2016年1月4日月曜日

2016年経済大予測:株8月に暴落? 不動産、総崩れ?日本経済「急ブレーキ」は本当かウソか?

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 読んでみればわかるのだが、とりあえず右も左も、いいも悪いも、意見があればそれを総花的に並べただけである。
 いろんな人が勝手にいろんな予測をしていますよ、という「予想の百科全書」といったもの。
 ほとんどアテにならない。
 これだけたくさんの予想がありますので、もしかしたらその1つが当たるかもしれない。
 でもまるいで全部当たらないということもあります、
 といった、ところになる。
 誰かの予想があたれば、その人は「オレの言ったとおりだっただろう」と鼻を高くするだけ。


現代ビジネス 2016年01月04日(月) 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47094

株8月に暴落? 日本経済「急ブレーキ」は本当かウソか
……日本売りの懸念、不動産総崩れ
2016年経済大予測

「期待」と「不安」を内包した大転換の年がやってくる。
衆参ダブル選、リオ・オリンピック、アメリカ大統領選挙……。
世界を巻き込む嵐を前に、見据えるべきことは何か。
激動の一年を生き抜く術を、全方向から読み解く!

◆原油安ですごいことになる

「原油価格はこの1年半で3分の1になるほど急下落したが、反発する気配はない。
'16年は原油価格が1バレル=30ドルを割る可能性が出てきた」
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の芥田知至氏)

そんな原油安は、われわれの生活を激変させる。

「原油価格が20ドルになれば、ガソリン価格が現在の半値近くになる。
東京電力は5000億円以上の増益になる計算で、電気代は大幅値下げです。ANAも800億円の増益要因で、航空運賃の値下げに踏み切るかもしれない。
JRは電気代下落の恩恵を受けるし、ヤマト運輸なども同じ。
通販の配送料が安くなる可能性もある」
(ちばぎん証券顧問の安藤富士男氏)

 ただし、原油安は諸刃の剣である。

 「原油安が金融危機を招きかねない。
 すでに米国ではエネルギー関連企業の割合が高いジャンク債市場が大荒れ状態。
 さらに、スイスの総合資源会社グレンコアの株価は下落し、オランダの商品取引会社は傘下の旗艦商品ファンドを閉鎖した。
 いつショックが起きてもおかしくない。
 しかも、こうした企業やファンドには日本の生損保やメガバンクが投融資しているので、『その時』には日本も直撃を受ける」
世界平和研究所主任研究員の藤和彦氏)

 原油ショックで不況へ逆戻り、となりかねないのである。

 '16年は、不動産市場にも注意が必要だ。

 「'16年の不動産市況はと聞かれれば、『晴れ』と答えます。
 しかし、あくまで、『先に分厚くて真っ黒な雨雲が見える晴れ』です。
 おそらく、不動産市況は'16年か'17年にピークを迎えるでしょう。
 言い換えれば、'16年は不動産の売り時です」
(ニッセイ基礎研究所不動産研究部長の松村徹氏)

◆不動産、総崩れ?

 億ション完売などと騒がれている不動産ブームは、間もなく終わる。

 「いま売れているのは駅前のタワーマンションなどごく一部で、購買層は相続対策や外国人が中心。
 この層は目的を達すると売りに回り、そろそろ危険です。
 '16年は消費増税前の駆け込み需要を期待する声もあるが、実需不足のうえ、建設費高騰の影響で価格が高いので、期待薄です」
(オラガ総研代表の牧野知弘氏)

 「国税がタワーマンションを使った節税の監視強化を始めたので、市況を引っ張ってきた富裕層によるマンション購入が大幅に減る。
 地方も空き家が急増するばかりで、札幌で賃料1万円の物件が出てくるなど、上向く気配はない」
(住宅ジャーナリストの榊淳司氏)

 都心も、地方も、日本全国が総崩れという大変なことになりそうだ。
 経済のプロたちが、'
 16年に最も危惧すべきと口を揃えるのは、
 日本経済に「急ブレーキ」がかかり、凄まじい日本売りが巻き起こる
事態である。
 実際、アベノミクスはすでに正念場。
 政府の国家戦略特区諮問会議で民間議員を務める、経済学者の竹中平蔵氏が言う。

 「物価はデフレ期と比べれば改善し、完全雇用も実現し、アベノミクスの第1ステージは成功。
 しかし、ここからの第2ステージが見えてこないと問題です。
 軽減税率の議論を見ても公明党に配慮した政治の産物で、実態は弱者対策になっていない。
 社会保障改革はどうするか、外国人労働者をどうするか。
 具体策が見えてこないと、日本の展望は開けない」

◆医療費アップに年金カット

 経済同友会代表幹事で三菱ケミカルHD会長の小林喜光氏も言う。

 「政府は『GDP600兆円』という壮大な目標を掲げましたが、設備投資や賃上げが盛り上がっても、これを実現するのは容易ではない。
 大胆な規制緩和が必要ですし、成長政策と同時に、歳出カットにも本気で取り組まないといけない。
 持続可能社会への一歩を踏み出せるか。
 その重要な年になる」

 が、'16年は選挙の年。安倍政権は票離れを怖れて、痛みを伴う改革から逃げる公算大である。

 「すでに安倍政権は、庶民生活を苦しめる円安がこれ以上進むと選挙に影響が出ると、日銀に対して『追加緩和はやめてくれ』というスタンスになってきている。
 実は、日銀自身も、追加緩和が日本経済にはマイナスだとわかっている。
 為替と株の乱高下に乗じて儲けたい海外投資家は、その追加緩和を手ぐすねを引いて待ち構えている」
(慶応大学准教授の小幡績氏)

 これまで見逃されてきたアベノミクスの諸問題がクローズアップされ始めたことで、日本売りを誘発しかねない状況になってきたのである。

 「日本は、国の借金の7~8割を日銀が実質的に引き受けている状態。
 こんな禁じ手を、いつまでも続けられるわけがない。

 しかし、これを止めれば、長期金利暴騰で入札が不可能になり、政府は資金繰り倒産となる。
 ギリシャ化です。続ければ、行き着く先はハイパーインフレです」
(元モルガン銀行東京支店長で参議院議員の藤巻健史氏)

 「アベノミクスの限界が露呈し、日本売りが始まれば、円が1ドル=200円を目指して大暴落するでしょう。
 真っ先に食料品や日用雑貨の物価が高騰して、家計を直撃。企業業績も悪くなり、賃金は上がらない最悪の悪循環に入っていく。
 当然、安倍政権が'16年に決断するという消費増税などできなくなる」
(同志社大学大学院教授の浜矩子氏)

 物価高と不況の往復ビンタ。スタグフレーションの到来である。

 そもそも消費増税をめぐっては、安倍政権がGOサインを出せば、景気を不況へ突き落とす。
 一方で先送りすれば、財政問題に火がついて日本売りを招く。
 どちらに転んでも最悪の事態をまぬかれず、日本は行き場のない袋小路に追い込まれている。元財務大臣の与謝野馨氏は言う。

 「現在の世界経済は、金融バブルが弾けかねない瀬戸際です。
 それが弾ける時、市場が攻撃するのは『最も弱い国』。
 巨大な政府債務を抱え、競争力を失いつつある日本は、その『最も弱い国』とみなされやすい。
 日本政府が逃げ腰で耳触りのいいスローガン政治に堕すれば、市場は一気に売り浴びせてくるでしょう。
 その際、日本国債の売りで金利が跳ね上がれば、財政はさらに悪化する。
 そして、これまで以上の社会保障の大幅削減と、自己負担の増額を迫られることになります」

 給料は上がらないのに、物価は上昇。
 そのうえ、医療費が値上げされ、年金は大幅カット、生活保護は厳しくなり、最低賃金も引き下げられる……。
 日本売りの先には、かくもおぞましい未来が待ち受けている。

◆「私はもうドルを売り払った」

 「2016年の日本経済は淘汰の時代に入っていくでしょう。
 米国経済は息切れし、欧州経済も低成長から抜け出せず、中国も経済下降を続ける中で、日本だけが良くなることは考えにくい」

 ニトリHD社長の似鳥昭雄氏が言う。

 「株価は夏場までに2万1000円前後へ上がる可能性がありますが、第3四半期以降は、米国の失速に引きずられて厳しくなる。
 控えめに見ても1万8000円ほどまで落ちるでしょう。
 為替も年後半から円高が進み、110円前後におさまると見ています。
 規模の大小にかかわらず、業種間を越えた本格的な戦いの時代に入っていく。
 変化に対応し、他社と差別化できた1社ないし2社があらゆる利益をとる寡占化が進み、厳しいサバイバル時代に突入していくということです」

 大激変の時代の幕開けだ。これまでの常識にとらわれていれば、瞬時に置き去りにされる。
 自らの生活や資産を守るための情報武装を始めよう。

 まずは、株式市場。
 大波乱の一年になる。

 「日本国内は所得環境の改善で民間消費が緩やかに増加し、企業収益の好調と人手不足感の高まりが設備投資を後押しするでしょう。
 '16年度の企業業績は10%程度の『増益』を見込んでおり、日経平均は年末に2万2500~2万3500円のレンジを想定しています」
(野村HDグループCEOの永井浩二氏)

 「これから世界の投資家がどこに投資をすべきかと考えると、
 米国株は割高水準で、欧州経済は低迷が長引くので、消去法的に考えて日本株しかない。
 1989年に3万8915円をつけていたことを考えても、日本株はまだまだ割安。
 '16年は2万5000円ほどは期待したい」
(スパークス・グループ社長の阿部修平氏)

 株価は1~2割上がると見るのがマーケットの多勢だが、死角がある。

 「確かに'16年は2万円台の高値を付けるでしょうが、そこがバブルの絶頂です。
 '17年には弾ける。
 バブルは些細な金融イベントがきっかけで壊れ、巨大金融危機に発展、株は投げ売り状態になる。
 来秋くらいからは、『防空壕』へ避難したほうがいい」
(元JPモルガンアナリストの塚澤健二氏)

 今夏、秋以降を「要警戒」とする声は多い。

 「夏の選挙以降、安倍政権が経済政策に関心を失い、安保政策へ傾注し始めれば危険。
 これまでは日本銀行や年金基金などの公的マネーに支えられてきた面が大きいので、政策転換が意識されれば、日本売りに火がつく。年末には1万6000円まで売り込まれる事態もあり得る」
(BNPパリバ証券日本株チーフストラテジストの丸山俊氏)

 「直近の中間決算で日本企業の下方修正が目立ってきたが、企業業績はすでにピークアウトしており、'16年度は大幅減益でしょう。春闘も賃上げどころではなく、暗転。
 日本株は1万4000円くらいまで売り込まれるでしょう」
(ミョウジョウ・アセット・マネジメント代表の菊池真氏)

 選挙後、企業の決算発表も出揃う8月がポイントになる。

では、為替市場はどうか。
 三越伊勢丹HD社長の大西洋氏が言う。

 「'16年は日銀による金融緩和が継続され、米国で緩やかに金利が上昇していくと考えれば、ドル高・円安基調が続くでしょう。
 為替レートは1ドル=125~130円。
 米国が2度目の利上げを行うと想定される3月頃には、130円になると見ています」

 多くの市場関係者も同様に、「円安の年」と見る。

 「米国は1年間で4回、各0・25%のペースでトータル1%の利上げをする予定です。
 これを順調にいいペースで進めていければ、ドルへの投資意欲が高まっていく。
 その度に、次の利上げへの期待感からドル買いが進む流れに入る。
 一方、日本は金融緩和継続で、結果的に、ジワリジワリと1ドル=128円くらいまで進んでいくのでは」
(マネックスグループ社長の松本大氏)

 「為替の世界では、『当局に逆らうな』が正しい。
 主要各国の中央銀行は円高を望んでおらず、ドル高で困る国もない。
 実際、金融政策を見ても、米国が利上げ、日本と欧州が金融緩和継続なので、円安になると考えるのが自然。1ドル=125円の『黒田ライン』を超えて、130円まで行く可能性もある」
(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジストの村田雅志氏)

 しかし、いずれの円安論も米利上げが順調に進むことが前提となっている点に注意が必要だ。

 「2度目の利上げが想定される3月以降、『これ以上の利上げに米国は耐えられない』との声が出始める可能性がある。
 そこから円高に一転し、来秋には1ドル=111円もあり得る」
(大和証券チーフ為替アナリストの亀岡裕次氏)

 「'12年9月に米国がQE3という量的緩和策を行った時、現在の円安トレンドが始まった。
 利上げはこれと真逆で、円高トレンドを幕開けさせるイベントになる。
 日銀の追加緩和がなければ、1ドル=100~105円まで円高が進むでしょう。
 私は'12年12月にドルを仕込みましたが、最近これを売り払いました」
(エコノミストの中原圭介氏)

 株も為替も大きく上下する「恐慌相場」と化す。
 すばやく対応できる者しか勝ち残れない。

◆中国経済はドツボに、アメリカはどうなる

 「最近、政府批判がご法度の中国国内でさえ、『さすがに7%の成長はないだろう』と話す人が増えてきました。
 実際、中国のGDP成長率は5%を割っていると思われます。
 中国の楼継偉・財政部長(財務大臣に相当)も、
 『中国経済の思わしくない状況は5年は続く』
と踏み込んだ発言をし始めている。
 中国は大規模な財政支出でふかしてきた成長が限界を迎え、当面は落ち込みが続くでしょう。
 '16年はそんなポストバブル時代の始まりとなる
(現代中国研究家の津上俊哉氏)

 では、二大強国のもう一方のアメリカはどうだろうか。

 「'16年のアメリカ経済のポイントは、大統領選に尽きます。
 大統領次第で政策がガラリと変わるので、混戦になると先行き不透明感から投資家心理が萎む傾向がある。
 トランプ旋風が起きるなど見通しにくい現状は、株式市場が上値を追いづらい状況だといえます」
(在NY投資顧問会社ホリコキャピタルマネジメント代表の堀古英司氏)

 長く続いた米国株バブルには、いよいよ終焉も見えてくる。

 「過去100年以上の相場分析をすると、米国株は20%を超える下落なしに、62ヵ月以上の上昇を続けたことがない。
 今回は'09年3月から上昇しており、大調整がないのは金融緩和で相場をコントロールしてきたから。
 これが利上げに転じることで、ついに調整期に入るのです。
 現在1万7000ドル台のダウ平均は、1万2000~1万3000ドルまで大きく下げるでしょう」
(在NYファイナンシャル・コンサルタントの若林栄四氏)

 実体経済は回復基調にはあるが、利上げショックで再び崩壊……というシナリオもあり得る。

 「アメリカ国内は相変わらず格差は大きく、中産階級の割合が5割を下回ったとの衝撃の調査結果も出てきました。
 当然、消費主導での景気回復に力強さは望めない。
 低所得者向けに活況だった自動車のサブプライムローンも、利上げを機に焦げ付きが懸念される。
 企業が借金をしたカネで自社株買いをして株高を演出する裏技も、今後はやりづらい。
 もし大統領選で好戦的な共和党が勝てば、再び戦争の泥沼に引きずり込まれ、財政が悪化するリスクも高まるのです」
(在NY投資銀行家の神谷秀樹氏)

 世界は「勝ち組なき時代」へ突入する—。

◆この会社が伸びる、この業界が幸せになる

 「消費者は大きく変わっています。これまで不況の代名詞のように言われてきたテレビ市場では、4Kテレビや50インチなどの大型テレビが動き出してきた。
 若い層向けと思われていたタブレットや電子辞書が、シニア層に売れるという新現象も起きている。
 これまでの常識にとらわれず、新しい市場を作れる力が求められる時代なのです」
(ジャパネットたかた創業者の髙田明氏)

 現状維持では死が待つのみ。
 そんな厳しい時代に伸びる会社はどこか。
 逆に、厳しいのは—。

 '16年はロボット業界が本格的に花開くでしょう。
 中でもロボットスーツ『HAL』の医療機器承認が進み、収益化局面を迎えるサイバーダインは期待大。
 医療業界では、大手製薬を出し抜いて画期的ながん治療薬『オプジーボ』の開発に成功し、'14年から販売開始した小野薬品工業の業績拡大が見込めます。
 逆に厳しいのは、新日鉄住金などの鉄鋼メーカー。
 ドル箱だった自動車用鋼板が、東レなどが作る炭素繊維に奪われる流れが本格化する。
 世界的な需要不足に襲われる海運各社は、業界再編もあり得る」
(岡三証券日本株式戦略グループ長の石黒英之氏)

 '15年絶好調だった会社の中にも、'16年は苦戦を強いられるところが出てきそうだ。

 「米国は利上げをきっかけにして自動車市場が失速する懸念があるため、北米事業で儲けているトヨタ、ホンダ、富士重工業などにはきつい一年となる。
 '16年はインバウンド市場も人民元安の影響で過熱感が薄れ、ビックカメラやラオックスは頭打ちでしょう。
 インバウンド競争激化の中で勝ち残れるのは、ブランドが確立している高級ボールペンの三菱鉛筆、高級炊飯器の象印マホービンなどとなるでしょう」
(TIW代表の藤根靖晃氏)

 原油安、中国失速
……環境変化で浮かぶ会社、沈む会社も明暗が大きく分かれる。

 「原油から鉄鉱石、銅などの金属資源の市況低迷が続けば、三菱商事など商社の業績を直撃する。
 中国失速で個人消費が落ち込んでくると、グレーターチャイナ(中国、香港、台湾など)でユニクロが好調なファーストリテイリングはきつくなる。
 一方、'16年4月からの電力小売全面自由化で期待できるのは、新電力大手のイーレックス。
 多くの新電力が淘汰される中で、力強く勝ち残りそうです」
(マーケットバンク代表の岡山憲史氏)

 規模の大小、知名度はもはや関係ない。
 熾烈な下剋上の幕開きだ。

「週刊現代」2015年1月2日・9日合併号より



2016年01月04日(Mon)  中島厚志 (経済産業研究所理事長)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5785

先進国が恩恵受ける2016年経済
イノベーションは起こりえるのか

 2015年の世界経済は、中国経済減速や資源安での新興国経済停滞などがあり、元気のない中で終わろうとしている。
 アメリカ経済だけが一人勝ちの構図だが、雇用改善で消費堅調といったプラス要因に混じってドル高といったマイナス要因もあり、さらに成長率を高めるようには見えない。
 2016年の世界経済も、現在と同じような要因が続いて
 方向感に乏しい展開となろう。


 だが、2016年の内外経済を見るに当たっては、背景にある世界経済の潮流変化を見逃すことはできない。
 シェール革命下のアメリカ経済と構造調整で減速する中国経済が原油安資源安とドル高をもたらしていることで、世界経済は今までの高成長する中国、原油高資源高と新興国経済の隆盛とは違った局面に入っている。

 この新たな局面は、いままで恩恵を受けてきた国々と恩恵が乏しかった国々が入れ替わる局面とも言える。
 それは、恩恵を享受できなくなった新興国や資源国から、新たに恩恵を受ける非資源国とりわけ先進国への主役交代でもある。

 今後の世界経済では、けん引役としての期待が先進国に一層強くかかることとなろう。
 その上で、少子高齢化が進み、潜在成長率が落ちている先進国が真に世界経済を牽引するには、大きなイノベーションの可能性を増すことしかない。

◆入れ替わった世界経済のけん引役

 世界経済の大きな変化は、所得水準別に国々の一人当たり経済成長率を見ると分かる(図表1)。
 かつて、世界経済は先進国が名実ともにけん引していた。
 そして、1980年代まで、中低所得国では人口増に成長が十分には追い付かず、一人当たりの経済成長率が先進国以下の時代が続いた。


しかし、90年代になると、アジア諸国などが高成長を実現し、中所得国が大きな成長を遂げる時代に入る。
 2000年以降は、中国経済の高成長や原油・資源高などにけん引されて、低所得国が大きな成長を果たす番となった。

 現在は、これら中低所得国経済が大きな転機を迎えている。
 中国経済の減速や原油・資源安で今後恩恵が乏しくなる国々は多くの中低所得国が属する資源国であり、新興国である。

 一方、現在新たに恩恵を受けている国は原油・資源安とドル高がプラスに効く非資源国であり、とりわけ輸出力を持つ先進国などである。
 また、日米欧諸国での低金利も景気回復を支える。
 アメリカや日本では、それに加えて労働需給ひっ迫が賃金上昇圧力となって消費を支えることにもなる。

◆恩恵を受ける先進国も成長率高まらず

 もっとも、恩恵を受けているからと言って、先進国の経済成長率が大きく高まるとは見込みにくい。
 原油安が進む現状では、世界最大の産油国アメリカの経済けん引力も限定的である。
 また、ドル高は家計の購買力を高めて消費を支えるが、原油安との組み合わせでのドル高ではアメリカ企業の収益はなかなか伸びず(図表2)、経済成長が高まることにもなりにくい。 

ユーロ圏経済では、財政健全化が制約要因となる。
 とりわけ、中核をなすドイツ経済が健全財政を堅持しており、大きな経常黒字や家計の消費余力があっても域内経済回復の機関車役を果たしそうにない(図表3)。


 日本経済も底堅く回復するも、ほどほどの成長しか期待できそうにない。
 原油安、通貨安、低金利のトリプル安の恩恵等があるものの、少子高齢化で国内市場は大きくならず、国内生産の停滞と海外現地生産の拡大も止まらない。

 新興国経済の成長率が落ちる一方で先進国経済の成長率が大して高まらなければ、世界経済の成長率は高まらない。
 なにより、恩恵を受ける国々が入れ替わる世界経済の下では、新興国・資源途上国隆盛で縮小方向にあった世界の人々の経済格差が再び拡大に転じかねない。

◆打開策はイノベーションの加速

 しかし、時間はかかるものの、打開策はある。
 それは、久々のトリプル安の恩恵を生かして先進国が大きなイノベーションを生み出し、世界経済を活性化させることである。

 日本経済も同じ立場にある。トリプル安に支えられても、現在の日本経済には元気がない。
 大きな背景は少子高齢化にあるが、史上最高の収益を挙げながらも企業に投資や雇用賃金を増やす動機を乏しくしている不透明な経済動向も要因として挙げられる。
 企業のイノベーション力が高まれば、企業の先行きへの不透明感も減じることとなる。

 もちろん、いくらイノベーションが生まれればと言っても、大きなイノベーションは容易には生まれないし、産業革命クラスのイノベーションとなれば起きるか起きないかすら分からない。

 ただし、イノベーションの可能性を高める手はある。
 一つは財・サービスの差別化を徹底し、生産性を引き上げる投資を増やすことである。
 日本の平均設備年齢はかつてないほど高齢化老朽化しているが、潤沢な手元資金でその更新を図るだけでも生産性は大いに向上する。

 グローバル化も世界中のヒト、モノ、カネを活用する余地を広げてイノベーション力を高めるし、女性・高齢者・高学歴者・外国人を含めた多様な人材の活用も大いに効果がある。
 そして、内外でのM&Aは多様な人材やノウハウの融合を早める有力手段である。

 2016年の内外経済は動きに乏しいものとなる可能性が強い。
 しかし、世界経済での潮流変化に身を任せるだけでは、中長期的にも低調な世界経済が続き、せっかく縮小してきた世界経済の格差が再度拡大することになりかねない。

 ここは、トリプル安を追い風とした先進国の出番であり、イノベーションを加速させることが世界経済に新たな飛躍をもたらすことになる。
 2016年世界経済の課題と期待はイノベーションの進展であり、それはイノベーションの前提となるヒト、モノ、カネの活用に欧米以上の大きな余地が残っている日本経済にも強く当てはまる。