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ロイター 2016年 01月 13日 17:31 JST
http://jp.reuters.com/article/china-markets-offshore-yuan-idJPKCN0UR0RN20160113
焦点:介入でオフショア人民元への不信増大、
先安観変わらず
![](http://1.bp.blogspot.com/-x5T_q0gri9w/VpgXMjZaSrI/AAAAAAAAAIE/YRUBQMbwHIc/s640/2016-01-13reuters712121-thumb-720xauto.jpg)
[香港 13日 ロイター] -
オフショア人民元市場は、5年前の創設時には中国の金融自由化の象徴ともてはやされたが、最近は通貨の統制回復に向けた戦場へと様変わりしている。
投資家は振り回され、将来性に懐疑的な見方が広がっている。
一般に「CNH」として知られるオフショア人民元をめぐっては、昨年8月の突然の元切り下げを受けて投資家心理が悪化。さらに、中国人民銀行(中央銀行)がここ数週間に講じた相場押し上げ策によって信頼感が一段と揺らぎ、中国の為替政策への不透明感が高まることになった。
オンショアとオフショア相場は、先週には2%以上の開きがあったが、人民銀行の介入などの結果、スプレッドは12日にほぼ解消した。
香港にある欧州系多国籍企業の財務担当者は
「通貨価値や調達コストがこれほど急激に変動すると、ヘッジはほぼ不可能だ。
人民元にまとまったエクスポージャーを持つ企業には頭の痛い問題」
と述べた。
2010年に誕生したオフショア人民元市場は香港からシンガポール、台湾、ロンドンへと広がった。
人民元は、中国国内の市場では当局による厳しい管理下に置かれているため、
オフショアで市場実勢に沿った相場で取引できることは投資家に大きな魅力
となっている。
オフショア市場は人民元の国際化にとって不可欠だ。
中国政府は、資本勘定の開放を進め、2020年までに上海を世界金融ハブにするという目標を掲げており、世界全体の人民元建て預金残高は、2015年のピーク時には2兆元(約3000億ドル)近くまで拡大した。
◆<介入で広がる不信感>
ところが、中国人民銀行はここ数週間、投機の原因となっていたオフショアとオンショアの人民元相場の差を縮小するための措置を相次いで打ち出した。
そのため、市場の信頼性をめぐる疑念が広がっている。
中国当局は、オフショアで営業している中国の銀行と外資系の銀行に対して、ドル購入の制限のほか、オフショア銀行に対するオンショア融資の停止を要請。
さらに、国有銀行を通じた大規模な介入にも乗り出した。
介入で流動性が干上がり、翌日物の人民元調達コストが高騰。
通常は10%を下回っているが、12日朝方には一時96%まで上昇した。
人民銀行は昨年9月、オフショア人民元市場に初めて介入した。
しかし、今回の介入規模はそれをはるかに上回る。
欧州系銀行のトレーダーの試算によると、人民銀行はこの1週間で100億─200億ドルのドル売り介入を実施したという。
9月は10億─30億ドルだった。
東亜銀行(香港)のシニアマーケットアナリスト、ケニックス・ライ氏は
「頻繁に介入すれば、人民銀行の人民元市場自由化への本気度やその政策の信頼性について、投資家の確信が揺らぐことになる。
過度の介入は人民元の国際化にとってマイナス」
との見方を示した。
大規模な介入にもかかわらず、人民元の先安観はなお強い。
1年物ノンデリバラブル・フォワード(NDF)が示唆する相場は1ドル=6.89元で、現在のスポットのオフショア相場から人民元が4.9%下落することになる。
ゴールドマン・サックスは来年末時点の人民元の予想をこれまでの6.8元から7.3元へと大幅に修正した。
*見出しを修正しました。
(Saikat Chatterjee記者、Michelle Chen記者 翻訳:吉川彩 編集:橋本俊樹)
』
注].CNH(オフショア人民元)とは、中国本土外で取引できる人民元のひとつです。
1).人民元には、中国本土でのみ取引可能なオンショア人民元(CNY)と、
2).中国本土外で取引されるオンショア人民元(CNY)のNDF(差金決済を前提とする先物取引)、
3).そして中国本土外で取引されるオフショア人民元(CNH)があります。
『
ニューズウイーク 2016年1月15日(金)06時15分 高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2016/01/post-4372.php
「人民元は急落しません!」で(逆に)元売りに走る中国人
政府が説明すればするほど「元安はまだ続く」と裏を読む、
投資好き一般市民たちの悲喜こもごも
「人民元レートの動揺、あなたは米ドル資産に換えますか?」
これは2016年1月10日に中国官制通信社の新華社が配信した記事のタイトルだ。
「新年の第1週に人民元の対ドルレートが連日下落し、多くの市民は外貨資産購入の熱意を抱いたようです。
大銀行では両替に訪れる人が増えました。
ですが、一般家庭にとって米ドル資産の購入は人民元投資商品よりも本当に有利なのでしょうか?」
記事はこう疑問を呈した上で、北京市在住のサラリーマン、唐さんの事例を紹介している。
元安を見てすかさず3万ドルの米ドルファンドを購入した。
利益率は年1.2%で、4.5%の人民元建て投資商品よりも低いが、2016年中に人民元レートが5%下がると考えれば十分に魅力的な商品という算段だ。
そして、唐さんのような考えは大間違いで、人民元レート下落の余地はほとんど残されておらず、最終的には人民元投資が有利なのだ、という専門家のアドバイスが続いている。
人民元投資の有利さを説く内容だが、なにせ
中国ではメディアは「党の喉と舌」(中国共産党の代弁者)
という存在だ。
事実よりも政府のメッセージを伝えることが優先される。
もっとも、読者の側もこの事情をよく理解しているだけに、メッセージの裏側を読み解くことに長けている。
この記事も
「一般庶民による草の根の元売りドル買いに政府は神経を尖らせているのだ」
「人民元下落はないとこんなに必死で説明しているというのは、まだまだ下がる前兆ではないか」
という、真逆のイメージを与えるものとなった。
◆「米国による元安批判」が問題だったのは今は昔
昨年6月の中国株暴落は中国経済変調を強くイメージさせる事件となった。
だがその後、株価以上に注目を集めていたのは人民元レートと政府の介入だ。
人民元レートの問題といえば、かつては米国による元安批判を意味したが、最近では逆に元安トレンドが明確となり、
中国政府がどれだけ元安を許容するかに注目が移っている。
中国の外貨は2015年だけで「5000億ドル」もの減少を記録した。
積極的な元買いドル売り介入を行った結果だ。
中国経済の振興を考えれば一定レベルの元安を許容するべきだが、
★.「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)に代表される海外投資路線、人民元の国際化という目標のためには
元の価値を保持したほうが良いと中国政府は判断している
ようだ。
現在では電撃的な介入によって投機筋を牽制するという戦術がとられているが、元安観測を打ち消すことができるのかはまだまだ疑問だ。
この元安観測は膨大な金額を動かす国際資本だけのものではない。
平凡な一般市民にも共有されており、彼らは自分たちの行動で「今後も元安が続く」との見方に一票を投じている。
そう、中国では今、海外投資がブームとなっている。
◆中国人に投資好きが多いのはなぜか
中国人には投資好きが多い。
書店のベストセラーコーナーには健康本と並んで投資指南書がずらり。
テレビでも投資指南番組は人気コンテンツだ。
友人と食事をしていても
「どんな投資をしている?」
「どこそこのマンションは今、いくらぐらい」
といった投資ネタは鉄板だ。
「投資好き、ギャンブル好きは中国の国民性」などと解説する人もいるが、
長年の金融規制が投資好きの人々を育成した
というのが私の見立てだ。
中国では長年にわたり銀行金利が規制されており、預金しても物価上昇率をはるかに下回る利子しか得られなかった。
つまり、銀行預金すれば資産価値は目減りしてしまう。
ならば資産を守るためには投資しかないではないか。
もちろん、よく分からないし勉強は面倒だからと投資を嫌がる人も少なくない。
そうした人々にとって知識をあまり必要とせず、しかも安全かつ高収益なのが不動産だった。
買えば必ず値上がりする時代が続くなか、月収を上回るレベルのローンを組むなど無理をしてでもマンションを買う人が続出した。
ところが現在では不動産市場も低調で、不動産で儲けるにしても専門的知識が必要だ。
不動産に頼れなくなるなか、魅力を増しているのが海外投資となる。
ある程度お金がある人にとって選択肢となるのが海外不動産の購入だ。
海外不動産専門の仲介サイトが乱立しているほか、大都市では投資仲介の実店舗も増えている。
中国にいながらにして、外国の地名を眺めながらどこを買うべきか悩んでいる姿はなかなかに興味深い。
日本の物件も人気で、中国人の知り合いから「**はどういう場所なの?」と質問されることも増えてきた。
まとまった資金がない人ならば、米ドル建てや香港ドル建てのファンド、そして黄金が人気だという。
こうした一般市民による「元売り」がどれほどの規模なのかは不明だが、新華社記事によって政府が気をもむ程度の問題にはなっていることが明らかとなった。
「人民元は下落しません」と官制メディアがアピールしても、「そんなメッセージを出すってのは本当は危ないということ」と裏を読む人々。
元安トレンドを見るやいなや機敏に海外投資へと向かう人々。
こうした庶民は中国共産党による規制によって育てられたものであり、その対処に苦しむのは因果応報というべきか。
中国政府は官制メディアによる啓蒙に加え、外貨両替規制やクレジットカードの海外キャッシング規制の徹底を通じて人々の動きをコントロールしようとしているが、「上に政策あらば、下に対策あり」とお国の裏をかくことに長けた中国の人々を管理することは容易ではないだろう。
[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
』
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ロイター 2016年 01月 15日 13:02 JST
http://jp.reuters.com/article/china-yuan-forecast-idJPKCN0UT08R?sp=true
急速に強まる人民元先安観
対ドルで15%下落予想も
中国人民元の先安観が急速に強まりつつある。
投資銀行が対ドル相場の予想引き下げに動き、一部からは年内に対ドルで15%下落するとの声も聞かれ始めた。
ただ中国は巨額の外貨準備を抱えているというだけでなく、政府が外貨準備を積極的に通貨防衛に使う意向をはっきりと示しているので、元安に賭ける投資にはなお覚悟が伴う。
それでも大手行の一部が1ドル=7元を超える元安を予想し、ヘッジファンドはさらに大きな相場変動を視野に入れつつある。
対ドル相場で人民元が香港ドルを下回るという想定もあながちばかげたことではなくなった。
1ドル=7.8香港ドル近辺で米ドルとのペッグ(連動)制が導入されている香港ドル自体も元安につられる形で下落し、13日には12年ぶりの下げ幅を記録した。
オム二・パートナーズ・マクロ・ファンドの戦略ヘッド兼ポートフォリオマネジャーのクリス・モリソン氏は
「人民元相場は米ドル/香港ドルの水準に向かうだろう。
最初に目指すのは7.78元だ」
と話した。
モリソン氏は中国は既に通貨を統制し、相場の動きを最小限に抑える時代を終えたとみて、2014年初頭から元安を見込む投資を続けている。
「米ドル/人民元は常に非常に狭い範囲で動く、極めてボラティリティの低い通貨だった。
こうした状況は明らかに変化しつつある。
当社は米ドル/人民元が6.50元から7元を上回る水準に向かうとみているが、(人民元にとっては)もっと厳しい数字になるかもしれない」
と話した。
ロイターがこの1週間に欧米の主要市場参加者30社強を対象に実施した調査では、人民元相場についてこれほど明確な数字はほとんど出なかったが、年内に15%の下落もあり得るとの見方が示された。
ケンブリッジ・ストラテジーの株式担当最高投資責任者(CIO)、マイク・ニュートン氏は
「中国の投資家は身を持って意志を表明している。
個人投資家や企業、機関投資家が資金を引き揚げている」
と指摘。
中国政府が人民元の安定を望むならば金利を上げるか経常勘定を閉じるしかない
という。
ただ、中国政府に盾突くべきではないというもっともな理由も存在する。
今週、香港のオフショア人民元の翌日物預金金利は94%まで暴騰し、オフショア人民元は流動性が枯渇した。
こうした大胆な政策は、欧州連合(EU)発足前にジョージ・ソロス氏率いる投機筋が欧州主要国と演じた戦いを想起させる。
このときは投機筋側が勝ち、利益を得た。
シティの外為戦略ヘッドのスティーブン・イングランダー氏は、中国はオンショアとオフショアで金利差を生むことができるため、当時の欧州諸国よりも強い立場にあるとみる。
イングランダー氏は今週のノートで
「(当時欧州諸国の)市場介入が失敗したのは、
欧州為替相場メカニズム(ERM)加盟国は高金利を維持し続け、
投機を止めることができなかったためだ。
オンショアの金利をオフショアよりも大幅に低くし続けることができれば、投機筋が及び腰となり、英国やスウェーデンで1993年に起きたような被害を食い止めることができる」
と説明した。
人民元の大幅な下落を予想する人々でさえ、
中国は最新統計で3兆3000億ドルの外貨準備を使って比較的落ち着いた状態を保てるとみている。
大手銀行のグローバル外為ヘッドは「中国は通貨の安定を維持できると思う」と述べ、人民元は向こう3カ月から9カ月にかけて押し目買いが入ると予想した。
(Patrick Graham記者)
』
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レコードチャイナ 配信日時:2016年1月17日(日) 5時10分
http://www.recordchina.co.jp/a127033.html
人民元安続く中国、ドル両替に市民殺到
=「今年最大の市場リスクは為替」との声―中国メディア
2016年1月14日、参考消息網によると、中国では人民元安ドル高を受け、手持ちの元をドルに替える市民が増えている。
一部では両替からドルが手元に来るまで4日かかる銀行も。
金融業界関係者は「今年最大の市場リスクは株ではなく為替だ」
との声が上がっている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、中国ではここ数週元安が続いてるため、市民がドルへの両替に走っている。
一部の銀行ではドル札が不足し、手元に来るまで4日かかるケースも出ている。
中国工商銀行によると、中国人民銀行(中央銀行)は先週、ドルの現金について
「短期的に不足する」と緊急通知を出した。
上海でリテール業務に携わる香港の銀行関係者によると、
昨年末時点の中国人によるドル買い規模は、6カ月前に比べて2倍に急増している。
中国政府は1人当たりのドル買いの上限を年間5万ドル(約588万円)に制限しており、年明けに両替に走る市民が急増したとみられている。
』
ロイター 2016年 01月 15日 12:43 JST James Saft
http://jp.reuters.com/article/column-us-china-headache-idJPKCN0UT07Q?sp=true
コラム:中国の米資産売却、世界市場の「頭痛の種」に
[12日 ロイター] -
中国からの資本逃避は、米国の金利をこの微妙な時期に本来あるべき水準以上に押し上げることで、グローバル金融市場に新たな打撃を与えるかもしれない。
膨大な資本が中国を離れつつある。
理由は中国経済の減速、人民元CNY=CNY=CFXSの下落、汚職摘発などさまざまだが、
2015年の逃避額は1兆ドル、あるいはそれ以上に達する
との試算もある。
資本が逃避する場合、中国の外貨準備担当当局は、
1].人民元の下落を容認するか、
2].これまで蓄積した3兆3000億ドルの資産の一部を売却しなければならない。
元安は輸出には追い風となるものの、連鎖的な下落スパイラルに陥る可能性があるため、
中国はこれまで、元相場を市場原理に委ねることに抵抗してきた。
中国共産党の中央財経指導グループ弁公室の韓俊・副主任は11日、元のいっそうの下落についての質問を受け、「ばかげているし、ありえない」と述べた。
「中国には引き続き大量の資本が流入している」
と韓氏は言うが、現実の証拠に抵抗する虚勢のように見える。
中国が元相場を支える決意を固めているならば、それは
ドル建て資産をさらに売却することを意味する。
米国債が中心だが、社債など他の債券も含まれる。
債券が売られれば、利回りは本来落ち着くべき水準よりも上昇することになる。
これが米国の金利上昇に直結するわけではない。
中国からの影響は、全体としてみれば明らかにデフレ寄りである。
したがって、金利上昇というよりは、通常であれば国債利回りの低下により経済が受けるはずの追い風が弱まることになろう。
2016年の第1週、米国債は年明け最初の週としては、いくつかの指標で過去最高を記録し、一方で株式は最も低調となった。
だが中国当局による米国債放出によって、国債価格上昇も利回り低下も制約されていたかもしれない。
またこの状況から、昨年12月に10年ぶりの利上げを行った米連邦準備理事会(FRB)が、経済運営の主要手段である金利のコントロールという点で困難に直面していることも浮き彫りになっている。
アトランタ地区連銀のロックハート総裁は11日、
「私見では、ダウンサイドリスクはもっぱら、世界の他地域が米国経済に与える影響に関連している」
と話している。
「先週の世界的な株式市場の下落は、中国経済のデータが予想を下回ったことで引き起こされたように思われる」
先週のデータによれば、中国の外貨準備高の減少は12月だけで1080億ドルと、記録が開始されて以来最大となっている。
昨年1年間では、外貨準備高は5000億ドル以上も縮小したことになる。
◆<大規模な米国債放出>
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの試算によれば、中国は昨年に
米国債2920億ドルのほか、
米国の政府機関債券30億ドル、
米国系以外の資産1700億ドル
を売却した。
同社はまた、米国企業の社債も中国による売却を免れない可能性があるとの予測を11日に示している。
同社の試算では、中国は米国企業の社債4000億ドル以上を保有しているという。
銀行から国債金利ではなく変動金利による支払いを受けることで投資家が得られるスワップ・スプレッドは、ここ数週間縮小しているが、これも中国による米国債放出に関連したトレンドだ。
11日の時点で、2年物スワップ・スプレッドは、1カ月前の約24ベーシスポイントに比べ、9ベーシスポイントまで低下した。
昨年は、場合によってはスワップ・スプレッドがマイナスになることさえあった。
米国政府に比べれば銀行の方がはるかにリスクの高いカウンターパーティであることを考えれば、これは異常な状況である。
確かに、米国の借入金利は依然として非常に低い。
10年債US10YT=RRの利回りは2.17%にすぎず、
2年債US2YT=RRの利回りはわずか0.93%である。
これは過去15年にわたる中国の外貨準備の蓄積という現象の落とし穴であり、こうしたトレンドのせいで、FRBの努力にもかかわらず米国の金利があまりにも低くなってきているとも言える。
これは米国の住宅バブルの潜在的な原因の一つでもあり、それより前のドットコム・バブルにも貢献していた可能性がある。
投資家はリスクを取り、借り手にとっては、これだけ金利が低ければ借りないわけにはいかなかったからだ。
とはいえ、中国の外貨準備資産の運営しだいで、米国の経済のかじ取りがどれほどやっかいになりうるか、ましてやグローバル金融市場の見通しがどれだけ不透明になってくるかという点については、注意を怠らないことが肝心である。
★.原材料を大量に輸入して完成品を大量に輸出する中国は、すでに世界中にデフレの波を送り出している。
中国が米国製品に対する需要を圧迫しつつ、ドルベースの借り手にとっての資金調達コストを上昇させることで利益率を圧迫するのであれば、FRBの立場は苦しくなる一方なのである。
また中国が米国債やそれ以外の確定利付債券を売却することで、市場ストレス時におけるポートフォリオ運用実績に対する投資家の期待にも大きな影響が生じるだろう。
資本逃避への圧力が弱まる兆候が見えないなかで、中国が主要な市場リスク、経済リスクの一つとなる状況は今後数カ月にわたり続くだろう。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
』
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東洋経済オンライン 2016年01月17日 櫨 浩一 :ニッセイ基礎研究所 専務理事
http://toyokeizai.net/articles/-/100654
試練に直面する中国人民元
1914年のドル危機と比べてみる
人民元はIMF(国際通貨基金)が創設した国際準備資産であるSDR(特別引出権)に採用されて、主要国際通貨への道を歩み始めた。
ところが、いきなり困難な状況に直面している。
![](http://2.bp.blogspot.com/-nsYkCrMyJMU/VpsF3fEOE2I/AAAAAAAAAJo/MqhgHjFDMR4/s400/img_988a551f100d337db7fbc1e9575d0825133404.jpg)
●SDRの通貨バスケットに人民元が加わる
IMFは2015年11月30日に、SDRの価値を決める通貨に人民元を加えることを決定した。
SDRの通貨バスケットはユーロが創設されてから、米ドル、ユーロ、円、ポンドの4通貨で構成されてきた。
構成比は5年毎に見直されているが、今回は新しい通貨を加えるため、通常2016年1月に行われる変更を9カ月遅らせて10月から実施することとなった。
人民元の構成比は10.92%で、日本円の8.33%を上回り、米ドル、ユーロに次ぐ重要通貨となった。
人口規模が約13億人と米国(約3億人)の4倍以上もある中国は、将来、経済規模が米国を大きく上回ることが予想され、人民元が米ドルの基軸通貨としての地位を脅かす存在となる可能性もある。
しかし、今年に入って上海株式市場では株価が再び大きく下落し、人民元の下落傾向が続いていることから、中国経済や人民元の先行きには悲観的な見方も出てきている。
■1914年のドル危機
米ドルの基軸通貨としての地位は、第二次世界大戦後に、ドルが金との交換性を維持し、基本的に各国通貨はドルとの交換率を一定に保つという、ブレトンウッズ体制ができたことで確立した。
ドルの国際的地位は、第一次世界大戦時に米国が対外債務国から対外債権国となったことで著しく高まった。
第一次世界大戦と第二次世界大戦の間は、ドルとポンドが同時に基軸通貨として存在していたとされている。
第一次世界大戦がきっかけでドルの国際的な地位は一気に高まることになったが、シルバーの「ワシントンがウォール街を閉鎖した日」(※)によると、その過程はそう簡単なものではなかったことが分かる。
※William L. Silber, “When Washington Shut Down Wall Street: The Great Financial Crisis of 1914 and the Origins of America's Monetary Supremacy” (2007) Princeton University Press
1914年7月末にオーストリアがセルビアに対して宣戦布告して第一次世界大戦がはじまった。
この際に筆者は安全資産であるドルに資金が流入したのだと思っていたが、実は逆に米国は通貨危機に襲われている。
米国のマカドゥー財務長官の圧力によって、8月1日にニューヨーク証券取引所は閉鎖され、閉鎖はその後4か月も続いた。
そのころの米国は対外債務国で、欧州、特に英国が大量の米株を保有していた。
戦費調達のために欧州各国は、米企業の株を売って得たドルをポンドに交換しようとするので、ドルには著しい下落圧力がかかった。
交換できる金の量から計算すると、1ポンド=4.8665ドルのはずだが、8月末頃には1ポンド=5.05ドルを超えるドル安となった。
■金本位制の問題点
当時は金本位制であったため、ドルがポンドに対して大きく下落すると、ドルを金と交換して輸送することで大きな利益を得ることができた。
米国からは大量の金が流出し、ドルと金の交換性を維持できなくなる危険が高まった。
証券取引所の閉鎖は、海外投資家が株を売却して金を米国から流出させないための手段だった。
もっと深刻なのは、米国がロンドン市場で調達していた資金の返済が、ポンドの調達ができずに返済不能に陥る危険が高まったことだ。
特に問題だったのは、米国を代表する都市であるニューヨーク市が発行していたポンド建て債券の償還資金の手当てで、失敗すれば米国の信用が崩壊する恐れがあった。
金本位制のもとでは、金が海外に流出すると自国通貨と金の交換性を維持することが困難になり、金融を引き締めざるを得なくなって国内の流動性不安が起こってしまった。
また、1914年の通貨危機が発生した時点では、米国ではまだ連邦準備制度が稼働していなかった。
法律が1913年末にできたばかりだった。
現在では主要国で金本位制を採用している国は一つもないし、中国も含めて中央銀行が機能している。
蛇足ながら、中央銀行の存在ということが問題となるのは、ユーロ圏全体で中央銀行がひとつしかないギリシャやスペイン、ポルトガルといった欧州の債務危機の場合である。
しかし、金本位制を廃止し中央銀行が整備されても、当時の米国のように外貨が調達できなくなって債務の返済が不能になるというリスクは残っている。
中国の外貨準備は2014年6月には3兆9900億ドルに達していたが、2015年12月末には3兆3300億ドルにまで減少したことで、金融市場の不安は高まった。
1997年のアジア通貨危機の反省として、各国が事実上自国通貨価値をドルに対して固定していたことが原因の一つとしてあげられる。
各国が為替レートをコントロールすることを諦めれば問題は生じないという意見もあるが、為替レートの大幅な変動による経済活動の混乱や信認の低下は避けられないだろう。
■危機対応の出口を用意
1914年の米国は、ドルの信認を守るために建前上は金との交換性を維持しながら、株式市場を閉鎖してしまうなど、実際には保有している金の流出を抑えた。
マカドゥー財務長官は、ポンド不足の抜本的な解決策として、大量の商船を調達して農産物を欧州に輸出することでポンドを入手することを考える。
ドイツのUボートによる攻撃で商船の被害が大きかったことから、財務省に戦争危険保険局を設けて民間の輸出をサポートしようとした。
1ポンドが5ドルを超えるドル安となっていた為替レートは、1914年末には4.85ドル程度にまで上昇して、米国は金本位制を維持するという賭けに勝つ。
ニューヨーク株式市場は再開されて、ドルは国際的な信認を得ることに成功した。
マカドゥー財務長官の成功は、大胆な危機対応を行ったことだけでなく、出口戦略もちゃんと用意していたことが原因ではないだろうか。
シルバーは、1914年の通貨危機に際し、マカドゥー財務長官が民間金融機関の協力を得てうまく乗り切ったことで、ドルの国際的信認は著しく高まって、ポンドからドルへの基軸通貨の交代は加速したと評価している。
中国が現在の金融市場の混乱をうまく処理できるかどうかは、人民元が主要国際通貨となるために、極めて重要なことである。
現在人民元が置かれている状況は、第一次世界大戦によって通貨危機に見舞われたドルと比べてどうだろうか。
第一次世界大戦が起こった時点では、既に米国経済が英国から世界一の座を奪ってからかなりの年月が経っていた。
一方、現時点では中国の経済規模は米国の3分の2程度にとどまっている。
これまでのような高い経済成長は無理でも、先進諸国の所得水準に追いつくまでは先進諸国に比べて高めの成長ができる可能性は高い。
いずれ中国経済が世界一の規模になるのは自然なことだが、米国を経済規模の面で大きく引き離すことで人民元がドルの地位を脅かすには、まだ時間がかかるだろう。
第一次世界大戦や第二次世界大戦のような劇的な事件が原因となって基軸通貨の交代を引き起こすということも予想し難い。
当時の米国よりも現在の中国のほうが状況がよいこともある。
1914年時点では米国はまだ対外債務国だったが、
2016年末時点で中国は214兆円(約1.8兆ドル)の対外純資産を保有しており、
これは日本の376兆円(約3.1兆ドル)に次ぐ規模だ。
2016年末時点で、
米国は対外純債務国となっており純債務の規模は844兆円(約7兆ドル)
にも上る。
■経常収支黒字で外貨準備も厚い
![](http://1.bp.blogspot.com/-1K6WLqGPRLI/VpsH7BijPjI/AAAAAAAAAJ0/_TNPbQdnArQ/s640/Untitled-zu.jpg)
●図表
IMFの予測によれば、今後も中国の経常収支は黒字が続く一方、米国は大幅な経常収支赤字が続くとみられている(図表)。
中国の経常収支黒字は純資産を増加させ、米国の赤字は純債務の累積に繋がって、中国の純資産と米国の純債務の差は拡大を続けていくことになる。
昨年来中国の株価は大きく下落しており、海外からの資金流入が止まって人民元が下落するなど、中国経済は1900年代初頭の米国のような困難に直面している。
しかし、マカドゥー財務長官が苦心した外貨の獲得(=経常収支の黒字)という出口戦略は、中国の場合には初めから用意されている。
2016年末時点で、中国の対外純資産が1.8兆ドルだったのに対して外貨準備が4兆ドル近くもあったということは、民間部門はかなりの債務超過のはずだ。
これは、海外への資金流出が続き金融市場も不安定だという状態を改善するには、政府が動くしかないということを意味しているだろう。
人民元への信認を維持しようとするのであれば、第一次世界大戦に直面したマカドゥー財務長官とは違う意味で、政府の大胆な行動が必要になるだろう。
一方、人民元が下落すれば経常収支の黒字は拡大しやすく、対外純資産の蓄積が進む。
SDRへの採用で手にした元への信認が大きく傷つくことにはなるが、元安を容認することも考えられる。
中国が、主要国際通貨への道を急ぐのか、大きく遠回りでも安全な道を選ぶのか、注目される。
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