需要を刺激する余地をある程度犠牲にせざるをえない。
 言うまでもなく、今回の日本の動きによって、中国が対抗措置に出る可能性は高まっている。

 人々がいま、プラザ合意を思い出しているのは少しも不思議ではない。
 1985年、円とドイツマルクに対してドルを切り下げるために米国をはじめとする先進諸国による通貨市場への協調介入だ。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが主張するように、元の切り下げに向けて、あるいはドイツ銀行が構想するように、ドルの切り下げに向けて、プラザ合意のような協調が再現されるかどうかは不明である。

 この段階では、状況が奇妙なものになりつつあり、想定される結末がますます多岐にわたっているように見える、とだけ言っておこう。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)




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