2016年1月18日月曜日

中国バブル崩壊(6):人民元は国際通貨になれるのか、それともアジア通貨で終わるのか?

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サーチナニュース 2016-01-17 20:18
http://biz.searchina.net/id/1599925?page=1

人民元は国際決済通貨になれるのか、
それとも現地通貨で終わるのか

 2015年11月、中国の通貨である人民元は国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨に採用されることが決定した。
 これから人民元は世界に広く受け入れられるハードカレンシー(国際決済通貨)になるのだろうか。
 それともSDR入りはしたもののローカルカレンシー(現地通貨)の役割を担うにとどまるのだろうか。

 中国メディアの第一財経は10日、現時点では人民元はハードカレンシーとローカルカレンシーのどちらになる可能性があると指摘する記事を掲載した。

 ある国の通貨がハードカレンシーになる条件は
1].その国の世界経済に対するシェアが大きいこと、
2].通貨価値が安定していること、
3].その通貨の調達や運用が容易なこと
などが挙げられる。
 従って、人民元がアジアに限定されず、世界的に取引されているかどうかが1つの判断材料になる。

 まず記事は人民元がアジア経済に対してだけでなく、欧州や南米の国々の経済にも大きな影響を及ぼしていることを指摘している。
 さらにアジア以外の地域でも認定を受けた者はRQFII(人民元適格外国機関投資家)制度を利用して中国本土の株式市場に投資できると主張した。

 また、中国の中央銀行である中国人民銀行は30カ国の中央銀行と通貨スワップ協定を結んでいると指摘。
 13カ国はアジア圏だが、11カ国は欧州、そして残りはそれ以外の地域にある国々だ。

 通貨スワップ協定は自国通貨に信用のない国が信用のある国際通貨を持つ国と成立させることによって為替の安定をはかるという役割もある。
 したがって30カ国中17カ国がアジア圏外の国であるというのは、人民元が通貨価値が安定している貨幣としてアジア圏のみならず国際的に信用されていることの証拠でもある。

 記事はこれらの理由から、SDR入りした人民元がこれからハードカレンシーとして力強く機能する可能性があると主張している。
 では逆に、人民元がローカルカレンシーとしての役割を担うにとどまるかもしれないというのは、どのような根拠による主張だろうか。

 それは「距離と投資」の問題だ。
 記事はある研究報告を紹介、それは国家間に物理的な距離があればあるほど投資は減少するという分析だ。
 投資が減少するのはコストが関係しているからだが、
 「一帯一路」政策に見られるように
 中国がアジア圏での経済活動を重視することが国家の利益になると判断するなら、
 人民元はローカルカレンシーにとどまる可能性も排除できない
と言えるだろう。



JB Press 2016.1.21(木) 瀬口 清之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45800

中国発世界金融市場混乱の犯人は誰か
中国政府に求められる市場との対話スキル

1].繰り返される中国発世界金融市場混乱

 年始早々、中国の株価大幅下落が世界中を動揺させた。
  2015年央以降、中国の為替・株式市場の混乱が世界の金融市場の混乱を招く事態が繰り返されている。
 その背景は、

★.第1に、中国経済のプレゼンスが巨大化し、世界経済を大きく左右するため、
 中国の経済指標や金融・為替市場の小さな動きでも世界中の注目を集めるためである。
 中国以外のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国やアセアン(東南アジア諸国連合=ASEAN)など他の発展途上国で同様の金融市場の混乱が生じたとしても、これほど世界の金融市場は動揺しないはずである。

★.第2に、中国政府が市場との対話に不慣れであるほか、
 政策運営の透明性が不十分であるため、不必要な憶測を招くことである。
 本年初の株価大幅下落は、昨年6月の株価暴落を食い止めるために政府が国有企業などに対して株式を買い支えることを命じたことが発端である。
 政府は国有企業などに対して半年間は売らずに残高を維持するよう指示し、その期限が1月8日に来るため、大量の株式売却による株価の下落を予想した市場参加者がその前に売り逃げようとするのは予想されていた。
 株式市場が以前の安定した状態を取り戻していないことは明らかだったことを考慮すれば、昨年12月前半などもっと早い段階で買い支えのために保有している株式の売却解禁時期を延期すべきだった。

これも中国政府が市場との対話に不慣れであることを示した事例である。

★.第3に、先進国のメディア関係者やエコノミストの中国経済および金融・為替市場に対する理解が不十分であるため
 事実を誤認することが多いことである。
 中国経済を報道する記者の多くは、政治の影響、独特な行政・経済制度等の仕組み、経済・産業構造、地理的特徴、経済政策運営の特色など、中国経済に関わる制度や特殊事情に幅広く精通している。
 いわば中国の専門家である。
 ただ、その多くは国際部あるいは社会部出身であるため、日銀クラブやFRB(米連邦準備理事会)ウォッチャーなどの経験を通じて、金融・為替市場の動向や中央銀行の市場との対話のあり方などに精通した記者は極めて少ない。

 昨年中国の金融・為替市場が混乱した原因は、金融当局をはじめとする中国政府が市場との対話に慣れていなかったことであるが、もしそれを報道した記者が金融当局などの意図を的確に類推し、実体経済への影響も限定的であることなどを正確に分かりやすく報道していれば、市場参加者がこれほど動揺することはなかった。
 しかし、残念ながら、日本のみならず欧米諸国の主要メディアを含め、市場参加者にそうした事実をきちんと伝えるメディアがほとんど存在していない。

 多くのメディアやエコノミストは中国の為替・株式市場の混乱を中国の実体経済そのものの混乱を反映している現象と捉え、そのように説明した。
 そのために世界中の市場参加者は中国の金融・為替市場の混乱を中国経済そのものの不安定性を反映していると誤解した。
 これが世界の金融・為替市場の混乱を招く要因となった。

 もし日米欧の一定数の有力なエコノミストや政府関係者などが中国政府の金融当局や経済政策担当部門、あるいは中国政府の政策運営に精通した優秀な中国人エコノミストと中国語で直接対話することができれば、メディアの誤報をすぐに見破り、市場関係者の誤解を修正することができる。
 しかし、実際にはそうした能力を持つエコノミストはごく少数しか存在しないため、メディアの誤報が事実であると信じられてしまう状況が続いている。
中国政府が市場との対話能力を向上させるには時間と経験の積み重ねを要する。
 また、中国経済を報道する記者の多くが金融・為替市場の実態を理解する専門知識を身に着け、金融当局等の市場との対話に示された意図を見抜けるようになるにもやはり時間を要する。

 すなわち、
 上記の3つの要因は、今後1、2年はいずれも変化しない、あるいは解決されないと考えられる

 その点を考慮すれば、しばらくの間は、中国政府の市場との対話の不慣れによる中国市場の混乱に端を発し、メディアが政策意図や実体経済への影響を誤解して中国経済悲観論を強調し、世界中の市場参加者がそれを信じて振り回され、金融・為替市場が混乱するという現象が繰り返される可能性が高い。


2].経済は緩やかな減速が続くが安定は保持

中国経済は緩やかに減速している。
 原因は
1).重化学工業を中心とする製造業の過剰設備の削減と
2).地方の3~4級都市の不良債権化した不動産在庫の処理
である。
 これらの措置は、習近平政権が経済政策運営の基軸としている「新常態」=ニューノーマルの方針に基づくものである。
 本年の経済政策運営の基本方針を示した中央経済工作会議(2015年12月18~21日)の決定においてもこの方針が強調されている。
 過剰設備の削減および不良債権化した不動産在庫の処理はいずれも
 今後2~3年、長ければ5年くらいの時間を要する。
 したがって、当面は製造業を中心に生産、投資の停滞が続く。
 一方、サービス産業は都市化の進展を追い風に急速な発展を続けている。

 2015年1~9月の中国経済の名目成長率を押し上げた要因を見ると、6.6%の成長率のうち5.6%がサービス産業で、製造業と農林水産業はそれぞれ0.5%を占めるに過ぎず、成長率押し上げ要因のほとんどがサービス産業である(図表1参照)。

●図表1 名目GDP成長率の産業別寄与度(資料CEIC)

 中国経済は設備投資の低下が続くため、 成長率は緩やかな低下傾向が続くが、急速なサービス化の進展により雇用が確保され、所得が上昇し、消費が堅調を維持している。

 それが経済成長のけん引役となって安定成長を保持している。
 中国経済の成長モデルは輸出・投資主導型から消費主導型へと移行したのである(図表2参照)。

●図表2 実質GDP成長率のコンポーネント別寄与度(資料CEIC)

 この間、物価も安定しているため、仮に失速リスクが高まれば、金融・財政両面から強力な景気刺激策を打ち出しても、すぐにインフレを招く心配がないため、政策発動余地が大きい。

 このため今後2、3年は景気失速リスクが極めて小さい。

 一部に前年比+1%台後半で推移する消費者物価の安定をデフレと見る見方もあるが、都市部において新規雇用の安定的な増加が続いており、有効求人倍率が過去最高水準の1.1近傍で安定している状況を見れば、
 現状がデフレではないことは明らかである。

3].年初の市場に何が起きたのか

 年始早々の中国株価暴落の引き金となったのは、製造業PMI(Purchasing Manager's Index=購買担当者景気指数)が下落し、これが市場参加者の予想外だったためであると言われている。
 しかし、中国政府が鉄鋼、造船、石油化学等重化学工業を中心に製造業の過剰設備削減を強力に推進していることを考えれば、製造業の指標が弱いのは当然である。
 この傾向は足許のみならず、今後3~5年続く可能性が高い。
 そう考えれば、これが株価暴落の主因だったとは考えにくい。

 本当の株価下落原因は株の売却制限が1月8日に解除される予定だったのに対して、中国政府が市場の不安を解消する措置を採らなかったことにあると考えられる。
 昨年6月中旬以降、株価が暴落した後、政府の命令で国有企業と証券会社が大量の資金を投入し買い支えたため上海総合指数は3000近傍で下げ止まった。
 本来であれば2700くらいまで落ちてもおかしくなかった。

 通常はオーバーシュートするのでさらに下値もあり得る。
 その後株価はいったん3500まで回復したが、それを支える経済実体は見当たらない。
 以上のように、製造業PMIも株価もいわば下落して当然の状況だったわけであり、これを大騒ぎする合理的な理由は見当たらない。

 この間、人民元レートが元安に向かっていることが世界の為替・株式市場の混乱の火に油を注いでいるように見える。
 2014年6月から2015年7月にかけての約1年間に人民元が実質実効レートで15%も切り上がったこと、および最近の輸出の減少を見れば元安も当然の動きであるように思われる。

 昨年12月の米国の金利引き上げ後、日本円はドルに対して切り上がっているが、他通貨の多くは対ドルで切り下がっている。
 このため、もし人民元が対ドルレートを維持すれば、他通貨に対してさらに切り上がる。
 それは中国の輸出競争力を一段と低下させ、人民元の売り圧力を増大させる。

2014年以降、人民元の売り圧力が強まり、
 中国人民銀行は為替市場で人民元を買い支えてきた。
 一般に為替介入は短期的なスムージングオペレーションは有効であるが、市場参加者の期待に逆らって為替相場の水準訂正を狙う介入は成功しないというのは市場の常識である。

 昨夏の為替レートの基準値算定方式の改革は、市場実勢に逆らわずに為替レートをより柔軟に変動させる仕組みを導入することが目的だった。
 しかし、その改革が人民元安期待を増幅させることとなった。

 一段と強まった市場の元売り圧力に対して、中国人民銀行は元買いドル売り介入によって人民元を買い支えた。
 その結果、外貨準備は減少し、昨年8月、11月、12月はいずれも1か月で1000億ドル前後も外貨準備が減少した。

2014年央には約4兆ドルだった外貨準備が15年末には3.3兆ドルまで減少した。
 11月以降の減少ペースが続くと、
 本年3月末には3兆ドルを割る可能性もある。
 これは為替介入による元安阻止が限界に近づいていることを示している。

4].今後の展開

 こうした根強い元安期待に基づく元売り圧力の状況から脱するには、輸出が急回復し、市場の期待が元高方向に転じることが1つの条件である。
 しかし、最近の輸出動向から見て、そのような好ましい変化が生じる可能性は高くないように思われる。
 引き続き輸出が回復しない場合、もう1つの打開策は、市場の期待に逆らわず、急激な変化を避けながら、
 一定程度の元安を容認することである。

 その場合の懸念材料は米国政府の反応である。
 日本政府も1980年代から90年代にかけて米国政府の外圧に苦しみ、急激な円高を迫られ、それが間接的な要因となって、バブル経済の形成と崩壊により強かった経済力を失った経験を持つ。
 現在の中国も類似の圧力に苦しめられているように見える。

 ただし、日米同盟の枠組みの下、自国の防衛を米国の核抑止力に依存していた日本と異なり、中国は米国からの圧力に対して日本より大きな自由度を持っている。
 また、米国の覇権国としての影響力も1990年代に比べると相対的に低下している。
 もし中国が現在の管理フロート制の下で人民元を大幅に切り下げる場合、米国議会から厳しい批判を受け、為替操作国の認定を受ける可能性がある。

 今年は大統領選挙キャンペーンが本格化するなか、南沙諸島の問題やサイバー攻撃に関する対中批判が強調され、米国内の反中感情がとくに高まっているため、議会が中国に対して厳しい制裁を要求する懸念が強い。

中国政府がそうした制裁を回避するには、
 管理フロート制を放棄し、一気に変動相場制へと移行する方法がある。

 これは為替自由化政策であるため、米国議会といえども、批判することは難しい。
 この場合には市場の期待通りに大幅な元安に触れることが予想されるため、元安の幅は管理フロート下の元安以上に大きくなる可能性が高い。
 そうなれば世界の金融・為替市場の混乱はさらに大きくなる。

 中国は今年、G20の議長国として会議の成功を目指しており、会議開催前に変動相場制に移行し、世界の金融市場を混乱させることは回避したいと考えるはずである。
 その点を考慮すれば、変動相場制への移行はG20終了後にしたいと考えるかもしれない。

 このように今年の金融市場は人民元レートが波乱要因となる可能性がある。
 たとえそうなったとしても、中国経済の安定は続くであろう。
 大幅な人民元安が実現すれば、一定のタイムラグを経て中国の輸出の減少に歯止めがかかると考えられる。
 それが中国の成長率保持に寄与するため、中国経済に関する不安材料は緩和される。
 短期的にはアジア諸国の通貨は人民元安に伴って不安定化する可能性が予想されている。
 しかし、中国経済の安定保持が改めて確認されれば、アジア経済も落ち着きを取り戻すはずである。

 以上のように当面は波乱含みの中国金融市場であるが、それだけに中国政府には市場との対話のスキルの向上が求められる。
 同時にメディアやエコノミストも中国経済に対する理解を深め、事実誤認に基づく報道や情報発信を改めることが必要である。
 そして、市場参加者は、信頼できる情報源を見極めて、中国経済の理解不足に基づく誤った情報に振り回されないように注意することが重要である。



サーチナニュース 2016-01-21 11:20
http://biz.searchina.net/id/1600348?page=1

中国全国にデフレ感蔓延  
CPI上昇2%以上は上海・青海・チベットのみ

 中国政府・国家統計局によると、中国全国における2015年の消費者物価指数(CPI)は前年比で1.4%の上昇だった。
 中国メディアの中国経済網によると、中国で31ある省クラス行政区(省・中央直轄市・民族自治区)のうち、同年にCPI上昇率が2%以上だったのは、2.62%上昇の青海省、2.42%上昇の上海市、2.0%上昇のチベット自治区だけだった。

 中国経済網は、21日までに各省のCPI上昇率が出そろったと説明。
 主要な経済発展地域で、CPI上昇率が2%以上だったのは上海市だけだったという。
 北京の上昇率は1.85%、広東省は1.55%、福建省は1.73%、浙江省は1.41%だった。

 不況が深刻とされる東北地方では、吉林省が1.65%と全国値より高いものの、遼寧省は1.41%、黒龍江省は1.12%だった。

 中国では、デフレ感が全国的に蔓延していると言える。

 上海市のCPI上昇について品目別に全国値と比較すると、居住関連の上昇率が4.6%で、全国値の0.7%よりも相当に高いことが目立つ。
 中国全国における住宅価格は「上昇する大都市」、「回復しないその他の都市」の二極化が進んでいる。
 上昇が最も大きいのは深セン市(広東省)で、2015年12月の新築商品住宅の価格が前年同月比で47.5%の上昇だったが、上海市も18.2%の上昇で、全国的には上昇が急速な都市に属する。

 中国のCPIは、リーマンショックの影響を強く受けた2009年には前年比0.7%の下落だったが、その後は2010年には3.3%、11年には5.4%、12年には2.6%、13年には2.6%、14年には2.0%と上昇を続けてきた。
 しかし2015年には上昇率が2.0%を切った。


ダイヤモンドオンライン 2016年1月21日  陳言 [在北京ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/84903

人民元安でも中国の輸出は拡大しない

 2015年8月11日、中央銀行は人民元の対ドル中間レートを6.2298と発表、
 1日の下げ幅が1.9%にも達し、史上最安値を更新した。
 この後、人民元レートは多少戻したものの、11月に入って米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを見込み、さらに元安方向に振れた。
 2016年1月に入ると、6.7に近づき、1月18日には、6.5840に戻ったものの、この5ヵ月間に5%もの元安となっている。

 この元安は、ちょうど中国の株安、中国経済の減速と重なり、金融不安を引き起こし、もう一段と元安になるのではないかと思われている。
 元が1割安くなることはないと金融関係者は繰り返しているものの、市場はあまりそれを信用していない。

 株安については先週のコラムでサーキットブレーカー制度の不備を指摘したが、今回は元安の影響を分析する。
 注目はこの元安が、中国の輸出を好転させるかどうかだ。
 好転がないとすれば、中国が積極的に元を安くさせることはないだろう。

◆日本の経験によれば通貨安は輸出を拡大しない

 民生証券の管清友・李奇霖両氏が2015年12月29日に発表したレポートによれば、
 「短期的にみれば、元安はある程度、輸出を後押しする作用があるだろうが、
 世界的な景気の下落傾向、
 輸出の為替相場の変動に対する柔軟性の低さ、
 低コストという強みの消失、
 海外需要が楽観視できない
などの要素により、中国の輸出はやはり低迷を続けることだろう」
とのことである。

 このレポートによれば、1997年から今までの人民元の実際の有効為替レートの前年同期比と輸出の前年同期比の増加速度との関係からみれば、人民元の実際の有効為替レート前年同期比は輸出の増加速度より半年ほど先んじて変化している。
 しかし、世界の経済情勢や貿易条件の変化により、元安が輸出を促進する作用は弱まっている。

 日本の経験から見れば、2012年以降、円の下げ幅は40%前後となっているが、日本は輸入超過を続け、輸出はあまり拡大してこなかった。
 ここからも、為替レートの安値が貿易条件の改善にすぐさま効果を及ぼすわけではなく、2者の間の高度な関係性が因果関係を持つのか、それとも2者のマクロ経済情勢が反映しているためなのかは、やはり熟考に値する。

日本を見る限り、人民元安も中国の輸出拡大には貢献しない
だろうと思われる。

◆その他主要通貨の安値競争を激化させる

 今回の元安の過程では、同時進行で多くの新興国が資本流出リスクに直面したため、その他の通貨も同様に下落過程にある。
 ドル高、石油価格の暴落、商品価格の下落といった背景のもとで
 ロシアのルーブルは暴落し、
 マレーシア、インド、タイ、インドネシアの通貨はみな投げ売り状態
となっている。

 これらの下落はみな、元安が中国経済を後押しする力を弱めている。
 ほとんどの新興国の為替レートは人民元とほぼ同傾向にある。
 これ以外にも、先進国通貨の対ドルレートも大幅な下落を始めている。

 アジアは中国の輸出額において最も大きな割合を占め、中国に続いて通貨価値が下落したアジアの国のほとんどは、中国の重要な輸出国である。
 同時に、現在、世界的な需要の収縮、輸出増加速度の下落がみられるなかで、世界の主要国は自国の商品保護や雇用確保のために、関連対応措置を採るとみられる。

 世界経済が一体化し、貿易自由化が行われる今、世界恐慌の時のようにブロック経済化、大規模な外国為替統制、保護貿易が採られることはないだろうが、規則で許される範囲内で自国経済の保護が行われると考えられ、これらは元安が中国の商品輸出にもたらす価格的優勢をすべて弱めてしまう。
 これによって、中国の輸出企業が通貨安によって得られる競争力が低下し、通貨価値下落が輸出を牽引する作用は大幅に弱められる結果となる。

◆海外顧客の値下げ圧力が中国企業の利益を圧迫

 人民元の為替レートは現在、中央銀行である中国人民銀行で決められている。
 この対ドル中間レートメカニズムの市場化改革がさらに進むにつれ、今後も元レートは元安・元高の双方向で乱高下が激化するだろう。

 為替変動リスク回避策がいまだ不完全で、企業が変動リスクへの対応能力に欠く現状では、一部の輸出企業は契約と同時に短期で少額の契約を主とする比較的小回りのきく方法をとる傾向にあり、それが契約額の縮小を生み、企業の輸出額が拡大を続けることに不利となる。

 これ以外にも、輸出金額と人民元の対ドルレートの変化に対する柔軟性分析を行うと、元安はたしかにほとんどの商品輸出を後押しする作用があるが、柔軟性は比較的小さく、すべて0.2%以下である。

 つまり、元の実際の有効レートの下げ幅は1%だとしても、それによりもたらされる商品輸出の前年同期比増は0.2%以下である。
 同時に、元安という好条件は、顧客の値切りなどの要素により相殺されてしまう可能性もある。

 元安は企業の手元にある注文書からすれば、利潤を一時的に増加させるものであるが、のちに続く注文書では、弱者の地位に置かれた中国の加工企業にとって、元安によって生まれた利益は国外顧客の「未払い勘定」となり、買い叩きによって、元安によって増えたコストを中国企業に転嫁させられるかもしれない。
 このため、元安による利益の企業利潤に対する貢献は弱められるだろう。

◆中国の低コスト輸出という強みはすでに喪失

 現在、中国は紡績業を代表とする従来の労働集約型・輸出志向型企業は、労働コストの上昇の影響を受け、特にローエンド製品の一部のシェアはすでに大幅に縮小しており、海外市場からの注文も東南アジア国家などに奪われ、一部の労働集約型企業はさらに生産拠点を中国の東南沿岸部から撤退させている。

 今回の人民元の短期的な小幅安もこれらの産業移転のトレンドを止めることはできず、従来の輸出志向型企業が中国の輸出全体に占める割合は下がり続け、元安がもたらす輸出の好条件の作用も限られたものとなるだろう。

 全体としていえば、短期的にみれば元安はある程度、輸出を後押しする作用があるだろうが、世界的な景気の下落傾向、輸出の為替相場の変動に対する柔軟性の低さ、低コストという強みの喪失、海外需要が楽観視できないなどの要素により、中国の輸出はやはり低迷を続けることだろう。

 関係指導者によれば、政府には元安政策をとって輸出を促進する意図はなく、為替レートメカニズムを整備しようとしており、輸出型企業が実質的な改善を実現したければ、そのカギはやはり輸出製品そのものの競争力を上げることにある。



現代ビジネス  2016年01月21日(木) 安達 誠司
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47467

中国人民元が世界「通貨危機」を引き起こす

◆「バブル崩壊」は5年周期でやってくる

 年初から3週間弱が経過したが、大荒れのマーケットは一向に収束の気配がない。
 筆者は年明けの当コラムで2週間にわたり、キーワード「M・O・N・K・E・Y」をもとに2016年(申年)の世界経済・マーケット動向の考え方を示してきた。

 そして、ここまでの状況を見る限り、指摘したように、2016年は、
 「経済状況の変化に対応してマーケットが動く」
というより、
 「マーケットの変動が経済や政策に影響を及ぼす」
可能性がますます高まっているように思える(詳細は1月7日の同コラムを参照のこと)。
 そこで、今回は、「M・O・N・K・E・Y」の中から「E(Exchange Rate、為替レート)」について、あらためて考えてみたいと思う。

 ただし、ここで話題にするのは中国人民元の行方である。
 結論からいえば、
 人民元は、国際金融論でしばしば話題になる「通貨暴落モデル」が想定する世界にじわじわと近づいている、
ということである。

 80年代半ば以降の世界経済全体を見渡すと、一種の「バブル崩壊」にともなう金融・経済危機が、約5年の周期で発生している。
 1987~88年頃の米国S&L危機 
→ 1991~92年頃の北欧の金融危機 
→ 1997年アジア通貨危機・1998年ロシア通貨危機 
→ 2001~2002年米国ITバブル崩壊 
→ 2008~2009年リーマンショック
 → 2011~2013年ユーロ危機

 この「バブルリレーの法則」が正しいと仮定すれば、そろそろ、次の危機の芽が出てきてもよい頃合いであり、それが中国発となるリスクを無視するわけにはいかない。
 中国の株価は既に大きく下落しており、中国株(上海総合指数)の予想PERは12倍弱と世界平均よりも低い。
 そのため、株価で「中国バブル」を表現するのは無理があるように思われるが、債務残高が対GDP比で300%近い状況は、中国経済に依然として金融の過度なレバレッジがかけられていることの証拠であり、
 これはやはり「中国バブル」と表現してもよいのではなかろうか。

◆人民元は「変動相場制」への転換を余儀なくされる

 現在、中国は、自国通貨である人民元の自由な変動を認めていない。
 正確にいえば、中国の通貨制度は、主要貿易相手国の通貨を、輸出入額を基準にしたウェートで加重平均した通貨バスケットを参考に、政府が適正な水準に調整する「管理通貨制度」である。
 つまり実際には、政府が事前に定めたある一定の範囲内(±2%)で変動するようコントロールしているわけだ。
 筆者は、これは、一種の「ターゲット・ゾーン(為替レートをあらかじめ定めたレンジ内での変動にとどめる政策)」と言ってよいのではないかと考えている。

 ところで、グローバルで資本がほぼ自由に移動できる現行の経済システム下で、一国の政府が為替レートを厳密にコントロールするのは極めて困難であるというのは、国際金融論の常識であろう。
 現に、80年代の欧州通貨システム(EMS)の崩壊や90年代後半に立て続けに発生したアジア・ロシア通貨危機では、当該国がそれまで続けてきた「ドルペッグ制」や「ターゲット・ゾーン」が維持不可能となり、最終的に「変動相場制」への変更を余儀なくされてきた。
 これらの国(ドルペッグやターゲット・ゾーンを採用している国)では、金融政策は専ら、あらかじめ定められた為替レート水準の維持に割り当てられ、マクロ経済対策としての金融政策は制限されてきた。

 そして、景気対策(及び、新興国の場合は成長政策)は専ら、海外からの資金流入で賄われてきた(証券投資等の民間資金も含まれるため、必ずしも財政赤字の拡大だけを意味するものではなく、国内の総負債の増加と考えてよいだろう)。
 これらの国にとっては、海外からの資金が円滑に流入する限り、深刻な問題は発生しない。
 だが、何らかの要因で、
 海外からの資金流入が減少、
 もしくは、逆に国内から海外へ流出するようになってくると事態は一変する。

 この「何らかの要因」とは、
★.財政赤字や経常収支赤字の拡大が
 海外投資家にとって限度を超えたと認識されるほど、
 財政赤字や経常収支赤字が拡大することだ。

 しかし、通貨危機の場合、往々にして、その前に米国の金融政策の引き締め転換にともなう米国金利の上昇、もしくは資金供給の減少(マネタリーベースの減速)による「市場流動性の収縮」が起こり、これが、米国への資金還流(いわゆる「リパトリ」)を引き起こすケースが多かった(97年のアジア通貨危機の際にも、前年に米国で利上げが実施されていた)。

◆通貨暴落に至る2つのプロセス

 ところで、固定相場(もしくは「ターゲット・ゾーン」)採用国が資金流入の減少ないし流出に見舞われた場合、当該為替レートには大きな下落圧力がかかることになる。
 このとき、政府は為替介入での自国通貨の買い支えを余儀なくされる(自国通貨買い・ドル売り介入の実施)。
 また、自国通貨買いの為替介入の際の原資(ドル資金)は外貨準備から充当されるケースが多いので、これらの国では外貨準備が減少することになる。
 だが、資金の流出に歯止めがかからなければ、
 やがて外貨準備は枯渇し、結局、変動相場制への移行を余儀なくされる。

 この変動相場制移行プロセスは、1979年に、ポール・クルーグマン教授が発表した論文によって初めて明らかにされた。
 この通貨危機モデルは、「第一世代モデル」
と言われ、今でも通貨危機を考える際のベンチマークとなっている。
 ちなみに、外貨準備の減少を回避するには、国内金利を引き上げるという手段もあるが、金利引き上げの実施は、国内経済にとっては金融引き締めを意味する。
 そのため国内経済に深刻なダメージをもたらし、これがますます資金の海外流出を加速させるので、結局、通貨危機を回避することはできないとされている。

 このような状況に直面しつつ、どうしても
 変動相場制への移行を回避したい場合、政府がとりうる政策は、
★.為替レートの誘導水準(もしくは、「ターゲット・ゾーン」のレンジ)の変更であろう。
 資金流出の場合、為替レートの新たな誘導水準を切り下げれば、金融緩和の余地も生まれるし、為替介入による自国通貨の買い支えも回避できるという算段だ。

 現に、過去(グローバルな資本移動が活発ではなかった80年代前半頃まで)においては、この政策によって変動相場制の採用を回避できた国や地域も存在した。
 だが、資本移動が活発化した80年代後半以降、この方法の有効性は著しく低下しているのが現状である。

その主な理由としては、以下の点が指摘できる。

①:介入による通貨防衛は、基本的には、外貨準備が枯渇した段階で維持不可能となる。
 実際の為替介入に際しては、デリバティブ取引を利用し資金量の何倍もの投資が可能となる投機筋に対し、各国通貨当局は現物取引で対抗することが多いため、介入実施前にいくら豊富な外貨準備を保有していたとしても勝ち目がないケースが多い。

②:固定相場の水準(もしくは、「ターゲット・ゾーン」のレンジ)の変更が1回で終わることは少なく、結局、断続的に複数回実施することになる。
  だが、この場合、政府の為替政策の信認が「失墜」することも多く、為替レートの誘導目標を1度でも切り下げてしまうと、投機筋は次の切り下げを予想し、さらなる通貨アタックを仕掛ける可能性が高い。
 場合によっては、誘導水準の切り下げが、通貨アタックへ参加する投機筋の数を増やすことになることも想定される。
 その結果、当該通貨は、「売りが売りを呼ぶ」展開となり、当該政府の外貨準備の枯渇が前倒しで実現し、やはり、変動相場制への転換を余儀なくされることになる。

 このように、
★.為替レート水準の誘導目標の切下げが、加速度的な通貨アタックの拡大をもたらすプロセスは、通貨危機の「第二世代モデル」と言われており、1994年に発表されたモーリス・オブスフェルド氏の論文がその代表である。

 それでも変動相場制採用を回避したい場合、資本取引規制によって資本流出を強制的に阻止するという選択肢もある。
 だが、それを実施すると、新規の資金流入がストップするため、国内景気はますます悪化していくことになり、逆効果となる。

◆リーマンショック以来の世界的危機になる可能性も

 中国人民元の変動相場制への(強制的な)移行は、まだ大多数の投資家が想定していないように思われる。
 だが、国内景気が低迷するなか、海外への資金流出増で外貨準備の急激な減少に見舞われている中国は、通貨危機モデルが示唆する通り、人民元の変動相場制への移行とその過程での通貨暴落プロセスを着実に踏襲しているようにみえる。

 特に、中国政府が実施している各種資本取引規制の導入や断続的な人民元切り下げ、そして、短期金利の引き上げ等により、通貨危機の「第二世代モデル」が示唆する加速度的な通貨アタックが実現する可能性が徐々に高まっていると、筆者は考える。
 さらにいえば、過去の通貨危機の前提となった米国金融政策の転換が昨年12月に実施され、1月6日時点の米国マネタリーベースはテイパリング以降のピークである昨年4月15日時点から12.4%も減少し、「市場流動性の収縮」が実現しつつある可能性も否定できない状況だ。

 中国人民元による通貨アタックは、場合によっては金融危機に波及し、バランスシート調整(「デ・レバレッジ」)によるデフレ圧力の拡大、さらには、周辺国の通貨下落に波及(Spill-over)する懸念もある(これは、通貨危機の「第三世代モデル」として研究が進んでいる)。

 そのような事態に発展した場合、中国人民元はしかるべき水準(例えばBRICsブームが始まる前の水準である1ドル=8元程度)まで下落するかもしれない。

 現段階で、これは「テールリスク」かもしれないが、万が一、そのような状況が実現すれば、リーマンショック以来の世界的な経済危機になる可能性がある点には、十分に留意しておく必要があろう。





【激甚化する時代の風貌】



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