2016年1月30日土曜日

日銀が日本の金融史上初のマイナス金利導入:マイナス金利ってなんだ?

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ロイター 2016年1月29日(金)18時09分

日銀が日本の金融史上初のマイナス金利導入、
物価リスクに予防措置

世界経済の退潮に連動しアベノミクスが失速しつつあるなか、日銀・黒田はメガトン級の金融緩和策で賭けに出た

 日銀は29日の金融政策決定会合でマイナス金利を導入する追加金融緩和を決定した。
 年間約80兆円のペースでマネタリーベースと長期国債の保有残高を増加させるこれまでの方針は維持する。

 ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)の買入額も据え置いた。
 日銀では今後、
 量・質・金利の「3つの次元」の緩和手段を駆使して金融緩和を進める、
としている。

 日銀が追加緩和に踏み切ったのは、新興国経済の不透明感の強まりや最近の金融市場の不安定化などにより、
 「企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大している」
ことが背景。

 マイナス金利の導入の狙いは「
 イールドカーブの起点を引き下げ、大規模な長期国債買い入れと合わせて、金利全般により強い下押し圧力を加えていく」
ことにより、
 「3つの次元の緩和手段を駆使して、物価2%の早期実現を図る」
と説明。
 今後も必要があれば、マイナス金利幅をさらに拡大させていく方針だ。

 マイナス金利は、
 日銀当座預金にマイナス0.1%の金利をつける。
 2月16日から始まる準備預金の積み期間から適用する。

 具体的には、日銀当座預金を3つの階層に分け、それぞれに異なった金利をつける。
1].量的・質的金融緩和(QQE)のもとで各金融機関が積み上げた分については、「基礎残高」としてこれまで通りプラス0.1%の金利を適用。
2].また、所要準備額に相当する残高などは「マクロ加算残高」として適用金利をゼロ%とする。
3].らに、各金融機関の当座預金残高のうち上記を上回る部分を「政策金利残高」とし、マイナス0.1%の金利を適用する。

 なお、金融機関の現金保有によってマイナス金利の効果が減殺されることを防ぐため、保有額が大きく増加した場合には「マクロ加算残高」から控除する。

 マイナス金利のもとでの長期国債買入については、下限金利を設けずにマイナス0.1%を下回る金利での購入も行う。

 マイナス金利の導入には9人の政策委員のうち5人が賛成。
 白井さゆり、石田浩二、佐藤健裕、木内登英の4人の審議委員が反対票を投じた。
 このうち白井委員は反対理由として、資産買い入れの限界と誤解される可能性や、複雑な仕組みが混乱を招く恐れを指摘している。

 マイナス金利は欧州の複数の国々で採用されているが、日本では初めて。

 (伊藤純夫 竹本能文)

[東京 29日 ロイター]



2016年01月29日(Fri)  BBC News
http://www.bbc.com/japanese/35436079

日銀、マイナス金利導入 追加緩和策で

 日本銀行は29日に開いた金融政策決定合で、追加的な金融緩和策としてマイナス金利の導入を決めた。

 日銀は金融機関から預かる当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用する。
 主に影響を受けるのは銀行間取引で、預金者の預金金利などには直接影響しない。

 日銀は追加緩和によって、物価上昇率および経済成長率の引き上げを狙っている。
 当座預金へのマイナス金利導入で、金融機関が余剰資金を滞留させる動機が少なくなり、企業などへの貸し出しが増えることを期待している。

 29日に発表された12月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除いたコア指数が前年同月比0.1%の上昇だったが、日銀が目標とするインフレ率2%には遠く及ばない水準となっている。
 同日発表された12月の鉱工業生産指数は前月比1.4%低下し、予想を下回った。
 低下は2カ月連続で、外需と内需ともに弱い状況が浮き彫りになった。

 29日午後に記者会見した黒田東彦日銀総裁は、追加策を決めた理由に世界経済の先行き不透明性を挙げた。
 黒田総裁は、日本経済は緩やかな回復を続けており、物価の基調は着実に改善しているとしながらも、原油価格のさらなる下落や、中国を含む新興国経済の見通しの不透明性、世界的な市場の不安定化が企業心理を弱め、デフレマインドが払拭される時期を遅らせる可能性があると述べた。

 日銀の決定を受けて、アジア株式市場は軒並み上昇し、円の為替レートは下落した。
 一方、日本の銀行株は、さらなる利ざやの縮小見通しから売られた。

■最後の手段

 しかし、追加策の効果については疑問視する声も出ている。
 富士通総研のマルティン・シュルツ上席主任研究員は、
 「マイナス金利は日銀が持つ手段の最後のひとつだ」
としたものの、
 「インパクトはそれほど大きくないだろう」
と語った。

 同氏は、
★.ユーロ圏がマイナス金利を導入したのは金融危機に対応するためで、
★.日本の長引く低成長
とは違うと指摘し、
 「日本で信用拡大が起きなかったのは、銀行が融資を渋ったのではなく、企業が借り入れが必要になる投資機会を見いだせなかったためだ。
 マイナス金利をもっても、状況は変わらないだろう」
と語った。

 同氏はさらに、
 「企業は資金を必要としていない。
 必要なのは投資機会だ。
 それは構造改革によって実現するもので、金融政策によってではない」
と述べた。

 今回の追加策の前に日銀はすでに大規模な量的緩和策を導入しているが、経済成長率を大幅に押し上げるには至っていない。

(英語記事 Japan adopts negative interest rate in surprise move)
提供元:http://www.bbc.com/japanese/35436079



ロイター 2016年 01月 29日 20:18 JST
http://jp.reuters.com/article/boj-policy-rate-idJPKCN0V70AM

日銀追加緩和でマイナス金利導入、
株価は乱高下

[東京 29日 ロイター] -
 日銀は29日の金融政策決定会合で、従来の年間80兆円の国債など資産買い入れに加え、金融機関の手元資金である当座預金の一部金利をマイナスにする新手法を導入する形で追加緩和に踏み切った。
 予想を裏切る緩和手法に市場は混乱、株価は乱高下した。

 原油価格の急落を反映し、2%の物価目標達成時期は従来の2016年度後半から17年度前半に先送りした。

■<当座預金を3分類、新規分にマイナス金利>

 マイナス金利を導入するのは、短い金利をマイナスにすることで利回り曲線の全体を押し下げ、あらゆる年限の金利を押し下げて景気を刺激するのが狙い。
 しかし、当座預金の付利が多くの金融機関の大きな収益源である現状を考慮し、マイナス金利は部分的に導入する。
 従来からからの当座預金(昨年末残高220兆円)には従来通り0.1%の金利を付与、
 所要準備額に相当する額や、定期的に見直す一定額など(「マクロ加算残高」、現残高30兆円)に対してはゼロ金利を、
 これら以外で、今後増える当座預金(現残高90兆円)については0.1%のマイナス金利を適用する。

■<白井委員ら4人が反対、5:4薄氷の決定>

 マイナス金利の導入については白井さゆり委員ら4人の審議委員が「複雑な仕組みが混乱を招く」(白井委員)などの理由から反対票を投じ、9人の審議委員中5対4の薄氷の決定となった。
 展望リポートでは、原油価格の前提を昨年10月の足元バレル50ドル(ドバイ産)から35ドルへと大幅に引き下げた。
 2016年度の見通しでは、エネルギーが消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)を押し下げる幅を従来の0.2%から0.7─0.8%に拡大。
 16年度のコアCPI見通しを1.4%から0.8%に大幅に引き下げた。
 マイナス金利政策を多くの市場関係者は「難解」と受け止め、理解に手間取った。
 公表直後、日経平均.N225は600円近く上昇した後、約270円安まで下落する場面もあった(終値は450円高)。
 ドル/円JPY=も121円半ばまで上昇した後、一時120円を割り込むなど乱高下している。
 このため市場では
 「これまで緩和策を打ち出してきた際のように、一方的に円安に進むシナリオは描きにくい」(ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミストの上野剛志氏)
との声が多い。
 黒田東彦総裁は記者会見で、2年で資金供給量を2倍にして2%目標の達成を目指した量的・質的緩和(QQE)と比べ、マイナス金利政策は一般の人々にわかりにくいのでは、との質問に対し、
 「重要なことは中央銀行の物価目標への強いコミットメント、何でもやるということだ」
としたほか、
 「政策の詳細を国民が理解しないと効果がないということはない」
と反論した。

■<株価急落、「デフレマインド転換の遅延リスク防ぐ」>

  黒田総裁は今回追加緩和に踏み切った背景として
 「中国をはじめ新興国や資源国経済に対する先行き不透明感から金融市場は不安定な動きとなっており、デフレマインドの転換が遅延するリスクの顕現化を未然に防ぎ、(物価上昇の)モメンタム(勢い)を維持するため」
と説明。
 日銀はすでに国債の3分の1を保有しているため、現在の年80兆円ペースの国債買い入れをさらに度々拡充するのは難しいとの見方が多いが、黒田総裁はマイナス金利を導入したのは
 「量的拡大が限界に達したということではまったくない」
と強調した。



 『マイナス金利』ってなんだ?
 と言うことになる。


知恵蔵2015の解説
https://kotobank.jp/word/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%B9%E9%87%91%E5%88%A9-183333

マイナス金利

 金利がマイナスになること。
 通常は預金・貸し金の利子あるいは利息である金利(名目金利ということもある)がマイナスになることはないが、超低金利時には短期金利が極めてまれに瞬間的にマイナスになることもある。
 名目金利から物価上昇分を引いた実質金利では、インフレが高進する時にはしばしば起こりうる。
 逆に、物価が下落(デフレ)している場合は、ゼロ金利であっても実質金利はプラスになる。
 「ゼロ金利政策がとられていた日本だが、デフレのため実質金利は高い。
 高実質金利は企業の経済活動に多大な影響を及ぼし、ひいては日本経済回復の遅れにつながる。
 経済回復には実質金利を下げる対策が望まれ、それにはある程度の物価上昇が必要」
というのが、インフレ・ターゲット論者の根拠の1つになっている。
(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)



海外投資データバンク
http://www.world401.com/saiken/mainasu_kinri.html

マイナス金利が起きる理由

2015年1月に、スイスで長期金利(10年債の利回り)がマイナスに転じるという、人類史上初めての珍事が起きました。
 隣国ドイツでも、既に短期金利がマイナスになっているなど、ユーロ圏ではマイナス金利が恒常化しつつあります。
 マイナス金利とはつまり、国債を保有していれば損失が発生する事を意味します。

 なぜスイスやドイツでは、政府や中央銀行はマイナス金利という異常事態を容認しているのでしょう?
 国債のマイナス金利が起きる理由の一つは、
 銀行に国債を買わせず、融資を増やさせたいためです。
 銀行が国債ばかり買って貸出に回さない状態だと、国内の資金循環が停滞して景気が回復しません。
 国債を買えば損失が出る状態にしておけば、銀行は企業への貸出にシフトせざるを得なくなります。
 つまり、銀行が民間企業への融資を増やさせる為の強制政策だとも言えるのです。

 二つ目の理由は、デフレが深刻化している事への対策です。
 金利は常にインフレ率と等しい水準でないと、経済は破綻します。
 例えばインフレ率が10%と高い状態なのに金利が3%しか無ければ、1年で購買力が7%ずつ目減りしていく計算になります。
 これだと国民も企業も、お金を貯めずに使い切らなければ損だという心理になるので、消費が過剰になり、ますますインフレが進みます。
 デフレの場合はこれと逆です。
 物価が年率-1%なのに金利が3%あれば、消費せずに貯蓄しようというバイアスが強まり、物が売れなくなるので増々デフレが進み、景気が悪化します。
 デフレを解消するには、物価水準よりも金利が低ければ、消費や投資を増やすバイアスが働きます。
 インフレ率が-1%なら、金利が-1.5%とか2%とか、物価よりも低い水準になればよい訳です。

 ユーロ圏ではギリシャ危機以降、長らくデフレ圧力が続いており、景気の足かせとなっていました。
 長期金利がマイナスに転じたスイスでは、物価上昇率が-0.5%(2015年1月)というデフレ状態です。
 同時期にドイツも-0.4%です。
 これらの国では、金利もマイナスにしなければ、経済が悪化していく訳です。

 マイナス金利の本質を一言で表すと「強引な金融緩和(景気対策)」だと言うことです。

■それでも国債が買われる理由

 もしマイナス金利で誰も国債を買わなくなれば、国債価格が暴落する事になります。
 しかしドイツやスイスでは、マイナス金利になって以降も、相変わらず金融機関はある程度は国債に投資しており、暴落など起きていません。

 マイナス金利でも国債が売れる理由は、それでもタンス預金するより低コストだからです。
 一般国民は、金利がマイナスだと「家で現金の形でおいておく(タンス預金)」という方法を使えます。
 しかし機関投資家は、保有する金額が数百億円単位という大規模になるので、タンス預金することは出来ず、単純に現金で保有しておくだけでは(セキュリティなどの面で)コストが掛かります。
 国債がマイナス金利でも、現金のまま保有しておくコストよりも安ければ、買った方がマシだと言う訳です(※注1)。

 もう一つの理由として、
 国債は金融機関同士の短期資金の融通の際に、担保として利用できるという意味もあります。
 よって機関投資家は、たとえマイナス金利であっても、国債の形で保有しておく方が有利になる訳です。
 ですから、ドイツやスイスがマイナス金利でも国債の暴落は起きず、購入が絶えないのです。


 どうも
 この『マイナス金利』というのは「日銀のやる気」を示すためのアドバルーンで、
 実質効果を狙ったものではないようだ。
 心理的効果で市場を活性化させようとということであり
 一種のショック療法
である。
 ショックで動き出せば万々歳といったもののようである。
 実質的なものではないようだ。


ダイヤモンド・オンライン編集部 2016年1月30日
http://diamond.jp/articles/-/85484

驚きの日銀マイナス金利導入、効果はどれほどか?

■意表を突いたマイナス金利導入
市場は“迷って”一時大混乱に


●はたして三度目の“黒田バズーカ”となり得るのか
Photo:REUTERS/AFLO

 1月29日12時半過ぎ、日本銀行がマイナス金利導入を発表した。
 このタイミングでこの内容の追加緩和は、間違いなくサプライズである。
 1月の追加緩和を予想する向きはある程度あったが、マイナス金利導入は、黒田総裁自身が従来否定的な発言をしていたこともあり、ほぼ全ての専門家・市場関係者にとっても想定外だったと言ってよい。

 これに対し、市場は複雑な反応を示した。
 日経平均は発表直後に500円近く上昇した後、約860円急反落。
 その後再び上昇に転じ、終値では477円高となった。
 ドル円相場も同様に、1ドル119円前後から121円台前半まで一気に円安方向に振れた後、119円まで戻し、再び円安に動いて29日19時時点で約121円となっている。日銀の決定をどう受けとめるべきかという、市場の迷いが感じられる。
 一方、長期金利は約0.2%から一時0.09%まで急低下、過去最低を更新した後、0.1%程度での推移となった。


●出所:日本銀行

 市場が“迷った”要因の一つは、日銀の発表した内容が少々複雑だったことである。
 マイナス金利は、銀行が日銀に預ける当座預金で、利息をつけず逆に手数料を課すことで、実質的に金利をマイナスにする(つまりお金を預けると目減りする)ものだが、今回、マイナス金利となるのは一部に限られた(上図参照)。

 当座預金を3種類に分け、
 既に銀行が預け入れている分(基礎残高)は従来通り金利+0.1%、
 今後預け入れが増える分のうち、金融機関が預金額の増に応じ積み立てを義務づけられる分や、東日本大震災復興支援のための資金供給関連(マクロ加算残高)分は0%とされた。
 そして、これ上回る分(政策金利残高)についてマイナス0.1%とするものだ。

■経済活性化、市場安定につながるという期待も
一方で「インパクト不足」で効果は限定的か

 今回の決定自体への、専門家や市場関係者の評価は分かれている。

  「マイナス金利の導入は、国債買い入れを増やすよりは効果的。
 日銀が金融機関から国債を買い取っても、金融機関はそれで得たお金を日銀に預けるだけだった。
 だがマイナス金利となれば、そういうわけにはいかなくなる。
 投資や貸し出しなど他に資金を振り向けざるを得ず、経済の活性化につながるだろう。
 本当の意味での金融緩和策になり得る」(井出真吾・ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジスト)

  「マイナス金利というキーワードを出したのは演出としてうまい。
 為替相場の動きを見ても、期待に働きかけるサプライズは成功と言える。
 ドル円は117円~122円、あるいは120円~122円で値固めしてくる可能性がある。
 欧州中央銀行(ECB)の追加緩和も想定されるため、米国の利上げの影響を日欧がカバーする体制、ということで、マーケットにとっては安心感になる。
 金融市場が少し安定する期待を持てる」(村田雅志・ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)

  「イールドカーブ(金利曲線)を押し下げ、消費や投資を刺激することを狙ったものだが、これ以上これが低下しても、追加的な緩和効果は大きくない。
 むしろ、市場機能の喪失がいっそう進むという副作用の方が大きい。
 マイナス金利となる対象が限られたことから、現時点での金融機関への影響はさほどないが、将来的には金融機関の収益が悪化し、そのコストが貸出金利に転嫁されて(貸出金利引き上げなどで)金融引き締めになるリスクもある」(小玉祐一・明治安田生命保険チーフエコノミスト)

 日銀の“狙い”についての見方も様々だ。

  「日銀の“陰の政策変数”は為替相場だ。
 年明け以降の金融市場混乱で円高が進んだ。
 今回追加緩和を行わなければ、1ドル115円を突破し、日経平均も1万6000円程度まで下落するリスクがかなり高かった。
 そうした“見送りリスク”を考慮して動かざるを得なかった」(小玉チーフエコノミスト)

  「円高進行を避けたかったのは確かだろうが、むしろ金融機関に実体経済を刺激するよう、促したかったのではないか。
 将来的には、法人口座預金の金利がマイナスになる可能性もあり、企業にもあらためて、内部留保の一部を設備投資や賃上げ、配当などに回せ、というメッセージを送ったものだと思う。
 特に賃上げに関しては、春闘を意識すれば、日銀にとって今回が最後のチャンスだった」(村田通貨ストラテジスト)

 一方で、多くの識者の間で一致している見解がある。
 「とりえあずサプライズではあったが、過去2回の緩和策に比べればインパクト不足」(小玉チーフエコノミスト)
であり、その効果、特に実体経済すなわち景気や企業への効果は限定的、ということだ。

■銀行が貸し出しを増やすかは疑問
株高・円安も長くは続かない可能性

 村田通貨ストラテジストは、
 「マイナス金利となるのは一部であり、+1%の部分のほうがはるかに大きいため、
 当座預金全体として見れば実はマイナス金利ではない」
と指摘する。
  「従って、効果はマーケットが最初に驚いたほどではないだろう。
 技術的にはマイナス幅を拡大することも可能であり、将来的には全体がマイナス金利となる可能性もある。
 金融機関がこれで追い込まれたのは事実で、資金は(当座預金への預け入れ以外のところに)しみ出さざるを得ない。
 だが、それが貸し出し増につながるかと言えば疑問だ。
 結局は株や不動産などのリスク資産に向かうのではないか」(村田通貨ストラテジスト)

  「経済の活性化につながる」と言う井出チーフ株式ストラテジストも、
 「足元で銀行の貸し出し増に需要があるかと言えば疑問であり、効果が出るまでには時間がかかるだろう」
とする。

 市場への影響という面でも、あまり期待はできない、という見方は多い。

  「株式市場は冷静に受けとめている。
 2014年10月の追加緩和では日経平均が当日で約755円、その後数日では1000円以上、上昇したが、今回は29日時点で477円というのはその表れだ。
 今後について言えば、1万8000円台への回復は少し早まったと思うが、その程度は実力値で放っておいても到達した。
 そんなことのために今回の決定を行ったとすれば、もったいない」(井出チーフ株式ストラテジスト)

  「“やはり量的なところ(国債・金融資産買い入れ)では限界があるから、金利という手段をとった”とマーケットは受けとめるだろう。
 株高・円安も長くは続かないのではないか」(小玉チーフエコノミスト)

 門司総一郎・大和住銀投信投資顧問経済調査部部長は、
 「インパクトは全くない」
と断じる。
  「これで株高・円安・デフレ脱却、となるかと言えば、ならない。昨年ECBが行った追加緩和では、資産買い入れ増額がなかったことで“失望売り”という結果になったが、それと同じようなものだ。
 タイミングとしては良く、株価上昇のトリガーにはなった。
 だが既に株価水準が低く、原油価格も下げ止まり、中国も悪材料出尽くしで投資家も押し目買いに動き始めているところだったため、実際には株価が上昇しても“日銀のおかげ”ではない。
 むしろ“やってもこの程度か”ということで、今後“黒田プレミアム”が剥げ落ちる可能性もある。
 日銀頼みの株式市場は決して健全ではなく、いずれ剥落は避けられないので、かえってそのほうが望ましい」(門司経済調査部部長)

■日銀が撃ち出した弾は
金融機関・企業・市場に届くのか

 黒田総裁は、金融決定会合後の会見で、
 「日銀が物価上昇率2%という目標に強くコミットし、そのためには何でもやる、と示すことが重要」
とし、
 「量的拡大が限界に達したということでは全くない」
 「今後は、経済・市場の状況に応じ、必要ならば“量、質、金利”という三つの次元でさらなる緩和を行う」
と強調した。

 実際、これで日銀の緩和手段が尽きたわけではない。
 状況次第で次の手を打ってくるだろう。
 今回、資産買い入れ拡大などの量的緩和は今後のオプションとしてあえて残した、との見方もできる。

 だが、“サプライズ”は、重ねるごとにそのインパクトが薄れるという面は否定できない。
 日銀はあくまで従来の金融政策方針を貫くのか、あるいはどこかで根本的な転換を迫られるのか。
 金融機関、企業、そして市場が、今回日銀が撃ち出した弾をどう受け止め、今後どう動くのかによって、答が見えてくることになるだろう。

(ダイヤモンド・オンライン編集部 河野拓郎)



朝日新聞デジタル 1月30日(土)8時40分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160130-00000014-asahi-bus_all

日銀、苦肉の「奇策」 マイナス金利導入



  株価の下落傾向が続くなか、日銀は金融緩和手法の転換に動いた
 大量に国債を買い、市場に巨額のお金を流し込む金融緩和を続けてきた日本銀行が、「マイナス金利政策」という新手法の導入に追い込まれた。
 欧州で先行例があるものの、日本では未知の政策に踏み込む。
 世界経済の先行きに不透明感が強まるなか、効果は出るのか。

■量的緩和、限界近づく

 「帰国後、仮に追加緩和を行うとしたら、どんな選択肢があるか検討してくれ」

 スイスで開かれた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)へ先週末出発する前、黒田東彦(はるひこ)総裁は幹部にそう指示した。
 年明けから中国経済の不透明感や原油安による資源国経済の低迷を嫌って、金融市場は混乱。円高と株安が同時に進んだ。
 だが、日銀の追加緩和への期待が徐々にふくらみ、先週22日には日経平均株価が前日終値より941円も上昇。
 追加緩和を予想した投資家が先回りして買いに動いたためで、2014年10月の追加緩和とは打って変わり、日銀は市場との駆け引きで後手に回った。
 「一発逆転の威力を秘めた追加緩和の必然性は増している」(大手証券エコノミスト)。
 そんな見方が市場で広がった。

 帰国した黒田総裁に幹部が用意していたのは、金融機関が日銀に任意で預ける預金の金利をマイナスにする「マイナス金利政策」だった。
 欧州中央銀行(ECB)が一昨年から導入しているが、日銀には経験がない「奇策」だ。

 その背景には、近づきつつある現行の緩和策の限界があった。
 13年4月に大規模な金融緩和を始めた当初、日銀が長期国債を購入する規模は年50兆円だった。
 だが、14年10月の追加緩和で年80兆円まで拡大。
 それでも、物価はなかなか目標に近づかず、日銀が保有する国債は発行額全体の3割まで占めるようになった。
 「17~18年には限界が来る」との外部機関の調査報告が相次いでいた。

 ただ、29日の金融政策決定会合では、日銀執行部が提案したマイナス金利政策の評決は、14年10月の追加緩和時と同じ5対4と「薄氷」の差だった。
 石田浩二審議委員は
 「これ以上の金利の低下が実体経済に大きな効果をもたらすとは判断されない」
と主張し、効果に疑問を投げかけた。



ニューズウイーク 2016年2月5日(金)10時47分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4464.php

黒田が見せた多彩な緩和手段、
マイナス金利決定の舞台裏
荒技を打ち出した背景には先行して導入した欧州の実態チェックも

 日銀が切った「マイナス金利」のカードは、市場の意表を突いて、株安・円高の流れを止めた。
 最も効果が出たのは、市場が「限界」と感じていた「緩和手段」が豊富にあることを示した点だ。
 それにより、投機筋の「円買い」を強くけん制する力を獲得したとも言える。
 その秘密裡に進んだ準備の裏側を探った。

◆黒田総裁の帰国直後に固まった方向性

 日銀の黒田東彦総裁は1月22日、スイス・ダボスで開催されている世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」に参加するため、あわただしく東京・日本橋本石町の日銀本店をあとにした。
 複数の関係筋によると、黒田総裁はその直前、現行の量的・質的金融緩和(QQE)の継続を前提に「追加緩和の案を用意するように」と事務方に指示した。

 24日(訂正)に帰国した黒田総裁は、休む間もなく事務方から追加緩和のオプションを聞く会合を持つ。
 そこで提示されたのは「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」だった。
 総裁は、これによって追加緩和の障害となっていた政策打ち止め感も払しょくできると判断。
 28、29日の金融政策決定会合で提案することが固まったもようだ。

◆先行した欧州各国との意見交換

 その間、事務方の準備作業は水面下で着々と進んだが、政府サイドでその動きを察知した関係者はいなかった。
 ある政府関係者は、日銀金融政策決定会合が開催される直前の27日夜、日銀の動きについて「今回はやらないとみている」と言い切っていた。
 密かに進められた日銀の事前準備の一つに、マイナス金利を先行して導入したスイス、スウェーデン、デンマークなどにおける実態チェックがあった。
 複数の関係筋によると、日銀はこれら3カ国と欧州中銀(ECB)を含めた複数の中銀と、マイナス金利政策を実行に移した場合に発生が予想される様々な現象について、かなり突っ込んだ意見交換を行った。

◆地銀危機を封印した3段階の階層構造

 その成果の一つが、当座預金を3段階に分ける階層構造の導入だ。
 当座預金残高の全てにマイナス0.1%の利率を適用すると、金融機関の経営に負担がかかるため、これまでに積んだ分はプラス0.1%を維持した。

 スイスなどは2階層となっているが、金融仲介機能を弱めることに配慮し、日銀は3階層とすることを決断した。
 ここで日銀が配慮したのは、地域金融機関の動向だったとみられる。

 地域金融機関の当座預金残高は、所用準備額を除くと約20兆円で、QQE)が始まって以降3倍に膨らんでいるが、昨年6月以降は横ばいで推移している。
 つまり、この基調が今後も継続するなら、地域金融機関全体として負担が急増し、金融システム不安が地方から起きるというリスクを配慮したということだ。

◆市場の目安になったスイスなどの先行例

 また、先行事例を研究した結果は、早速、日銀にとってプラスになる現象を生んだ。
 29日に発表した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入という発表文のページ1の脚注に、スイスでは0.75%、スウェーデンでは1.1%、デンマークでは0.65%とマイナス金利の先行例を明記した。

 その結果、市場の一部では
 「今後、追加緩和をする場合、マイナス金利を深くするのだろう。
 そのメドは、先行して実施しているケースが参考になる」(外資系証券の関係者)
との思惑が台頭。
 中には「マイナス金利に限界はない」(外資系銀の関係者)との声まで出てくるようになった。

 直前までくすぶっていた
 「日銀の緩和手段は、完全に制約されている」(国内大手銀関係者)
とのムードを払しょくした。

◆従来型QQEに立ちはだかった市場の制約論

 従来のQQEからマイナス金利付きQQEに、緩和政策の「立てつけ」を変更したのはなぜか──。
 複数の関係筋によると、日銀は従来のQQEを維持し、資産買い入れ額を80兆円から100兆円方向に増額しても、直ちに「制約」状況に直面するとは認識していなかった。
 しかし、日銀のQQEをシニカルに眺めている海外の投機筋だけでなく、これまで日銀に国債を売却し、QQEの中核であるマネタリーベースの拡大に協力してきた国内大手銀の中にまで「QQEは限界に接近している」(別の国内大手銀関係者)と言い始め、市場心理は「日銀に限界」という見方に傾きつつあった。

 そうした中で買い取り資産の増額を打ち出しても、「限界」が意識されると、「100単位」の効果が期待されても、現実には「70単位」程度かそれ以下の効果しか出ない展開も予想される。

◆投機筋が懸念する日銀の多彩な緩和策

 マイナス金利付きを導入すれば、スイスの0.75%までできると市場が判断するなら、あと数回は追加できると多くの市場関係者が連想する。
 さらに昨年12月に決めた補完措置を駆使すれば、量の拡張も1回だけと即断できなくなる。

 質の面では、ETF(上場投資信託)の増額も想定でき、これらを組み合わせれば、相当に多彩な選択肢が出来上がったことになる。

 複数の関係筋によると、この「多彩な選択肢」の獲得こそ、今回の政策対応の最大の眼目の一つであるという。
 実際、先の外資系証券の関係者は、日銀がたくさんの「武器」を手にした結果
 「ドル/円で115円を割り込めば、日銀は放置せずに追加緩和を実行してくるとの観測が多くなった。
 緩和前と比べ、円高方向の壁が厚くなった」
と指摘する。

 その意味で、今回の追加緩和は、円高─株安─企業心理の冷え込み─賃上げ・設備投資の意欲減退─デフレマインドの復活、という「逆戻りシナリオ」をとりあえず抑え込んだと言える。
 日銀の戦術は、短期的に成功した格好だ。

◆金融機関の収益低下

 ただ、手放しで喜べない要素も少なからずある。
 一つは、イールドカーブが一段と押し下げられ、金融機関の収益力が先細る構図が鮮明になったことだ。
 黒田総裁が1月29日の会見で指摘したように、デフレに戻れば金融機関の経営は危機に直面する。
 そうさせないための政策選択ではあるが、長期化すれば、地域金融機関など経営体力の弱いところから、足元がおぼつかなくなるリスクが高まる。

 石原伸晃・経済再生相は2日の定例会見で、知人の地銀頭取らから、マイナス金利が経営に及ぼす副作用については聞いている、と明言した。
 また、ある金融関係者は、当座預金金利をマイナスにしても、預金金利や貸出金利がマイナス金利になる可能性は小さいと指摘。
 「為替・株式市場以外の実体経済への波及効果は極めて乏しい。
 今後、国債市場と実体経済の分断がますます激しくなる」
と断言する。

 一方、10年の国債金利までマイナスになると、預金手数料など「顧客にコストを転嫁せざるをえない」(国内銀行関係者)との空気も金融界にはあるという。

◆政府の財政規律弛緩リスク

 先の金融関係者は、別のリスクも指摘する。
 国債金利の低下によって、政府の資金調達コストは確実に低下する。
 一方、大規模な国債買い入れを続けていく日銀の買い取り価格は上昇。
 「これは日銀から政府への所得移転を意味する。
 実質的な財政ファイナンスにさらに近づくことになる」
と予想する。

 別の金融関係者も
 「今でさえ、ばらまきと言える政策を取っている政府が、赤字国債の増発という誘惑に負けて、財政規律が一段と崩れることが最大の懸念材料だ」
と指摘する。

 さらに市場が注目するのは、3月米利上げの行方だ。
 もし見送りとなった場合、世界経済の唯一のエンジンである米経済への懸念が表面化し、リスクオフ心理に戻る展開も予想される。

 実際、原油価格が下落基調に戻る兆しを見せると、3日の米株市場が急落。
 4日の日経平均<.N225>は一時、前日比600円を超す下落となり、リスクオフに神経質な市場の最近の特徴を見せた。

 今のところ、ドル/円は119円台で推移しているものの、10日に予定されているイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の米議会証言の内容次第では、市場がリスクオフへの傾斜を強めるリスクが存在する。

 その時にマイナス0.1%で持ちこたえることができるのかどうか。
 日銀の新スキームの真価が、そう遠くない時期に問われる可能性はかなりの確率でありそうだ。

 (伊藤純夫 竹本能文 編集:田巻一彦)







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