2016年2月4日木曜日

中国軍改編「強軍の夢への戦略決定:既得権を奪われる改革に内部不満が爆発する恐れも

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読売新聞 2月3日(水)9時19分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160203-00050037-yom-int

中国軍改編「強軍の夢への戦略決定」…軍機関紙

 


 【北京=五十嵐文】中国軍機関紙・解放軍報は2日、中国軍トップの習近平(シージンピン)・共産党中央軍事委員会主席(国家主席)が進めた七つの「軍区」から五つの「戦区」への改編について、「強軍の夢の実現に着目して下した戦略決定だ」とする論評を掲載し、習氏の指示に従うよう求めた。

 論評は従来の7軍区について、陸海空軍などの「作戦・指揮」機能と、各部隊の整備や人事管理などを担当する「建設・管理」機能が混然一体だったと指摘。指揮系統の複雑さや縦割りが「戦争することができ、戦争に勝てる軍」の実現を阻んできたとした。

 新たに発足した5戦区には、陸海空軍などの統合運用を可能とする「統合作戦指揮機構」がそれぞれ新設された。米国に対抗する狙いがあるとみられ、中央軍事委が戦区の同機構を通じて各部隊を指揮する体制の確立により、有事即応能力の向上が見込まれる。



JB Press 2016.2.9(火)  渡部 悦和
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45997

中国が仕かける超限戦の実態と人民解放軍改革
既得権を奪われる改革にPLA内部の不満が爆発する恐れも

 中国は、2015年12月31日に大規模な人民解放軍の改革を発表した。
 この改革は習近平国家主席の長年の念願であり、毛沢東や江沢民時代でさえ手をつけなかった軍改革である。
 軍内に存在する江沢民派などに対する権力闘争の側面もあるが、ライバルである米軍の長所を吸収し、
 「真に戦える軍隊。戦って勝利する軍隊」
を目指すものである。

 本稿では重大な意味を持つ中国人民解放軍の改革について、
★.人民解放軍の軍事戦略である「超限戦」(Unrestricted Warfare)、
★.超限戦と密接な関係にある米軍の「クロス・ドメイン作戦(CDO: Cross Domain Operation、「ドメインを越える作戦」)」 および
★.ロシア軍が実際にウクライナで実施している「ハイブリッド戦(Hybrid Warfare、「混合戦」)」
などを切り口として分析してみたいと思う。

◆:1 超限戦

 超限戦は、中国人民解放軍の大佐2人(喬良と王湘穂)が1999年に発表し、発表された当初から世界的に大きな反響を呼んだが、現在の中国やロシアの動向を観察すると、両国は超限戦を実践していると言える。
 超限戦は、湾岸戦争(1990年~1991年)などにおける米軍の戦略、作戦、戦術を研究して導き出された戦略であり、中国の孫子の兵法をも融合したものである。

超限戦とは、
 文字通りに「限界を超えた戦争」であり、
 あらゆる制約や境界(作戦空間、軍事と非軍事、正規と非正規、国際法、倫理など)を超越し、
 あらゆる手段を駆使する「制約のない戦争(Unrestricted Warfare)」である。

正規軍同士の戦いである通常戦のみならず、
 非軍事組織を使った非正規戦、
 外交戦、
 国家テロ戦、
 金融戦、
 サイバー戦、
 三戦(広報戦、心理戦、法律戦)
などを駆使し、目的を達成しようとする戦略である。
倫理や法の支配さえも無視をする極めて厄介な戦争観である。

 中国は、現在この瞬間、超限戦を遂行している。
 例えば、平時からサイバー戦を多用し情報窃取などを行っているし、三戦(広報戦、心理戦、法律戦)を多用し、東シナ海や南シナ海で「準軍事手段を活用した戦争に至らない作戦」(POSOW:Paramilitary Operation Short of War)を多用している。
 POSOWの典型例は、南シナ海で領土問題を抱える諸国に対して、海軍の艦船を直接使用することなく、漁船、武装民兵、海警局の監視船などの準軍事的な手段を駆使し、中国の主張を強制している。
 「戦わずして勝つ」伝統を持つ中国は、軍事力の行使をしなくても様々な手段を駆使した戦いを実践しているのである。

 今回発表された人民解放軍の改革について、太子党の重要人物である劉亜州・上将は、その著書(「精神」)で
 「ライバルで強軍である米軍の長所を吸収するため」
であると明かしている*1。

 この米軍の長所の1つがクロス・ドメイン作戦(CDO)である。
 このCDOは、米国の作戦構想であるエア・シー・バトル(AIR-SEA BATTLE)*2の中で記述された考え方である。
 このCDOと共に、現在、ロシア軍がウクライナで実施しているハイブリッド戦(Hybrid Warfare、「混合戦」)を含めると超限戦に極めて近い戦い方となるので、以下説明する。

*1=http://www.epochtimes.jp/2015/12/24834.html
*2=Air-Sea Battle Office、“AIR-SEA BATTLE”、May 2013

◆:2 クロス・ドメイン作戦(特にサイバー戦と宇宙戦)

 科学技術の急速な進歩と共に、戦略、作戦、戦術及び戦闘の各レベルで大きな変化が起こっている。
 その変化の代表は米軍が強調するところのクロス・ドメイン作戦(CDO)である。
 ドメインは作戦領域の意味であり、従来は陸、海、空の3つのドメインが基本であったが、技術の進歩と共に宇宙のドメインとサイバー空間のドメインが加わり5つのドメインが重視されるようになった。

 CDOを簡単に説明する。
 例えば、衛星攻撃兵器(ASAT)には地上発射、海上発射および空中発射のミサイルがあり、これらのミサイルが宇宙に所在する人工衛星を破壊すれば、ドメインを越える(陸から宇宙、海から宇宙、空から宇宙)作戦つまりCDOとなる。

 一方、これを効果の面から見ると、相手国の人工衛星の破壊により、相手国の衛星を利用した陸上作戦、海上作戦、航空作戦が困難になる。
 効果の点からも宇宙での成果が陸、海、空のドメインに影響を及ぼすのでCDOとなる。

 宇宙ドメインに所在する人工衛星などを巡る攻防を主体とした作戦(本稿では宇宙戦と呼ぶ)は、現代戦におけるC4ISR(指揮・統制・通信・情報・監視・偵察)の各機能にとって死活的に重要な作戦である。
 人工衛星が破壊されるか、機能低下に陥ると現代戦が遂行できなくなるのみならず、現代社会の営みにも重大な影響が出るからだ。
 このため、米国、中国、ロシアを筆頭として各国が宇宙戦能力の向上に努めているのである。

 また、サイバー空間ドメインでの作戦(本稿ではサイバー戦と呼ぶ)は、平時から継続的に実施され、紛争時における陸・海・空・宇宙での作戦に影響を与える典型的なCDOである。
 サイバー戦は、平時から実施されていてすべての作戦の前提条件となる極めて重要な作戦であり、各国がしのぎを削ってサイバー作戦能力の向上に努めている。

 CDOは、5つのドメイン全体に及ぶ作戦であり、陸・海・空ドメインでの作戦の重要性に変化はないが、戦争開始前後で最初にサイバー戦と宇宙戦が実施される公算が大きく、かつ中国人民解放軍が非常に重視し、かつその能力を急速に向上させている分野であるため、その重要性を強調した。

◆:3 ハイブリッド戦

 次いで重要な作戦がハイブリッド戦である。
 欧米諸国の軍事専門家は、2014年のクリミア併合以来続いているウクライナにおけるロシア軍の作戦をハイブリッド戦と呼んでいる。
ハイブリッド戦に関しては様々な説明がされているが、我が国の防衛白書は、
 「破壊工作、情報操作など多様な非軍事的手段や秘密裏に用いられる軍事手段を組み合わせ、
 外形上「武力攻撃」と明確には認定しがたい方法で侵略行為を行うこと」
と定義している。

 本稿においては、
 正規軍と非正規組織(民兵、反政府グループなど)の混用、物理的破壊手段(軍事力)と非物理的破壊手段(謀略、情報操作などを活用した情報戦)の混用など、ハイブリッドな手段を活用した作戦をハイブリッド戦と定義する。

◆:4 ロシア軍が遂行する超限戦の一例(周到に計画されたサイバー攻撃)

 最近、世界各地の重要インフラに対するサイバー攻撃に関するニュースが増えてきた。
 直近では、2015年の12月23日にウクライナで発生した数時間にわたる停電事案*3が有名である。
 SSU(ウクライナ保安庁)の発表によると、この停電事案は、ロシアが国家レベルで周到に計画し実行したサイバー攻撃による事案である。
 この事案の注目点は、個人やテログループなどの非国家主体ではなく、ロシア国家そのものによるサイバー攻撃であると断定されたことである。

 2014年のクリミア併合直前から今に至るまで、ロシア軍またはFSB(ロシア連邦保安庁、KGBの後継組織)によると思われるサイバー攻撃が継続的に実施されてきた。
 ウクライナ国内の通信ネットワーク(携帯電話ネットワーク、インターネット・ネットワーク)の破壊、政府のウエブサイトの機能停止、ウクライナの重要インフラへの攻撃などが広範囲にしかも継続的に行われている。
 これらのウクライナを対象としたサイバー戦は、2008年のロシア軍によるグルジア侵攻の際のサイバー戦と酷似していると指摘されている*4。
 ロシアは、グルジアやウクライナでの実戦を徹底的に活用し、着実にサイバー作戦能力を向上しているのである。

 今回のサイバー攻撃は、数時間の停電をもたらした比較的規模の大きなものであり、ロシアは明らかに国家ぐるみのサイバー戦を展開している。
 またロシアは、2007年4月に発生したエストニアに対するサイバー攻撃*5においても、その関与が疑われている。
 国家主体によるサイバー攻撃を継続して実施してきたのである。

ウクライナは、ロシアにとって最先端の技術や新たな戦い方を試す実験場になっている。
 そこではサイバー戦、電子戦、情報戦、正規戦と非正規戦などがミックスしたハイブリッド戦など傍若無人にやりたい放題やっている。
 世界各国の軍事専門家は、ロシア軍のウクライナでの壮大な超限戦を観察し分析している。
 中国人民解放軍もまたロシア軍の作戦を注視しているはずである。

 軍事作戦にいかにサイバー戦を組み込んでいくか、情報戦をいかに具体化していくかなど多くの教訓を得ているはずである。
 その教訓が中国の大規模な軍事改革に生かされるであろう。

*3=SANS Industrial Control Systems Security Blog by Michael Assante、“Confirmation of a Coordinated Attack on the Ukarainian Power Grid”
*4=Channel 4、“Russian cyber attacks on Ukaraine: the Georgia template”、
*5=2007年4月、エストニア政府のネットワーク及びオンライン・バンキングに対してサイバー攻撃がなされ、その機能が一時的に停止した。ロシアが関与したと報道されている。

◆:5 中国人民解放軍の改革

 習近平主席は、中国建国(1949年)以来最大規模となる軍改革を断行することを以前から宣言していたが、その宣言通りに12月31日、軍改革の一部(軍種レベルの変更)を発表した。
 さらに、1月11日に軍改革に関する第2弾の発表(中央軍事委員会直属の参謀組織の変更)があった。

❒:(1)軍種レベルの変更

 人民解放軍は、2015年12月31日以前には図1が示す通り、
 陸軍(PLA Army)、
 海軍(PLA Navy)、
 空軍(PLA Air Force)の3軍種と
 第2砲兵(2nd Artillery Corps)
で編成されていた。
 第2砲兵は、陸・海・空軍と同列の軍種ではなく、軍種の中の職種の扱いであった。

 なお、図1には陸軍が明示されていないが、PLAは創設時から陸軍中心の部隊であり、PLAイコール陸軍であったために、海軍および空軍の本部(HQ)に相当する部署は図1の4つの総部(General Departments)そのものであった。
 従って、図1に示す通り、陸軍が海軍および空軍を指揮する指揮系統になっていて、明らかに陸軍優位であった。

 習近平主席は、この陸軍優位の体制を問題視し、その是正が今回の軍改革の大きな目的の1つであった。
 現代戦におけるクロス・ドメイン作戦の重要性を考えると、陸軍優先の排除は自然である。
 今回の軍改革で陸軍偏重主義が排除されることになったが、当然ながら既得権益を奪われる陸軍の将兵の不満は大きいと思われる。
 公然と習主席に反抗することは難しいであろうが、今後の権力闘争の1つの要因ではあり、その動向が注目される。


図1 2015年12月31以前の「中央軍事委員会及び人民解放軍の編成」 (出典:STARTFOR、“China Takes Bold Steps Toward Military Reform”)
 12月31日の軍改革に関する発表は、図2に示す通り軍種レベルの変更に関するものであり、陸軍指導機構(陸軍司令部)[PLA HQ(Army)]、ロケット軍(PLA Rocket Force)、戦略支援部隊(Strategic Support Force)が新設された。

 なお、戦略支援部隊は、陸・海・空・ロケット軍と同列ではないために図2には表現されていない。

 今回の改革において第2砲兵がロケット軍となり、図2が示す通り、陸・海・空軍と同列の軍種となった。
 習近平主席は、
 ロケット軍について、「中国の戦略抑止の中核であり、国防の礎である」
と発言している。
 新設されたロケット軍は、すべて(地上発射、海上・海中発射、空中発射)の核および通常弾頭の戦略ミサイルを担当する。

 新たに新設された戦略支援部隊は要注目である。
 習近平主席は、この部隊について「国の安全を守るための新型戦力だ」としか発言しておらず細部は不明であるが、サイバー戦、電子戦、宇宙戦を担当する部隊であろうという見方が多い。

 第2砲兵のように独立した職種であり、陸・海・空軍・ロケット軍と同列の軍種ではない模様である。
 2014年頃に噂のあった宇宙軍の可能性は少ないと思われる。

 いずれにしろ、サイバー戦、電子戦、宇宙戦を担当する部隊であれば、中国における超限戦を考えた場合に非常に重要な部隊であり、今後の動向が大いに注目される。


図2 2015年12月31日以降の「中央軍事委員会及び人民解放軍の編成」 (出典:STARTFOR、“China Takes Bold Steps Toward Military Reform”)

❒:(2)中央軍事委員会直属の参謀組織の変更

 さらに、今年1月11日の発表では、中央軍事委員会直属の総参謀部(作戦、訓練、動員、情報を担当)、総政治部(政治思想教育、人事などを担当)、総後勤部(補給、輸送、衛生、財務などを担当)、総装備部(装備品の開発・調達、宇宙開発を担当)の4総部(図3 人民解放軍中央組織(旧)を参照)を廃止し、新たに軍委連合参謀部、軍委政治工作部、軍委装備発展部
など15の部門を新設した(図4 人民解放軍中央組織(新)参照)。


(出典:図3、4ともに2016年1月15日付の「大紀元時報」を基に渡部が作成)

 図4によると、中央軍事委員会の直属組織である4総部が7部、5直属機構、3委員会の15もの部門になり、一見して組織が複雑になっていて、とても組織の簡素化には見えない。
 旧4総部では陸軍の影響力が余りにも強く、陸軍優先主義を排除した結果、このような組織になったという見方もできるであろう。
 いずれにしろ、新組織が本当に指揮の簡素化、効率化、柔軟性強化になったのかは今後の分析の焦点である。

 新組織の7部(庁)の中に軍委連合参謀部、軍委政治工作部、軍委後勤保障部、軍委装備発展部が入っていて名称からは旧4総部の機能が継承されていると思われる。


出典:2016年1月15日付の「大紀元時報」を基に筆者作成
 しかし、陸・海・空・ロケット軍を統合的に運用指揮する部署はどこなのか、軍委連合参謀部がその部署なのか。軍委連合参謀部が総参謀部の後継であるならば、総参謀部と同様に、中央軍事委員会が軍事戦略および作戦方針を決定するのに必要な情報を提供し、作戦計画を立案し、作戦指揮を担当し、訓練および動員も担当するのであろうか。

 4総部改編の狙いの1つが
 強大な権限を握っていた陸軍の影響力を削減する
のであれば、それがいかなる形で達成されているのかなども今後解明しなければいけない。

❒:(3)軍区制度の変更

 今回発表された軍改革の内容は、「軍種レベルの変更」と「中央軍事委員会直属の参謀組織」に関するものであったが、もう1つ噂されていた軍区制度の変更は2月1日になってやっと発表された。
 軍区は、現在7個(瀋陽、北京、蘭州、成都、南京、広州、済南)存在するが、7軍区を4~5個の戦区に改編する噂が昨年流れていたが、結局5個の戦区に改編されることになった。
 この軍区制度の見直しは、様々な意味で重要である。

 まず、軍区レベルで、有事における統合作戦が可能な組織にできるか否かが重要である。
 噂されていた統合作戦を指揮する部署が戦区と中央軍事委の直属中央組織に設置されれば、統合作戦の面で大きな前進となるが、最終的にどうなるかが注目される。

 また、軍区制度の見直しの問題は、陸軍優先と人事との関係でも注目される。
 軍区を戦区とし陸・海・空・ロケットの統合組織にすれば、その戦区長は陸軍の将官である必要はない、適材適所で陸・海・空・ロケットの軍種の将官をあてればいい話であるが、当然ながら既得権益を奪われる陸軍からの抵抗が予想される。

 さらに、習主席は9月の軍事パレードで30万人の兵員削減(230万人から200万人への削減)を宣言したが、削減の対象は陸軍が主となり、それも地方組織からの削減が主となるであろうが、これをいかに実現していくか、当然ながら抵抗も出てこよう。

◆:6 軍改革に対する評価

 今回の軍事改革の狙いを推測すると以下の4点になる。

(1):軍内の江沢民派等に対する権力闘争に勝利し、
 習近平主席の権力基盤をより確実にする。
(2):軍内における陸軍優先主義を排除し、
 中央軍事委員会の影響力を強化する。
(3):統合運用などの米軍方式を努めて取り入れ、真に戦い勝利することのできる現代軍にする。
(4):超限戦の遂行をより効率的に実施する態勢を作る。

 以下、個々の狙いについて評価する。

●習近平主席の権力基盤の強化

 習近平主席は、主席就任以来一貫して軍改革の重要性を主張してきた。
 毛沢東や江沢民でさえ手をつけなかった軍の大きな改革に着手した意味は大きい。
 当然ながら抵抗も強いであろう。
 特に、その大きな影響力を削がれる陸軍をはじめとして既得権益を守りたいグループの根強い抵抗があると報じられている。
 習主席は、その抵抗に対して、
 「改革に反対する者は軍の発展に反対するに等しい、退任してもらうしかない」
と譲らない姿勢を見せたという。

 PLA内に残存する江沢民派をはじめとする反習近平勢力との熾烈な権力闘争を決意した背景には、胡錦濤前主席がPLA内の江沢民派を抑えられず、結果として軍を支配できなかったことへの反省があろう。

●陸軍優先主義の排除と中央軍事委員会の影響力の強化

 中央軍事委員会の軍全体への指導力の強化は、習主席の権力の強化につながる。
 陸軍優先主義を排除し、中央軍事委員会の影響力を強化することは、習主席の権力基盤の強化にも直結するであろう。
 問題は、陸軍優先主義を排除したのちの組織が有効に機能するか否かである。

●米軍方式の導入:本当にソ連軍方式から米軍方式への変換か?

 今回の軍改革の大きな特徴は60年以上続いてきた旧ソ連軍方式から米軍方式への転換であるとされている*6。
 なぜ米軍方式なのか。
 太子党の主要人物である劉亜州・上将は、その著書(「精神」)で「ライバルで強軍である米軍の長所を吸収するため」であると明かしている*7。
 そして、「今回の軍改革は建国以来の抜本的改革である」という中国共産党の宣伝に基づく同趣旨のマスコミ報道が多いが、私はそうは思わない。

 「共産党の軍への関与」に関しては、今回の改革でも絶対に妥協できない1点とされて変化がないが、これはソ連軍方式である。
 ソ連軍方式から米軍方式への転換はなされていない
のである。

 つまり、最も重要な点に関しては何も変わっていないのである。
 PLAは、共産党の軍隊であり、国家の軍隊でも国民の軍隊でもない。
 PLAは、その創設以来共産党の指導下にあり、共産党の指導組織が厳然としてPLAの組織内にある。
 例えば、「軍委政治工作部」であり、「軍委紀委」や「軍委政法委」も該当するであろう。
 これはソ連軍と全く同じシステムであり、共産党と人民解放軍指揮官との二重指揮の問題は何も解決されていない。
 ここにPLAの限界がある。

 劉亜州・上将が「ライバルで強軍である米軍の長所を吸収する」と主張したとしても、
 米陸軍が最も重視している任務指揮(mission command)の重要性を理解していない。
 任務指揮では、現場の下級指揮官の行動の自由とイニシアティブが重視される。
 任務指揮の最も重要な部分は「指揮の分権」であり、各級指揮官の任務を基礎とした積極・自発的な意思決定と断固たる行動が重視される。
 PLAのように共産党の指導が作戦・訓練・人事・兵站などあらゆる分野に及ぶと、極めて硬直的な意思決定と行動しかできないおそれがある。
 特に超限戦環境下において極めて柔軟な部隊運用が要求される環境下において、共産党と人民解放軍指揮官との二重指揮の問題は足枷になるであろう。

●超限戦と軍改革

 超限戦との関連では、新たに創設された戦略支援部隊が最も注目される。
 戦略支援部隊がサイバー戦、電子戦、宇宙戦を担当する部隊であるならば、超限戦を遂行するうえでプラスになるであろう。
 同一部隊がサイバー戦、電子戦、宇宙戦を担当する意義は大きい。
 そして、予算配分の面でも陸軍優先が排除され、サイバー戦、電子戦、宇宙戦に充当する予算が増額されると我が国にとっても従来以上に脅威となる。

 また、ロケット軍の創設は、ミサイル戦力と核戦力を1つの軍種が管理するという意味では理解できる。
 しかし、ロケット軍の作戦を陸軍・海軍・空軍の作戦と上手く同調させることができるかどうかが課題となる。
 最終的には、統合運用がうまく機能するか否かの問題に帰着するのである。

 超限戦の要素である非正規戦や三戦(広報戦、心理戦、法律戦)を担当するのは、「軍委政治工作部」などの中国共産党の影響力の強い組織であろう。
 共産党の軍隊である点の強みである非正規戦や三戦(広報戦、心理戦、法律戦)は、軍改革においても確実に引き継がれているのであろう。

*6=http://www.epochtimes.jp/2015/12/24834.html
*7=http://www.epochtimes.jp/2015/12/24834.html

◆:結言

 今回の人民解放軍の改革は、歴史的な改革であると喧伝されている。
 確かに陸軍優先主義の排除、ロケット軍や戦略支援部隊の創設、統合指揮の試みなどが成功すれば、素晴らしい軍改革であると評価されるであろう。
 しかし、成功するか否かである。

 米軍の統合運用の試みはゴールドウォーター・ニコルズ法が制定された1986年から30年を経過して現在に至っているが、改善すべき点がいまだに残っている。
 自衛隊の統合運用においても同様である。
 統合運用は、一朝一夕に達成されるものではない。
 ましてや、共産党の軍の特徴を持ちかつ腐敗に陥りやすい人民解放軍において、
 統合運用や一元的指揮がうまく機能する確率は低い
であろう。

 ただ、我々が警戒すべきは、超限戦は現在も効果的に実施されているし、科学技術の進歩とともにサイバー戦や宇宙戦を通じて超限戦を遂行しやすい環境にある点である。
 正規軍を使った通常戦では問題があるとしても、非正規戦、「準軍事的手段を活用した戦争に至らない作戦(POSOW)」、三戦などは、我々の対応が難しいだけに厄介である。

 軍改革と連動する超限戦に対処するためには、我が国の国家を挙げての対処態勢の構築が急務である。





●ザ・ボイス そこまで言うか!
 ~小川和久が中国海軍の惨め過ぎる実力を暴露!
~ 2015年12月1日



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