2016年2月1日月曜日

中国GDPは25年ぶり低水準(5):「売上高は虚栄心、利益は正気、しかし現金は現実」、支払ってもらっていない請求書の山

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現代ビジネス 2016年02月01日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47664

中国「国家統計局長」突然の失脚! 
経済悪化に苛立つ中国が、アジアに落とす暗い影
「爆買い旅行」に規制の動きも

◆わずか29文字の「失脚消息」

 先週は、甘利明経済財政担当大臣の辞任騒動で、安倍晋三内閣が激震した。
 だが海の向こうの北京でも、王保安国家統計局長(大臣)の失脚で、同様に大激震が走った。
 1月26日午後6時40分、中国共産党中央紀律検査委員会のホームページに突然、次のような発表が掲載された。

〈 国家統計局党組書記、局長の王保安が、厳重な規律違反の嫌疑で、いままさに組織的な調査を受けている。
 王保安の略歴は以下の通り。王保安、男、漢族、1963年生まれ、
 河南省魯山人、1984年3月に中国共産党に入党、中南財経大学修士課程修了、経済学博士。……〉

 先週のこのコラムで詳述したように、王保安局長は1月19日、年に一度の晴れ舞台で、内外の記者数百人を前に、「2015年の中国の経済成長率は6.9%」と発表したばかりだった。
 それからわずか一週間後の転落である。

 甘利大臣の場合、『週刊文春』が詳細にスクープ報道し、国会でも野党が追及し、おまけに本人が、1月28日夕刻に「涙の会見」を開いて大臣を辞任した。
 だが、その2日前に失脚した王大臣の場合、略歴を除けばわずか29文字の「失脚消息」だけだった。
 中国のマスコミは、この消息を「丸写し」することしか許されていない。
 国会は3月に10日ほどしか開かれない。
 開かれても野党8党は、こうした問題を追及する時間も権限も与えられていない。
 つまり、
 「あんなに張り切って中国政府を代表してGDP成長率を発表し、世界中で顔が報道された大臣が、一体なぜ翌週に失脚したのだろう?」
と、想像を膨らませるしかないのである。

 ある北京人に聞くと、
 「1月16日にAIIB(アジアインフラ投資銀行)が発足するまで、財政部にメスを入れるのを待っていたのではないか」
と推察する。
 王局長は昨年4月に就任するまで、財政部副部長(副財相)を務めていたからだ。
 党中央紀律検査委員会は、予算を統轄する財政部を吊し上げているのではないかというのだ。

 別の北京人は、
 「GDPの数値を事前に漏らして賄賂を受け取っていたのではないか」
と想像する。
 確かに、国家統計局には「前科」がある。
 2011年夏、国家統計局の幹部二人が逮捕された。二人は何と計224回にもわたって、3ヵ月毎に発表するGDPの数値などを、発表前に証券業界や海外メディアに売り渡していたのだった。
 彼らは禁固5年の実刑判決を受け、今夏に出所する。

 ここからは私の推測だが、
 このところ中国人全体が、経済悪化に苛立っている。
 そのことで、これからも経済関係の国務院幹部たちが「替罪羊」(生贄)にされていく気がする。
 それは、「無辜の官僚」が犠牲になるということではない。
 私は胡錦濤時代の官僚たちの様子を北京で見てきたが、経済官庁の幹部と会食するのに、民間企業の経営者たちが心付けをするのは「常識」だった。
 だから、高級官僚は誰でも「叩けばホコリが立つ」のである。

 習近平政権の反腐敗運動の問題は、政権側が恣意的に、誰を叩くかを選べるところにある。
 反腐敗の名を借りた「権力闘争」と言われるゆえんである。

◆年初からの1ヵ月で株価は23%も下落

 ともあれ中国経済は、もういつ底が抜けるか知れないほど、悪化の一途を辿っている。
 上海総合指数は1月29日、2737ポイントで1月の取引を終えた。
 1月4日の大発会は3539ポイントで始まったので、1ヵ月で23%も下落したことになる。

 地方経済もガタガタだ。
 1月26日午前中に開かれた遼寧省第12期人民代表大会第6回会議で、陳求発省長は疲れた表情で、
 「2015年の遼寧省のGDP成長率は3.0%だった」
と報告した。
 過去23年なかった数値で、PPI(生産者物価指数)は43ヵ月連続で下降したという。
 陳省長はここまで落ち込んだ理由として、
 企業の生産コストが上がり、一部業界と企業が経営困難に陥り、
 技術革新は追いつかず、
 新興産業は育たず、
 サービス業の発展は停滞し、
 地域の発展は不均衡で、
 財政収入は悪化し、
 財政支出は増え、
 国有企業は経営が回復せず、
 民営企業は発展せず
……と羅列した。

 同じ東北三省の吉林省と黒竜江省も、経済成長率がそれぞれ全国31地方中、28位の6.5%と29位の5.7%だった。
 遼寧省の省都・瀋陽在住の日本人駐在員に電話して聞いてみたところ、「気温マイナス20度の中、とにかく経済に関して、いい話がたった一つもない。外も寒いが心も寒い」と嘆いていた。
 翌27日には、山西省の第12期人民代表大会第5回会議で李小鵬省長が、やはり神妙な顔つきで述べた。
 「2015年の山西省のGDP成長率は3.1%だった。
 この数値は過去34年で最低だ。
 すでに省内の8割の自治体が、公務員の給与を払えなくなっている……」

 このように、地方自治体の破綻が明らかになったのだ。
 山西省の大手国有銀行に勤める知人に聞くと、
 「20年以上勤務していて、経験のない不景気が襲っている」
と答えた。
 山西省の経済悪化の最大の原因は、石炭バブルの崩壊である。
 私は5年前に山西省全域を、一週間程かけて視察したことがあるが、当時は石炭バブルの全盛期だった。
 省都・太原の目抜き通りには、海外の高級ブランド店が軒を並べ、「煤老板」(石炭会社社長)たちが、香水プンプンのミニスカート姿の美人ホステスたちを侍らせ、「爆買い」していた。
 夜な夜な「煤老板」たちの「地下賭博」が行われているとも聞いた。
 その時は、北部の山岳地帯の大同市まで足を伸ばしたが、そこでは高級海鮮料理がブームになっていた。
 何と大連港から毎日空輸しているのだという。
 それがいまや、石炭は生産過剰の象徴となり、価格の下落が止まらない。
 石油価格の下落とクリーンエネルギーの時代になって、すっかり需要が減ってしまったのだ。
 
 ちなみに李小鵬省長も、「今年失脚が予想される地方幹部」の筆頭だ。
 李小鵬省長は、87歳になる李鵬元首相の長男である。
 李鵬首相が掌握していた電力・水利利権を引き継いだが、2008年に山西省党委常務委員となった。
 胡錦濤時代の党中央組織部長(人事部長)だった李源潮・現国家副主席が李小鵬を嫌い、昇進を承認しなかったが、習近平政権になる2013年1月に、ついに省長に就任した。
 妹の李小林も、電力・新エネルギー利権を父親から引き継ぎ、「電力エネルギー業界の女王」と言われたが、昨年、習近平主席のメスが入った。
 昨年7月28日に、中国電力国際発展の董事局主席(会長)を辞任。
 12月30日には、中国電力新エネルギー発展の董事会主席も辞任した。
 早ければ3月の全国人民代表大会の前にも、李鵬一族が一網打尽になるとの噂も飛び交っているほどだ。

◆対北朝鮮政策をめぐり議論は真っ二つに

 もう少し目を広げてみよう。
 こうした中国経済の沈滞が、近隣諸国・地域との関係にも影響を及ぼしているのだ。
 年明けに顕著になったのは、北朝鮮、台湾、そして日本への影響である。

 1月6日に北朝鮮が4度目の核実験を強行して以降、習近平政権は、金正恩第一書記という北東アジアの「暴君」にどう対処するかを、内部で議論してきた。
 議論は真っ二つに割れた。

1].一つは、主に「老一代」(ベテラン組)の意見で、対北朝鮮宥和政策を主張した。
 すなわち、金正恩第一書記がいくら核実験やミサイル実験を繰り返す暴君とはいえ、中国に敵対しているわけでもなければ、韓国を攻撃するわけでもない。
 そして北朝鮮国内を平穏に統治している。
 これは中東やアフリカと較べればマシな状態であり、中国は金正恩政権を刺激して、1300kmもある国境地域を混乱させるべきではないという考えだ。

 そこに、前述した東北三省の経済悪化が加わった。
 現在でも相当悪いが、これからは重厚長大な国有企業が多い東北三省で、大量の失業者が出ることが予測される。
 そんな中、北朝鮮に強硬な制裁を科して地域を混乱させては、失業者の暴動が起こったり北朝鮮の難民が出たりして、東北三省の混乱リスクが一気に高まる。

2].一方、「新一代」(若手)は、対北朝鮮強硬論を主張した。
 いまや金正恩という指導者自体が地域最大の不安定要素であり、むしろアメリカと共同で強硬な制裁をかけて、危険な指導者を除去する方向に持っていくべきだという意見だ。
 この考えには、人民解放軍の瀋陽軍区が加わった
 習近平主席は昨年9月に「30万人の裁軍」を宣言しており、
 最も削減を余儀なくされそうなのが、43万人の瀋陽軍区なのである。
 そこで瀋陽軍区としては、「北朝鮮の脅威」を強調して、削減を回避しようというわけだ。
 習近平主席が果たしてどちらの道を選択するのかは、1月27日のケリー米国務長官の訪中で垣間見えてくるはずだと、私は睨んでいた。

 同日、長時間に及ぶ米中外相会談を終えたケリー国務長官と王毅外相は、共同会見に臨んだ。その時、王毅外相は、次のように述べたのだった。
 「ランチタイムも越えて、記者の皆さんを長い間待たせて済まなかった。
 外交部が準備したサンドイッチは召し上がったか? 
 われわれは議論に議論を重ねたため、こんな時間になってしまったのだ。
 朝鮮半島に関して、私が言いたいのは、一時のムードに流されることなく、3つの基本的なコミットメントを遵守することだ。
 第一に、朝鮮半島の非核化を目指してコミットしていく。
 第二に、半島の平和と安定を維持するようコミットしていく。
 第三に、問題を対話と交渉によって解決するようコミットしていく
というものだ」

 続いて、楊潔篪外交担当国務委員、王毅外相との会談を終えたケリー国務長官は、習近平主席に面会した。
 その際、習近平主席はカメラも入った冒頭の挨拶で、北朝鮮の核問題に関しては、サラリと一言述べただけだった。
 「イランの核、朝鮮の核、アフガニスタンなどの国際的な地域の問題に関して、中米両国はこの間、意見を交わしてきた」
 つまり、ケリー長官の訪中を見る限り、習近平政権は対北朝鮮宥和派の意見に傾いたように見受けられたのである。
 もしそれが事実なら、やはり東北三省の経済悪化要因が大きかったと見るべきだろう。

◆台湾では国民党が大敗、民進党が圧勝

 中国経済の悪化が影響を及ぼしている第二の地域は、台湾である。

 台湾では、1月16日の総統選挙で、中国大陸と距離を置く民進党の蔡英文主席が、689万票も獲得して圧勝した。
 これは中国経済の悪化によって、中国大陸とのビジネスに邁進することで台湾経済を活性化させようとしてきた馬英九国民党政権が失敗したことを意味する。
 2008年5月に発足した馬英九政権は、「中国大陸との経済的一体化」を掲げて、「三通」(通航・通商・通信)に邁進した。
 前任の陳水扁政権までは、北京空港に台湾の飛行機が離着陸するなど考えられもしなかったが、最大300万人もの「台商」(台湾商人)を、上海、広東省、福建省などに送り込んだ。

 2010年には中台の自由貿易協定にあたるECFA(経済協力枠組協定)を発効させた。
 馬英九政権は「台商」ばかりか、台湾にも毎日5000人の中国人観光客を受け入れた。
 日本や欧米の企業にも、「台湾を通した経済進出」を奨励した。

 だが、こうした中台の経済一体化政策は、習近平政権になって中国経済が悪化してからは、むしろ台湾経済の足枷となっていった。
 実際、2015年第3四半期の台湾のGDPは、6年ぶりのマイナス成長を記録した。
 これはひとえに、中国と「共倒れ」になった結果で、いまや多くの「台商」たちが、拠点を東南アジアなどに移し始めている。

 こうした「脱大陸」の流れが、国民党大敗、そして台湾独立を綱領に掲げる民進党の圧勝につながったのである。

◆日本旅行が割高になりつつある

 さて、最後は日本である。
 1月27日、東京・銀座の「三越銀座店」8階に、売り場面積約3300㎡という巨大な空港型市中免税店『Japan Duty Free GINZA』がオープンした。
 三越が改装工事を急いだのは、一にも二にも、2月8日の春節(旧正月)に間に合わせるためだった。
 春節の大型連休中に、中国から押し寄せる「爆買いツアー」を当て込んでいるのである。
 3月には、銀座の数寄屋橋交差点に面した「東急プラザ銀座」もオープンするが、こちらの「目玉」も、8階と9階をブチ抜いた巨大な免税店だ。

 思えば、昨年の春節には、中国人旅行者が銀座通りを「占拠」したものだ。
 私も、1000万円を超す宝玉や、666万円の福袋などを、次々に「爆買い」していく中国人たちを目撃し、圧倒された。
 昨年、海外旅行に出かけた中国人は延べ1億3500万人と、日本の総人口を上回った。
 うち日本へは、前年比207%の499万人が訪れている。
 これは日本を訪れた外国人旅行者の25%にあたる。
 日本での消費額で見ると、全外国人の5割近くを占めたという推計もある。

 ところが今年に入って、もはや「爆買い」の気配はない。
 経済悪化の影響がヒタヒタと迫ってきているからだ。
 中国の旅行業界では俗に、
 「富裕層は欧米に行き、
 中間層は日本とオーストラリアに行き、
 庶民は韓国と東南アジアに行く」
と言われる。
 それが中間層が節約するようになって、日本旅行から韓国や東南アジアに切り替えつつあるのだ。

 日本円のレートは、昨年の春節時に較べて、約8%円高元安になった。
 加えて、日本のホテル代が高騰している。
 そのため、一年前は8000元が相場だった日本旅行は、いまは1万元である。
 ただでさえ、春節の時期は通常よりも3割~4割高だが、日本旅行は特に割高に感じるのだ。

 一方、ライバルの東南アジアは、中国人に対するビザの緩和ラッシュである。
 人気のバリ島があるインドネシアはビザ免除、シンガポールは10年ビザ、タイとベトナムも昨年11月に大幅緩和した。
 つまりビザが面倒くさくて寒い日本よりも、温かくてすぐに行ける東南アジアの方が人気なのだ。

◆資本流出が止まらない

 経済の悪化から、そもそも中国人の「爆買い旅行」を規制する動きも始まっている。
 中国の出入国管理法は、1996年に制定された。
 翌年から一般国民にパスポートを解禁するための措置だった。
 その中に、「5000米ドル以上の海外への持ち出しを禁じる」という規定がある。
 当時の5000ドルと言えば、平均的な中国人の生涯年収よりも多かった。
 それでいまや、この規定は有名無実化しているのだが、今年に入って中国の空港で、厳しくチェックする動きが出ている。

 同様に、海外での「爆買い」に関しても、これまではノーチェックで通していたのが、昨年末あたりから、税関検査を厳格に行うようになってきている。
 中国人としては、いくら海外で免税品を買っても、中国に持ち込む際に課税されたのでは、元も子もない。
 さらに、年間10万元(約180万円)以上の買い物を現金でしてはならないという法律が、まもなく施行されるという噂も立っている。
 これは「爆買い禁止」というより、資金の海外逃避を回避する措置だ。

 英『フィナンシャルタイムズ』紙(1月26日付)は、次のように報じた。

〈 中国人民銀行(中央銀行)は、資本流出という問題を取り繕えない。
 汚職取り締まりと投資機会不足という国内事情が、中国の人々を国外への資金移動に駆り立てている。
 さらに人民元切り下げの不安が資本流出に輪をかけている。(中略)
 この圧力が続く中、中国の当局に選択肢はほとんどない。
 唯一の選択肢は、圧力が和らぐまで資本規制を強化することだ 〉

 ともあれ、中国経済の減速が、周辺諸国・地域にも、じわじわと波及し始めている。
 今後、アジアの国際情勢にも影響を与えるだろう。
 多くの戦争が、経済問題の延長であることは、歴史が物語っている。



サーチナニュース 2016-02-04 20:18
http://biz.searchina.net/id/1601741?page=1

日本の対中投資は減少続く、
中国「日本企業はすでに進出を済ませたから」

 中国はこれまで世界の工場として、世界の製造業を下支えしてきた。
  近年は人件費が上昇し、
 世界の工場としての役割は終えつつある
が、所得水準の上昇に伴って
 中国はさまざまな分野で世界最大の市場
となっており、各国企業の注目を集めるようになっている。

 一方、日本と中国の間には歴史や領土をめぐる対立が存在するため、こうした対立に起因する中国独特のリスクは「チャイナ・リスク」として認識されていた。
 日本企業の間では、中国偏重はリスクであり、中国以外の国にも投資や行い、事業拠点を設ける「チャイナ・プラスワン」という考えも広まっていた。

 中国経済は近年の高度成長を終え、
 低中速ながらも安定した経済成長を目指す「新常態」の時代
を迎えつつあるが、
 日本企業の対中投資は近年、減少傾向にある。
 中国メディアの澎湃新聞はこのほど、2015年の日本の対中投資は32億1000万ドル(約3871億円)にとどまったことを紹介。
 14年は43億3000万ドル(約5221億円)だったことを伝え、15年は大きく減少したと伝えた。

 記事は、中国商務部の報道官がこのほど、日本の対中投資が減少傾向にある理由について、専門家の分析として
 「人民元が日本円に対して上昇し、日本企業の対中投資コストが上昇したこと」、
 「中国経済の成長率が低下する一方で、人件費や土地などの各種コストが上昇していること」、
 「日本企業の中国進出は比較的早く、多くの日本企業はすでに進出を済ませていること」
などを挙げたことを紹介した。

 一方で、同報道官が
 「多くの日本企業は中国市場の潜在力は極めて大きく、重要な市場であると認識しているとの調査結果もある」
と指摘したことを紹介し、中国での事業を拡大する意向を示した日本企業も多く、日本企業は中国国内での事業について楽観視していると主張したことを伝えた。



サーチナニュース 2016-02-05 18:07
http://news.searchina.net/id/1601860?page=1

巨大化する中国の消費市場

 ■ 「世界の工場」から「世界の市場」へ

 中国政府は、経済が高度成長から中程度の高成長への移行段階にあることを示すニューノーマルを意味する「新常態」というキーワードを中国経済を論議する際に使い始めている。

 このことは中国政府が成長率が下がることが不可避あるいは望ましいと考えているということでもある。
 これに伴ってGDP成長の牽引役は、「世界の工場」としての「輸出」から、中間層の爆発的増加による「世界の市場」としての「消費」にとって代わられようとしている。
 今後、中国の消費市場は紆余曲折を経ながらも確実に成長していくことが見込まれている。

■ 老後への不安が解消されれば消費性向は高まると予想される

 中国は、GDPの構成比中、現時点で個人消費は3割台でしかない。
 因みに日本は約6割、米国は約7割を占めている。
 中国が低い最大の理由は、「老後の安心」を保障する養老保険の対象範囲が一部大都市労働者だけに限定されていたため、
★.老後への不安が支配的となり、貯蓄性向が異常に高かった
ことにある。

 そこで中央政府は個人消費の活性化を図る目的で、農民工など地方からの出稼ぎ労働者が複数の都市を転々として定年退職後に故郷の田舎に戻っても、各地における養老保険の累積納付データーをもとに養老保険を適切に受給できるように、制度改革を推進している。

 この制度改革は長期にかかるとしても制度改革の進展と国民的認識が広がり、老後への不安が徐々に解消されるにつれて、貯蓄性向が低下して、消費性向が高まると予想される。

■ 勃興する中国中間層のライフスタイル

 近年の中間層消費者は、
(1):多様な消費価値観を持ち、
(2):インターネットが地域、年齢に関係なく幅広く浸透しつつあり、
(3):外資系ブランドに対しても冷静な価値判断をするようになっている。
 特に、インターネットの浸透は、スマートフォンが生活必需品レベルの保有率に達したことを背景に、この数年で劇的に変化したライフスタイルである。

 購買行動においても、アパレル・ファッションについては既にインターネット通販(Electronic Commerce=EC)が最も利用されるチャネルとなり、ほかのカテゴリーでも、徐々にEC化が進んでいる。
 スマートフォン普及とインターネットの定着に代表されるような、中間層のライフスタイルの劇的な変化への対応が、今後の市場拡大のカギを握るであろう。

■ 巨大市場中国と中国人を深く理解するよう努力すべき時期に迫られている

 中国のGDPが日本のそれを抜いたのは2010年である。
 しかし、そのわずか2年後の2012年には、中国のGDPの水準は約8.22兆米ドルと、日本の約5.96兆米ドルの約1.38倍までに成長している。
 わずか2年で、40%近い規模の乖離が生じているのである。

 このように日本よりはるかに大きな消費市場が飛行機でわずか2-3時間の近さにあるということは日本企業にとって無視できない厳然たる事実なのである。
 我が国は中国と中国人をもっと深く理解し向き合うように努力することが必要な時期に迫られていると思う次第である。

(執筆者:水野隆張・日本経営管理教育協会営業部長 編集担当:如月隼人) (イメージ写真提供:日本経営管理教育協会。厦門のショッピングセンター)


ロイター 2016年 02月 5日 15:00 JST
http://jp.reuters.com/article/china-companies-cashflow-idJPKCN0VE0DO?sp=true

アングル:中国企業を覆う「金欠病」、
在庫増と売掛金回収難も

[東莞市/香港 5日 ロイター] -
 「売上高は虚栄心、利益は正気、しかし現金は現実」
という格言が真実であれば、中国企業の多くは今、現実に直面していると言えるだろう。

 ロイターが中国企業1200社の運転資金を分析したところ、手元現金が一段と乏しくなっていることが分かった。
 中国経済が25年ぶり低成長に落ち込む中で
★.売れ残り在庫が膨らんでいる上、
★.売掛金の回収にかかる日数が伸び、
★.支払ってもらっていない請求書
が山をなしている。

 KPMGチャイナのパートナー、ファーガル・パワー氏は、
 中国企業の大半は好況時に市場シェアと売上高を伸ばすことを優先させた
と指摘。
 その結果「中国は運転資金の管理が甘い」という。

 ロイターの調査は、上海・深セン上場企業のうち時価総額が5億ドルを超える全企業を網羅している。それによると、
 売掛金の回収にかかる日数は平均で、2011年の37日から、現在では59日に伸びた。

 業種別では、エネルギーが24日から80日、工業は61日から94日、情報技術(IT)が76日から112日と伸びが特に大きい。

 三菱東京UFJ銀行のアナリスト、クリフ・タン氏は
 「工業セクターではここ数年、売掛金の増加ペースが売上高の伸び率を上回っている。
 データからはこれが根強い問題であることが分かる」
と述べた。

 「問題が深刻化しているサインは、怪しげなシャドーバンク商品が登場していることだ」
という。
 手元現金に困った企業が、伝統的な銀行融資を受けることが難しいため、こうした商品に手を出すのだという。

◆<春節後に失業者急増の恐れ>

 サン・グローバル・インベストメンツのサジブ・シャー最高投資責任者(CIO)は「多くの中国企業では、需要の急減に見舞われている」と指摘。
 「在庫が積み上がってるのに加えて、顧客は支払期間延長などの優遇を要求しており、売掛金が膨らむのは当たり前」
と話す。

 売上高に占める在庫の比率は、工業セクターでは22.7%から26.5%に上昇し、ハイテクは20.9%から23.7%に上昇した。

 現金に困った企業は臨時契約の労働者への依存を強めている。
 東莞市の人材紹介業者は、企業は正社員への給料支払いを維持できなくなっている、と指摘。
 工業地帯である珠江デルタの工場に紹介する労働者の80%が今や臨時雇用であり、1年前の70%から増加した、という。

 地元のある工場オーナーは、来週から始まる春節(旧正月)後に、失業者が急増する可能性があると話している。
 中国の工場は通常、春節に合わせて2週間程度休むが
 「労働者は休暇後、職を見つけられないかもしれない。
 質の低い工場は生き残ることが難しい
などと語った。

(James Pomfret記者、Umesh Desai記者 翻訳:吉川彩 編集:吉瀬邦彦)


ロイター 2016年 02月 7日 08:26 JST
http://jp.reuters.com/article/china-companies-idJPKCN0VE0H5?sp=true

アングル:中国進出の外資企業、
景気減速でも消費者に熱視線

[ロンドン 2日 ロイター] -
 中国の景気減速は製造業に痛手を与えているが、同国に進出している外資系企業の中でもコーヒーショップ、ハンバーガーショップ、衣料品店などから聞こえる声は明るい。

 大手外資系企業のうち、中国事業について投資家向け情報を更新した34社からのコメントや発表をロイターが検証したところ、セクターによって状況が違っている。
 34社のうち18社は消費者向けの製品を持っており、そのうち13社は第4・四半期、あるいは通年で売上高が伸びたと報告。
 売上減少したのは3社、横ばいは2社にすぎない。
 だが、調査対象に含まれる工業セクター企業8社のうち、6社は中国事業の不振や、売上高減少に苦しんでいる。

 第4・四半期の中国経済成長率は2009年以来最も低い水準となったが、米スターバックス(SBUX.O)、スウェーデンの製紙大手SCA(SCAb.ST)、アパレル小売大手ヘネス&マウリッツ(H&M)(HMb.ST)、米マクドナルド(MCD.N)は、いずれも順調な成長を見せた。
 スターバックスのハワード・シュルツ会長兼最高経営責任者(CEO)は「中国での弊社の成功は、直近の四半期で特に顕著だった」と語る。
 スターバックスは他の多くの外資系企業と同様、会計上、中国事業の業績を区別していない。
 「この四半期、私たちは中国で150店舗をオープンした。
 創業以来、最も多い開店数だ」と、シュルツCEOは先月の投資家向け電話会議で語った。

 米マクドナルドは中国における第4・四半期の既存店売上高が4%増加したと発表。
 また今年は、同社が進出している市場のなかで最多となる、250店舗以上の出店を予定する。
 同社のスティーブ・イースターブルックCEOは先月25日、投資家に対し、
 「中国という重要な市場のポテンシャルにも、ブランドをいっそう拡大していくために私たちが導入している戦略にも、引き続き自信を持っている」
と語った。

 紙おむつも手掛けるSCAのマグナス・グロスCEOによれば、中国人口が、村落部の貧困層から都市部の中間層へとシフトするスピードは他の新興国と比較にならないほど速く、同社事業にとって非常に大きなチャンスが生まれているという。

 だが、工業セクターの状況はそれほど明るくない。
 建機メーカーのキャタピラー(CAT.N)や独シーメンス(SIEGn.DE)は昨年不振に見舞われた工業セクター企業に属する。
 エレベーターや冷蔵設備を製造する米ユナイテッド・テクノロジーズ(UTX.N)は、今年さらに売上高が減少すると予測している。
 シーメンスのジョー・カイザーCEOは先週投資家に対し、「短周期ビジネスは、中国における2桁の売上減による影響を受けた」と語った。
 「中国経済は今後も減速するだろう。
 持続的な需要関連の回復があるかどうかはまだ分からない」
と述べている。

◆<経済の成熟が進む>

 複数の企業トップは、このように消費者向けセクターと工業セクターとで業績がかい離しているのは、中国経済が工業主導から消費主導へと成熟しつつある正常な兆候だと話している。
 第4・四半期の中国成長率が前年同期比6.8%に減速したことを受けて、膨大な資本流出、通貨急落、夏の株価暴落など激動の1年となった2015年通年での経済成長は6.9%となった。
 今年に入って、金融市場ではいっそうボラティリティが増している。
 中国国家統計局のデータによれば、12月の鉱工業生産はわずか5.9%の上昇と市場期待を裏切り、景気減速と消費主導の成長へのシフトが、どれだけ産業部門に打撃を与えているかを浮き彫りにした。

 対照的に、12月の小売売上高は、これも予想を下回ったとはいえ11.1%と好調だった。
 フォード・モーター(F.N)は第4・四半期の中国事業について好業績を報告しており、12月の売上高は27%増を記録した。
 フォードのマーク・フィールズCEOは先月、中国経済は
 「投資主導、工業主導から消費主導へと移行しつつある。
 GDPに占める消費の比率を見ても実際に伸びており、よい兆候だ」
と述べた。
 「こうした移行を進めるなかで、多少の動揺は生じるだろう」と加えた。

◆<向かい風>

 消費財メーカーに中国減速の影響を受けていないわけではなく、市場の不振を報告する企業もあるが、おおむね軽視しているようだ。
 米アップル(AAPL.O)のルカ・マエストリ最高財務責任者(CFO)はロイターの取材に対し、中国経済には「これまでには見られなかった軟調さ」が見られると述べている。
 だが同社のティム・クックCEOは、基本的な需要トレンドは力強いとして、中国での投資計画を変更する予定はないと明言する。
 「中国のミドルクラスは、
 2010年には5000万人に満たなかったが、2020年までに「約5億人」に達すると予想されている。
 この人口動態は非常に魅力だ」
とクックCEOは語る。

 フォードやユニリーバ(ULVR.L)といった一部の企業は、中国国内でも先進市場では穏やかな成長を報告している一方で、中小規模の都市では停滞からの回復が見られるとしている。
 アイスクリームから清掃用品までさまざまな製品を扱うユニリーバのポール・ポルマンCEOは、
 「成長を生み出しているのは、大都市というよりも、実は沿岸部の中小都市だ」
と話している。
 欧米風の消費パターンが広がっていることも企業に恩恵を与えている。
 仏高級酒類大手レミー・コアントロー(RCOP.PA)は、クリスマスのギフト需要が、旧正月市場の重要性の低下を相殺する形で、同社の事業にとってますます重要になっていると指摘する。

 スターバックスによれば、同社の中国での成長は、コーヒーを飲むという「朝の儀式」が根づかない状況で得られているが、いずれその習慣が広まることは確実で、長期的に相当の成長を上乗せできるという。
 だが、欧米で見られるトレンドの一部が中国でも再現されつつあることは、企業にとっての難題となっている。
 欧米同様、中国の買い物客も大型スーパーを避ける傾向を強めている。
 こうしたトレンドは仏小売り大手カルフール(CARR.PA)や、チョコレートメーカーのハーシーなど、大型店での売上高を主軸とする企業に打撃を与えている。
 このため、カルフールはコンビニエンスストアの展開を進め、ハーシーはそうした小型店舗での販売に軸足を移しつつある。

 工業部門においても、景気減速にもかかわらず明るい部分もある。
 「中国でアルミの業況が改善されつつある」と、米アルミ大手アルコア(AA.N)のウィリアム・ オプリンガーCFOは先月の決算報告で語った。
 「ファンダメンタルズはしっかりしている。
 アルミ事業は引き続き6%の成長を期待している。
 需要は2010年から2020年にかけて倍増する軌道に乗っている」
と述べた。

(Tom Bergin記者)(翻訳:エァクレーレン)



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2016年02月08日(Mon)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6043

中国経済浮揚に求められることは

ニューヨーク・タイムズ紙が1月6日付の社説で、「中国当局が経済政策を誤り、混乱を招いている。
中国は指令と統制による経済運営をやめ、もっと私企業や競争の役割が大きい経済にすべし」と論じています。
社説の論旨は次の通り。

■健全な成長率にも関わらず混乱招いた指導部

 中国経済が減速するのは不可避であるが、中国指導部は最近多くの間違いを犯し、無害・自然な減速を、混乱した下降にしてしまっている。
 中国の株は1月初め、1週間で10%下落し、商品価格も下落した。
 この下落を中国の指導部は経済運営に基本的な変更を加えるべしとの警告と受け止めるべきである。

 世界第2の経済大国中国は、ほぼ1年7%成長している。
 以前より低いが、健全な成長率である。
 問題はブームが投資、財政支出、借金(多くは償還されないだろう)によっていることである。
 中央政府も2008年の金融危機後、年数十億ドルを経済に注ぎ込んだ。
 しかし、国営企業と私企業、外国企業が競争する改革は行われていない。

 昨年、中国高官は個人投資家に株投資を進め、バブルの発生、崩壊をもたらした。
 市場が下落した夏、当局は噂の拡散者や投機筋を非難、証券会社や国有企業に買い続けるように命じた。
 これは問題を見えなくしただけであった。
 教訓は明確である。
 小手先の株価対策ではなく、
 当局は投資から消費とサービスに力点を移し、経済を強化すべきだ
った。
 中国はもはや農村から工場への人の移動で成長するわけにはいかない。
 ホワイトカラーの職を増やす必要がある。
 テレコムや保険分野にも私企業参入を許し、ホワイトカラーの職を増やせば、経済の競争力を高めうる。

 中国は金融システムをクリーンにすべきである。
 企業や地方政府が何十億ドルの借金をして、高速鉄道などインフラを作ったが、この借金を払える収益が上がる見通しがない。
 政府は債権者・債務者に債務繰り延べ合意を奨励し、銀行が不良債権で身動きできないようにならないようにすべきである。
 また非効率な国有企業は閉鎖する必要がある。

 中国経済の世界に占める地位は大きく、中国の取り組みは大きな影響がある。
 中国は石油、大豆、鉄鉱石などの大消費者であり、中国の需要が減れば、ブラジル、サウジ、南アなどの経済はダメージを受ける。
 原油は33ドルに下がった。

 日米独なども資源国ほどではないが影響を受ける。
 中国は人民元安にして輸出を伸ばし輸入を減らすだろう、という人もいるが、これは世界経済に悪影響を与える。
 8月以来、人民元は5%減価した。
 多くの人や会社が海外投資のためにドルを買ったからである。

 中国の指導者は、私的投資と競争を奨励し、政策を近代化すべきである。
 中国は過去30年間、劇的に変わった。
 経済への指令と統制アプローチは、今後、成果を上げないであろう。

出典:‘China’s Obsolete Economic Strategy’(New York Times, January 8, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/01/09/opinion/chinas-obsolete-economic-strategy.html

*   *   *

■市場の反応考えぬ中国当局

 この社説は、中国の経済政策についての懸念を表明したもので、有益な指摘です。

 今年は年初以来、世界同時株安になっています。
 その主たる原因は中国経済の減速への懸念です。
 中国経済の動向が世界経済に与える影響の大きさが実感されます。

 しかるに、中国の経済運営は市場経済というより共産党による指令統制経済である面が強く、かつ共産党、政府が大きなミスをすることが年初以来ますます明らかになってきました。
 株が下がりすぎれば、サーキット・ブレイカーで市場を閉鎖して、株安を止めようとしましたが、市場閉鎖前に売り抜けようとする人が出て、事態を悪化させました。
 それで、このサーキット・ブレイカーをやめてしまいました。
 次に、国有企業や証券会社などに株の売りを一定範囲にとどめ、株買いをするように指示、株安を止めようとしましたが、どこまで下がるかわからないのですから、この状況で株を買う人はなかなか出てきません。

 中国当局は、市場がどう反応するかをよく考えずに、試行錯誤をしています。
 それが世界経済を混乱させています。
 中国には、中国のやり方が世界経済に大きな影響を与えることを自覚してもらって、指令よりも市場が発するシグナル重視の対応に代えてもらうことが重要でしょう。
 また、金融システムが大きな問題を抱えています。
 これをできるだけ解消しておかないと中国発の金融危機、世界経済不調を引き起こしかねません。

 中国は、株についての対応と同じようなミスを、元レートについてもしかねません。
 元安期待はドル購買につながり、さらなる元安になります。
 その結果、資本流出が生じてしまいます。

 市場との対話にどの国の当局も苦労しています。
 中国は今後も種々な失敗をしながら学んでいくのだろうと思われますが、政治体制の問題もあり、うまく学んでいくことができるのか、はっきりしません。
 日本としては、こういう中国の失敗と混乱に振り回されるリスクを認識し、考えておく必要があります。

 中国は、世界経済にとって“too big to fail”になってしまったと言えるでしょう。



ダイヤモンドオンライン   2016年2月8日 嶋矢志郎 [ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/85869

中国が発表する経済成長率は本当に“偽り”なのか?

■中国の常識は世界の非常識?
王国家統計局長はなぜ失脚したか

 中国共産党の中央規律検査委員会は、国家統計局の王保安局長を「重大な規律違反」で調査していると発表した。
 王局長は1月19日には世界が注目していた昨年2015年の中国のGDP(国内総生産)を発表し、同26日には中国の経済情勢に関する記者会見に臨み、終了後も取り囲む記者団の質問に気さくに受け答えしていた。
 その直後の連行、失脚である。

習近平指導部としては、電撃的な摘発により、
 「重大な規律違反」への厳しい姿勢を国内外に強く印象づける狙いがあったに違いない。

 その「重大な規律違反」とは何か。
 肝心の内容が何も明らかにされていないが、一部海外メディアによると、統計データを取り扱う国家統計局のトップである同局長が、事前に外部に情報を漏らしてその見返りに金品を受け取っていたのではないか、という疑惑が浮上しているという。

 さらに今回の事件については、中国の国内外の消息筋から、
 「本当のデータを公表したら処罰され、捏造のデータを発表したら規律違反では、立つ瀬がない」
などと揶揄する声も、筆者の耳に届いた。
 何らかの目的により、王局長が統計データを改竄していたのではないか、という見方もあるわけだ。

 様々な憶測が飛び交っており真相は不明だが、いずれにせよ、今や世界第2位の経済大国となった中国の統計データを取り扱うトップの汚職がもし真実だとすれば、世界の金融市場に波紋を呼びかねない。
 今回の報道は、かねてより指摘されていた中国の統計データに関する課題を、筆者に思い起こさせた。
 それは、統計データの信憑性に関する課題だ。
 これを機に、それを検証してみたいと思う。

 中国政府が国内外へ向けて正式に発表する統計データの多くは、偽装された「真っ赤な嘘」ではないか――。
 今回の事件とは直接関係なく、そんな疑惑は以前からずっとあった。
 今や「知る人ぞ知る常識」として語られている雰囲気もある。
 真偽のほどは別として、問題はそうした疑惑があるという事実を、いつの頃からか当事者の中国だけでなく、国際社会も暗に認めてきたということだ。

上海株の大暴落をはじめ、
 人民元の対ドル為替相場の切り下げ、
 全国各地で廃墟と化している工業団地や商業施設、
 主要業種に広がる深刻な過剰設備、
 さらにはおよそ2億人分に及ぶとされる不動産の余剰在庫など、
中国経済の憂々しき実態が次々と顕在化している。
 中国経済は今、どこまで失速しているのか。
 全世界が注目する中で、2015年の実質GDP(国内総生産)の成長率が発表されたが、データの信憑性が怪しいことを知る者の中には、公表された数値を信じない人もいたのではないか。

 公表されたGDPの数値は、想定内の前年同期比6.9%増であった。
 ちなみに、中国政府の目標値は7%である。
 これに対し、国内外の消息筋の事前予測では、おおむね数字の操作を織り込んで6.8%前後と見られていたが、案の定、その中間に落とし込んできたと思える苦肉の策であった印象は拭えない。

発表した時点も、昨年末からわずか3週間以内の1月19日である。
 これ自体が信じ難い早さで、不自然ではある。
 自由経済圏の場合、最も早い
 米国でも締め切り1ヵ月後であり、
 EUや日本では大体、同50日
である。

 GDP統計は、一般に各種統計を加工した、いわば二次統計なので、その算出には一定の手間暇がかかる。
 先進国の場合は、関係各省庁が英知の粋を集めた複雑な計算式の下で算出し、産業連関表などを駆使して、算入が重複しないよう、縦横斜めの試算を繰り返してから公表するため、これ以上は短縮できないという日時を要してから公表する。
 中国の場合はこの精査工程を省略して、「算入の重複を削除しないまま公表しているのではないか」と疑われてもやむを得まい。
 仮にそうだとすれば、GDPは水増しされ、成長率は上振れすることになる。

■信じられないGDP統計発表の早さ
「李克強指数」が信頼される理由

 中国の経済政策の司令塔である李克強首相は、前職の遼寧省共産党委員会書記であった2007年当時、すでに「中国のGDP統計は人為的であるため、信頼できない」と喝破して憚らず、「経済指標として信頼できるのは貨物輸送量、電力消費量、銀行融資残高の3指標だけである」と公言した。
 それ以来、中国ではGDP統計よりもこれら3指標による「李克強指数」の方が信頼され、跋扈しているのが実態である。
 こうした状況に鑑み、統計作業を透明化、改善しようという声も聞こえてこない。
 GDP統計による公表データの同6.9%増を、この李克強指数で試算し直した修正値もある。
 それによると、実際は半分以下の同2.8%増だという。

 前述の3指標よりも誤魔化せないという点で、
 実態により近い指標が貿易統計である。
 中国側の輸入は相手国の輸出であり、輸出は相手国の輸入になるため、偽装が不可能だからである。
 とりわけ、輸入の伸び率とGDPの成長率は正の相関関係にあるため、一方が増えるときは共に増え、一方が減るときは共に減って、同じ方向へ連動するため、少なくとも大きな誤魔化しは不可能に近い。

 発表によると、輸入は同14.1%減となっており、これは尋常な減り方ではない。
 輸入が前年比14.1%も減っていながら、GDPだけ6.9%も伸びることは、まずあり得ないだろう。
 逆に、GDPが6.9%も伸びていながら、輸入だけが前年比14.1%減ることも、まずあり得ない。
 どちらに疑問があるかと問われれば、明らかにGDPの方である。

■輸入が二桁マイナスなのに
GDP6.9%成長はあり得るのか?

 ちなみに、李克強指数と同じく、
 輸入が同14.1%減であった場合、GDPの成長率はどうなるか。
 単純な回帰分析で試算すると、成長率はなんと、おおよそ▲3%近くになる。
 中国政府が「GDPの成長率が同6.9%増、輸入同14.1%減であっても、共に真実の数値であり、両者の相関関係には矛盾はない」と言い切れるならば、「輸入とGDPは必ずしも正の相関関係にあるとは限らず、負の相関関係になることもあり得る」ことを立証する義務があるだろう。

 中国のGDP統計を「信頼できない」と思っていたのは、李首相だけではない。
 元来、中国の経済統計の信頼性には、国内外から疑問視する声が広がっていた。
 中国全土の各地、各省で集計した総和が、中国統計局が発表する全中国のGDP統計の数値を大きく上回る珍現象が毎年のように繰り返され、常態化していたからである。
 全国の各地、各省の末端から中央へと数値を集めてくる集計過程でも、申告者が常に正しく申告するとは限らない。
 収穫や生産の自己申告が業績や昇進などの評価、採点に直結していれば、なおさらである。

 人間の心理上、評価、採点にとってマイナスとわかる結果を自ら奨んで報告する人は少ない。
 結果として、常に過大な申告になりがちである。
 とりわけ社会主義経済圏の下では、これが避け難い仕組みであることは、旧ソ連や毛沢東による大躍進時代の中国の名残といえ、その悪弊は歴史が証明している。
 李克強指数が誕生し、信頼され、跋扈してきた背景でもある。

 ただし国際社会も、中国の経済統計の捏造疑惑を決して看過してきたわけではない。
 IMF(国際通貨基金)は昨秋、中国に対し、経済統計に関する「質」的な向上の必要性を呼びかけている。
 中国が経済構造の質的転換を進めていることに対し、その構造転換の成果が経済統計にも正しく反映されるよう、経済統計を「質」的に飛躍させる必要がある、と指摘している。

 世界銀行も、
 「中国の政策決定者は市場への介入を自制できないでいる。
 これが市場に混乱をもたらし、市場に対する信頼感の低下を招いている。
 中国が2015年に史上最大の資本流出を経験したのは、
 政府の介入が要因の1つである公算が大きい。
 市場は予測可能性と透明性を必要としている」(マデリン・アントンシック前副総裁)
として、経済政策の透明性の確保に厳しく注文を付けている。

■実際はマイナス成長もあり得る?
チャイナショック回避への期待

 習近平主席とその指導部が、二桁台の高度成長から一桁台の安定成長へと経済成長ペースを軌道修正しながら、いわば経済成長よりも構造改革を優先し、7%成長を死守する「新常態」化路線を宣言して走り出してから、まだ間もない。
 それが早くも7%割れを余儀なくされたため、
 金融緩和を急いででも経済成長を優先すべきか、
 経済成長は後回しにして構造改革を優先すべきか、
という二者択一を迫られ、大いに迷っているに違いない。

 しかし、データ偽装が真実ならば、実態は7%割れどころか、3%割れやマイナス成長であることも考えられる。
 世界第二の経済大国である中国経済の実態が、実は想像以上に失速しているとなれば、それだけでも2008年のリーマンショックならぬ「チャイナショック」を引き起こしかねない。
 影響が国際社会の隅々へ及ぶことは必至である。

 そうなれば、隣国の日本も想定外の経済的な激震に見舞われないとは言い切れない。
 景気減速や外貨準備高の減少を不安視する習近平が、人民元の流出を食い止めるため、3月開催の全人代において、富裕層に対する「爆買い禁止令」を通すのではないかという見通しも浮上している。
 それが最悪シナリオへと通じるアリの一穴になるかもしれない。

 これから世界は、中国発の世界同時不況を引き起こしかねない可能性とその誘因因子を、徹底的に洗い出す必要があるのではなかろうか。
 とりわけ中国と経済上のつながりが深い日本は、中国やアジア諸国と協力しながら、チャイナショック防止を議論するための戦略プロジェクトチームを発足させるなどして、中国の体制整備に力を注ぐべきであると、筆者は提案したい。


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