2016年1月28日木曜日

中国GDPは25年ぶり低水準(3):ハードランディング回避より、ランディング後の対応が焦点になってくる

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 中国のハードランデイングはほぼ確実になってきている。
 問題はハードランデイングした後の対応である。
 どのような形でそれを乗り切っていくかが問題になる。
 ハードランデイングを回避するのではなく、それをしっかり受け止めてその後の構造改革にいかに活かしていくかが焦点になる。
 日本の場合は資本主義なので、動きが鈍い。
 しかし中国の場合は社会主義の共産党独裁で対応が一気にとれる。
 よって、どんな形でハードランデイングを終焉させるかが見ものになってくる。


  Bloomberg 2016/1/28 15:00
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O1NDPA6K50XS01.html

1兆ドルの資本流出に打つ手あるのか
-中国の真意に世界が注目

 (ブルームバーグ):中国の政策当局は昨年、
 1兆ドル(約119兆円)に上る資本流出
を目の当たりにした。
 世界の投資家が今気に掛けているのは、習近平国家主席率いる政府の経済チームがこうした状況に実際にどう対処しようとしているかだ。

 資金が逃げ出すのを抑えるため、10兆ドルを超える規模の中国経済に新しい包括的な資本規制で壁を築けばいいという意見もある。
 日本銀行の黒田東彦総裁は先週、世界経済フォーラム(WEF)年次総会が開催されていたスイスのダボスで、個人的見解として
 「資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」
と語った。

 中国には最近、頼みもしないのにこうした多くの助言が寄せられている。
 輸出依存からサービス業と消費を重視する経済モデルへの転換というのは容易ではない。
 経済成長率は1990年以降の低水準となり、本土株も大規模な売りに見舞われ、当局は資金の流れを管理する厳格な規制も打ち出したが、即効薬はない。
 中銀国際USAで社長を務め、現在は独立系の中国アナリストであるアンドルー・コリアー氏は、
 「実際に全ての取引を止める以外、
 中国にできることはそう多くない」
と話した。
 だが資本流出には対外投資の機運の高まりを反映する側面もある。
 中国のハイアールグループ(海爾集団)は今月、グループ傘下の青島ハイアール(青島海爾)による米ゼネラル・エレクトリック(GE)家電事業の大型買収で合意したと発表した。

      【警告】

 中国本土の預金を海外に移す国民もいる。
 劇的な元切り下げがあるかもしれないとの懸念や、政府の意図がはっきりしないことを不安視しているためだ。
 中国国営メディアは著名投資家ジョージ・ソロス氏らの中国に対する弱気な見方に反論、人民元の空売りをしないよう警告した。
 国際金融協会(IIF)は声明で、
 「中国当局は人民元の国際化と資本勘定自由化に向けた進展を損ねることを望んでいないため、
 厳しい資本規制措置が講じられることはないと見込んでいる」
とコメント。
 米アメリカン・エンタープライズ研究所で中国経済を研究しているデレク・シザーズ氏は
 「中国の資本流出は今、それほど深刻ではないと思う」
とした上で、
 「これがあと2年続けば、明らかに問題だろう」
と述べた。

原題:$1 Trillion China Money Exodus Isn’t About Capital Controls (2)(抜粋)



サーチナニュース 2016-01-28 06:32
http://biz.searchina.net/id/1600975?page=1

中国は日本のようになる?
中国経済がハードランディング回避するには

 中国は世界第2位の経済大国であり、世界に与える影響は極めて大きい。
 中国の2015年における国内総生産(GDP)の伸び率は6.9%増にとどまり、25年ぶりの低水準にまで減速したことで、中国経済の鈍化が世界経済にもたらす影響について懸念が高まっている。

 だが、中国メディアの騰訊財経はこのほど、
 米メディアの報道を引用し、中国経済が減速し、最終的に日本経済の「二の舞」となる可能性は低い
と論じた。

 記事は、中国経済の成長率が低下するにつれ、バブル崩壊後に経済成長率が低迷し、「失われた20年」を迎えた日本を引き合いに、
 世界中で「中国は日本の二の舞いになるのか」という議論から、
 「中国はいつ日本の二の舞を演じるのか」
という議論に変わっていったと論じた。

 一方で、中国は2015年に多くの問題を解決済みだと指摘し、現在の問題は「いかにして自国の潜在成長力を現実の成長につなげるか」という点であると主張。
 また、中国の学者たちにとって、中国が直面している問題は過去の日本を見れば対策が分かるものばかりであり、中国政府はすでにその対策を講じていると主張した。

 続けて、中国は日本の二の舞を演じることを回避できるのだろうかと疑問を投げかけつつ、結論としては「回避可能だ」と主張。
 その条件は、
 中国が構造改革を進め、投資に依存する成長モデルから
 第3次産業と消費に依存する成長モデルに転換させることだ
と論じた。

 中国が消費に依存する成長モデルに転換しようにも、中国人旅行客の爆買いからも分かるとおり、中国人消費者は国外で消費している。
 その背景には、中国国内で偽物が大量に流通しているため、品質に対する不信感があることや、諸外国との価格差など、複数の要因がある。
 中国政府は国内での消費を奨励しようとしているが、果たして中国人消費者が中国国内で進んで消費を行おうとするかは未知数だ。



Bloomberg 2016/2/1 14:12
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O1UM2A6KLVRB01.html

中国の人民元防衛、
まるで軍事活動-ビッグママが立ちはだかる

  (ブルームバーグ):
 中国人民元の下落に賭ける取引を行っていた投機家に対する中国人民銀行(中央銀行)の激しい攻撃を、中国当局は軍事的な例えで表現している。 

 人民銀の鄭州培訓学院の王勇教授は「厳しい戦い」への心構えを政策当局に促し、人民元の安定維持に向けて奮闘する中で穀物や石油、金を政府が備蓄するよう訴えた。
 中国商務省の研究員、梅新育氏は共産党機関紙の人民日報(海外版)1面に掲載された寄稿文で、
 資産家の投資家ジョージ・ソロス氏が中国に仕掛ける攻撃は成功しない
と記した。
 人民元下支えを図る人民銀の最近の行動の「前線」に立つ香港のトレーダーにとり、当局者のこうした言葉は自分たちを取り巻く雰囲気にぴったりだ。

 上海商業銀行の調査責任者、林俊泓氏(香港在勤)は
 「2016年1月12日という日を、私は忘れることができない」
と話す。
 人民銀はこの日、香港市場で大規模な人民元買い介入を実施。
 その結果、銀行間金利が過去最高水準に跳ね上がり、人民元下落を見込んだ取引をしてきた投機家は打撃を被った。
 当局のメッセージは、
 「央媽」(大まかにビッグママの意)とも称される人民銀と争うつもりなら、その危険を覚悟せよ
というものだ。

 HSBCホールディングスのアジア経済調査共同責任者、フレデリック・ニューマン氏(香港在勤)は、
 「中国当局は『ここのボスは誰か』をはっきりさせたかったのだ」
と指摘した。
 人民銀は今年に入って情報収集活動を強化した。
 香港で事業活動をする国有企業や中国の銀行に対し、人民元の空売り注文を出した顧客に関する詳細を提供するよう求めた。
 人民銀はまた、人民元が一定水準に下落するたびにドルを売り、香港市場で人民元を継続的に防衛してきた。

原題:Battle for the Yuan: How China’s Big Mama Hurt Speculators



サーチナニュース 2016-01-29 12:33
http://news.searchina.net/id/1601149?page=1

中国で省別GDP出そろう 
水増しの存在は明らか、
「ダウト!」と叫びたくなる衝動も

 中国では27日までに、全国で31ある省クラス行政区画(省・中央直轄市・民族自治区)ごとの2015年における域内総生産(GDP)が出そろった(一部は推定値)。
  またしても、中央政府・国家統計局が発表したGDPの前年比伸び率の6.9%を上回る省が異常に多かった。
 水増ししている例が多いのは明らかで、一覧を見ていると「ダウト!」と叫びたくなる。

 31の省クラス行政区画のうち、23カ所でGDP成長率が6.9%を上回った。
 2カ所は6.9%ちょうどで、6.9%未満はわずか6カ所だった。

 伸び率が大きかったのは、
 チベット自治区(11%)、
 貴州省(10.7%)
 江西省(9.1%)、
 湖北省(8.9%)
だった。

 北京市と上海市はともに6.9%で、全国伸び率と同じだった。

 伸び率が小さかったのは、遼寧省(3%)、山西省(3.1%)だった。
 遼寧省は2015年、投資や工業生産が衰えていると伝えられていた。
 山西省については、石炭産業の不振が深刻だ。

 中国では、全国と省別のGDPが発表されるたびに、省別GDPの合計が全国値を大きく上回る事態が続いている。
 これまでのところ、GDP伸び率だけを発表している省もあるので合計値はまだ算出できないが、
省別GDPが
 第1位(7兆2800億元=約130兆5500億円)の広東省の伸び率が8%、
 第2位の江蘇省(7兆600億元)が8.5%、
 第3位の山東省(6兆3002億3000万元)が8%
であるなど、上位5省の伸び率はすべて8%以上だ。

 中央政府発表の全国値と省別発表に「矛盾」があるのは明らかだ。
 中国で発表される経済指標に対して「ダウト!」と叫ばざるをえない事態が、また繰り返された。



サーチナニュース 2016-02-05 07:33
http://news.searchina.net/id/1601746?page=1

中国高官「経済成長率6.9%は非凡な成果だ」

 中国の国務院新聞弁公室(中国政府報道事務室)は3日、2015年における経済状況を説明する記者会見を行った。
 説明を担当した国家発展改革委員会(発改委)の徐紹史主任は、同年における国内総生産(GDP)の伸び率6.9%を、「非凡な成果」と強調した。

 徐主任は、
 「中国経済はハードランディング(墜落)するのか?」
との声が出ていることに対して、
 「そのような言い方が出てきたのは、今回が初めてではない」
と主張。
 さらに
 「わが国の物質的基盤は比較的厚く、市場の需要も大きい。
 地域も広く、生産要素の質も向上している。
 マクロ調整の経験も不断に積み重ねられている」
などとして、
 「ハードランディング説」には信頼性がまったくない
と強調した。

 「中国経済の落ち込みが世界経済に影響を与えている」
との言い方に対しても「現実に合わない」と反論。
 「まず、わが国の経済成長率は6.9%で、全世界の経済体の中で上位だ。
 輸入は依然として世界第2位で、貿易総額では前年を割ったが、商品輸入は増加した。
 (中国は)世界の経済成長を牽引している」
と述べた。

 逆に、世界経済の回復が遅れていることで、中国は経済の「下行圧力」にさらされていると主張。
 しかし
 「われわれは、問題と難題に対応する能力と条件を有している」
として、
 「中国経済の発展には相当にしっかりした内部の支柱と、弾力的対応が可能な余地、リスクを制御する能力がある」
と経済運営に自信を示した。

 そして、2015年に経済成長率6.9%を達成したことについては、
 「全世界的にみて、非凡な成果だ」
と称賛した。



JB Press 2016.1.30(土)  武者 陵司
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45923

鍵は中国「毒」の伝染遮断、資本規制だ
世界株安底入れのかすかな曙光が見え始めた

新関:: 
  武者リサーチ代表の武者陵司先生にお話しをお聞きします。
 本日のテーマは
 『鍵は中国「毒」の伝染遮断、資本規制だ~世界株安底入れのかすかな曙光見え始めた~』
ということでよろしくお願いします。

 中国関連で世界の経済金融のオピニオンリーダーである「エコノミスト」誌と「フィナンシャル・タイムズ」紙から
 『中国は資本規制を導入するべきだ』
という記事が出されました。
 その概要と重要性を教えてください。

武者::
 世界の株安、今年1月に入って突如15%から20%近い同時株安が起こっているということで人々は不安につつまれていると思います。
 端的に言って、この大きな不安を根底から払拭する動きが出始めたというのが私の解釈です。
 ポイントは、時間は少しかかるかもしれませんが、中国にあるデフレの様々な毒素を遮断するということが起きそうだということです。
 そうなると世界の株安は一転大幅な株価上昇に転ずる可能性が出てきます。

 鍵は、中国から海外に伝染している最大の経路は
1].中国からの資本流出、
2].それによる人民元暴落、
3].その結果として起こる世界のデフレ
という心配だったと思います。
 従ってこの不安を遮断するためには、
★.中国からの資本流出が断たれ、
 人民元が際限なく下落していくという人々の不安が止まれ
ば、一気に局面は好転するわけです。

 そういった点で注目したいのは
 「エコノミスト」と「フィナンシャル・タイムズ」という世界の金融経済のオピニオンリーダー的な2つのメディアが相次いで中国は資本規制を導入するべきだという明確なオピニオンを発表した
ということです。

★.もっとも注目するべきなのは1月26日のフィナンシャル・タイムズの社説で ”Capital control may be China’sonly real option” という記事が出たことです。
 つまり資本規制が今の中国にとって唯一選択可能な政策手段だという記事です。
 奇妙な記事です。
 これまでエコノミストもフィナンシャル・タイムズも中国は規制を緩和し、資本取引を自由にし、それによって市場経済を使った経済の改革を進めるべきだという主張でした。
 その主張とは全く逆の資本規制を強化しろ、これは極めて奇妙とみえる記事ですが、これこそが現在の情勢の鍵だということであります。

★.もう1つは少し前1月16日付のエコノミスト誌に同じような記事がカバーストーリーとして掲載されています。
 この号の表紙には荒れ狂う龍の上に乗って振り落とされまいと、しがみついている習近平国家主席の絵が描かれていますが、これの趣旨も中国は資本規制を導入するべきだということです。
 曰く、”One step back, two forwards”。
 つまり二歩進むためには一歩後退するべきだという記事です。

 それは1月19日の日経新聞に全訳で紹介されています。
 資本規制強化で危機に備えろ。
 つまりエコノミストもフィナンシャル・タイムズもそしてそれを受け継いだ日経も主張しているのは、危機回避のためには徹底的な資本のコントロールをやるべきだという記事です。

 1月8日に私もレポート(ブレティン154号『中国経済のフリーランチ、終わりの始まり ~世界連鎖株安は中国の市場封鎖で下げ止まる~』)を書いて、これこそが状況を転換させる鍵だと主張しました。
 正しくそのようなオピニオンがこのような世界の最も人々が注目するメディアの中心に登場したということは驚くべきことであると同時に非常に迅速に世界の人々のオピニオンが収れんしていく可能性を示していると思います。

なぜ資本規制が鍵なのか。
 今や、
 世界危機の最大の源泉は
 中国が史上最大の供給力過剰をため込み、
 その供給力過剰によって経済が急速に悪化し、
 その中国経済の悪化が世界を巻き込む
ことにあることは明らかです。
 原油価格が下がり、それが世界の人々の不安心理を煽いでいますが、原油価格が下がる理由は中国における劇的な経済の失速と、それによる需要の落ち込み、需給の悪化が大きな原因です。
 そう考えると中国問題こそが様々な懸念の最も中心である、と言っていいわけです。

 この中国の問題を世界全体の不安に拡大させないための処方は
 危機を中国の中に封じ込める
ということです。
 中国のデフレ圧力がどのように世界に広がっていくかというと、
 最大の鍵は資金の流出、
 人民元の暴落、
 それによる世界的な資産価格の下落
という悪連鎖だと思います。
 そのような悪連鎖を食い止めるためには資本の規制が必要だというのが記事に書かれているのです。

 中国は今どういう状態にあるのか。
 基本的には第1に経済は著しく失速しています。
 従って必要なことは金融緩和をして、経済の失速や不動産バブルの崩壊を食い止めることです。
一生懸命金融緩和をやるということは、当然のこととして中国の金利が安くなり、
 アメリカでは利上げを行われるということもあって、
 資本は中国から海外に逃げて行くことになります。
 まして
 今の中国は外国人が4兆ドルお金を貸している国(証券投資を除く対外債務は4兆ドル)ですから、
 中国に貸しているお金を早く取り戻さないと、元が弱くなって元本が毀損するということで一気に外国人は中国からお金を引き上げようとします。
 他方、中国人も持っている資産価値を維持するためには
 元で持つよりは外貨で持つことが有利だということでお金が外に逃げる。
 つまり国内の経済困難とは裏腹に、ますます資金が国内から海外に逃げていくということが起ころうとしています。
 そのような状況のもとで、さらに国内経済のために金融緩和をすればお金が外に逃げていって元安になるということもあるわけです。

 お金をたっぷり国内に供給しても、その供給したお金が外に逃げていって、金融緩和がしりぬけになる。
 つまり今の中国にとって、国内で金融緩和をやりながら、他方で自由な為替の取引をしてお金が海外に自由に逃げていくことを許すということは二律背反であり無理なのです。
 このようなことが今年初めからの世界の金融市場の不安の最も中心にあることなのです。

 従って中国政府には2つに1つの選択肢しかありません。
 1つは国内の金融緩和をやめて元の価値を維持すること、
 あと1つは、国内の金融緩和をやりながら他方で元の価値を維持するために資本の海外への流出を食い止めることです。

 2つのジレンマのうちどちらを取るべきか。
 答えは明らかでしょうとフィナンシャル・タイムズは言っているのです。
 それは資本のコントロールしかないでしょう。

 国内で元の価値を守るための金融引き締めをやることは到底不可能です。
 同時に放っておいて元がどんどん暴落すれば、今度は中国発の世界金融危機が起こる可能性をより強める。
 どちらも取らないとすれば、今は資本規制しかないでしょう。
 これがフィナンシャル・タイムズの記事であり、エコノミストの記事であり、1月8日に書いた私のレポートの内容でもあります。

 つまり世界の危機の根源的な原因である中国からの資本流出を遮断する。
 このところにいよいよ焦点がしぼられてきたというのが現在の情勢です。
 おそらくオピニオンリーダーたちがこのような主張するということは
 近い将来、政策として実現する可能性が高くなった
というふうに言っていいと思います。

*  *  *  *

新関::
 それが世界株安の底入れとなるのでしょうか。
 株価底入れの条件は何かお伺いします。

武者::
 おそらくこれが起こると当面世界の株式の大きな底入れとなると思います。
 その後、鋭角的な株価上昇が起こる可能性があり得ると思います。

 今年に入ってからの世界同時株安の原因は何かということを考える必要があります。
 私は端的に言って世界株安の原因は、中国が原因であるにせよ、原油が原因であるにせよ、世界が再びリーマンショック並みの深刻な同時不況に陥ると言う仮説が何となくもっともらしくなって、それをマーケットが織り込もうという動きだったと思うのです。
 もちろん、そのような悪材料、暗いシナリオを一生懸命宣伝してマーケットを売り崩そうという投機筋のかなり組織的な動きがあったことも明らかだと思います。

 従って必要なことはリーマンショックのような世界同時不況が絶対起きないのだという確信を持たせることです。
 そのような確信がはっきりすれば株安が終わって今度は逆に大きく上昇に転ずることになるわけです。

 それでは、いったいどういう条件がそのような世界同時不況を否定するかということになりますが、私は3つしかないと思います。

1].第1は実体経済が明らかに良くなることです。
 中国の経済が深刻化しても、先進国(アメリカ、ヨーロッパ、日本)の経済は大丈夫なのだと明らかになること。
 これは様々な指標や企業業績の発表などでいずれ明らかになっていくと思います。
 しかし、それは非常に緩慢であり時間がかかると思うのです。
 そのような景気がよくなる指標がでてくる前に、株価が底割れするとか人民元が大暴落することになると、景気が実際に良くなるよりも先にマーケットの悪化によって今度は景気が腰折れをする可能性が出てきます。
 従って短期的には、景気実態や企業業績によって株価が底入れをするという期待は持つことができないと思います。

2].2つ目の条件は、先進国が不退転の決意で景気を底割れさせないという政策を打ち出すこです
 まず日本は第3弾の量的金融緩和を打ち出すこと。
 それから財政をどんどん増やすこと。
 それから2017年に予定されている消費税増税を棚上げすることです。
 この3つを打ち出せば日本株に限っていえば非常に大きなリバウンドをもたらす可能性はあると思います。
 しかしこれは日本だけの話なので、日本だけでやっても力不足。
 やはり同じような政策をアメリカ、ヨーロッパの先進国が協調して打ち出す必要があります。
 アメリカでは利上げを延期するとか、最悪の事態に備えて量的金融緩和の第四弾を打ち出すなどやれば雰囲気はがらと変わると思います。
 ヨーロッパではドラギ総裁が3月に再度の量的金融緩和を打ち出すことを示唆しましたけど、そのようなことが同時に行われる必要があると思います。
 つまり先進国の協調的な政策対応。
 これが2つ目に状況を劇的に変える条件です。

3].3つ目に状況を劇的に変える条件はやはり中国だと思うのです。
 様々な問題の根源は中国にあるので、中国がしかるべき手を打てば状況は劇的に変わると思います。
 第1は景気対策です。
 しかしこれはいろいろやっているけれどなかなか実効が伴わない。
 景気の完全な底入れ転換はあまり期待できない。
 となると中国は今可能な最も重要な政策は何かというと正しい資本規制です。
 資本規制をやって、国内の金融緩和が世界の人民元安に結び付かないということを明確にすれば、投機筋のマーケットの売り崩しは完全に経路を遮断されると思うのです。
 中国の資本規制強化が3つ目の大きな転換点になり得る条件です。

 もう一度言います。
 実体経済の好転。これは時間がかかって当面期待はできない。
 2つ目、先進国の大胆な同時、協調的なテコ入れ政策。
 これはあり得ると思います。
 3つ目は中国の資本規制。
 この3つのうちどれかが顕在化すればマーケットは大きく転換し得ると思うのですけれど、可能性としてかなり早いと思われるのは中国の資本規制。
 これが打ち出される可能性がでてきた。
 こうなるとマーケットの底入れはそう遠くない将来に実現する可能性があるということだと思います。

*  *  *  *

新関::
 今の市場をどうみるかを武者リサーチの基本的な考え方として教えてください。

武者::
 武者リサーチとして現在どういうスタンスとしてマーケットを見ているか、6点ほど申し上げたいと思います。
 まず、
第1に日本株価の長期上昇トレンドは全く変わらない。
 いずれ2万円を超え、数年後には3万円を超えていく可能性は極めて高い。
 なぜなら、日本株式の本質的な価値がそこにあるから。
 企業の稼ぐ力がそこにあるから
 今のような金融市場の混乱があっても、それは全く損なわれないと思います。

第2に武者リサーチが申し上げたいのは中国経済の悪化と、株価下落、資本流出というのは資本規制などの強化が打ち出されない限り止まらないと思います。

第3に主張したいのは、アメリカ経済は大抵のことが起こっても堅調であり、リセッションに陥る心配はまずないと言っていいと思います。
 もちろん、マーケットの売り崩しを止めることができなければリセッションということもあり得ます。しかしこれは止められます。

第4、日本経済も追加的な経済対策
 アベノミクスの第3弾がリセッションを回避する可能性が極めて高いと思います。
 安倍政権、黒田日銀は不退転の決意でデフレ脱却をやるということを約束していますから、約束を違えることはないと思います。

第5、世界の同時株安は中国発の世界同時不況という仮説が織り込まれようとしているわけですから、これが否定されれば事態は変わる。

6つ目に主張したいのは政策の発動によってマーケットは劇的に反発するということです。
 仮に上述の困難によって日経平均が1万6000円、1万5000円、1万4000円、または1万3000円まで下がったとします。
 しかしそこからあと政策の転換によって事態は急激に変わり一気に2万円、場合によっては2万3000円、2万4000円という株価の急騰が起こる可能性があるということです。

以上6点が武者リサーチとして現在主張したいポイントです。

*  *  *  *

新関::
 株価の展望を教えてください。

武者::
 まだしばらく株価の下落は続くと思います。
 底打ち転換は政策発動以外に考えられず、政策転換は株価が堅調な局面ではでてきそうもないからです。
 もっと深刻な株価の下落だとか、経済の悪化、人々がより悲鳴をあげる環境が必要だと思われます。
 ここ数週間、あるいは数か月間、場合によっては株価の下落、低迷が続く可能性があるのです。
 しかし、そのようなことがあってもここから先の株価の底値はそんなに深くないのではないか。

 そしてその後は、経済実態は大きく明るくなると思うのです。
 なぜなら前から説明している通り、実は
 原油価格の下落というのは
 世界経済にとっては極めて大きな好材料
なのです。
 日本にとっては、例えば2014年日本が輸入した化石燃料の輸入額はGDPの3.4%あったわけです。
 従ってこれが半分になったら1.7%GDPが押し上げられます。
 今は半分どころか3分の1です。
 3分の1ということですと経済成長は2%超える押し上げ効果があるわけです。
 これはアメリカでもヨーロッパでもそうです。
 おそらく年初の暗い雲が大きく消えた後、かなり明るい晴天が待っている可能性があり得るのです。

 中国は中国で資本規制を導入する。
 しかし他方で国内では徹底的な金融緩和をやることということで中国経済・金融のとてつもない悪化も一旦歯止めがかかると思います。
 このように考えるとこの先の短期的な下落とともに、年後半にかけての大幅な上昇ということを念頭に置いておく必要があると思います。
 やはり鍵は政策対応になると思います。

新関::
 それでは、今のような急落場面において投資家はどのよう心構えが必要か、何か教えてください。

武者::
 今年は驚くべき変化が起こりました。
 だれもが想像していなかったマーケットの暴落が起こり、中国は破局してしまうのではないかというほどの不安を世界の人々に放ち続けたわけです。
 原油価格も下値の目途が立たないほど急落しました。
 こういう状況の中で人々は異常な不安心理にとらわれたということはだれもが想像できなかった意外性だったと思うのです。

 私は4つの点を強調したいと思います。

第1はこのような局面というのは本来株式が持っている本質的な価値から値段がどんどん下の方に乖離しているということです。
 これは言葉を変えて言えば、空前の投資チャンス、バーゲンハンティングの機会が巡ってきつつあるということです。
 その好例をあげると、リーマンショック直後です。
 リーマンショックのとき世界の株価は6割暴落したのです。
 6割大暴落した2009年の初めというのは本質的価値に比べ著しく株が安くなった時期です。
 従って、その時に株を買っていたとすれば、2年後に世界の株価は倍になって、3年後には3倍になっているわけです。
 大幅な株価上昇の可能性を秘めているのはこれから先の株式市場である。
 大きな投資チャンスですから、あるいは価値のある株を大変安く買えるバーゲンのチャンスですから、そのチャンスを逃さないように。これが第1の心構えだと思います。

第2に申し上げたいのは、中国の望ましい政策は規制強化です。
 人々は、中国は規制緩和し、市場経済を導入すればよくなるのでその方向で改革しないさいと言っています。
 しかし危機を抑えるためには規制強化が不可欠なのです。
 規制強化は緊急避難政策、いわゆるコンティンジェンシー・プランということで、正しくどこの国でも危機が起こったときに導入したことです。
 リーマンショックの後でも世界が安定したのは規制強化あるいは権力の介入によって市場は安定したのです。中国もそのようなことによって事態は一旦は沈静化する。

3つ目は、
 何と言っても日本は政策発動の可能性はほぼ間違いないということです。
 2017年4月には消費税増税があります。
 安倍政権はこれをどうするかを決める前に7月に参議院選挙があります。
 衆参同時選挙になる可能性もあります。
 こういう局面においてアベノミクスは成功したのだ、日本はデフレ脱却間違いないのだという現実を作るということは是が非でも必要であり、それをやるための手立てがあるとすれば安倍政権と黒田日銀はアクションを起こすと思います。

4点目に申し上げたいのは、ダウンサイドのリスクはあまりないのではないか。
 ここまで来ますと一定の条件で底入れするというシナリオは、私は見えてきたと思います。
 おそらくエコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどがこういう主張を始めたということは多くの人々がこれで底入れが見えてくると思い始めるということです。
 このようなことで底値感が形成されるのはそう遠くないではないか。

 以上、
 第1は本質的な価値から大きく下がりバーゲンのチャンスである。
 第2に中国の必要なことは規制の強化であり、その可能性は極めて高い。
 第3に日本の政策の発動、これもほぼ間違いない。
 第4にこれから下のダウンサイドは小さくなった。
 この4点を念頭に置いておく必要があるのではないかと思います。

新関::
 なるほどよくわかりました。

新関/武者::
 ありがとうございました。

(*)本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第155号(2016年1月29日)」を転載したものです。



レコードチャイナ 配信日時:2016年2月9日(火) 6時40分  
http://www.recordchina.co.jp/a128561.html

IT中心のサービス分野が高成長
=民間債務はGDPの2倍、
ハードランディングリスク懸念も―三菱総研・副センター長


●三菱総合研究所・政策・経済研究センターの武田洋子副センター長が講演し、中国経済について「過去のバブルの修正の過程にある」とした上で、中国の国内総生産は16年には6%台半ばとなり、17年にはさらに下落すると予想した。

 2016年2月5日、三菱総合研究所・政策・経済研究センターの武田洋子副センター長は、「2016年の世界経済」と題して、日本記者クラブで講演した。
 中国経済は「過去のバブルの修正の過程にある」とした上で、
 中国の国内総生産(GDP)は16年には6%台半ばとなり、
 17年にはさらに下落すると予想した。
 民間部門の債務残高がGDP比で200%(2倍)程度まで膨張、
 バブル時代の日本と同様のハードランディングリスクの懸念があると指摘しながらも、中間層が拡大し所得が伸びているため、サービス産業のGDPに占める割合が拡大。
 第3次産業のGDPが14年7.8%、15年8.3%と上昇、16年も高い伸びを確保する、との見通しを明らかにした。
 発言要旨は次の通り。

 2016年の世界経済は、中国など新興国経済の減速と米国の金融政策転換がここ数年、相互作用しながら世界経済や国際金融市場に多大な影響を与えている。
 米国一極集中から脱却が進み、多極化しているためである。

 中国経済は過去のバブルの修正の過程にある。
 設備の過剰は膨大で、鉄鋼の過剰設備は日本の生産量の3倍にも達している。
 上海市場の株価も行き過ぎを修正する過程である。
 中国の国内総生産(GDP)は15年の6.9%成長が16年には6%台半ばとなり、17年にはさらに下落するだろう。

 重厚長大型産業の成長は鈍化するが、第3次産業のGDPが14年7.8%、15年8.3%と上昇、16年も高い伸びを確保する。
 中間層が拡大し所得が伸びているためで、サービス産業のGDPに占める割合は60%以上に拡大している。
 中国経済の2面性に着目しなければならない。

 中国経済はイノベーション主導による成長モデルに変換しつつあり、中国政府が中軸に位置付けている。
 「インターネット」を中心としたIT産業の売り上げが著しく伸びており、タクシー運転手までネットでつながっている。

 ただ国有企業の改革は進捗していない。
 政府は政策総動員による景気下支えを目指しているが、中央政府がいくら刺激策を打っても、財政赤字を抱えた地方政府が投資に踏み出せず、構造問題に起因する景気下押し圧力が一段と強まる恐れがある。
 中央政府は資金を確保しているが、民間部門(非金融部門)の債務残高がGDP比で200%程度まで膨れ上がっていることは懸念材料だ。
 中国の貯蓄率は高いから心配ないとの声もあるが、それはバブル崩壊後の日本も同じだった。
 バランスシート調整と不良債権問題が深刻化すれば、
 ハードランディングリスクが高まる
だろう。



【激甚化する時代の風貌】



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